第16話 君は太陽
先ほどまで、ロウィに久しぶりに会えたと昂っていた胸が、今では重力を思い出したかのようにずんと重くなる。
失意の中で温室にたどり着いたが、どのくらい時間が過ぎただろう。
もう長くここに居る気もするけれど、まださっき来たばかりな気もする。
温室の中でも一番小さなバラの館の噴水の淵に腰かけた。
バラの香りはリラックス効果があるというが、今のミモザにはその効果が見られない。
庭師として一緒に働いていたロウィが、実はバレスティン王国の第三王子である、ローワン王子だった。
言葉にしてみればシンプルかもしれないが、頭は簡単には理解してくれず、ひどく戸惑ってしまう。
昨日までは、もし次ロウィに会えたなら、その時は自分のこの想いを伝えたい、そう思っていたはずなのに、今ではその考えも泡沫のように消えてなくなった。
だって、相手はこの国の王子だ。
一方、自分は侯爵令嬢とはいえ、今はただの庭師。身分が違い過ぎる。
そう諦めたくせに、ローワンが別の女性と恋に落ちて、結婚する未来が悲しくて仕方ない。
自分の想いは隠したまま、庭師として、ローワンが誰かと恋にこちるその様を見なければいけないなんて、そんなのミモザには耐えきれない。
――恋なんて、しなきゃよかった。そうしたらこんなに苦しむこともなかったのに。
ミモザの頬を一粒の雫がすうっと伝った。
雫はミモザの輪郭をなぞり、顎からミモザの手に滴り落ちる。
一滴。もう一滴と、その雫が増えていき、いつしかとめどなくあふれ出した。
涙を流したのは、母が死んだあの日以来だ。そのあとも、いろんなことがあったけれど、涙は見せまいと我慢してきた。
それなのに、恋は人を変えてしまう。弱くしてしまう。
その時、温室の扉がギィっと音を出して開いた。
足音が聞こえ、ミモザはとっさに涙を手の甲で拭う。
「ミモザ……」
弱々しく自分を呼ぶ声が聞こえ、目を上げると、そこにはロウィ――改め、ローワンがいた。
今にも泣きそうな顔でミモザを見つめるローワン王子は、近くに行ってもいいかな、とミモザに訊ねる。
来ないでくださいとも言えず、ただこくりと頷くと、ローワンはミモザと少し距離をあけて腰かけた。
その距離は、ミモザとローワンの心の距離を表しているようにも思える。
少しの沈黙の後、どちらともなく声が重なった。
「ローワン王子」「ミモザ」
奇しくも同時に発せられた声にお互いに顔を見合わせる。
「ローワン王子からどうぞ」
「いや、ミモザが先に」
「いえ、でも」「いや、でも」
再び沈黙が漂う。
「では、私から……」
そう言いはしたものの、言葉は思った以上に重く、喉を通って行かない。
ミモザは大きく深呼吸をしたあと、口を開いた。
「お暇を頂戴したいと思っています」
やっとの思いで振り絞った言葉は、少し掠れてしまう。
ローワンはミモザの言葉に、驚いている様子だった。
痛いくらいに身に刺さる視線に気づかないふりをして、ミモザは目を伏せたまま言葉をつづける。
「仕事自体はとても楽しいのですが、もともとあまり体力もない方ですので、限界かなと思っておりまして……」
もちろん全くの嘘だった。
王城で働き初めてはや一年。
植木鉢を運んだり、土を運んだりと、案外にも重労働な庭師の仕事のおかげで、かなり体力もついた。
大好きな植物にも囲まれているし、これが自分の天職だと胸を張って言えるほどに毎日が楽しい。
それなのに、辞めたいと、そう告げたのは、自分がローワンに恋をしているから。
ローワンが誰かと恋に落ちて、結婚するのを、傍で見守るなんて無理だった。
「……わかった」
少しの沈黙の後、ローワンが頷いた。
自分から辞職を申し出たはずなのに、手放しで受け入れられたことが、少し悲しくなる。
ローワンにとって自分はそれくらいの存在だったのだなと、わかっていても胸が抉られる。
「……辞めてどうするの?」
「......そうですね、家に一度は戻ると思いますが、家族に迷惑をかけたくはないので、何か新しい仕事でも見つけようと思います。もしくはもう一度結婚するのもいいかもしれません」
冗談めかしく笑おうとしたが、顔がこわばって口端が上がらない。
自分はうまく笑えているのだろうか。最後くらい、良い笑顔で終わりたい。
ぎこちない笑顔を懸命に造っていると、ローワン王子が口を開いた。
「だめだ」
短くも大きな言葉が温室に木霊する。
「結婚はしちゃだめだ」
ローワン王子はひどく真剣な顔をしていた。
冗談を言っているようでもないその態度に、ミモザは困惑した。
なぜ仕事を辞めて傍にいなくなるのは簡単に受け入れたのに、結婚をするのはだめなのだろう。
ミモザが結婚には向いていないからだろうか。
だからもう結婚は辞めておけと助言してくれているのだろうか。相手に失礼だとでも?
でも、それをローワン王子に言われるのはつらい。
いつもは温厚なミモザだが、自分の中の何かがプツンと切れたような気がした。
感情があふれだす勢いに任せて、言葉を口にする。
「確かに私は結婚に一度失敗していますけれど、だからと言って幸せになってはいけないのですか? 私が結婚して、ローワン王子に何か迷惑かけますか。私だって、幸せにっ、……幸せになりたいです!なっても良いでしょう!」
こうなったら、感情は自分でコントロールすることなんてできず、自然と語気が強くなる。
そんなミモザを初めて見たようで、ローワン王子はひどく狼狽えたあと、
「違う。違うんだ。僕が……」
と言って、言葉を絞り出すように声をだした。
「僕が、君を愛しているんだ」
「......へ?」
想像もしていなかった言葉に、思わず素っ頓狂な声が漏れる。
ミモザは目を瞬かせた。
「冗談…ですか……?」
これまでもロウィからは、かわいいだの、好きだの、冗談でたくさん言われてきた。
今回もその類かもしれない。
けれどやけに声色が真剣に聞こえたような気がした。
いや、人は自分に都合のいいように解釈するとも言うし、ミモザがそう思いたいだけなのかもしれない。
ミモザが混乱した頭で思考を巡らしていると、ローワン王子は、何か覚悟したように長く息を吐き、ミモザをまっすぐに見つめた。
「冗談でも嘘でもない。僕は、ワートル=ミモザ。君を、君だけを愛しているんだ」
透き通った声が伸びた。
何が起きたのか、よくわからない。
喜びたいのに、あまりに突拍子な出来事に、手放しでは喜べない自分がいた。
もしかしたら、ローワン王子の『愛している』はミモザのそれと、同じ意味ではないかもしれない。
言葉通りに受け取れないのは臆病だろうか。
傷つきたくないから、もし違ったら、と保険をかけてしまう。
「愛してるって......その、家族としてとか、そういう親愛的な意味ですか?」
「え、いや、そうじゃなくてっ」
ローワンは焦った様子で、どうすれば伝わるかな、とぶつぶつと呟きながら頭を抱える
しばし考えこむように黙った後、意を決した様子でミモザを見た。
「キスっ、キスしたり、君に触れたくなる意味の、愛してる」
見ると、ローワンの顔は真っ赤に染まっている。
ーーローワン王子が私を愛してる......。
やっと言葉本来の意味を理解して、ミモザの頬も赤く染まる。
でも、とミモザは思った。
「でも……、前に、ローワン王子は十年思っている人がいらっしゃるって」
「うん、それはミモザ、君のことだよ」
あっさりと告げられた大告白に、思考がおいつかない。
ローワン王子が自分に恋をしている。しかも十年も。
そんな奇跡あるのだろうか。もし自分の夢ならば、一生覚めないでほしいと思う。
けれど、ミモザの記憶にはローワン王子と出会った過去が思い出せない。
いつ、どこで出会ったのだろう。ミモザが頭をひねっていると、ローワン王子が話を続けた。
「ミモザ。全部話すから、聞いてほしい」
真剣な瞳に見つめられて、ミモザはただ頷いた。
はじめてミモザにあった日のことを、ローワンは大切な宝物を見せるように、丁寧に、優しい口調で話し始めた。
「あの頃、僕は母様が死んで、毎日バラを見るのが苦しくて、もういっそのこと、温室のバラを全部切り刻んでしまおうと思っていたんだ」
物騒なことを爽やかに告げるローワン王子に、ミモザはどこか既知感を覚えた。そのフレーズは、前にも聞いたことがある気がする。
「そんな時、ミモザが僕の目の前に現れた。王城を迷子になってしまったって。最初は変な人って思っていたのだけど、話していくうちに、心が少しずつほぐれていって、母様が死んでから久しぶりに、本当に久しぶりに笑ったんだ。その時ミモザが教えてくれたんだ。自分も母様が死んでしまったけれど、花と思い出があるって。だからすぐに母親のことを思い出せるんだって。それを聞いて、バラを切るのを辞めた。母様を忘れたくなかったから。もしバラを全部切ってしまっていたら、僕は、今頃すごく後悔していたと思う」
そう話すローワン王子は、どこか懐かしそうに温室を見回す。
「あの時、この場所で、ただ隣に座って話を聞いてくれた君に、僕は恋をしたんだ。びっくりするほど簡単に、恋に落ちた」
ローワン王子の、真紅の瞳がミモザを映す。
会ったことすら覚えていないかもしれないけれど、と付け加えるローワン王子に、ミモザは首を横に振った。
覚えている。というか、つい先日、夢で見た気がする。そして今、思い出した。
「思い出しました。ですが、あの、その……。私、ローワン王子のこと……女の子だと思っていて……。あの可愛らしい子が、ローワン王子だったんですね」
申し訳なさに声が小さくなってしまう。そんなミモザと対照的に、ローワン王子はからっと笑った。
「ははっ、昔はよく女の子に間違えられていたんだ。でも、そうか。覚えていてくれていたんだ」
ローワン王子は、白い歯を見せて笑った。その笑顔が、あの頃の幼い笑顔と重なる。
「たった一日。たった一日だったけど、僕はあの日から、君の事で頭がいっぱいだった。もう一度、君と話がしたくて、王城主催のお茶会や社交界の招待状を君に送り続けた」
アデスと結婚するまで、ミモザはお茶会や、社交界のお誘いをすべて断っていた。
そんなものに参加している暇があれば、ガーデニングに勤しみたかったのだ。
「何度も何度も送り続けたけど、君が王城に来ることはあれ以来二度となかった」
「ごめんなさい……。でも、そんなまどろっこしいことなどせずに、直接お手紙をくださればよかったのに……」
ローワン王子は露悪的に笑った。
「そうだよね、普通ならそうする。でもあの時僕は七歳で、君は十三歳で、子供にとっての六歳という年齢の差はかなり大きく思えたんだ。だから手紙を書いても子供扱いされるんじゃないかって思った。それよりも、まずは王城に来てもらって、話をして、知り合いになって、好きになってもらえるように努力したかった。政略的なものではなくて、君にぼくを好きになってもらいたかったんだ。どうにか君の瞳に映りたくて、ワートル家の領地にも足繫く通ったりしたんだけど、まったくもって眼中に入ることはできなかった」
いや、もっと頑張れよって感じなんだろうけど、僕は僕なりに頑張ってたつもりで、ともごもごと恥ずかしそうに話す王子を前に、ミモザは何も言えなかった。
自分が知らないところで、幼い頃のローワン王子がミモザに振り向いてもらおうとするために試行錯誤していたことを知って、胸が苦しくなる。
でも、とローワン王子は言葉を続けた。
「この作戦は言うまでもなく失敗で、ある日、僕は衝撃的なことを耳にしたんだ。君が……結婚すると」
当時を思い出したように呟くローワン王子は悔恨に満ちた表情をして、小さく唇をかんだ。
「冷静に考えれば、君はその時二十歳だったから、結婚してもおかしくない年齢だったわけだけど、ミモザはそれまで、何度もそういった婚姻の話を断っていただろう? だから僕は、今回も大丈夫ってどこかで思ってたんだ。僕がもう少し大人になったら迎えに行くって」
「……その時に気持ちを伝えようとは、どうして思われなかったのですか?」
気持ちを伝えてくれていたら、変わっていたかもしれない。そう思わずにはいられなかった。
「当時僕は十四歳で、身長が一四〇数センチほどしかなくて。二十歳の君を前にすると、あまりに幼くて、小さくて、こんな僕じゃ君を奪いに行けないと思った。どうせ相手にされないって。まぁこれも全部言い訳だよね。ありていに言えば……諦めたんだ。勝負から逃げたんだ」
そう言われ、ミモザは想像してみた。
アデスと婚姻の話があったあの時、もし自分より背の低い、まだ中等部の男子学生に思いを告げられていたとして、自分は相手にしていただろうか。
いや、きっと本気にはしなかっただろう。
それほどに、幼い頃の六歳の差とは大きい。
「ミモザを忘れたくて、この想いに区切りをつけるために、君の結婚式を見に行ったんだ。そこで久ぶりに君を見た。どこかで、この想いは憧憬で、本当の恋ではなくて、きっとすぐに思い出になるって思っていたんだ。でも、いざ目の前にすると、全然だめだった。なんで想いを伝えなかったんだって、たとえダメでも一度は思いを告げればよかったって、すごく、すごく後悔した。その時初めて気づいたんだ。お茶会の招待状を送ることで、アプローチしている気になっていたけど、実際僕は何もしていなかったんだなって。君が他の人の隣で笑っている姿を見て初めて、自分がどれだけ君のことを好きか気づいたんだ」
泣きそうな顔で話すローワン王子の気持ちが、ミモザには分かった。
ロウィがいなくなってから、ミモザも毎日、後悔していた。
この恋が実らないとしても、それでも、気持ちだけでも伝えておけばよかったと、何度も何度も思った。
「それで、苦しくて、ご飯も食べれなくなって、外を歩く気力がなくなって、気づいたら引きこもるようになっていた」
毎日、今が朝なのか、昼なのか、夜なのかもわからない生活を送っていた。
「僕にとって、ミモザは太陽だったんだ。太陽がなくなった生活は、とても暗くて寂しいものだった」
そんな生活が三年たったある日。ミモザが離縁したことを聞いた。
「こんなこと言ってはいけないって分かっている。でも……正直神様が僕のために導いてくれたんだと思って、とても嬉しかった。今なら君の事を迎えに行ける。そう思って、外に出る決心をしたんだ」
三年の間、部屋から出ていなかったローワン王子の髪と髭は伸びに伸びまくっていた。それと同様に、身長は四十㎝も伸びた。誰が見ても、まさかローワン王子だとは気づかれないだろう。ローワン王子はそれを逆手にとった。
ロウィというのは、家族や親しい人から呼ばれている名前だった。
「名前も、年齢も嘘をついたのは、自分じゃない誰かになりたかったから……。怖かったんだ。きっとミモザにも、ひきこもり王子のうわさが届いていただろう? 君に、ぽんこつとか、腑抜けだとか思われたくなかった。嫌われたくなかったんだ」
好きな人には知られたくない部分があるのを、ミモザはよく知っている。自分もそうだった。
「いつかはローワン王子だと打ち明けてくれるおつもりでしたか……?」
ローワン王子は首を横に振った。
「言わないつもりだった。本当のことを知られれば嫌われてしまうと思ったし、ロウィでいれば、ずっと君の隣に、同僚としていれると思ったんだ。君はここの仕事を気に入ってくれていたみたいだったから」
「じゃぁ……、なぜ今になって?」
「ロウィのままじゃ、君を守れないと思ったんだ。令嬢の二人からも、君の夫からも、くだらない噂からも。でもローワンとしてなら、君を守ることができる。それだけの力が、ある」
それに、と言うと、ローワン王子は目を伏せた。
「君に好きな人がいると知った時、三年前のあの時と同じ気持ちになったんだ。また君を誰かに取られてしまうかもしれない。そう思うと胸が苦しくなった。また同じ苦しみを味わいたくなくて、後悔したくなくて。君に本当の自分を知ってもらいたくなった。だから、伝えようと思ったんだ」
「待ってください、私に、好きな人ですか?」
ミモザは目を瞠った。ロウィにそんな話をした記憶がなかったのだ。
「前に教えてくれただろう? 今、初恋の最中だと。ミモザは告白するつもりはないって言っていたけど、でも人の気持ちは変わるものだろう? いつかミモザも、その相手に想いを告げたくなるかもしれない。君に告白されたらきっと相手だって……」
そこまで聞いてミモザは思い出した。ロウィのことが好きだと気づいて、一番に、その思いをローワン王子に告げたのだ。もちろん名前は出していないけれど。
ローワン王子がロウィその人だともつゆ知らず、彼への想いを本人へ話すなんて。
思わず笑みがこぼれる。なんというかコメディだ。
いきなり笑い出したミモザに、ロウィは怪訝な顔をした。
「もしかして、まだ冗談だと思っている? 僕は本気だよ。ミモザがたとえ今は違う人を好きだとしても構わない。いつか君に好きなってもらうように頑張るから。それくらい誰よりも、君を愛してるんだ」
そう真剣な瞳で話すローワン王子を、ミモザはとても愛しく思った。
心臓をぎゅっと掴まれたように胸が苦しくなる。苦しいけど、嫌な痛みではない。これが、この苦しみが、人を好きになるというものなのだろう。
ミモザは微笑みを深めて口を開いた。
「頑張っていただかなくて大丈夫です」
「それって、僕を好きになる見込みは、ないってこと……?」
はっきりと言い放った言葉に、ローワン王子は今にも泣きそうな表情で、ミモザを見つめた。体は大きくなったのに、出会った頃と同じ透き通った瞳はあの頃のままで、幼さが残っていた。深紅の瞳がぐらっと滲む。
ミモザは首を横に振った。
「そうじゃなくて、頑張っていただかなくても、もう私も……」
そこまで言ったところで、急に言葉がのどに詰まって、うまく吐き出せなくなる。
言葉よりも先に溢れたのは涙だった。ポロポロと零れるそれは、どこまでも流れ落ちる。
それを見て、ローワン王子は驚いていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
ミモザの顔を覗き込むように心配そうに傾けられたその顔が、その声が、愛しくてミモザは言葉を必死で紡ぐ。
「私も……、私も、ロウィ様の……、ローワン王子のことが、好きです」
口から出た言葉は、胸の奥で感情をせき止めていたようで、言葉と同時に、涙があふれた。
でもこれは悲傷の涙ではない。心が温かくなって、幸せで、満ち足りた気持ちだ。嬉しくても人は涙を流せるのだと、ミモザは初めて知った。
「ミモザが……、僕のことが好き……?」
ローワン王子は、信じられないとでもいうように、何度も言葉を確かめるように呟く。
あまりに何度も呟くものだから、ミモザはもう一度言葉にした。
「ローワン様が、好きです」
次の瞬間、ミモザはローワン王子の腕の中にいた。胸のぬくもりがじわじわと伝わってくる。どんどん早くなる二つの心臓の音が、徐々に重なり、一つの心音のように、大きく互いに響く。
「ミモザ、もう一度言わせてほしい」
優しい声が頭から降ってきて、ミモザはゆっくりと体を離した。
ローワン王子は胸ポケットにさされたミモザの花をすっと抜くと、その場に跪き、ミモザにその花を差し出した。
「ワートル=ミモザ。僕と結婚してください」
バツイチだとか、年齢が六歳離れているとか、身分が違うとか、そんなことはすべてほんの些事でしかない。そう思えるほどに、彼が愛しい。愛しているのだ。
差し出された花を受け取らない選択肢はミモザにはなかった。だって、何度も夢に見た言葉だったから。
ミモザはそっと花を受け取と、満面の笑顔を見せた。
「はい、喜んで」
言葉と同時にミモザの体がふわっと軽くなった。
ローワン王子は、まるで大切なものを抱きかかえるように丁寧にミモザを抱きかかえると、ミモザの頬に優しくキスをした。
「ミモザ、愛してる。君だけが僕の太陽なんだ。ずっと僕の隣で笑ってほしい」
ローワン王子の優しく甘い声が、蜂蜜のようにとろりと耳に流れ込む。
ミモザは答える代わりに、目いっぱいに笑った。




