第11話 いなくなって気づく
太陽祭に向けた準備のために温室で作業をしていると、横にいるマーガレットがじーっとミモザを凝視してくる。
「……マギー。何か用かしら?」
「いえ。ただミモザ様、最近とても生き生きされているなとおもいまして」
「そ、そうかしら」
「やはり人は恋に落ちると変わるのですね」
「なっ……!」
いつもは鉄仮面のくせに、こういう時だけ口端を上げてニヤニヤしている。
マーガレットはミモザ以上にミモザの事がわかっている。
なんせミモザが恋心に気づく前にロウィへの想いが恋であることを言い当てたのだから。あの時は心不全だと本気で思っていたが、今は違う。これは恋だという自覚がある。
「……認めるわ。私、ロウィ様の事、好きに、なってしまったみたい……」
語尾が小さく弱々しくなっていき、耳朶に熱が集中した。ついにマーガレットに伝えてしまったと内心どきどきしていると、マーガレットは呆れたようにため息混じりで言い放つ。
「やっと自覚なさいましたか。まぁミモザ様の様子を見ればそんなこと、こちらはとっくの昔に気づいていましたけれどね。それで、告白はいつされるのですか?」
告白をする前提で話をするマーガレットにミモザは首を横に振った。
「どうにかなりたいわけではないの。それに私が恋愛に向いていないことはあなたも知っているでしょう? もうあんな思いはしたくないの……」
「……アデス様のことですか」
アデスとの三年に及ぶ結婚生活は、毎日が無だった。
最初はお互いに好きになろうと頑張っていたような気もする。けれど掛け違えたボタンのように、縫い目が綻んでいくように、何かが少しずつ崩れていった。
そのうちに、自分のことを知ろうとも興味を持とうともしなくなったアデスと一緒にいることが息苦しくなり、同じ家に住んでいるのに食事を共にするどころか、顔を合わせることもなくなっていった。どちらかが一方的にではない。どちらともなく関係が破綻していったのだ。
恋愛になる前に終わってしまった。できればあんな思いはもうしたくない。
ロウィのことが好きと気づいてから、ロウィのことを想うたびに、アデスの言葉が耳元で再生される。
――きっと人を愛せないのだろうな。
――君には何か感情が欠落しているよ、普通じゃない。
自分は人をうまく愛せない。感情が欠落していて普通ではない。
――だから私は人を愛してはいけない。
アデスの言葉は鎖になってミモザの心を縛り付ける。
ミモザにとって恋愛はどこまでもそりたつ壁だ。絶対に越えられない。どう頑張ってもうまくいくビジョンが見えない。
ミモザは事もなげに微笑んだ。
「気持ちを伝えて困らせたくはないの。陰から見ているだけで私は十分」
「……なぜ困る前提なんですか? もっとご自分に自信を持ってください」
「ありがとう。マギーがそう言ってくれるだけでとても嬉しいわ」
その時、温室の扉がギィっと音を出して開いた。目を向けるとロウィとアンダーソンが大きな荷物を持ってやってきた。きっと太陽祭の荷物だろう。
ミモザはマーガレットに、この話はもうおしまいと目で合図を送った。
ドア付近にいるロウィはミモザを見るなり、荷物を地面に置いて、白い歯が見えるほど大きな笑顔を添えて近づいてきた。
「ミモザおはよう。あれ、前髪を少し切った? すごく似合っているよ! とってもかわいい。まぁミモザはなんでも似合うけどね」
いつも通り、女性に紳士的なロウィはミモザの髪型の変化にもいち早く気づいてくれる。かわいいという言葉にはいまだに慣れず、毎度のごとく胸を高鳴らせる。ロウィにとっては特別でもなんでもない、挨拶のようなものなのに。
「ありがとうございます」
平常を装って微笑んで見せたが、声が上ずってしまったかもしれない。想いが気づかれていないかドキドキしていると、マーガレットがミモザの後ろからひょこと顔をだす。
「ロウィ様、私もおりますが」
「ああ! マーガレットもおはよう。全然気がつかなかった、すまない」
「ロウィ様はミモザ様しか見えておりませんものね」
「はははっ、ばれた?」
マーガレットの冗談にロウィも乗っかる。またまた、とミモザも微笑みを作ってみせたが、内心は少し落ち込む。そんな軽口を叩けるなんて、本当に脈がない証拠だ。
「あれは太陽祭の荷物ですか?」
入り口に置いたロウィの荷物をミモザが指さす。
「ああ。とても多くて、あと二往復はしないといけなくなりそうだ」
「それは大変ですね。私も手伝います。そうすれば往復せずに一回で済みますでしょう?」
ミモザがそう言うとロウィは勢いよく首を横に振った。
「だめだ! あれは結構重いんだよ。もし持ち運ぶ途中で倒れでもしてミモザがケガをしてしまったりしたら……。考えただけで恐ろしいよ」
最近の庭仕事で随分力もついてきたのになぁと呟くと、マーガレットに、
「力仕事は男性にお願いしましょう」
とたしなめられてしまった。
三人でそうこう話をしていると、奥でアンダーソンがミモザを呼ぶ声が聞こえた。
ミモザは二人に背を向け、アンダーソンのもとへ向かった。
残された二人は、その背中を見ながらミモザに聞こえないような小さな声で話を続けた。
「ミモザ様はなかなかに鈍ちんですよ」
「……マギー。君は本当に鋭いなぁ。こういう時は知らないフリをするものだよ」
「大変失礼しました……王子、いえ、ロウィ様」
王子様という言葉にロウィの眉がピクリと動いた。
「……。君はちょっと鋭すぎるよ。なんでそれを?」
「昔、王妃様を一度お目にしたことがあったのですが、それはそれはきれいな赤い瞳をされていたので。お兄様たちは王様似で、ロウィ様は王妃様似なのですね」
ロウィ、改め、ローワン王子は大げさに頭をかいてみせる。
「ああ……君には嘘はつけないなぁ。でも、ミモザにはまだ秘密にしていてくれないか」
「かしこまりました。でも、僭越ながら意見させていただきますと、このままでは何も前には進まないかと」
「……そうだね。僕もこのままじゃだめだなって思っていたところなんだ。そろそろ動いてみようかな」
二人が何か楽しそうに話をしているのを、ミモザは背中で感じたが、その内容まで聞くことはできなかった。
それから数日後の、太陽祭まであと半月となった朝。
マーガレットと温室に向かうと、すでにベイルとアンダーソンがそろっていた。いつもはロウィが一番乗りなのに、まだロウィが来ていないなんて珍しいなと思っていると、ベイルが何やら真剣な表情で、皆さんそろいましたね、と話を始めた。
「太陽祭に向けてお忙しいところ申し訳ないのですが、二つ大事なお話があります。まず一つ目ですがーー」
「待ってください」
ベイルの話をミモザは手を挙げて止める。だってまだロウィが来ていない。
「ロウィ様がまだ来られていないようなのですが」
話をするなら全員集まってからではないと。休みなら前日までに連絡が来るはずだ。
途端にベイルの顔がこわばった。何かまずいことを聞いたかしらとミモザは口に手を当てる。
「……そうですね。これは後で話そうと思っていたのですが、では先に話すことにしましょう。ロウィですが、家庭時の事情で庭師を辞めることになりました。かなり急な話で、昨晩王都を立つことになったので、みなさんに挨拶ができず、申し訳ないと、大変悔やんでおりました」
淡々と話すベイルにミモザは苦笑した。
「冗談……ですよね?」
昨日まで一緒に働いていたのだ。辞める素振りなんてなかった。ベイルの言葉がにわかには信じられず、ミモザは訊ねた。ベイルの目がミモザから気まずそうに逸れた。
「残念ながら、事実です」
平らかな声でベイルはそう告げると、今後の役割分担について話し始めた。ロウィが抜けた分をほかの三人で補う必要があるのだ。テキパキとベイルは仕事を振っていく。
大切な話だ。聞かなければいけない。そう思うのに、ベイルの言葉は雨音のようにザーザーと聞こえるだけで、内容が頭に届かない。
急に心臓に重力がかかったように体が重くなった。鈍器で殴られたような衝撃に頭がくらっとして、息は浅くなる。
脳のどこかの回路が切断されたのか、何も考えることができない。
自分を落ち着かせようと深呼吸をしてみるも、息を吸っているのか、吐いているのかわからなくなってくる。
その時、不意に右手を握られた。目を向けるとマーガレットがミモザの右手をぎゅっと力強く握ってくれていた。握られて初めて、自分の手が震えていたことに気づいた。
「ミモザ様、大丈夫ですか?」
そう小さく問われて、ミモザはハッとする。
いくらショックとは言え、今は仕事中なわけで、ここで取り乱すのはプロとして失格だ。
自分は庭師なのだ。今は仕事に集中しなければ。そう思ったとき、すべてが正常に動き出した。
ミモザが穏やかに笑むと、マーガレットはもう大丈夫と思ったようでするりとミモザの手を放した。
ロウィの事はあまりにショックだ。自分でも驚くほど落ち込んでいるけれど、でも今は、切り替えなければ。とりあえず仕事をしなければ。自分は庭師なのだから。
自身を鼓舞するように唇をきっと結ぶ。
今は仕事だ、切り替えよう。
「そして、二つ目の話ですが、ローワン王子の成人の儀が、急遽執り行われることになりました。つきましては皆さまには会場の花の準備をお願いできればと思います」
ベイルの言葉に先ほどまで地面すれすれまで落ちていたミモザの心がふわっと軽くなった。
ローワン王子が、外に出る。それがどれほど大きなことか、ミモザは知っている。
「日程はいつになりますでしょうか」
マーガレットが訊ねる。
「太陽祭と同日に執り行う予定です。来賓の方々が遠方から来られるので、その日程と同じにすると、王が先ほどお決めになりました。成人の儀の後に、太陽祭も兼ねてのパーティーが執り行われます。かなり忙しくなるかと思いますが踏ん張ってもらえますと嬉しいです。もちろん会場の準備には温室だけではなく、王城すべての庭師が動員されますのでそちらと協力して進めてください」
太陽祭と同日となると、なかなかに忙しくなるなと覚悟を決めたとき、ふと疑問がわいた。
「あの、ローワン王子の成人の儀は中止だと一度王室から知らせを出したと思うのですが、なぜ急に実施することになったのでしょう。それは王子の意志ですか?」
ローワン王子の成人の儀は、王子の体調が良くないため実施しないと少し前に、王室から正式な連絡が出ていたはずだ。それが急遽執り行われることになったなんて、何があったのだろうか。
もしや、ローワン王子の意思を無視して、無理やり参加させられようとしているのでは、という考えが頭をかすめる。
「はい、これはローワン王子のご意志です」
「ローワン王子が望んで……人前に出られるのですか?」
「はい。そうです」
ベイルは少し嬉しそうに口元を緩め、誇らしげにきっぱりと告げた。相変わらず精悍な顔つきだが、常時仏頂面のベイルにしてはかなり顔が緩んでいる。心なしか、目も潤んでいる。
きっとすごく嬉しいに違いない。その表情につられてミモザも笑顔になる。
ローワン王子が一歩踏み出そうとしている。それがとてつもなく嬉しい。
早くローワン王子と話がしたい。おめでとうと伝えたい。
逸る心を抑えていると、ベイルが、ちなみに、と補足する。
「皆さんはローワン王子直属の使用人ということもあり、成人の儀にも参加していただく予定です。ただし、パーティが始まれば庭師としての仕事はもうありませんので、ゲストとしてパーティーを楽しんでもらいたいとローワン王子から言付けをもらっております。ぜひパーティを楽しんでください」
成人の儀とは、名前の通り成人になったことを示す王族特有の儀式で、あらゆる貴族の前で王の手から冠をつけてもらうことになる。
ここまでは伝統的な式になるが、そのあとは王子への挨拶やダンスに立食といった、太陽祭兼、王子の誕生日パーティーになるらしい。
ローワン王子のためにも、太陽祭、そして成人の儀が滞りなく無事に終わるように、誠心誠意仕事を全うしよう。
今は仕事に集中して、ロウィのことはその後に考えよう。ミモザは拳を強く握りしめ、そう自分に言い聞かせるように誓った。
この一週間、ミモザは今まで以上に働いた。これまでが手を抜いていたわけでは決してない。今が異常なほどに働いているのだ。
ローワン王子の晴れ舞台でもある成人の儀と太陽祭を最高の形で開催してみせる。そしてローワン王子のすばらしさを多くの人に知ってもらいたい。そう思えば自ずと体が動いた。
しかし理由はそれだけではなかった。何もしていないとロウィのことを考えてしまう自分がいるのだ。
ふぅと息をついたとき。
ご飯を食べているとき。
眠りにつけず天井を見つめているとき。
そういった隙間でロウィのことを考えてしまう自分がいる。
そうするともうだめで、もう二度とロウィに会うことができないのかないのかと悲しくなり、だめでも告白しておけばよかったかもしれないと悔恨の念に襲われ、今何をしているのかなと思いを馳せてしまう。
実家の都合で田舎に帰ることになったということは十中八九家を嫁ぐことになったのだろう。もしかすると今頃、どこかの美女と婚姻を結んでいるのかもしれない。
想いを告げてもどうせ自分なんか相手にされなかっただろう。
美人でもないし、根暗だし、バツイチだし、年上だし、ロウィの隣に立つ資格なんてない。そう分かっているけれど、それでも伝えておけばよかったと後悔が残る。
ロウィが目の前からいなくなって初めて、自分がどれほど彼を好きだったかが痛いほどに知ったのだ。
隣にいた頃はときめいて苦しかった胸が、今は会えなくて苦しい。
もっと自分が綺麗で、明るくて、未婚で、若ければ、ロウィに告白する勇気が湧いただろうか。
そんなミモザであればロウィは告白を受け入れてくれただろうか。
考え始めると止まらない。忘れたふりをしていても、いつだって頭の片隅にロウィがいて、優しい声でミモザに微笑みかける。
――ミモザ、ありがとう。
――ミモザ、とってもかわいいね
――ミモザのそういうところ、本当に好きだよ
春風のように穏やかな笑顔は暖かくて、それだけで心が満たされた。
温室はどこもかしこもロウィの思い出だらけで、ミモザは気がつけばその面影を追ってしまっていた。
「――ザ。 ミモザ? 大丈夫かい」
ドア越しに聞こえるローワン王子の声で、はたと我に返る。
「あ、はい、すみません……! どうされましたか?」
「……ミモザ、今日はなんだか元気がないね。ずっと上の空な感じ」
「すみません……、えっと疲れているのかもしれません」
「太陽祭の準備に、僕の成人の儀の準備も重なっているから大変だよね。そんな中、話し相手になってもらって済まない。成人の儀までは給仕はお休みにしよう」
「いえ、大丈夫です! お気を使わせてしまいすみません」
疲れているのは嘘ではない。毎日朝から働き詰めで体はくたくただ。
それでもこれまでは、ローワン王子と話さえすれば、その疲れも吹っ飛んでいた。
けれど今はどうしてもロウィのことを考えてしまい、集中しきれないでいる。ローワン王子の給仕中なのに何をしているんだ、とミモザは自分に喝をいれる。
思い出してはいけない。
けれどそう思えばそう思うほどに、頭の中はロウィの事でいっぱいになる。そんな自分に嫌気がさす。
ミモザは頭の中のロウィを振り払うように、頭を横に振って、口を開いた。
「成人の儀までもうあと少しですね。とても楽しみにしています。精いっぱい会場を花で彩りますね」
「ありがとう。準備を目いっぱいしてもらった後はパーティーを楽しんでくれ」
「はい。それにしても、ローワン王子は成人の儀までに、その鼻声を治さなければいけないですね」
ローワン王子は、そうだね、と言いながら、何が可笑しいのか、くすくすと笑った。
ベイルが腰を痛めてミモザが代わりに給仕をしたあの日から、かなりの月日が経っているが、ローワン王子の鼻声は治っていない。
本人曰く、体調は良好だが、まだ鼻が本調子ではないらしい。
成人の儀までに治ればいいけれど。鼻を通りやすくするために、今度ミントティーでも持ってこよう。
そんなことを考えていると、ドアの向こうからローワン王子が、そう言えば、と話を変えた。
「ミモザは僕が成人の儀を実施すると聞いたとき、どう思った?」
突然の質問に、ミモザはう~ん、と少し考えた後、ありのままの気持ちを答えた。
「嬉しく思いました。別に外に出ることが偉いとか、部屋の中にいることがだめだとかは思っていません。でも春はたくさんの花が咲きますからね。ローワン王子にはぜひ直で温室の花々を見てもらいたいと思っていたので。温室の植物たちを見てもらえると思うととても嬉しいです」
「ふふふっ君らしい理由だね。なんだか気が楽になったよ」
春風のように穏やかに笑うローワン王子の声が、どこかロウィが重なった。
そんなわけないのに、ロウィロスの末期症状が出てしまっているのかもしれない。
「ローワン王子、私も一つ質問があるのです」そう前置きをしたうえで、ミモザは訊ねた。
「……どうして急に成人の儀をご出席されることに決められたのですか?」
理由を訊くのは野暮かもと、訊ねるのを躊躇っていたが、ローワン王子はそれくらいの事で怒る人ではないし、もし言いたくなければ、はっきり言いたくないと告げてくれるだろう。
一度は中止と連絡を出した成人の儀を、開くことに至るまでに、どんな心境の変化があったのか、気になったのだ。
ローワン王子は少しの沈黙のあとに口を開いた。
「本当はもういっそこのままでもいいやって思っていたんだ。あまりに今の状況が心地良くて、壊すのが怖くなってしまって」
ローワン王子は冗談めかして小さく苦笑したあと、今度は真剣な声色で言葉を続けた。
「僕ね、ある人にずっと嘘をついているんだ。自分を少しでもよく見せたくて、嘘をついた。……自分に自信がなかったのだろうね。でも今更、本当の自分を見てもらいたくなってしまってしまったんだ。嘘をついたのは自分なはずなのに。傍にいるだけで幸せだと思っていたけれど、思いが溢れてしまって、やっぱりありのままの自分を見てもらいたくなったんだ。それはひどく勇気がいることだけど、それでも知ってほしいし、ちゃんと想いも伝えたい。だから、成人の儀で本当の自分の姿を見てもらいたいんだ」
具体的なことは何も告げられなかったが、きっと恋愛のことなのだろうな、とピンときた。以前話していた初恋の相手の事だろうか。
恋愛は人を弱くもするし、強くもするのだなと知る。
「嘘をつくなんて軽蔑するかい? ……僕もミモザみたいに強かったら、嘘をつかずに済んだのだろうな」
自嘲するように笑うローワン王子にミモザは頭を振った。
「……私も、嘘をついたことがあります。自分に……自分に嘘をついていました。自分を守るために、本当の気持ちから目を背けてしまいました」
ロウィに気持ちを告げなくてもいいだなんて、傍にいるだけでいいだなんて。全部嘘だ。本当は気持ちを伝えたい。傍にいるだけじゃ足りない。それでも勇気がでなくて言葉に出せず、自分に嘘をついて、正当化したのだ。
「でも……。でも、こんなに後悔するとは思っていませんでした」
受け止めてもらえるとか、受け止めてもらえないとか、もはやどうでもよかった。ただ、自分の想いを伝えたい。この想いをなかったことにはしたくない。
「王子は後悔しないでくださいね」
努めて明るく言った言葉に、胸が苦しくなる。
今更後悔してももう遅いのだ。だってロウィはもうここにいないのだから。
その現実がミモザの胸に激しく刺さった。




