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Dominions  作者: 赤秋の寒天男
【第一章】煙炎漲 編
9/10

【九話】破滅をあなたにあげる

 地獄って、どんな場所なんだろう。

 子供たちはお腹いっぱい食べられるのかな。

 みんなは安心して暮らせるのかな。

 もしそうじゃないのなら、あんたはオレの敵だ。




 ガブリエルの返事は誰もが想像した通りだった。

「手を組む? すごいこと言うんだね」

 一瞬、部屋の中に風が吹いた。

 と思ったら人質がフェルニゲシュの手を離れ、ドア付近までワープした。

 否、とても速いなにかに引っ張られ、目で追えないレベルのスピードで移動させられた。

「フェルニゲシュ、君は八十七名もの人間を殺している。亡くなった方々は悪人だったかもしれないし、君のおこないには賛同者がいるかもしれない。それでも僕は君を殺す。悪く思わないでくれ」

「なるほど、断るというわけだな。これでワタシたちの道は分かたれた。この上なく残ね──」


──ドガァン!!!


 ガブリエルは思いっきりフェルニゲシュの腹を蹴った。

 大の男が、戦士が、亜音速で無様に吹っ飛ぶ。

 すでに避難命令が発令されていた市街地には誰もおらず、そのド真ん中にフェルニゲシュが墜落した。

 普通ならこれで死ぬはずだ。

「手痛い(はなむけ)だな。仕方ない、少し遊ぼうじゃないか──ヌゥン!!!」

「ハッ、ゴキブリみたいにしぶといな」

 フェルニゲシュは懐から鉄仮面を取り出すと、それを顔面にガチリと嵌めた。

 酸素吸入量を低減するための特注品だ。

 ドクロがモチーフで、禍々しい雰囲気をまとっている。

 黒い下地に白い紋様が刻まれており、どことなく西アフリカの文化を思わせる意匠だった。

 いまにも火を焚き始め、降霊の呪術儀式を始めそうだ。

「ハァ!!! デヤァッ!!!」

「伊達に虐殺者(ジェノサイダー)じゃないな。ものすごい火力とスピードだ」

「話す暇があるのか? 見上げた戦士だ……だが!」

 飛び上がったフェルニゲシュは二棟のビルに回り込み、それらを中腹から破断。

 蹴りの勢いで折ったそれらをガブリエルのほうに向けて吹っ飛ばした。

「単純な質量攻撃ではない! ビルにはガス、電線など多様なものが含まれている。ガラス片などの目に見えないものもな! オマエがどういう風に攻撃を防ぐのか見てやろう……!」

「(この筋肉ダルマ、頭も良いのかよ)」

 ドミニオンズの戦いでは弱点を見抜いたほうが勝つ。

 ガブリエルは最強のドミニオンズだが、その弱点を知ってしまえば簡単に勝てる。

 いや簡単に、というのは言い過ぎかもしれない。

 しかし勝つ確率がゼロパーセントから、コンマゼロゼロゼロゼロイチパーセントくらいまで上がる。

 まずは相手を知ることだ。

「オマエ、体表にバリアのようなものを張っているな? そしてバリアには必ず条件が存在する、違うか?」

「知りもしない癖にペラペラと」

「フッ、いまのオマエの応えこそが答えだ。なぜ他のものを防ぎながらもワタシの声──音波は防げない? なにを通してなにを通さないか、そのバリアで選んでいるな?」

「……良い線行ってるよ、まったく」

 ガブリエルは当たり前のように二棟のビルを粉砕。

 その間、しっかりとフェルニゲシュの声を聞いていた。

 短い攻防だったが、わかる者にはわかるヒントが隠されていた。

「じゃあ僕がわざわざガラス片を手で払ったのも見てた?」

「あぁ、それもブラフに見せかけてブラフではないな?」

「よく見てるなぁ」

 少々侮っていたかもしれない。

 エルピス島には小悪党がうじゃうじゃいて、そういった輩を殺すのはガブリエルにとって特に容易なことだった。

 一種の作業として捉えている部分があったのかもしれない。

 だとしたらもう手加減は止めだ。

「君、いまどれくらい本気で僕のことを殺そうとしてる?」

「オマエの熱量と同等だ。謙遜も傲慢も抜きに言うならば、三時間あれば殺せるだろう」

「……わかった。聞こえるか、本部。二種認定だ」

 ドミニオンズとの戦闘はだいたい三種類にわけられる。

 まず第一種が「担当者もしくは責任者が撃破可能な場合」である。

 この責任者というのはガブリエルなどの高度な戦闘力を有している者を指す。

 次に第三種が「担当者もしくは責任者が撃破不可能な場合」である。

 これはよっぽどのことがない限り発令されない。

 というのもこれが発令されたという状況は、すなわちガブリエルでも対象を撃破できないという暗澹たる事実を示唆しているからだ。

 もし三種認定が下れば、すべての人員が戦闘に参加しなければならない義務が発生する。

 総力戦で破滅に真っ逆さまだ。

『こちら本部。許可が出た──久々じゃないか、お前がアレになるのは。帰ったら祝勝会だな』

「も~軽口言ってる場合じゃないって」

『どうせ勝つんだから良いだろう。上の方々も安心しておられるぞ。これでフェルニゲシュに怯える必要がなくなるって』

「それはそうなんだけど」

 そして最後に、第二種が「担当者もしくは責任者が撃破可能ではあるが、信仰過剰(オーバーロード)状態に入らざるを得ない場合」である。

「──アレ結構キツいんだよ」

 ちょうど良い。

 なぜドミニオンズがドミニオンズと呼ばれるようになったか、ガブリエルを用いて説明できる。




 時を同じくして。

「おはようございます。良い朝だと思いませんか?」

「おはよう。本気で言ってんのか?」

 バクはモザイクとの最後の朝を過ごしていた。

 あの後、二人は刃を向け合うことなく床に戻った。

 なぜなら互いに準備ができていなかったからだ。

 バクはモザイクを殺したくないし、説得するためにシュウたちの判断を仰ぎたい。

 モザイクは子供たちがいる場所で戦いたくないし、邪魔が入っても竜巻を上陸させる算段があった。

「ひと晩寝て考えが変わったんじゃないか?」

「これまでの数十年と同じですよ。一日で変わったりしませんよ」

「本当に……ほんっとうに改心してくれないのか?」

「誰かがやらなければ世界は変わりませんから」

 炊事場に二人きり。

 包丁で野菜を切りながら話している。

「戦争という言葉を知っていますか」

「……いちおう知ってる。歴史動画なんかでよく聞くし」

「しかしバク様はそれを見たことなどないでしょう。私もそうですが、戦争はすでに過去の遺物になってしまったのです」

「そういやなんで無くなったんだろうな、戦争って」

 切った野菜を鍋に入れ、水を煮立たせる。

 少しばかり塩を混ぜ、ゆっくりと時間をかけて煮る。

「戦争には資源が必要なのです。戦闘機や戦艦、銃砲を作るためには大量の鉄鋼を消費します。しかしいまでは──」

「島の基礎に使われてるな。全部海の下だ」

「その通りです。おかげで戦争という最悪の文明結晶は消えてなくなりました」

 野菜クズから味が出て、スープが出来上がっていく。

 あとは別の鍋で肉をホロホロになるまで煮て、これに加えたら完成だ。

「バク様、我々は次になにを消すべきでしょうか」

「……腹減り?」

「それも消すべきですね。バク様はやはり聡明です。しかし私が弾き出した答えとは違います」

 鶏肉を切る。

 ブロイラーは狭い小屋で大量に繁殖するから良いものだ。

 世界の需要とマッチしている。

「私の瞳を見てください。この傷跡は幼いころ、弟を庇ったときにできたものです。料理用の包丁でこう……まっすぐに切られました」

「なんでそんなこと。やった奴はひどい奴だ」

「すべては私たちがドミニオンズであったから起きたことです。あの日、私たちは肉屋を訪れていました。そのときにちょうど弟がせき込んだのです。まだ十四で、身体が丈夫ではありませんでした」

「喉を使ったのか」

「はい、激しくせき込んだ際に喉が発火。これは弟も言っていましたが、意図せぬ出来事だったようです。それを見た店主は野良猫を払うように、私たちに向かって刃を──」

「もう言わなくて良い」

 バクは俯いて、料理に集中し始めた。

 聞いていられなかったのだ。

「人間が嫌いなものは二つあります。ひとつ目は『私が誰かと違うこと』です。二つ目は『私と誰かが違うこと』です。後者の作用によって差別というものが発生します」

「モザイクさんに辛い過去があったなんて知らなかった、ごめん。それを知らずにオレは……その……良いことばっかり言おうとしてた。オレがモザイクさんだったら、オレがヒューゴーだったら、同じ道を選んでたと思う。でもこれだけは言わせてくれ──あんた、いま絶対良くないことを考えてる」

「私もわかっていますよ。所詮、私はナイフで瞳を掠められただけですから。しかしこうしている間にもドミニオンズの地位は追いやられ、削られ、虐殺されんばかりの勢いです。誰かがやらなければ私もバク様も生きていけない世の中になってしまいます。誰もが違いを恐れています」

 肉を鍋に入れた。

 そのうち、野菜のほうが沸騰し始めた。

 プシュー、プシューと湯気を上げてなにかを訴えている。

 バクはその下にある火をすぐに消すべきだった。

「私はこれから文明を後退させようと思います」

 モザイクの瞳の奥でなにかが燃えていた。

 冷たく、痛々しい、青い炎だった。

「人類が差別なんて下らないことを考えられなくなる日まで」

 目の前にいるのは、もはやモザイクではなかった。

 破滅の使者は喉を滾らせ、エルピス島に向けて竜巻を動かし始めた。

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