1.枝園縁と好青年
ギクゥ!と聞こえそうな顔をする患者、相生英生くん。菱醍というのはうちの看護師の一人で、今年入ったばかりの新人だ。年齢的には相生くんと同じで、22歳である。
「ななな、なぜそれを…」
「顔が赤い、しかし病気じゃない。後ろを向いたら菱醍がいる。人払いしたらあからさまに残念がる。これは恋の病以外思いつかないからね」
「ッ!…見抜かれてましたか…ええ、その通りです」
「ちょっと聞かせてくれるかな?彼女のどこが気に入ったのか」
彼は過去に数度入院していたが、入院中になにかあった、ということはないはずだ。というのも、今年に入ってから彼は一度も入院していない。
「ちょっと出かけてるときにお会いして、少し話したんです。それで、魅力的な方だなぁと。」
ふうむ。どこで話をしたのか、内容など、気になることは多いが、まあそれは置いておこう。
「先生、どうしたら、彼女に振り向いてもらえるでしょうか!」
知るか!!!!!自分で考えやがれ!!!
私にどうしろというのだ。生まれてこの方勉強漬け、色恋沙汰とは無縁、そんな暇があったら参考書を探して図書館に行っていた私に、異性交遊など分かるわけがなかった。しかし、彼は赤ん坊のころから面倒を見ている、私からすると息子のような…語弊を生まないように言っておくが、本当の息子だと思っているわけではない。言葉の綾というやつだ…ものである。手伝ってやりたいという気持ちもないわけではない。しかし、しかしだ。この年になって、仕事上女性と話す機会こそあれ、プライベートにまで首を突っ込まないように気を使っていた私からすれば、女性という全く分からない未知の存在と、仲良くなれるのかなど、こちらが教えて欲しいくらいである。
しかし、無言でいてもこの患者と、いや、病でもないのに患者というのは変だな。恋の病は病名ではない。
「あー…そうだな。心理学では、会う回数が増えると好感度が上がるという実験結果がある。もちろん、ストーキングなどするようなら私が通報するが、偶然街で会う回数が多くなったら、振り向いてもらいやすくなるんじゃないか?」
私は、私の意見ではなく科学的な見解を持ち出して、失敗してもそんなことを言ったやつのせいにしようとしてみる。下手に長引かせるよりは、ある程度適当に科学的なことを言ったほうがいい。失敗する確率も、エンカウントの回数が増えるほど増加するからな。
「なるほど、会えば会うほど…わかりました!やってみます」
勘違いされているような気がしてならない。いやな予感がする。
そんな顔から見抜かれたのか、
「ストーカーなんてしませんよ。ただ、あそこに休日に行くようにしたら会えるんじゃないかと考えただけです。」
既にストーカー予備軍とは恐れ入った。彼の行動には少々注意しておかねばならぬかもしれない。
しかし、セクハラも相手良ければすべてよし。対象が嫌がりさえしなければ犯罪行為ではないのだ。それに、これで何か行動を起こして問題が起こっても、私のせいではない…よし。
「まあ、頑張ってくれ」
とだけいって、しかし何も処方しないわけにもいかないし、話を聞いてやっていたわけなので、頭痛薬と胃薬を処方する。どちらかというと今というより後で飲むものだ。
「次の方―」
これから巻き込まれるであろうことは頭から振り払って、患者を呼ぶ。
後のことは分からない、今考えても仕方ないだろう。




