2.枝園縁と諸問題
仕事が終わり、相生くんがいないかを見てみる。流石に、菱醍の出待ちまではしていないようだ。危険人物だったとしたら、うちの大切な従業員が精神的にやられてしまう。それだけは避けねばなるまい。預かっている嫁入り前の女性を傷ものにするなど、安心してここへやった彼女の両親に顔向けができない。
いや、そんなこと考えてないぞ、考えてないからな!
よくわからない相手に言い訳をして、車に乗る。しかし、恋愛相談か…。恋は盲目などというから、本人にはわからないことが多いのだろう。まあ、なんでも、面倒ごとが起きないならいいか。そう思って家路を急いだ。
「先生!聞いてください!」
一週間後くらいにやってきた相生くんは、診察室に入って来るや否や、私の「どうしましたか」の言葉に食い気味に話す。
「菱醍さんと今度お茶することになったのですが…」
私は飲みかけていたお茶を噴き出した。いつの間にそこまでになっていたのだろうか、訊ねると、
「偏に先生のおかげです!いやー一度会うと、動線が交わると言いますか、偶然会うことが増えましてね!話しているうちに楽しくなって…」
そりゃようござんした。
「ただ、行くところは決まっているのですが、そうなったときに話すことがなくなったりしたら困りますし、なにかこんなことを話せばいいとか、ありますかね?」
ここは結婚相談所じゃねぇ!!!!!!
むむ、このままでは私は何かあるごとに相談されそうだ…ううむ、どうしたもんか。ここいらで突き放すか…。
「自分で考えろ」
「ええ!」
「人に頼って考え付いたところで、すぐにバレるだろ。自分で考えろ」
「なるほど!勉強になります!」
わざわざ聞いてくるくらいだからそこまで考えてなかったのだと思ったが、まさかと思うが全く考えてなかったのか?これだから最近の若者は…。
今回もとりあえず前回同様のものを処方した。
ううむ、逆にとっととくっつけてしまったほうが、恋愛相談は無くなる…、しかし、新しく入った菱醍がいなくなるとなると、改めて採用しなければならない。
看護師の求人は条件の割にどうしても給料を出しづらく、競争が激しい。大病院の方が給与は高く、業務も多いが昇給もしやすい。しかし、地方の一医院となると、給与が少ないうえに大病院とはまた違う業務が多いので、気苦労も絶えない。大病院以上に厳しい職場である。
近頃の看護師は大半が短い期間しか勤めていないのに、すぐにやめたり、大病院に引き抜かれたりするため、私の医院にずっといてくれる看護師は少ない。人が減ると、一人当たりの業務は増え、さらに条件が厳しくなってしまう。できる限り“寿退社”は避けたいところである。
そうでなくとも。結婚した後にも所属してくれたところで、仮に妊娠したら…子どもが出来たら…彼女はしばらく休むことになる。もちろん、そんな状況で無理に通勤させるわけにもいかないが、経営者としては負担になってしまうし、その間別の看護師に入ってもらわなければならない。
どっちに転んでも悩みは尽きない、無間地獄にでも送られたような気持になった縁であった。




