第十二話
礼拝堂の端に、机が一つと、それを挟んで椅子が二つ置かれる。ヘヨカは椅子に座り、腕を組んで口を引き結んだ。
「申し訳ありません、メーロ様。急ごしらえで天蓋すら作れず……」
「話が聞ければ構わん」
礼拝が終わり、遠巻きにヘヨカを見ていた信者達に、ヘヨカは顔を向ける。傍らに立つ神官が、司祭へと視線を向けた。
「先に申した通り、テッラ様のご友神であるメーロ様が、十日ほどこちらに滞在なさいます。メーロ様は薬草を司るお方ですので、逗留の間、病の相談を受け付けるとおっしゃいまして……そちらの机で、昼までお待ちになるそうです」
司祭が声をかけると、信者達がざわつく。ヘヨカは立ち上がり、息を吸った。
「遠慮をするな。私が昨日から馳走になった食事も、借りた衣服もこの土地の民草が汗を流して作ったもの。なれば、その礼をするのが儀というものであろう。神と人とて、筋は通さねばなるまい」
すとん、とヘヨカは座り直す。
「まあ、神話に名も乗らぬ末端の神ではあるがな。……ともかく、遠慮をされてもこちらが暇になるだけだ。薬師だと思ってくれればいい」
そう告げて、視線を落として腕を組む。
やがて、ざわめいていた信者達から、一人の老人が歩み出た。老人は杖をつきながら、よたよたとヘヨカに近付き、向かいの椅子に座る。
「太陽の神様や地神様にはお目見えしたことがありやしたが、薬の神様は初めてです。どうぞこの爺に、情けをかけてはくれませんか」
「ああ……南の訛りがあるな」
「へえ、生まれたのは北ですが、育ったのは南の田舎町でさぁ。ほうぼう旅をしてここに落ち着きましたが、どぉーも昔染みついた言葉っていうのは変わらねぇもんで」
「そうか」
「あ……失礼しやした。見ての通り、足がてんでいかれちまって……」
老人が頭を掻き、ヘヨカは口元を笑わせる。それを見て、老人も顔をほころばせた。
「己れも昔南に行ったことがある。あそこは水が美味い」
「はあ、神様も行かれるんで」
「人の世を知るのは嫌いではない」
「……何か、嬉しいですねえ。神様とこんな話が出来る日がくるなんて」
「……そうか」
ヘヨカは紙と筆ペンを机に置き、ペン先にインクを付けた。
「では、改めて話を聞こうか」
ミカが礼拝堂を覗くと、椅子に数人の人が座り、その先でヘヨカが、机を挟んで一人の女と向かい合って座っていた。机の上には薬草や小さな薬瓶が並び、インクで汚れた紙が数枚重なっている。ヘヨカが紙に何かを書き、女はそれを覗き込んで目を瞬かせていた。やがて女は手を叩き、ぱっと顔を明るくする。
「ありがとうございます、メーロ様!」
女が言い、礼をして立ち上がる。ヘヨカはひら、と軽く手を振った。女はヘヨカから紙を受け取り、それを胸に抱えるように持って神殿を出て行く。椅子に座っていた人の一人が立ち、ヘヨカの向かいに座った。
あれが『仕事』だろう。ミカは柱の後ろに隠れる。
ぽすっ、とその頭に手が乗った。
「っ!?」
ミカが振り返ると、テッラが立っていた。
「嬢ちゃん、寂しかったら行っていいんだぜ。ヘヨカはいつだって歓迎してくれるだろ」
「えっ……いえ、邪魔になりますから」
「……ったく、どっちも素直じゃねえなあ」
のしっ、とテッラは腕をミカに乗せてよりかかる。
「嬢ちゃん、ヘヨカのこと嫌いかぁ?」
「ま、まさか! ですが……」
「ですが、何だい」
「……私はヘヨカ様にとって、誰かの身代わりに過ぎませんから」
ミカは自嘲気味に笑った。
「……はあ、身代わりねえ」
テッラはがりがりと頭を掻く。
「……まあこれ以上は下世話ってもんだな。嬢ちゃん、午後はまるっとあいつも空くから、のんびり話でもしたらどうだ」
「……はあ」
「俺はソールの坊ちゃんのご機嫌伺いでもしてくるとすらぁ」
テッラが去り、ミカは柱の陰から顔を出す。
目元を隠し、煌びやかな服を纏ったヘヨカは、口元に柔らかい笑みを浮べて相手の話を聞いていた。
正午の鐘が鳴る。礼拝堂から奥へと引っ込み、羽織っていた布を降ろしてヘヨカは深々と溜息を吐いた。
「へ……メーロ様。お疲れ様です」
ミカは、女官が置いて行った茶を持ってヘヨカに歩み寄る。ヘヨカは懐から仮面を取り出し、布の下からそれを目元に付ける。布の面を外して身軽になると、押さえつけられていた髪を手櫛で軽くすいた。
「ああ。存外神のふりは疲れるものだな」
ヘヨカは茶を呷る。
「愛想笑いの一つでもしないと人も寄らんからな」
「……でも、多くの人がいらっしゃっていましたよね」
ミカが言うと、ヘヨカはミカを見上げ、それから手招きする。
「?」
ミカは更に近付き、屈んでヘヨカに視線を合わせる。
「ヘヨカさ―――むぎゅっ」
ヘヨカの両手が、唐突にミカの頬を挟み込んだ。そのまま、ぐりぐりと頬をこねくり回す。
「ヘオカはま?」
「……ふっ」
ヘヨカの口元が笑い、ミカは目を瞬かせる。
「お前はあまり笑わないな」
「……そう、でしょうか」
笑っているつもりなのだが。ヘヨカが手を離すと、ミカは頬をさすった。
「笑えるようになったほうが、良いでしょうか」
「……無理になる必要はない。だが無理してこらえることも無いだろう」
「でも、愛想笑いもできませんから。笑えた方が、いいでしょう?」
ミカは上目遣いでヘヨカを見る。ヘヨカは短く息を吐いた。
「人に言われてどうこうするようなものじゃあない。嬉しかったら笑うし、哀しかったら泣くんだ。嫌だったら嫌と言えばいい。それを邪魔する権利は誰にも無い」
「……ヘヨカ様にも、ですか?」
「ああ」
「……そう、ですか」
ミカは俯く。ヘヨカが軽く首を傾げると、ミカは顔をあげ、がっ、とヘヨカの両手を掴んだ。そして、意を決した表情でヘヨカを仮面越しに見詰める。
「それじゃあ、私がヘヨカ様の傍らにいるのも、私の勝手ですよね。私の意志ですから」
「……そうだな」
「ソール様には申し上げましたが、改めてヘヨカ様にも申し上げます。私は、ヘヨカ様のお傍にいます。例え、ソール様が何をおっしゃっても……誰かの身代わりでもです」
「………………」
きゅっ、とヘヨカはミカの手を握り返す。
「……そうか」
「はい」
「……そうか……」
ヘヨカは俯き、両手でミカの小さな手を包んだ。そして、その手を額に当てる。冷たい仮面がミカの指に触れた。
仮面の奥で目を閉じる。手袋越しに感じるミカの手は冷たかった。
身代わり。その言葉が、嫌に胸の奥に突き刺さる。自分は、やはりエスメラルダの身代わりにと、ミカを傍に置いているのだろうか。
「……ミカ」
「はい」
決まっている。否だ。
「お前は誰の身代わりでもない」
「……ですが」
「お前の魂を待っていたのは事実だ。……だが、この世界で、生きて、死んだ人間は、二度と生まれてはこないんだ」
それは、モルスから告げられた魂の終着だ。
「肉体を持ってこの世に生まれた全ては、死んだ後は生前を清算し、やがて無へ帰してゆく。だから人は墓を作る。失われた誰かを、忘れないように。……だが、」
ヘヨカはそこで口を噤み、それからゆっくりと、ミカの手を額から離した。仮面越しの、黒く濁った視界。その中で、大きな水色の双眸が揺れている。
「お前は己れの子供として生まれてくるはずだった。……生まれる前に、ソールに奪われた。魂はこの世に来ていたのに、収まるべき肉体を奪われてしまったんだ」
「……じゃあ」
「だから、待っていた」
ヘヨカの、ミカの手を掴む両手に力がこもった。
「……彷徨わせてしまったお前を幸せにする義務が、己れにはある。だがそれ以上に……己れが、傍に居たいんだ」
ヘヨカの声は、僅かに震えていた。
「己れの独善なのかも知れないが」
「……いえ、そんなっ!」
ミカは身を乗り出し、ヘヨカの顔を覗き込んだ。
「嬉しいです。私は、私の勝手でヘヨカ様のお傍にいたいのです。ヘヨカ様が私をお気に入りだと言ってくださって、私、凄く嬉しかったんです。今まで……今まで、誰かに必要としていただいたことなんて、なかったですから」
だから。ミカは今一度息を吸った。
「ヘヨカ様がお傍においてくださって……そして、話をしてくださって、嬉しかったです」
自然と、頬が緩む。自分がここにいていいのだという確信が、ゆっくりと胸の奥を温めた。
ヘヨカは両手を開き、包んでいたミカの手を離す。そして、そっと、ミカの頭を撫でた。
「そうして笑っているお前が、一番可愛い」
手袋越しのヘヨカの手は、優しかった。
着替えの用意が出来たと、女官が顔を出す。ヘヨカは立ち上がってそちらへ向かった。ミカは自分の頭に両手をやって、目を瞬かせる。
「……可愛い?」
ヘヨカの足音がすっかり遠ざかってから、ミカはそう呟いた。瞬間、かあっ、と顔が一気に赤くなる。その場でへたり込んで両手を頬に当てると、燃えてしまいそうに熱かった。
「かわいい……」
もう一度繰り返して呟くと、ふにゃっと顔が緩んだ。
薄暗い、日の当たらない島で、砂埃が舞い上がる。酒瓶をひっさげ、テッラは天上のその島に踏み込んだ。
小さい、石と砂ばかりで作られた島だった。華やかな花畑も無ければ煌びやかな神殿も無い。女神達の集う泉も、精霊達が遊ぶ森も。
一目で見渡せる、狭い島には、岩山が一つだけ乗っていた。
「……探したぜソル坊。どぉした、お前がこんな寂しい島にいるとはよ」
テッラはじゃりじゃりと、荒れた地面を踏んで岩山に近付く。砂埃の向こう側、岩山の麓には、美しい金色の髪を揺らす太陽神がいた。
「……その呼び方、やめてくれないかな?」
ソールは岩山に背を預け、膝を抱えるようにして小さくなっていた。白い装束も砂に汚れている。テッラは鼻を鳴らし、ソールの向かいにどかりと座る。
「慣れ親しんだ呼び名ってぇのは変えられねぇもんだ。どら、一杯」
「止めておくよ。今は頭を冷やしたいんだ。ここなら誰も来ない」
ソールは膝に顎を埋めて俯く。
「……ヘヨカのことか?」
「ああ。……変に探ろうとなんかしなくてもいいよ。あなたの所にいることを、僕はもう知っている。精霊も女神も、噂好きだからね」
「なぁんだ。それで、俺の庇護下だから手は出さねえってか」
「……別に」
ソールはふいと顔を背けた。
「ま、俺は勝手に呑ませてもらうか」
「……砂埃が入るよ」
「盃使わなけりゃぁいい話だ」
テッラは酒瓶から直接酒をあおる。ソールは視線を落としたまま、口を曲げて押し黙った。
ソールは目を閉じて、抱えた膝に頬を当てる。金色の髪は、遥か遠い場所から揺れる日の光に、燃えるように煌めいていた。
雲の合間に浮かぶ小島からは、天上の島々が眼下に一望できた。まるで風に揺れる雲のように、島々はゆったりと漂っている。滑らかで煌びやかな装束をまとい、女神達が花を愛でている。飛べない精霊達を乗せる渡しの船が、島の端で客を待っている。花びらは風に舞い上がり、蝶や小鳥がそれに混ざって飛んでいた。
そんな、鮮やかで幻想的な天上にありながら、ソールの居る小島はくすんだ色をしていた。だがその寂しい岩山が余計に、ソールの金色を際立たせる。
ソールが再び目を開いたのは、テッラの酒瓶がほとんど空になったころだった。
「分からなくなったんだ」
ぽつり、と、独り言のようにソールは呟く。
「……僕は間違っていたんだろうか」
「………………」
テッラは何も言わず、さらに一口酒をあおった。
「何も分かっていないくせに、神様の一員に、なんて思い上がったヘヨカが嫌いだったよ。だから呪った。人を愛せるようになれってね。……だけど、人を愛さなきゃ解けない呪いを、あいつは解く気なんてさらさら無いんだ。……神様になりたいって言ったくせに」
「……ソル坊よぉ、お前一つ勘違いをしてるぜ」
「……?」
「ヘヨカは人間だぜ」
テッラは空になった酒瓶を置いた。ソールは顔を上げて、目を瞬かせる。
「分かってるよ、そんなこと」
「いいや。お前はヘヨカに人間だ人間だって言いながら、神様として振る舞うように仕向けてるじゃねぇか。……人間っていうのはな。貰った分しか人には与えられねぇんだよ」
テッラの言葉に、ソールは唇を曲げる。
「何だってそうだ。優しくしてもらった人間が、優しく出来る。愛してもらわなきゃ、人を愛せやしねぇんだよ。……愛してもらえなかったから、居場所が無くなったから、ヘヨカはこっちに逃げてきたんだろ?」
「だとしても、あいつは」
「それを叩き落としたのは俺達だ」
テッラは薄い笑みを浮かべた。寂しげな、自嘲気味の笑みだ。
「無礼だとか、思い上がってるとか。そういうのは分かるぜ。だがよ。……誰かに手放しで甘えたがっていた子供を見捨てて、あまつさえ、神と同じくらいの心を持たなきゃ居場所すら作れねぇ呪いをかけられたんだ。……ソル坊。お前の呪いは人には強すぎた」
「……あいつが謝れば済む話だったんだ」
「それは神の感覚だ」
テッラは空になった酒瓶の口を指で叩く。鈴を転がすような音がして、また酒瓶が透明な酒に満たされた。
「……あいつが謝らねぇ理由を、ちゃぁんと聞いてみろよ。お前は納得できなかろうがあいつにだって理由はある」
「聞かなくたって分かる。だけど、だからこそ訳が分からないよ」
ソールは苦々しい顔で首を振った。
「……折れないくせに、逃げてばっかりだ」
「……ははっ、確かにそうだなぁ」
テッラは苦笑を零す。
「理解できねぇのか、それが」
「ああ、理解できない……ああそうだよ、僕は理解が出来ないんだ。太陽の目を持っていて、世界の光を司っているこの僕が。全知全能ではないけれど、それでも人々から信仰が特に厚いこの僕がだよ」
苛々と、吐き捨てるようにソールは言葉を続けた。
「あのたった一人の人間が考えていることが、まるで訳が分からない」
「まあ、だからイラついてるんだろ」
テッラは立ち上がり、服の砂を払う。それを見上げて、ソールは眉宇をしかめた。
「面白いじゃねぇか。このご立派な太陽神様を、ここまで悩ませるとはよ」
「……面白くないよ」
「見てる方は面白いぜ」
テッラは酒瓶を傾けた。ソールは深い溜息を吐く。
「どら。頭を冷やすのも良いが、いつまでも太陽が尖ってちゃあ人間が困るぜ。日照りが続いていいこともねぇ」
「……あと少し放っておいてくれ。僕だって子供じゃないさ」
「……へいへい」
テッラはソールに背を向け、島の端から空に向かって酒瓶を引っ繰り返した。透明な酒が流れ出し、虚空の中に溜まって池を作ってゆく。
地上を映すその池にテッラが消え、ソールはまた一人で膝を抱えた。
午前の礼拝が終わり、メーロとしてヘヨカがまた礼拝堂に向かう。夜の間に、白い布の天蓋が作られていた。ミカもヘヨカと同じ布を被っている。天蓋によって礼拝堂から見えなくなった小さな診療所で、ヘヨカは腕を組んで信者を待っていた。その傍らに低い丸椅子を置き、ミカは紙束を抱えている。
「……別に、お前は休んでいていいが」
「いいえ、お手伝いさせてください」
ミカの言葉に、ヘヨカは小さく笑みをこぼして「そうか」と言う。
最初に入ってきたのは、黒い布を頭から被っている女だった。女は天蓋の入り口をぴったりと閉じると、顔を隠している布に手をかける。
「……あ、あの……神様の、お医者さまがいらっしゃると伺いました」
女はするりと布を外す。布の仮面の奥で、ヘヨカは目を細めた。
「普通のお医者には治せないと言われて……」
女の顔、左目の周りは、紅い鱗で覆われていた。髪の色も赤黒く、目は左右で色が違う。鱗に囲まれた左目は金色で、右は深い茶色をしていた。
「……竜の眷属か」
「はい。……神様は、神話で竜と戦っていますから……敵かも知れませんが」
「今更人も竜もない」
ミカから紙を一枚受け取り、ヘヨカはペンを握る。天幕と壁の間に隠れながら、ミカは薄い布越しに、その女をじっと見上げていた。
「ただの病ならば、診て治し方を教えてやる。……お前の病は何だ」
「この鱗を消して欲しいのです」
女の言葉に、ミカは紙を強く握る。
「………………」
ヘヨカはしばらく、黙って女を見つめていた。
「……お前、家族は」
「人間の母と、一緒に住んでいます。……それ以外の親族には、竜の血が入っているからと、嫌われていて」
「父親と会ったことは」
「ありません」
「……鱗を、消したいんだな」
「はい」
ヘヨカは紙にそれらを書き付け、ペンを置いて腕を組む。
「……一晩考えろ。己れは鱗を消してやることはできる。……一晩考えて、それでも消したければ、小瓶に母親の血を入れて持ってこい」
女が出て行って、ミカが天蓋の後ろから顔を出した。それに気付き、ヘヨカは腕を解く。ミカは被っていた布を持ち上げ、鱗で半面を覆われているその顔を覗かせた。
「……私と同じ」
「ああ。……だが幸せ者だ」
ヘヨカの言葉に、ミカは目を瞬かせた。
「お前は、父親に会いたいと思うか」
ヘヨカはミカを見遣る。ミカは紙束を抱え、考え込むように視線を落とした。
「もし叶うのならば……。ですが、竜は気性が荒いと言いますから」
「……荒い竜の種もいる。だがお前は……青竜だろう」
ヘヨカは新たな紙を置き、布の間から垂れ下がるミカの髪に触れた。
「美しい、水の竜だ」
次の信者が顔を覗かせ、ミカは慌てて天蓋と壁の間に逃げる。ヘヨカは息を吐き、口元に愛想笑いを浮かべた。
「………………」
自分だったら鱗を消したいと思うだろうか。ミカは先の女を思い浮かべる。
竜の鱗を持ち、人に嫌われてきた。だが――――いざ父に会いたいかと言われれば、唯一の肉親だ、会ってみたいという思いはある。たとえその父から受け継いだ鱗で、自分が不幸な境遇に晒されていたとしても。
天蓋の向こうから聞こえる話し声に耳を澄ませながら、ミカは目を閉じた。




