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#14 山羊と羊と矛盾点


窓の外から沢山の高層ビルと緑緑とした大木のコントラストが見下ろすことが出来る。

東京は政府が『都会にも緑を』というコンセプトの元、大幅に景観改造を時間を掛けて行った結果、数十年前とは大幅に違う世界でも珍しい近未来型環境都市と言えるような物になっていた。

眼下に広がる普段はお目にかかれれない光景に桑場屋武蔵の興奮は徐々に高まっていく。

約一週間はさほど期待していなかったイベントであるが、彼の性質上いざ始まってしまえばその空気に呑まれ、結局は自らの(マナコ)をキラキラと輝かせる事になってしまうのだった。



「なんだかんだでやっぱテンション上がってくるなぁ倉落!!」

「うっ....... 吐きそうだ.... クワ助けてちょんまげ......」

「あれ?倉落って乗り物酔いするタイプだったの?ていうか本当に酔ってんのそれ?」

「昔から乗り物は苦手なんだよ..... しかもコレ空に浮いてるんだぞ?平気なみんなの方が何故って感じだよ!空を飛ぶなんて意味が全くワカラナイ」

「時を止める能力(チカラ)の方が俺は意味わかんないけどな.....」

「それはクワが矛盾点(パラドックス)だからだって...... うっ..... おえっ.....」

「っておい!?吐くなよ?エチケット袋はどこ!?エチケット袋はどこなの〜!!??」

桑場屋武蔵、倉落を含むTOAの高等部第1学年はクラス毎に別れ、<エア・バス>と呼ばれる空中走行型バスに乗っていた。

この乗り物は揺れも殆ど無いと言ってよく、その速度も飛行機には及ばないが地面を走る乗り物は軽く凌駕する。

彼らは親睦会の為に長野県に向かっている途中だ。バスの座席は出席番号順になっているので自然と桑場屋武蔵と倉落は隣の座席となった。

バスの中はクラス規模の初めての行事という事もあり皆どこか浮き足立っている様子で、ひっきりなしに至る所から誰かの喋り声が聞こえてきている。

「なあ倉落、こういう親睦会みたいな行事中等部でもあったの?」

「っう..... はぁ..... え?あ、ああ。中等部の1年の時もあったぜ。あん時は確か北海道だったかなぁ〜?」

「マジで!?はぁ〜.... 俺も北海道が良かったなあ〜......」

「そうか〜?俺はあんな寒い場所はもうゴメンだぜ」

やっと吐き気が落ち着いた様子の倉落に桑場屋は話し掛けるのを再開した。

「着いたらまず何するんだっけ?」

「流石クワ、尋常じゃない記憶力の悪さだな。学年最下位は伊達じゃない」

「おいコラ、何勝手に学年最下位にレベルアップさせてんだよ。クラス最下位に訂正しろ」

「忘れたのか?俺は中等部で3年間最下位を独走したって。クワは実質学年最下位なわけ」

「認めん!!認めんぞお!!!」

2人が馬鹿な会話をする中、バスは物凄い速度で目的地へと向かって行く。











「ふぅ〜....... やっと陸上に降り立ち降臨する事が出来たぜ........」

「何か大袈裟だし文法的にもおかしくない?その言い方」

倉落は青い顔を無理矢理笑わせ、地面を愛おしそうに撫でた。

目的地に辿り着き、バスから降りた生徒達は目の前に広がるだだっ広い空間に目を瞬く。

「よぉ〜し、みんな集まってこっちに注目してくれ〜」

橋本が1-E組の面々に大きな声で呼びかけ、その声に皆は各々の会話を中断し視線を橋本に集める。

「ここが事前に言ってた『ファザー牧場』だ。とりあえず一日目はここで色々やってから宿舎に行くという流れになる」

桑場屋武蔵は足元の砂利をガサゴソと踏み散らかし、周りのいつもと違う鮮やかな景色に目を見張る。

「まずは写真撮影だ。お前らいくぞ!!!」

橋本はやたら大きな声で皆を煽ると大股で歩き始めた。

ザワザワと今だに落ち着く様子を見せない生徒達も思い思いの歩幅で橋本の後を追う。

生徒達の手首には皆揃って白色のブレスレットが付けられている。

誰もが目の前に広がる東京では見ることの出来ない雄大な光景に目を奪われてしまう。

非常に高い山の上なのだろう、遠くに視線を飛ばすと雲が下の方で揺らいでいるのがわかる。

自分の踏み立つ土地が空に浮かぶ天空の大地なのではないかという錯覚すら覚えるほどの幻想的で崇高な情景が桑場屋武蔵の胸を打ち震えさせた。

「すっ、すげえ〜!!ザ・大自然!!!って感じするなあ〜!!!」

「なんだぁ〜?クワあんなに長野嫌だって言ってたのに結構ノリノリじゃんか?」

「そりゃこんな光景見せられたら健全な男子高校生だったら興奮するだろうが!?」

「何かエロいぜ、その言い方」

桑場屋武蔵は肺を満たす新鮮な空気に感動を覚え、辺りの東京とは違う緑のありようを見てどんどん期待を膨らませていった。






「よ〜し、じゃあ次は班ごとに集まって、BBQをしてもらうぞぉ〜!各食材の置いてある場所はこの紙に書いてある。各班の班長は紙をもらいにくるように!」

ファザー牧場の入り口の一歩手前のBBQをやるためだけに存在するとても広い吹き抜けの小屋にTOA全クラスが一定の距離を置いて集結していた。小屋の目の前にはこれまたただただ広い草原のようなスペースが広がっている。

桑場屋武蔵の所属する班の班長は一週間前の班決めの時に岡月が担当すると決めていたため、桑場屋武蔵と倉落は特に橋本の元に向う事もなく、真っ直ぐ『1-E、7班』との目印のあるテーブルを目指した。

「お、いたいた。ザッキーに和慈さ〜ん!!」

テーブルのそばで座る事もせず無言で立っている2人に向かって倉落は勢い良く急に走り出す。

「よっ、崎山。和慈もこうやって面と向かうのは一週間ぶりだな」

「はっ!?てめぇ何勝手に和慈さんの事呼び捨てにしてんだよ!クワみたいな学年最下位は様付けに決まってんだろ!?」

「え?ちょっとそれ酷くない?俺ってクラスメイト呼び捨てにしちゃいけないの?馬鹿だから?馬鹿だといけないの?」

「当たり前だろ?大天使様の前でクワみたいな下等種族が生きていられるだけで感謝しろよ」

「え、えーと......?」

「あ、気にしなくていいぜ和慈。こいつら多分おめぇの想像を絶する馬鹿だから。殆ど聞き流して構わねぇ」

「おおいいいい!!ザキクソてめぇ!!!大天使和慈さんを口説こうとするなんて許されると思ってんのかぁ!!!???」

「今のをどう解釈すればそういう結論に達するんだよてめぇはよぉ!?」

やはりと言うべきか、桑場屋武蔵の班のテーブルはまだ全員揃っていないにも関わらず他の班より数倍賑やかになった。

そしてそのお陰で料理に必要な食材を受け取り集め岡月が自分の班のテーブルを見つけるのにさほど苦労はしなかった。

「ほら〜、食材持ってきたよ。恥ずかしいくらいに大騒ぎしてないで早くBBQしましょっ!」

岡月は口喚く男どもを押しやり、抱えていた食材が山盛りになった皿をテーブルのど真ん中にドンと置いた。

「お、おお〜!!!凄い、な、何かワイルドな肉が大量にあるじゃないか!!!」

「流石国に補助されまくってる学園なだけはあるな、3年前はスキヤキだったから牛肉だったけど、これは豚肉か?」

「ほぉ〜、野菜も結構いろんな種類用意してくれてるみたいじゃねぇか」

「もぉ!!そんな食材の品評は後でいいからさっさと支度して支度っ!!他の班の人達はもうみんな準備し始めてるよ!?」

「岡月さんお疲れ様、これ結構重かったんじゃない?」

「え!?あ、ありがと和慈さん!」

「心配すんなよ和慈、このくらい岡月なら余裕だぞ?何たって殴り合うくらいだぞ?あのなめ・・」

「セイッ!!!」

「ソイッ!」

ヘラヘラと笑いながら桑場屋武蔵が和慈に話し掛けようとした瞬間、倉落の肩パン、岡月の腹への膝蹴りの順で容赦無い攻撃が彼を襲い、彼は最後まで言葉を紡ぐ事が出来なかった。

「全く、クワには和慈さんと話す権利は無いと言っただろ?想像を絶する間抜けだぜ」

「もう!失礼だし馬鹿だし信じられない!!!!」

「え、え〜と...... 桑場屋君大丈夫?」

「俺も良くわかんねぇがこいつらには常識が通じねぇからな。気にしなくて大丈夫だぜ和慈。きっとこいつらにとっては平常運転なんだろうよ」

突然起きた班員どうしの争いに和慈は混乱したが、隣で特に表情を変えずに不明瞭なアドバイスをしてくる崎山を見て、これがこの班の正常なんだと彼女は無理矢理理解した。

「.......痛たたた。オケーオケー、今のは冷静に考えたら俺が悪い。でももうちょっと優しい注意の仕方は無かったのかな?」

「ねぇよ馬鹿クワ」

「ないよ馬鹿桑場屋」

2人は腹と肩を押さえながら顔を上げる桑場屋武蔵の言葉を一蹴した。

そしてそんな3人を無視して、崎山と和慈は作業の効率化の為に手を洗いに水場に向かう事にした。

恐ろしい形相で桑場屋武蔵を睨む倉落と岡月に声を掛け辛かったためである。






肉の焼けるジュシッという芳しい音とBBQソースや炭火の香ばしい匂いが辺りに充満し始め、どこもかしこも楽しそうな黄色い声で溢れかえっている。

「よ〜し、こんなもんでいいだろ」

「うん、そだね。じゃあみんなに取り分けるからお皿持ってきて」

桑場屋武蔵の班は彼の予想に反して、いざ料理をし始めるとテキパキと滞り無く進行していく事が出来た。

これは岡月、和慈の両女性陣が料理に堪能であった事に加えて、崎山がこの2人を超えて料理人としての腕前を見せつけたからである。

無論、このBBQの時間に桑場屋武蔵と倉落が絶望的な表情で崎山の包丁捌きを見守っていたのは想像に難くない。

「いや〜、和慈さんの手料理が食べれるなんて、感激だぜ!」

「え?手料理というかBBQなんで...... それに私人参の皮剥きくらいしかやってませんし......」

「で、デスヨネー!?」

「おい倉落、女子とうまく喋れないのに軽めの男口調で喋るなよ」

「え?倉落君て女子苦手なの?何か意外だな」

「なんだよ女子が苦手って?女も男も同じじゃねぇか?」

「シネザキクソ」

「ゴートゥーヘル崎山」

「おい何だよおめぇら!?片っぽ芸名みたいになってるじゃねぇか!?!?」

愉快な会話しながらも岡月はBBQを綺麗に皿に取り分けていったり、和慈も気を利かせて飲み物を飲むためのプラスチックコップを用意するなど女性陣の影ながらの活躍もあって、食事への準備は喧しいだけの男達を無視しながらもどんどん進んでいく。

「よ〜し、これで準備は完了だねっ!」

「うん、水も全員分注ぎ終わったよ」

「あれ?知らない間にもう後は食べるだけの状態になっている?」

「桑場屋はほぼ何にもしてないんだから代わりに片付けは気合を入れてやってもらうからっ!」

「う〜ん、いい匂いだぜ..... 食欲を駆り立てるぅ〜!」

「じゃ、さっさと食べ始めようぜ?」

「そうだね、いただきますしよっか?」

「よっし!じゃあせいので行こうぜ?」

「おい出しゃばんなよ馬鹿クワ!こういうのは普通班長の岡月さんだろが!!」

「え!?わ、私?じゃ、じゃあ、いっ、いただきます!!!」

「ちょ、いきなり過ぎ!これは仕切り直しで俺がやるべきか?」

「「「いただきまーす!!!」」」

「はい、無視されると思いました」

桑場屋武蔵は腕時計をいつもの癖でまたも見る、昼食の時間が終わるまでは充分時間があった。急いで食べる必要はない。

彼は他の班員より少し遅れて食べ始める。

口の中に広がる肉汁と刺激的なタレの混ざり合った旨味が彼を幸せにした。


思ってたより楽しいな、俺の高校生活........


桑場屋武蔵はいっときの間、身の回りの皆が時間操作者(タイム・オペレーター)だという事も忘れて、自分自身が特異な存在だという事すらも忘れて、目の前にある幸福をただただ享受する事に全神経を注いでいた。











メェェェェェェェェ!

「ん!?何だよ、驚かせるなよ........ それにしても流石に疲れたな.......」

木の影で双眼鏡を手に前方のある集団を監視していた少年は、突如後ろに出現した山羊の鳴き声に肝を冷やされ、静かな溜め息をつきながら双眼鏡から手を離し、ぶらーんと首からぶら下がるままになるよう重力に抗う助けを外した。

「よしよし、いい子だ。お前は楽しそうでいいな」

「メェェ」

十八鳴はしゃがみ込んで山羊の頭をガサガサと撫でつけた。

彼が精神的にも肉体的にも著しく疲弊している事に不思議はない。

彼は白神から御前崎の監視を依頼されたその日から約一週間のも間、御前崎が独断で勝手に生徒会にとっての現在の最重要人物である桑場屋武蔵に接触しようとするのを何度も防いできたのだから。

何度十八鳴が御前崎に桑場屋武蔵への接触を止めるよう忠告しても彼女は決して諦めず、隙あらば接触しようと何度も試みた。

それを十八鳴は必死で全て妨害してきたのだ。何故御前崎が桑場屋武蔵にそこまで執着するのか彼にはわからなかったし、白神に聞いても御前崎本人に尋ねても教えてもらえない中彼はひたすらにこの任務を遂行し続けてきたのだ。

「この任務もいつまで続くのかねぇ.....」

十八鳴はこの終わりの見えない任務に些か辟易し始めていた。

桑場屋武蔵については白神が生徒会長の権利をフルに活用してその正体を調査中という情報が彼の耳には入ってきている。

だがその調査の成果は芳しいものではないらしく、未だに桑場屋武蔵に対する厳戒令は解かれていない。

そのために今も彼は親睦会で長野県にまで来ているというのにも関わらず、同じ班のメンバーに生徒会の仕事だと断って桑場屋武蔵の監視を続ける羽目になっているのだ。

「本当、ブラックな組織に入っちまったもんだ...... 俺もお前みたいになれたらな......」

山羊にボソボソと話しかける十八鳴の顔はやつれていてどこか陰鬱だった。

基本的に生徒会に選出された場合、生徒側に拒否権は存在しない、抑止力に関してはその任命を拒絶した前例が存在するが。

「あ?ちっ....... 御前崎の野郎..... ここでもお構いなしかよ..... 糞っ!どうする?ここからじゃ御前崎の所に行く前にあいつと桑場屋が接触しちまうな......」

十八鳴が山羊との触れ合いを止めて双眼鏡をまた覗き込むと、そこには桑場屋武蔵の班の集団の向こう側に十八鳴と同じように一人きりでズンズンと歩いている御前崎の姿が映し出されていた。

「これはしょうがないな...... 丁度この状況にも飽きてきた所だ。作戦Bでいくか?」

再び双眼鏡から目を離して山羊に喋りかける、メェェと山羊もそれに威勢良く答える。

「ははっ、お前も生徒会に入らないか?お前ほど気が合う奴がいないんだ」

十八鳴はそう言うとつぶらな瞳を潤ませる山羊の頭を先ほどより力強く撫でた。

「なんてな」

十八鳴は山羊から名残惜しそうに視線を外すと勢い良く走り出した。

山羊はその後ろ姿をじっとしたままなにも言わずに見送った、いやただ単にその山羊にとっては見慣れた景色を改めて観賞していただけかもしれない。











ベェェェェ!!!

「お!凄いぞ!この羊今メェェって鳴いたぞ!?ウヒョ!?草食ってる!!この羊草食ってる!!」

「へぇ〜、羊ってちゃんとメーって鳴くんだな。あれ?山羊ってどう鳴くんだっけ?」

「山羊も確かメェーじゃねぇか?同じ鳴き声じゃなかったか?」

「おい見ろよあれ!!山羊が2匹で走り回ってるぞ!?凄いな!野生の山羊かな!?」

「え?野生の山羊ってことはないんじゃないかな.......?」

「ちょっと!桑場屋はしゃぎ過ぎだからっ!一応もう高校生なんだから少しは落ち着いたら?」

「あ!あっちに牛がいるぞ!!こっち見てるぞ!?岡月一緒に乳揉みに行こうぜ!!」

牧場の中に足を踏み入れてから一向にテンションの下がる気配の無い桑場屋武蔵を先頭に、1-E組第7班はそれなりにファザー牧場内を満喫していた。

「え!?ちょっ、ちょっと手引っ張らないでよっ!!!私あんまり牛のその.... それやりたくないんだけ・・ って痛い痛いっ!!本当に行くの!?てか聞いてるっ!?!?」

ピョンピョン飛び跳ね続ける桑場屋武蔵は、顔を耳まで真っ赤にした岡月の抵抗を完全に無視してその手を握ったまま駆け出した。

そしてそれを倉落はなにやら感心したような面持ちで眺める。

「こういう時のクワはマジ神懸かってるな..... 普通知り合って一ヶ月も経ってない女子を牛の乳揉みに誘えるか?」

「誘う意味がわからねぇな」

「一応同じ班だから追いかけた方がいいんじゃないかな?」

「おっ、俺もそう思ってましたっ!!!」

「確かにそうだな。じゃあ俺達もあの牛ん所に行くかぁ」

そして3人も牛目掛けて飛んで行く2人を追いかけようとしたその時、凄まじい速度で彼らの横を何かが通り越して行った。

「ん?」

「あ?誰だあいつぁ?」

「?」

3人の横を通り越していったモノ、それは人間だった。韋駄天の如くの速さで走るその人物はその服装から彼らと同じTOAの生徒である事がわかる。

「あれ?あの後ろ姿どっかで見たことあるような.......」

倉落だけが心当たりがありそうに首を捻るが、崎山と和慈は不思議そうにどんどん小さくなる影を視界に留めるだけだった。







「ねっ、ねぇ桑場屋!?いっ、行くからっ、手を離してくれない!?」

牧場内を全力疾走しているのが自分達だけなので、注目を集めいい加減恥ずかしくなってきて抗議の声を上げた岡月だったが、彼女の願いは聞き入られそうになかった。

「牛でけええ!!!!」

最早桑場屋武蔵の頭の中は牛でいっぱいになっていて、岡月の手を引いている事など殆ど忘れていると言っていい状態だったのだ。

だが唐突に岡月の空いている方の手が誰かによって握られた事によって急ブレーキがかかり、彼は自分が岡月の手を握り締めている事を強制的に思い出さされた。

「っぐ!?」

「痛っ!!」

岡月は双方から引っ張られる状態に一瞬なり、両腕にピンとした痛みが走るのを感じた。

そして自分の足が止まっている事にやっと気づいた桑場屋武蔵と、一瞬の鋭い痛みで反射的に瞑っていた瞳をゆっくり開いた岡月が同時に背後を振り返る。

「誰だ...... お前?」

「どちら...... 様ですか?」

2人は目の前に立つ、長めの前髪が眉にかかっていて、垂れた目の奥に力強い光を携えた体格の良い紫のネクタイをだらしなくしている男子生徒に見覚えが全くなかった。

だが桑場屋武蔵は息を切らして若干汗ばむその少年の胸に見覚えのある物が光り輝くのを見て、心の中で大きく落胆した。


本当俺このバッジ大嫌いだわ.......


「俺の名前は十八鳴鷹海。桑場屋武蔵、お前にちょっと頼みがあるんだ」

桑場屋武蔵は目の前の男の微笑みを懐疑的な目で見据える。

そしてそんな彼らの後ろには、十八鳴と同じバッジをした女生徒が険しい形相で近づいてくる姿があった。



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