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#13 狙われる矛盾点





大きな満月が妖しく煌々と光る夜空の下、燃え盛る炎に包まれた建物の目の前で、赤毛の少女が絶望的な表情で立ち尽くしていた。

「一体..... 何が起きてるって言うの.....?」

少女は弾んだ息を整えつつも、想像を絶する光景にただただ圧倒されている。

「....... っん!?」

突如背筋を切り裂く様な殺気を感じ、少女は思い切り横に飛び退く。

「アナタが....... やったの....?」

少女はさっきまで自分がいた場所に立つ、細長い黒い影に言葉を問いかける。


「..........」


漆黒の影はものを言わない、炎の明かりに照らされて黒いコートで全身を覆っている姿が現になっただけだった。

「.......何者だか知らないけど、私の目の前に立つ事の意味を教えてあげる......!」

少女はオレンジ色のブレスレットを付けている右腕を自分の胸の前へと掲げる。

そして少女の周りの空間が微妙に揺らいだと思った瞬間、正体不明の影が彼女の目の前から消え去った。

「!?」

重苦しい違和感が唐突に彼女の後ろに出現し、少女は急いで振り返る。

「...... アナタは.....何なの?」

そこにはさっきまで自らの眼下にいた謎の影が、先ほどと同じ様に存在を誇示していた。


「...........」


勢いを増す彼女らの後ろの建物の炎の輝きに曝されて、少女の脂汗に滲んだ焦燥の表情が映し出される。

そしてその瞬間、音を出さない黒い影から邪な質量が醸し出された。

「.......っぐ!?」

突然少女の腹部に激痛が走る、咄嗟にその痛みの源を手で抑える。

「.....嘘?........ 何が.... 起きて?」

条件反射的に動いた手には闇夜でも分かるほど赤黒い液体がベッタリとついていた。

少女は血で赤く染まった自分の着ている白いTシャツの腹部を見て、混乱気味に何度も瞬きを繰り返す。


「..... ズレ.... 調整不足か.......」


「!?」

闇そのものが発したかの如く静かで無機質な音は、その少女にはその黒い影の声として認識された。

「これもアナタの仕業......?」

苦痛に歪んだ少女の問いかけにもやはり闇を背負う影は答えない。

だがその得体の知れない圧力は少女が一度体勢を立て直すべきだと判断するのには十分だった。

少女は身を翻し、その襲撃者からの逃走を始めた。

「はぁっ......!はぁっ....!はぁっ........!!」

腹部の激痛に耐えながらも少女は走り続ける、非常事態を知らせるサイレンと自分の吐息だけが彼女の鼓膜を満たす。

そのうち炎上した施設から逃げるように走る少女の瞳に見たことのある人影が映った。

「はぁ....!良かったクリス..... アナタは無事だったのね.....!」

少女は黒い影が背後を追ってきていないのを確認してから、電柱に寄りかかる人影に歩み寄って話しかけた。

「..........」

しかし、その人影は微塵も動かず、少女の問いかけにも返事をしようとしない。

「ク....... クリス?」

少女は光に照らされる動こうとしない知人に近づいて行く。

「........嘘 ...... クリスが .....そ... そんな.....?」

少女は自分が知り得る限り唯一自分より高位の時間操作者(タイム・オペレーター)が、心臓のあるべき所に穴をポッカリ空けてものを言わぬ屍になっているのを目の当たりにして底知れぬ絶望を感じた。


「何故私は生きている?」


少女の背後から、彼女の今最も聞きたくない声がした。

暗くて重い圧迫感を少女は背中全体から感じる。


「何故私は生きている?」


少女息切れと動悸で気絶し倒れそうになりながらも必死で恐る恐る後ろを振り返った。

「や....止めて...!アナタは一体何が目的なの?」

少女の背後には電柱の光で照らされた緩やかにウェーブした黒髪を頭に撫でつけ、オールバックの様な髪型をしている男が全身黒尽くめで立っていた。

その男はまさに黒い影という出で立ちで、深夜だと言うのに真っ黒なサングラスをしている。

「こ.... 来ないで....!ア...アナタの時を止めて...こ.... 殺すわよ.....!!」

少女は自分の隣りの少年が既に死んでいる事から、自分の能力が恐らく通用しないと頭では分かっていたが、彼女の震える唇は本人の意思とは無関係に動き続けた。



「何故お前は生きている?」



その男がサングラスを緩慢な動作で外す。

「...............え?」

ブツン、と突如電柱の明かりが消える。

だが、少女は暗闇でもなお輝き続けるその男の瞳に釘付けになったままだった。

なんとその男の右の瞳は虹色だったのだ。

そして、少女の頭部に男の腕が伸びていき、男の指先が少女の鼻先に触れる瞬間、その一瞬まで少女は動けなかった。

それが絶対的な存在感を醸し出す暗黒の影への恐怖心の為なのか、それともその男の瞳にただ見惚れていただけなのかはわからない。

きっと少女自身もわからなかった事だろう、そしてその少女の鼻先に男の指が触れたその時、その瞬間、少女の首から上が消えて無くなった。

ザプッと鮮血が少女の首から勢いよく噴き出し、 ゴトリと少女の首から下の肉体が重力に耐え切れず不自然な体勢で地面に倒れる。





けたたましいサイレンの音以外何もしない闇夜の道で、男の液体のようにユラユラと色の配置を変える虹色の右眼のみが闇に浮かんでいた。











何の変哲もない何処にでもあるような蛍光灯の下、無機質に白と黒のみでかたどられた一枚の紙切れを手に持ち、桑場屋武蔵は絶望的な表情で立ち尽くしていた。

「一体....... 何が起きてるって言うんだ?」

桑場屋武蔵は自分の瞳に映る光景にただただ圧倒されていた。

彼は自分手に握られた入校時に受けたテストの結果用紙を見て空いた口が塞がらなかった。

『国語42点—クラス内順位40/40、数学65点—クラス内順位30/40、英語19点—クラス内順位40/40、総得点126点—クラス内順位40/40』


嘘だろ?中学時代それなりに好成績だった俺がクラス最下位?これは何かの間違いだ!そうに違いない!!それともこれが噂の明晰夢かな!?


「おい桑場屋、そう気を落とすなって。誰かが最下位にはならなくちゃいけないんだから。お前はみんなの嫌がる役目を代理で引き受けたんだよ。何と言うか.... その..... 偉いぞ!?ガッハッハッハ!!!」


はは..... やっぱこれは夢だ。橋本がこんなに俺に優しい顔をする訳がないや......!


「ほら?教室、1人で戻れるか?」

「大丈夫ですよ!先生!!今なら何だって出来る気がしますよ!!!だってこれは夢ですからネ!!!」

「......... こりゃ重症だな」

桑場屋武蔵はウキウキとスキップをしながら自分の教室に戻って行く。

橋本には彼の奏でる鼻唄がとても哀しく、切なげに聞こえた






「グヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!!!これはっ.....グヒヒッ!!面白過ぎん....グヒッ!駄目だ笑いが止まんねぇ!グヒヒヒヒッ!!!!」

桑場屋武蔵は教室に戻った瞬間強奪された紙切れを取り戻そうと、必死に倉落に掴みかかるが、倉落の軽快ですばしっこい逃走に中々ついていけなかった。

「返せ倉落っ!!止まりやがれっ!!!俺は今からそれを燃やして地球の肥料にすんだっ!!俺のエコロジーライフの邪魔すんな!!!」

「グヒヒヒッ!!馬鹿だとは思ってたけど、

クラス最下位レベルだとはなっ!!グヒヒッ!!英語19点て何だよ!?何?平安時代から来たんですか〜?」

「地獄に落ちろこの外道がっ!!貴様決して許さんぞっ!!!」

冷たい視線を送る他の生徒達を尻目に、騒々しい言い合いをしながら2人はそのまま廊下に走り去って行った。

そしてそんな2人を困った様な嬉しい様な複雑な表情を浮かべ見送った少女が1人いた。

「はぁ......... 苳也と闘ってた時はあんなにカッコ良かったのになあ......」

岡月は他の生徒には聞こえないようひっそりと呟く、この件に関しては他言無用と右々木に電子メールで忠告を受けているためだ。

「本当にあの2人は面白いよね」

「はい!?」

岡月は突如上から降ってきた声に虚を突かれて、思わず裏返った声を出してしまう。

「いつも賑やかで、彼らを見てると元気が出てくるよね。」

「え、え〜と...... ゴメン誰だっけ?」

「あ、そうか。僕の事なんてまだ覚えてないよね。」

岡月は目の前の小学生の少女のような外見の少年、制服姿から辛うじて少年だとわかるその人物にまるで見覚えがなかった。

「僕、酒井準一(サカイジュンイチ)って言うんだ。君の斜め後ろの席なんだけど...... まあ知らないか。僕、結構休んでるしね」

「え!?あ、そっ、そうなんだ!?ゴメン私まだあんまりこのクラスの事把握してなくて!!!」

岡月はバッと後ろを振り返り、桑場屋武蔵の後ろの席が空っぽなのをみとめると、慌てて酒井に頭を下げ謝った。


うわ〜..... 私最低だっ!!!!!こんな近くの子の名前もまだ覚えてないなんてっ!!!

折角この子は普通に私に話しかけてくれるまともな子なのに.......!

絶対印象最悪だよぉ〜!!!


「ううん、別にいいんだ。僕よく保健室に行ってるし、影、昔から薄いんだ」

「いやっ!!そんな事ないよ!?影濃いからっ!!ほらっ!顔も可愛いし!?あれ!?何言ってんだろ私っ!?!?」

若干寂しそうな表情で岡月の横を通り抜け自席へと戻る酒井に、彼女は何とか挽回しようと息巻いたが、結果的にそれは自分でもよくわからない言葉を掛ける事となり、彼女的には失敗に終わってしまった。

「........ あはっ!君は桑場屋君に少し似てるね。岡月さんも凄く面白い人なんだね」

「えっ!?私がく、桑場屋にっ!?似てないよ全然っ!!!」

席に座った酒井は笑って答えた。

しかしその返ってきた言葉に岡月は何故か動揺してしまい、つい顔を紅潮させる。


に、似てる.... のかな?

なんか..... ちょっとだけ嬉しいかも.......


最早岡月は酒井の事などどうでもよくなってしまったのだった。

「あれ?僕ちょっと皮肉を言ったのにな...... なんかとても喜んでしまってるみたいだ.....?」

酒井は斜め前の席で何故か恥ずかしそうにニヤニヤしながら顔を赤らめる少女を不思議に思う。

酒井としては、教室内で浮いている変人という点で似ていると言ったのだが、どうやらそれは通じなかったのだと彼はとりあえず理解した。






「倉落お前っ!!!なんだこれ『総得点135—クラス内順位39/40』って!!!お前だってドベ2じゃんかよ!!!!俺とたった9点しか違わないじゃんか!!」

「.......たった9点、されど9点。それに知ってるかクワ?俺は中等部の3年間ぶっち切りで最下位を独走してたんだぞ?その俺に君は9点もの大差をつけられて敗北したんだぜ?少しは反省したらどうかね?」

「うるさい黙れ!ドベ2に偉そうな事言われたくないわ!!畜生.....!見てろよ....!!!次は絶対勝つからな!」

「ま、精々頑張ってくれたまえ」

4時限目のLHR(ロングホームルーム)が終わって昼休みになっても、醜い最下位争いを繰り広げる2人の生徒の喧しさは変わらなかった。

「もううるさいよそこの馬鹿ども」

「本当に騒がしいなぁおめぇらは」

弁当も禄に食べずに唾を飛ばし続ける2人に岡月と崎山が苦言を呈す。

親睦会の班を同じにすると決めてから、4人は自然と一緒に過ごす時間が多くなっていた。

「そうゆうお前らはクラス内順位どんくらい何だよ?どうせ30位台だろ?」

桑場屋武蔵は少しムスっとした態度で2人に問い掛けた。

「あぁ?5位だが?」

「ん?3位だけど?」

崎山はそれがどうしたと言わんばかりにどうでも良さげな表情で、岡月はここぞとばかりに勝ち誇った笑顔で答えた。

その返答に質問をした桑場屋武蔵本人は嘘だろとプルプル震え出し、隣りで聞いていた倉落はウンウンと納得気に大きく頷いていた。

「やっぱりなぁ〜、俺も岡月さんとザッキーは頭良いだろうなぁと思ってたんだぜ」

「あり得ない...... 高身長で二枚目で勉強も出来る?ははっ..... 許されんのかそれ?」

「ちょ、ちょっと!?私は無視!?!?」

「まぁいいじゃねぇか桑場屋、この学園に入れてる時点で相当な高学歴なんだからよ」

「まあ俺は推薦組ですけどネ!」

「あ?」

「え?」

最後の桑場屋武蔵の言葉に岡月と崎山は大きな反応を示し、教室は一瞬静寂に包まれた。

「お、おい何だよ?2人とも急に黙り込んで?」

「おめぇ........ 本当に推薦組なのか?」

「す、凄い......!て、ていうかそりゃそうか..... 何で私今まで気づかなかったんだろ.....」

「そ、そんなに褒めんなよ!や、やっぱこれって凄いの?」

桑場屋武蔵は信じられないと目を大きく見開く崎山と、何故か頬を紅く染めて目を輝かしている岡月を見て、少し得意気な気分になり出した。

「凄いに決まってんだろ?中等部の入試でも多くて3人くらいしか毎年いねぇんだぞ?一個上の学年には確か編入生で推薦組のやつはいねぇはずだ!」

「うん、それに今いる4人の<抑止力>は全員推薦組で、8人いる生徒会の約半分も推薦組っていう噂だよ」

「おめぇは推薦組の癖に実技も筆記もどっちのテストでも最下位を取ったって言うのかぁ!?とんでもねぇ野郎だなおめぇは!」

「まあ確かにとんでもない人ではあるよね」

「おい、そんなに褒めるなよ?照れるだろ?」

「多分殆ど褒められてないぜ、クワ」

恥ずかしそうに鼻の下を掻く桑場屋武蔵の肩に、倉落は優しく手を置いた。

「な、何だよ!?お前だって推薦組だろ?」

「まぁそうだけどさ」

「あ?」

「え!?」

再び岡月と崎山は目を大きく見開いたまま固まってしまった、この昼休み、2度目の静寂が教室を支配した。











「何で此処に呼んだのかわかってるだろ?」

「........... わからないわね、全く」

十八鳴は目の前でプイっと顔を背ける御前崎に困った様な表情を見せる。

「この場所でこの前、お前とボサボサ頭の少年が険悪な雰囲気で会話をしていて、暫くすると少年の方が逃げるように走り出したのを見たっていう情報が入ってきてる」

「.............」

「はぁ...... その少年ってのが例の桑場屋武蔵なんじゃないのか?あの行方を病院送りにした」

「..........」

御前崎は答えない、少し憎たらし気な目付きになっただけで、口を開こうとはしない。

「単独での接触は禁止だ、わかってるよな?」

「...........」

「ちっ........ とりあえず話はこれで終いだ。くれぐれも単騎で何もやらかすなよ?」

十八鳴は諦めたように肩を下ろすと、無言のまま動かない御前崎を残して、立ち去って行った。

「あいつは....... 私が殺す.........!」

御前崎は何かに取り憑かれたような眼で十八鳴のようにその場をあとにした。






おいおい、今の話は本当か?

鷹海の奴、俺には行方の入院の理由教えてくれなかった癖によぉ.......


少年は並木の後ろで2人の会話を盗み聞きしていた。勿論少年に罪悪感などは無い。


でもこれは困ったな...... 行方レベルの奴が紛れ混んでるとすると、俺の浄化計画に大きな計算外が生まれる可能性が大きくなる........


少年は頭を悩ませる。折角のチャンスを活かしたかった。


でもあの感じだと、あの女が使えそうだな.....

少年は醜悪ないやらしい笑みを浮かべる。


にしても『桑場屋武蔵』か、聞かない名前だな...... もしかして編入組か?いや、ないか。その可能性よりも俺みたいにこれまでは実力を隠してきた中等部上がりの可能性の方が高いな。

どっちにしろ面倒な奴だ....... 本当に行方レベルならあの女を活用出来ても排除は不可能だろう....... でも今の所そんな実力者の噂は聞かない、おそらくあまり目立ちたくないタイプだ......

それなら計画を少し縮小すればそいつは関与しようとしないだろう........

仕方ない..... 今回はあのウザいウザい編入組だけ狙う事にするか...... あんな余り物のカスの寄せ集めみたいもん、この学園で一番必要ない。


少年はいつも昼食を食べなかった、食事に関心が無かったからだ。

だが少年は自分の関心が無い物に他人が関心を抱くのも嫌がった、だからいつも昼休みは教室を抜け出す。

唯一友人と言える人物は幼馴染でもある十八鳴のみであったが、その十八鳴ともTOAに入学した後は絶対的な信頼関係は無くなってしまったと少年は考えていた。

「楽しみだな、親睦会」

少年がこの日初めて外に出した声は、どこか捻くれていて、掠れた明るさの無い声だった。











上空からヘリコプターの音がする、だが上を向いても夜空に星が煌めくばかりで音の元凶を見つける事は出来ない。

男は顔に付着した血をハンカチで丁寧に拭き取ると、そのハンカチを地面に投げ捨てた。

「リーダー、政府の軍が近づいてきていますがどうなさいますか?」

「キャハッ!モチ全員皆殺しだよねっ!?リーダー!?!?」

「いや、充電が勿体無い、望みの品が手に入りしだい撤収するぞ」

男は暗闇から音も無く現れた、シワ一つないタキシード姿の男と、ショッキングピンクの髪に上半身は黒のブラジャーのみで下半身はショートパンツ、おまけに全身血だらけの女に無機質に声を返す。

「畏まりました。現在ナカオウが施設の時薬を発見し集めています」

「え〜?まだウチ殺したりないんだけど〜?あ、そういえば<神の子>ともう一つのナントカって見つかった?ウチが殺した方にはいなかったよ?」

「ああ、私も見つけられなかった。次に期待しよう。私にはまだ気になる事があるので少し外すぞ」

「は〜い、行ってらリーダ〜」

「行ってらっしゃいませ。リーダー」

男はそう言い残すと闇に溶けるように消えた。

「ねぇセダ?リーダーが探してるのって<神の子>ともう一つなんだっけ?後次ってどこに行くんだっけ?」

「ブルー・ヒル、貴方はもう少し物をしっかり覚えるよう心がけた方がいいですよ?」

「あ〜、はいはいセダのお説教は要らないから。とにかく早く教えてよ」

ずっと鳴り響いていたサイレンが唐突に止み、代わりに何処かからか大きな爆発音がした。

しかしそんな轟音にも2人は顔色ひとつ変えない。

「ていうかさっきからこの死体何かこっち見てるみたいで嫌なんだけど」

そう言うと女は電柱に寄りかかる死体に手をかざした、すると突然死体がブロック状に細切れになり、ボロボロと地面に崩れ落ちていった。

「リーダーがお探しになっていらっしゃるのは<神の子>と<矛盾点(パラドックス)>と呼ばれる人間です。そして次の目的地は日本(・・)ですよ」

「あぁ〜、そうだそうだそう言ってたわ」

女は細切れになった死体のブロックを一つ手に取ると、それをヒョイと口に含んだ。

「ん〜、やっぱり若い男の肉はいいわぁ〜」

女はグチャグチャと顎を動かし、恍惚とした表情を浮かべる。

「ブルー・ヒル、それも悪趣味です。感心はしませんね」

「いーじゃん美味しいんだから!そうだ!セダも食べる?」

「遠慮しておきます」

タキシードの男は眉一つ動かさずに答えた。

その男の返答にさほど期待をしていなかったのか、女は男の答えを碌に聞かず自分のショートパンツの中の股の下に手を這わせていき、夜空に快感に身悶える顔を向ける。

「リ〜ダ〜、はぁんっ..... !血、血が足りないよぉ〜.........!!」

闇夜に浮かぶ大きな満月は妖しく輝き、血と死の臭いのこびり付いた悪意ある者、純粋ながらも動かぬ屍となった者、全てを平等に照らす。




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