第72話:エルフ
「少尉。規格外の死亡が確認されました」
――帝都参謀本部、特別監察室。
中尉は、一切の感情を削ぎ落とした仮面の奥から、冷たく、ただ結果だけを伝える目で、次はどう動くのかを尋ねてきた。その濁りのない無表情に、俺は静かに告げた。
「これて世界が平和になりますね」
――規格外。
帝国東の『赤旗国』(第41話~)に所属する異世界人。かつて帝国にいた勇者(第7話、第27話)と同じく、大型魔物を単独で倒せる、国家にとっては災害以上の“インチキ”だ。
俺の仕様に落とすことができない不具合。(第40話~)
俺は、異世界人誘導係からの速報を確認した。
『――異世界人誘導係より報告。『霧宮王国』で規格外の死亡を確認。任務完了帰還する』
エルフからの報告は三年ぶりくらいだろうか。(第40話)
その時は、あの『霧宮王国』へ行くと報告が入っていた、過程はともかく結果的に不具合が消えたことと言うことは、参謀本部にとっても良いことだろう。
――一か月後。帝都参謀本部。
いつものように特別監察室へと足を運び、その重い扉を開けようとした、まさにその時だった。
隣にある中尉の執務室のドアが開き、中から一台の車いすが静かに滑り出てきた。そこに収まっていたエルフと、正面から視線がぶつかる。
「少尉さん、久しぶりね」
彼女は、まるで昨日も会ったかのような、あるいはごくありふれた世間話でも終えたかのような、以前と何一つ変わらない軽い口調で俺に微笑みかけてきた。
「私はもう、外勤はさすがに無理ね。退役までは、大人しく内勤になると思うわ。……そういえば前に、一緒に食事に行こうって言っていたのは覚えているかしら? お互いに諸々の手続きが落ち着いたら、行きましょうね」
それだけを滑らかに言い残すと、彼女はひらひらと細い手を振り、車いすを操ってそのまま長い廊下の彼方へと静かに消えていった。
すれ違いざまに見えた彼女の身体は、衣服の隙間から覗く肌のすべてが、痛々しいほどの白い包帯にまみれていた。そして、軍服の左側の裾は、太腿のあたりから先が力無く虚空に垂れ下がっていた。――左足が、根元から失われていたのだ。
それほどの凄惨な対価を支払いながらも、彼女の横顔には、一片の悲壮感すらなく、ただ穏やかな笑顔だけが張り付いていた。
何があったのか、想像することはできても、俺が彼女にその答え合わせを求めることは決してできない。
――『覇権国家計画』。
それが正気か狂気の沙汰かは測りがたい。しかし、それこそが一世紀以上にわたり国家の根幹を支え続けてきた不文律である。
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