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覇権国家計画  作者: 納豆
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第50話:目的


「俺は、俺の快適で安全な隠居生活のためにやっているだけですよ」



完璧に調律された楽器のように平坦に微笑む中尉に、俺は返答した。


俺が仕様書を作った『甘い果実』その戦果について感想を求められた。

いつもと同じように俺は、返答しただけだった。



帝都参謀本部、特別監察室。


二か月前、帝国の遥か東、『森の小国』を超えた先に建設された新型長距離固定砲台。

赤旗国の軍事拠点は基地機能を完全に停止した。



東国境警備隊からの報告によれば、赤旗国の大規模進軍は、ほぼ停止。

それだけではなく投降者も増えているという。


補給が全く届かず食料、医薬品が無くなり餓死、感染症による死亡者が多発。


赤旗国国内の国境近くの村は軍が全て封鎖、村人は難民となり消えている。

彼らは前に進むことも戻ることもできず、生き残るために帝国軍へ投降を始めたのだ。



「少尉。赤旗国軍の大規模侵攻は終わりですか」


「中尉。投降者がいるということは命令が継続中ということです」


命令が撤回されていれば、彼らは後退するだけでいい。

投降は“命令がまだ生きている”証拠だ。

彼らは、戻れないのだ。



また、帝国内の近くの街で使用できなくなった赤旗国製の魔導銃を売ろうとした者もいるが、直ぐに憲兵に逮捕された。

帝国法では敵国の兵士に金銭を渡すことは外患誘致に等しい。


軍服を脱ぎ捨て難民キャンプに入る者もいる。

彼らは自分から正体は明かさないだろう、難民キャンプで生活する者の多くが、赤旗軍に故郷を奪われたのだ。



東戦線が収束しつつある一方で、西からは別種の危機が届いた。


異世界人誘導係――エルフからの約一年ぶりの報告だ。


『――異世界人誘導係より報告。現在、規格外と共に帝国西側、帝国占領地に潜伏中。

教会内にて帝国産果実を試食するも、「想定より甘味が薄い」との旨を吐露し、以降は関心を示さず。海を渡り西へ移動予定』



……非常に危なかった。

もし、規格外インチキが、『騎士王国』の第一王子と同じ属性の人間だったら、帝都の実験農場に来ていたかもしれない。



中尉の顔が完璧に操作された事務的な笑みに変わり、見たこともないほど深く歪む。


「少尉。あなたが作った果実で、規格外を帝都に招くところでしたね」


「……海を渡るなら、しばらく大丈夫でしょう」



中尉の事務的な笑みは変わらない。


「少尉。現代種なみの甘さの再現は、諦めますか」


「……考慮します」



帝国西側占領地は、「治安維持区域」から「統合防衛線」へと変わり現在は二個連隊が戦闘を続けている。


復興支援(第35話)の名目で、教会経由で帝国産の果実を流しているが、帝国ではなく、戦闘地域に行くとは……。

規格外は全く分からない。



俺は壁に掲示している大きな地図を見た。



海を渡って西なら、大きな島国がある。

そして、その国こそが現在、西側戦線を膠着状態へ変えている最大要因だった。


通称、『霧宮王国むきゅうおうこく』。


『騎士王国』と同じく、複数の貴族を国王が束ねる国家だ。



しかし、明確な違いがある。

近代化を積極的に取り入れ特に海軍戦力は脅威だ。



西側戦線。

帝国の精鋭二個連隊でも膠着状態となっている理由。


西側戦線では、『霧宮王国』製の野戦砲が確認されている。


兵器性能、それを運用する練度も帝国が上回っているが、野戦砲で守られている陣地を攻略するのは簡単ではない。



当初こそ帝国は、

高性能野戦砲で面を制圧し、

快速銃騎兵で敵補給路を制圧、

工兵部隊が轍コンクリート設置、

多頻度小口配送補給部隊による後衛支援


相手が対応できない(知らない)戦術を使い局地戦で勝利を収めてきた。



しかし、塹壕と土嚢、有刺鉄線による機動力封鎖など「近代的な陣地死守戦」へ移行したのだ。


前線では、昨日まで帝国軍の補給車列が通っていた街道を、今日は敵軍の砲弾が掘り返している。



帝国情報部は異世界人の関与と他国の軍事顧問派遣、両面で調査。

間もなく、『霧宮王国』製の野戦砲が確認され、関与が確実となった。



「少尉。『霧宮王国』側は武器の提供を認めておりません」


「中尉。理由は帝国と同じです」



武器供与を公に認めれば、帝国に対する直接的な敵対行為と同等だ。

事実上の宣戦布告となり全面戦争となる。

帝国や『森の小国』が難民たちに渡しているのは護身用農具だ。武器じゃない。



「中尉。名目がすべてです」



帝国情報部は技術力と戦術から『霧宮王国』軍部に異世界人が複数いると断定している。


「少尉。『霧宮王国』の目的は、何だと思いますか」


「中尉。帝国の国力を削ることです」



異世界人が政治、軍事に関わっているなら、『霧宮王国』の目的は明白だ。

帝国には勝てないから、他国を盾にして帝国の国力を削る。


「少尉。鹵獲ろかくした野戦砲は、『霧宮王国』制ですよ」


「中尉。彼らは盗難の被害者です」



『霧宮王国』の言い分は、民間船が海賊に襲われて荷を奪われただ。

野戦砲を民間船が運搬する訳など無いのだが、

帝国が難民に農具を盗またと主張するのと同じで証拠がない。


しかも、帝国政府の追及に対して、今後は『霧宮王国』海軍が民間船を護衛すると説明して来た。



帝国が、西側戦線周辺の海域を「海上封鎖」すれば、帝国が開戦理由を作ることになる。



「少尉。どうしますか」


「中尉。『霧宮王国』と同じことをすれば勝てます」



『霧宮王国』の目的が、帝国の国力を削ることなら、

帝国の目的も『霧宮王国』の国力を削ることにすればいい。



西側戦線を遅滞戦術に変更する。

敵との接触を維持したまま徐々に後退する。


「戦いながらの撤退」。


陣地防御ではなく、決定的な決戦を避ける。


前線が移動し敵が伸び切った時に各個撃破。

『霧宮王国』からの兵器提供には限りがある。

局地戦なら帝国が負けることは無いだろう、しかし



「中尉。ですが合理的ではありません」



敗北的な空気の中で士気を維持しつつ、常に敵と密接しながら後退する。

精神的な負担は大きいし、敵に追いつかれ、全滅させられる可能性もある。

参謀本部が、採用する訳がない。


いや、帝国は初めから合理的に正解を選択して、それを実行してきた。



「少尉。帝国に取って、最も合理的な正解とは」


「中尉。……『覇権国家計画』です」



中尉は、静かに笑う。


「少尉。正解です」



帝国を侵略不可能な大国にし、

食料と技術を輸出し、

各国を複合的な相互依存にする。


国家が、戦争にかかる費用を物理的に支払えない世界を作る。

そして、戦争を抑止する。



『覇権国家計画』の最終目的。世界大戦抑止。



(……中尉は、俺に覇権国家計画を再認識させるために、誘導したのか)



――俺の目的と、帝国の目的は同じ。



読んでくださり、ありがとうございました。

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