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覇権国家計画  作者: 納豆
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209/210

第209話:世界大戦 その百


帝国東部第二星型要塞、士官室。


教導大隊は、第二要塞に所属していた建設工兵の二個中隊――約二百名の兵員を新たに組み込まれ、書類上は再び「増強大隊」としての帳尻を合わせられた。



工兵たちの主たる任務は、道路や鉄路の敷設、強固な野戦陣地の構築といった兵站支援であり、最前線で敵の防衛を力任せに突破するような、組織的かつ能動的な攻撃戦闘を想定した組織ではない。


だが、この過酷な東部前線で実戦を重ね、生き残ってきた彼らの基礎戦闘能力は極めて高い。



短時間で堅牢な防壁を築き、精密な塹壕を掘って立てこもる。味方の主力部隊が救援に駆けつけるまで、与えられた座標を文字通り死守する防衛能力においては、確かな実力を秘めていた。


もっとも、技術教導特務大隊という大層な名を冠してはいるが、「教導」などという文言は単なる名目に過ぎない。これまで数々の作戦に叩き込まれ、欺瞞に付き合わされてきた俺にとっては、編成内容の偏りなど、今更興味の対象にすらならなかった。



参謀本部に、現場の部隊編成に見合ったまともな作戦など、最初から期待していない。


――だが、手がないわけでもない。


教導大隊の戦力が極端に後方支援寄りに偏ったことを大義名分にすれば、今後の攻勢任務に対して、合法的な異議申し立てを行うことが可能となる。



これは不名誉な命令拒否などではない。あくまで大隊副官という制度上の職責に基づき、現在の歪な部隊編成では参謀本部の要求する作戦遂行が客観的に不可能であると、冷徹な事実を並べ立てて上申するのだ。


「大尉。参謀本部より、新たな下命です。当教導大隊は速やかに東部工廠都市へと移動。しかる後、『西部諸国横断鉄道開通式典』まで、現地にて適切に行動せよ、とのことです」



少佐は感情の起伏を一切見せず、俺に淡々と命令を伝えた。


「少佐。……また、工廠都市ですか」


工廠都市は現在、加速する人口増加に対してインフラと住宅供給が完全に破綻している。



ちょうど良い機会だ。新しく編入された建設工兵との戦術連携を高めるという『もっともらしい大義名分』を掲げ、教導大隊の総力を挙げて仮設住宅の建設に邁進しよう。家を建てている間は、誰も俺たちを戦場へ引きずり出せない。――はずだ。


実績を作りつつ、工廠都市に配備されている“専用”野戦浴槽積載重車輌を利用すれば、前線では不可能だった入浴も建設工兵との戦術連携という名目で可能になる。



帝国東部、巨大工廠都市。


数週間ぶりに足を踏み入れた都市では、以前にも増して不穏な熱気を孕んだ新たな兵器生産区画が突貫で建設されていた。



導入が決定した『合衆国』製の陸戦砲、その簡易型の許諾生産計画が、いよいよ本格始動したのだ。


「大尉。そういえば『合衆国』へ訪問し技術調査を行う計画があ……」


「少佐。――その任務、俺が行きます!」


少佐が言葉を切り終えるよりも早く、俺は身を乗り出して断言していた。



いつ終わるとも知れない、この泥沼の大陸大戦に付き合うくらいなら、大海を越えた安全な『合衆国』の地を踏む方が、生存確率の計算としては遥かに合理的だ。


万が一、このまま帝国が戦争に敗北するような事態になれば、そのまま現地へ亡命してしまえば良いのだ。


「いえ、大尉。既に海軍を中心とした視察団は出発済みです。残念でしたね」



……この男。最初からすべてを知っていながら、俺の反応を楽しむために、意図的に情報を伏せていやがったな。しかも海軍が中心だと、陸軍所属の俺が入れたかどうかすら怪しい。


ともかく、俺が想像していたよりも陸戦砲の量産が始まるのが早い。



簡易型のため、有効射程は二キロ程度のようだが、『合衆国』から輸入した『未完成の鉄の筒』という名の砲身と閉鎖機がすでに揃っているのなら、この工廠都市での工程は砲架の生産と最終組み立てだけになる。


あくまで、深刻な兵站不足を補うために、一部に外国製部品を流用した「帝国の陸戦砲」が短期間で生産可能なのだ。



教導大隊に新型陸戦砲の試射や仮設住宅建設を命じ、俺は工廠都市を巡回していた。そこでふと気づく。街の中に少年――いや、明らかに幼い子供の姿が増えているのだ。


戦時下の非常事態とはいえ、帝国ではこのような過酷な工事現場や劣悪な肉体労働の場に子供を立ち入らせることは、厳格に禁じられているはずだ。


「少佐。あの子供たちは、どこから来たのですか?」



少佐は、愛用の手帳を閉じると、ただ事務的に答えた。


「大尉。南部の『沼蛮国』からの出稼ぎですね。無論、帝国政府は彼らの児童労働について、現地の仲介業者へ改善を求めていますよ」



『沼蛮国』(第66話~)の経済基盤は、決して豊かとは言えない。帝国主導による超大型運河建設計画(第71話)は現地に大量の雇用を創出しているが、手っ取り早く外貨を稼ぐのであれば、帝国本土へ直接渡って働いた方が効率が良いのは自明だった。


――帝国民の未成年者には一切の不当労働をさせていない。


だが、児童労働そのものは、沼蛮国政府にとっては外貨収入であり、仲介業者にとっては利益であり、帝国の工廠都市にとっては不足している労働力だ。



誰もが、それぞれの立場では合理的な選択をしただけだが、だからこそ、街から子供たちが消えることはなかった。


読んでくださり、ありがとうございました。

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