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覇権国家計画  作者: 納豆
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206/210

第206話:世界大戦 その九十七


東部前線、第二星型要塞を背に第一要塞へと伸びる連絡鉄路、二十五キロ。


遮蔽物の存在しない荒涼とした荒野を、骨まで凍てつかせるような冷たい風が吹き抜けていく。破壊された鉄路の復旧を命じられた教導大隊四百名は、第一と第二の復旧地点にそれぞれ二百名ずつ分散し、黙々と作業に没頭していた。


「大隊長。索敵班より報告。半径三キロ圏内に、敵影は確認されず、とのことです」



中隊長からの報告を受け、俺は軽く頷いた。見渡す限りの地平線。視界を遮る構造物など何ひとつとしてない。遥か遠方、第一復旧地点の先には、帝国の軍帽と軍旗を掲げた騎馬隊の姿が、陽炎の向こうに小さく視認できた。


「友軍か……。恐らく定期巡回だろう」



東部前線の強固な防衛線をすり抜け、帝国の勢力圏内で鉄道破壊を繰り返している『赤旗国』軍の遊撃部隊。


前線の補給隊を直接襲撃して無駄な弾薬を消費せず、帝国の動脈たる鉄道だけを精密に狙ってくるあたり、極めて合理的かつ冷徹に統制された精鋭部隊であると考えた方が良いだろう。



日の出とともに第二星型要塞を出発したが、長大な作業の果てに、間もなく陽が落ちようとしていた。


重量のある交換用レールや資材自体は、健在な線路そのものを利用して輸送できるとはいえ、教導大隊は歩兵が基幹だ。周囲を厳重に警戒しながらの行軍は、どうしても速度が鈍らざるを得ない。



遅延の要因はもう一つあった。第二星型要塞から引きずり出してきた『蒸気機関式無限軌道防護壁展開車』だ。


蒸気圧によって厚さ五ミリの圧延装甲板を短時間で扇状に展開する機構を備えており、この遮蔽物のない荒野においては、文字通りの即席陣地として機能する優れものだった。



だが、その強大な重量のせいで自走速度は歩兵の鈍足と大差なく、燃費も最悪だった。何より、運用には大量の石炭と水という資源を要求される。今回は線路の上に乗せ、燃料を輓牛に牽引させているからどうにか追随できているが、その性能を発揮できる運用場所は極めて限定されるだろう。


俺は即座に作業中断を命じ、分散していた各班を作戦座標へと集合させた。帝国の勢力圏内とはいえ、現実に鉄路を精密に破壊して回る敵の遊撃隊が潜伏しているのだ。これ以上の夜間作業は危険すぎる。



二両保有していた防護壁展開車は線路を挟み込むように配置し、蒸気圧を上げて装甲板を展開。その隙間を等間隔で埋めるように蒸気機関式装甲車を滑り込ませた。


車両の合間を土嚢で塞いだだけの急造の簡易陣地ではあるが、仮に敵遊撃部隊の夜襲を受けたとしても、最初の一撃さえこの装甲で耐えきることができれば、複合式大型機関銃の十字火力網で十分に肉片に変えられるはずだ。



……もちろん、潜行してきた敵が、こちらの装甲を紙切れに変えるような「陸戦砲」を携帯していなければ、の話ではあるが。


翌朝、地平線から陽が昇ると同時に線路の復旧作業を再開した。第一、および第二の復旧作業をどうにか完了させた教導大隊は、そのまま第三の復旧地点へと移動を開始した。



移動の遅れを考慮すれば、今日の行程でこれ以上の復旧作業を行うのは不可能だった。第三地点へ到着した後は、速やかに『防護壁展開車』を軸とした強固な夜陣を構築し、索敵の網を極限まで広げるべきだろう――。


――俺が自身の安全のために思考を巡らせていた、まさにその直後だった。


前方を走行していた先行警戒中の蒸気機関式装甲車が、玩具のように跳ね上がった。



鼓膜を震わせる怒号のような爆破音が、荒野の静寂を暴力的に引き裂く。線路脇に巧妙に埋設されていた地雷が発火したのだ。大破した装甲車から噴き出したどす黒い煙と、生々しい赤い炎が、瞬く間に東部前線の空を覆い尽くしていった。


「全方位警戒! 防護壁展開車の展開を急げ――ッ」


怒号を響かせる隙すら、戦場は与えてくれなかった。



遥か遠方から重厚な砲撃音が荒野を震わせる。それと同時に、陽炎の向こうにいたはずの「友軍の騎馬隊」が、一斉に騎兵槍と小銃を水平に構え、地鳴りを轟かせてこちらへの突撃を開始したのだ。


見慣れた帝国の軍服。高々と掲げられた帝国の軍旗。そして、あまりにも時代錯誤な騎兵突撃――。その脳を狂わせるような異常な光景が、大隊の全兵員に数秒の、しかし致命的な判断の遅れを生じさせた。



――ズババババッ!


遅れて押し寄せてきたのは、音というより大気を力任せに引き裂く悲鳴だった。炸裂し飛散した榴弾の弾殻破片は、不可視の鉄の刃となって周囲の空間を無差別に切り裂いていく。


(さっきの砲撃音は……やはり陸戦砲か! そして、あの旗を掲げて突撃してくる帝国軍の騎馬隊――)



「突撃してくる騎馬隊はすべて敵と判定する! 構わん、迎撃しろ! 複合式大型機関銃の射撃準備を急がせろッ!」


読んでくださり、ありがとうございました。

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