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覇権国家計画  作者: 納豆
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204/210

第204話:世界大戦 その九十五


帝国東部、巨大工廠都市。


比帆諸島共和国首都島で行われた移住者向け説明会から一ヶ月。申請を認められた移住者約千名が、煤煙に曇る工廠都市へと到着した。



第一次移住枠は三千名、今回の千名はあくまでその第一陣に過ぎない。そして――その千名のうち、若者七百名が、そのまま新兵訓練施設へと移送される手筈になっていた。


「少佐。新兵訓練施設は、一体どこにあるのですか。やはり帝都に新設されたのでしょうか」



(教導大隊には待機命令が出ているが、帝都にあるというのなら、輸送の護衛名目で俺も帝都まで戻り、そのまま居座る大義名分を考えればいい。まずは戻ることが先決だ)


「大尉。東部前線ですよ。……以前は、第二星型要塞と呼称していた場所です」



第二星型要塞(第113話)。二年ほど前、『赤旗国』軍の主力三万五千を引き込むための囮(おとり)として、綺麗に放棄されたはずの要塞だった。


たった二年で要塞としての機能を取り戻したというのか。いや、それよりも――なぜ、最前線に「新兵訓練施設」などという生ぬるいものが存在しているんだ。



「新兵訓練」と称してはいるが、実質的にはすでに防衛線の一石として組み込まれているからなのか。それとも、新兵に手っ取り早く実戦の緊張感を叩き込もうという算段か。


「少佐。実戦経験がほとんどない俺が言うのも何ですが、徹底的に命令通りに引き金を引く訓練を積ませなければ、新兵などまともに戦えませんよ」



戦場という極限状態において、人間は「引き金を引く」というあまりに単純な行為すら、恐怖と生存本能によって拒絶してしまう。これは歴史や心理学の分野でも証明されている厳然たる事実だ。


だからこそ、平時の退屈な的を狙う射撃訓練ではなく、視界に敵を捉えた瞬間に、条件反射で弾丸を叩き込めるような徹底した反射訓練が必要になる。



少佐は、俺のその反応を、実験室の成果物として観察するかのように僅かに微笑んだ。


「大尉。自覚がないようですが……教導大隊は、上層部から見れば十分すぎる戦果を上げている『本物の実戦部隊』ですよ。そして、あなたは部隊の指揮官です」



名目上とはいえ「教導」を主たる任務として掲げている技術教導特務大隊が、実戦部隊扱いされている時点で何かが狂っている。そもそも俺は副官に過ぎず、全体の指揮官ではない。


もっとも、この教導大隊の「隊長」とやらが、本当にこの世に存在しているのかすら怪しいものだが。



だが、新兵教育の仕組みについて、これ以上詳しく首を突っ込むのは危険だった。下手をすれば、そのまま東部前線で教導大隊が新兵の訓練に当たれ、などという致命的な命令を下されかねない。


それに、参謀本部といえども、あの貴重な新兵たちを単なる肉壁(消耗品)として使い捨てるような愚策は犯さないはずだ。



兵役に志願した移住者が、ろくな訓練も受けないまま前線へ送られ、戦死したなどという噂が広まれば、今後の志願者は激減を免れない。


何より、この工廠都市では『合衆国』製の陸戦砲、その簡易型の許諾生産計画が控えている。量産ラインが本格稼働したところで、それを前線で運用できる、生きた兵が残っていなければ何の意味もないのだ。



事前に報告は受けていたが、工廠都市の宿舎不足は圧倒的だった。麻布プレハブ仮設住宅での寝泊まりを余儀なくされている者は、今や約二千名に達している。


三ヶ月前(第184話)の時点では五千人規模だった工廠都市の人口は、現在、八千名にまで膨れ上がっていた。そもそも、この工廠都市の建設自体が、『環山連邦』の役務賠償として進められているものだ(第178話)。



当初の予定では、三年以内に一万人規模の巨大総合兵站都市を稼働させる計画だったが、工期は大幅に前倒しされているらしい。『環山連邦』政府としても背に腹は代えられず、速やかに賠償義務を履行して帝国との友好関係を確固たるものにしたいのだろう。


それに加え、破格の賃金に釣られた南部諸国の一般労働者が雪崩れ込み、さらには帝国の大手商会が確実な商機を見出して次々と出店を強行した。周辺の街からも際限なく人が吸い寄せられた結果、住宅の供給が完全に破綻しているのだ。



「大尉。新兵器開発部門から評価のために提供された新型車両は、いかがでしたか」


「少佐。少なくとも、この過密を極める工廠都市で役に立つ代物だとは思えませんね」


新兵器開発部門から回されてきた新型車両――その名も『蒸気機関式無限軌道車中泊仕様車』。極地のような特殊な環境下で運用するならいざ知らず、この劣悪なインフラ下であれば、既存の寝台付き馬車のほうが遥かに実用的だった。



(新兵器開発部門の技術力が優秀なのは認める。だが、なぜ実戦評価(運用試験)の場としてこの歪な工廠都市を選んだのか、その意図が分からない。どうせ予算獲得や派閥争いといった政治的な立ち回りなのだろうが、頼むから俺をその泥仕合に巻き込まないで欲しいものだ)



――だが、俺がどれだけ心の中で毒づこうが、参謀本部の決定はいつだって唐突で、そして最悪だ。



二日後。

技術教導特務大隊に対し、第二星型要塞兼新兵訓練施設へ直ちに出頭せよ、との軍令が下った。


読んでくださり、ありがとうございました。

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