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覇権国家計画  作者: 納豆
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197/210

第197話:世界大戦 その八十八


比帆諸島帝国領地、海軍庁舎士官室。


俺は、偶発的な軍事衝突をきっかけとした全面的な軍事衝突(開戦)を避けるために仕様書を書いた。すべては俺が安全な後方任務に回れるよう誘導したはずだった。


しかし、なぜかいつも危険な任務に回される。



帝国と『合衆国』による合同演習で『霧宮王国』に圧力をかける。これは参謀本部も海軍司令部も一定の効果を評価したからこそ実現したのだろう。だが、俺が合同演習に参加することに何の効果があるというのか。


確かに俺は、今まで帝国のさまざまな作戦に関わってきたが、主たる仕事は農地改革や街道整備だ。兵としての技量は新兵と変わらないし、戦略も戦術も分からない。兵器評価だって実戦経験のほとんどない俺ができるとは思えないのだ。



「大尉。謙遜しないでください、あなたは相対的に見て優秀な帝国軍人ですよ」


「少佐。微妙な評価をありがとうございます」


(……相対的に見て優秀、か。それは俺が“現代的なインチキ”という情報を持っているからに過ぎない。俺個人の実力や技術が優れているわけではないのだ)



帝国と『合衆国』による合同演習まで、あと五日。今から準備して間に合うだろうか。いや、間に合わせるしかない。俺は先日参謀本部に提出した仕様書へ、さらに手を加えることにした。


演習の効果を限界まで引き上げるための修正案を、さらに盛り込むのだ。



――五日後、比帆諸島沖合。


俺は今、波に揺られながら『合衆国』製の小型高速艇に乗っている。正確には、無風状態で動けなくなった帆走式ヨットに乗っている。遭難しているわけではないが、早く助けてほしい。



俺はヨットに詳しくはない。だが、先ほどの高速巡航は体感で時速三十キロメートルくらいは出ていた。帆走式ヨットの技術は帝国と遜色はないように思える。


『合衆国』の蒸気機関式曳船(えいせん)が近づいてきた。甲板にいるのは、海軍艦型試験池の大佐殿のようだ。助けに来てくれたと喜びたいところだが、騙されてはいけない。



そもそも大佐殿が俺を技術実査の担当官と紹介したからこそ、こんな目に遭っているのだ。


「街道大尉。お前は『合衆国』の船をどう評価している?」


曳船に乗り移ると、大佐殿は指先の煙草を燻らせたまま、悠然とした態度で聞いてきた。


「はい、大佐殿。小型外輪船は、浅瀬や流木が多い帝国東部の河川で効果を発揮するものと愚考いたします」



合衆国の技術士官が隣にいるのだ。いくら高性能でも風がなければ動けなくなるヨットの話はできないし、かといってスクリュー船を運用している帝国海軍が、外洋に向いていない外輪船など必要としていないことも明白だ。


しかし逆に、外輪船の新造艦もないのが実情である。帝国東部の線路敷設が進まない現状では、輸送問題を解決するためにも水路や川を利用するほかに道はないのだ。



それに外輪船ならば、兵站基地から離れた川の奥地で故障しても、船員たちが木材を使って自分たちで一時的な応急修理は可能だろう。帝国は技術者も不足しているのだ。


今のところ、帝国と『合衆国』による合同演習は予定通り進んでいる。『霧宮王国』の艦隊も、肉眼で視認できる距離にはいないようだ。



この合同演習には、帝国海軍の『指揮巨大艦(一番艦)』も参加している。以前(第125話)乗ったことがあるが、あちらに移ることができれば万が一戦闘が発生しても安全にやり過ごすことができる。


俺が指揮巨大艦に移動する方法を考えていたその時、上空の係留気球から赤い煙の発煙筒が三つ落とされた。――それは所属不明な船の接近を知らせる警戒信号だった。この海域は、大規模軍事演習を行うと周辺国に通達済みだ。



霧宮艦隊の一部が、予定航路を外れた可能性が高いな。しかし『合衆国』も参加しているのに、ここまで緊張感のある演習を行う意味があるのだろうか。


俺は揺れる甲板でなんとか立ち上がり、双眼鏡を覗き込んだ。帝国の砲艦が左右に展開を始めている。『合衆国』の船も連動するかのように動いているようだ。海戦術など全く分からないが、『合衆国』の装甲衝角艦は前に出過ぎなんじゃないだろうか。



いや、あえて前に出ているのかもしれないな。この海域で『合衆国』は抑止力として機能するはずだ。


――船室に入ろうと目を離した、その刹那。


ドゴォォーン!



空間を切り裂くような爆音とともに、水平線に白い水柱が噴き上がった。


読んでくださり、ありがとうございました。

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