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覇権国家計画  作者: 納豆
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193/210

第193話:世界大戦 その八十四


比帆諸島帝国領地、海軍庁舎演習場。


――ドドンッ! ドンッ!


鼓膜を震わせる咆哮とともに、『合衆国』製新型陸戦砲の実演演習が開始された。



腹の底へ響く凄まじい砲撃音。数秒後、一キロ先の標的物が轟音とともに派手に吹き飛んだ。


もうもうと立ち込める爆煙を見つめながら、俺の脳は無意識のうちにその砲の構造分析を開始していた。


試射された『合衆国』製の陸戦砲――なるほど、帝国製のものに比べると各部の仕上げがひどく粗雑だ。おそらく遠距離での命中精度や最大射程も、現在配備されている砲より一段は劣るだろう。



技術の精緻さという観点だけで評するならば、少なくとも、砲そのものの加工精度では帝国製に及ばないように見える。


――しかし、配布された手元の資料を読み進めれば、そこから透けて見えたのは帝国とは根本から異なる『設計思想』の断層だった。


構造が徹底的なまでに簡略化され、あらゆる部品の規格化が完璧になされている。これなら、帝国の誇る高度な技能を持つ熟練工でなくとも、並の工場で大量生産が可能だ。



さらに恐るべきは、部品の互換性の高さだった。前線で一部が破損したとしても、撃破された別の砲から部品を剥ぎ取ってくれば、その場で修理・再組み立てが完了してしまう。


職人の高度な技能を必要とせず、補修部品も共通化できる。戦場という極限の消耗戦を乗り切るために最適化された『数の暴力』と『泥臭い運用性』――それこそが、この砲の隠された本質だった。



確かに、帝国製の蒸気機関や陸戦砲は、単体の性能だけで見れば『合衆国』製を遙かに凌駕している。しかし皮肉にも、その過剰な高性能化こそが現在の帝国軍の首を絞める最大の要因となっていた。


高精度な加工を求めるがゆえの熟練工不足。砲身を削り出す専用設備の不足。そして何より、前線での激しい損耗に対し、国内の生産能力が全く追いついておらず、修理用部品の供給すら滞っているのが現状だ。



実際、先の前線でも陸戦砲を失った防衛部隊は補給が底を突き、後退を余儀なくされた。もしあの時、列車砲が間に合っていなかったら、防衛線は間違いなく崩壊していただろう。


帝国製兵器の性能を意図的に落とし、大量生産向きに設計変更する手もあるが、軍部や技師たちが設計を変更し、製造ラインを再構築するには年単位の時間が必要となる。



「大尉。『合衆国』製の陸戦砲が前線に配備された場合、戦況はどう変わると思いますか」


隣に立つ少佐が、手帳で口元を隠し、どこか愉悦と期待に満ちた声を潜めて聞いてきた。


「少佐。俺に戦術のことは分かりませんよ。ですが、帝国の高性能陸戦砲が配備されるまでの、文字通りの『繋ぎ』にはなるでしょうね」



現在、帝国が行っているのは徹底した防衛戦だ。そこには既に強固な塹壕陣地が存在している。ならばやるべきことは明確だ。観測気球や快速銃騎兵隊を増強して敵をより早く発見し、長距離砲撃によって敵の砲兵部隊を一方的に無力化する。


それさえできれば、突撃してくる大量の敵歩兵など、機関銃陣地で容易に阻止できるのだ。



しかし現実は、その要となる長距離陸戦砲が絶対的に不足している。


敵の大砲を黙らせない限り、前線は絶え間ない激しい予備砲撃に晒され続ける。頭上から降り注ぐ鉄の雨の中では、いかに優秀な機関銃手といえどまともに照準を合わせることすら不可能なのだ。



『合衆国』が帝国の東部前線における惨状を、一体どこまで正確に把握しているのかは分からない。


だが、先の戦いでは西部諸国の観戦武官(第178話)たちが前線近くまで視察に訪れていた。あの時に流出した情報が、彼らの間で共有されている可能性は十分に高かった。



(……もしかしたら『合衆国』は、あちら側――『赤旗国』側からも前線を見ているのかもしれないな)


どちらにせよ、今まさに砲兵火力の枯渇にのたうち回っている帝国に向けて、彼らは「善意の中立国」として「我が国の標準化された兵器を買いませんか」と、至極真っ当な正規の商談を持ちかけているのだ。



――『合衆国』の政治家は素晴らしいな。実に合理的だ。


「大尉。経緯は不明ですが、『赤旗国』軍は『合衆国』製の陸戦砲を使用しています。そして今、帝国にはその陸戦砲を売ろうとしている。『合衆国』という国を、あなたはどう思いますか」



「少佐。海を越えた別大陸の複数の列強国に、これほどの規模の兵器を同時に供給できる国など、そうありません。それを可能にするには、大規模輸出を可能にする政治・経済基盤と、高度に効率化された工業基盤が不可欠です。合衆国もまた、間違いなく列強国と言えるでしょう」


俺は淡々と自分の感覚を口にした。



「……それだけですか?」


「はい」


(やはり、亡命先を選ぶならあの合理的な国家体制を持つ合衆国だな。問題は、それを実現する具体的な手段が皆無という点だが。参謀本部や隣にいるこの少佐の目を盗んで、他国の要人と密に接触するなんて芸当は不可能に近い)



だが、帝国が『合衆国』製の規格化兵器を大量に買い叩いてくれるなら、前線の兵器不足に頭を悩ませる時間は劇的に減るはずだ。戦況が安定すれば、俺が前線に引っ張り出される危険は激減する。



目の前にどんよりと広がる黒煙を眺めながら、俺は自らの快適で安全な隠居生活を脅かす不確定要素をいかにして完全に排除するか――その方法を必死に模索していた。


読んでくださり、ありがとうございました。

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