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覇権国家計画  作者: 納豆
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180/210

第180話:世界大戦 その七十一

帝国東部、新都市建設予定地。


ドォォォーン!


腹の底に響く凄まじい巨響が吹き抜け、停車していた装甲車の車体が僅かに揺れた。


……ああ、またか。またなのか――。


俺は深い溜め息をつきながら装甲車の防弾扉を開け、音のした方向へ視線を向けた。鋳造およびボイラー組み上げ区画に人だかりができている。


足を運ぶと、連邦の技術者たちが帝国製の安全弁を取り外し、自国流の強引な直結配管を接続しようとした残骸が転がっていた。


「……何をやっておられるのですか」


俺が冷ややかに声をかけると、連邦の技師長が焦りを隠すように胸を張って答えた。


「大尉殿! 帝国の安全基準は慎重に過ぎます! この配管を直結すればボイラー圧力を一気に引き上げられますぞ。そうすれば蒸気重機の稼働効率は上がり、工期は大幅に短縮できます!」


「……そしてボイラーが過熱して爆発し、この区画の作業員全員が肉片に変わるわけですね」


俺の即答に、技師長が言葉を詰まらせた。


「連邦のボイラー設計思想は存じ上げていますが、帝国は材料強度、接合方法も異なります。安全弁を無視して圧力をかければ破裂する……教導大隊から何度も説明いたしましたよね?」


気持ちは分からないでもない。彼らには「三年以内」という課された期日がある。だが、連邦のやり方は「限界まで無謀に負荷をかけて短期間で結果を出す」という突撃工事だ。


「……申し訳ありません、大尉殿。我々の軽率な判断で大事故を起こすところでした」


技師長が深々と頭を下げた。「帝国の安全規格と手順に従うこと」の絶対性を、もっと徹底的に現場の技術者へ刷り込まなくてはならない。


――数日後。


バァァァーン!


……またかよ。


今度は、蒸気式杭打ち機から猛烈な白煙が上がっていた。


事故原因を調査させると、杭を打つ速度を上げるために、案の定、安全制動を勝手に無効化して作業を続けていたようだ。


軍人ならば規律と命令は絶対厳守であり、手順を定めれば問題は起きない。少なくとも帝国軍では、それが現場を縛る抑止力になる。


だが、連邦の作業員はほとんどが民間の労働者だ。そもそも彼らの意識の中には、大規模工事において「怪我などして当たり前」という前時代的な感覚すら存在している。


「賠償のための強制労働」という不満や、「早く工事を終わらせて故郷へ帰りたいから、安全を無視して工期を縮める」という焦りもあるのだろう。


事故による工期の遅れや機材の破損をすべて賠償義務の不履行とし、連邦政府への請求額に上乗せする……といった冷酷な処罰は、一介の大尉である俺の権限では不可能だ。


ならば、罰ではなく「成果報酬」か。


役務期間そのものの短縮は無理だとしても、故郷への手紙の優先検閲・送達や、特別配給の追加くらいなら特別監察室の権限で手配できる。


義務感と焦りだけで動いていた連邦の作業員たちに、「安全と高い生産性を両立した方が自分たちが得をする」という自発的な意欲を与えなければならない。


俺はすぐに連邦側の現場監督たちを天幕へ呼び集めた。


「諸君。安全違反による事故は、工期を縮めるどころか機材の破損と現場の混乱を招き、結果として君たちの作業時間を引き延ばしている。そこで、今日から新たな評価制度を導入する」


俺は広げた書類を指で叩いた。


「無事故で工程計画を達成した班には、特別配給として砂糖、煙草、そして酒を支給する。さらに――」


俺はあえて言葉を切り、彼らの顔を一人ずつ見回した。


「その班の全員に対し、故郷の家族へ充てた手紙の『優先検閲・速達扱い』の権利を与える。軍用郵便の優先枠を回してやる」


現場監督たちの目の色が変わった。


異国の地で強制労働に近い作業に従事させられている彼らにとって、家族との連絡が滞ることは最大の不安要素だ。そして、過酷な肉体労働の後の嗜好品は、文字通り喉から手が出るほど欲しい「ご馳走」だった。


「本当に……手紙を出せるのですか? 検閲で何ヶ月も止められずに?」


「ああ、俺が保証する。ただし、条件は『無事故』だ。怪我人が出たり、安全装置を無効化して機材を壊した班は、その週の配給も優先送達もすべて剥奪する」


「……分かりました! すぐに全員に徹底させます!」


これで、「早く終わらせたいから安全装置を外す」だったのが、「隣の奴が事故を起こしたら自分の手紙と煙草が消える」という心理に塗り替えられるだろう。


――数日後。


ドォォォーン!


(……まるで効いていない)


「大尉! 掘削区画で事故です!」


伝令の若い兵士が、息を切らして天幕に駆け込んできた。


「ああ、爆発音で分かる。……それで被害状況は?」


「それが、作業班同士での乱闘に発展しておりまして……! 警備隊が鎮圧するまで現場の確認すらできぬ状態です!」


現場に到着すると、警備兵たちが泥まみれの男たちを取り押さえていた。


「やめろ! 放せ! あいつらが、俺たちの故郷への手紙を台無しにしようとしたんだ!」


連邦の作業員が顔を血で汚しながら叫び、別の男に掴みかかろうとしている。


俺は冷ややかに周囲を見回した。俺に気が付き、駆け寄ってきた技師長は、青ざめた顔で額の汗を拭った。


「大尉殿……。第三班の連中が、順調に成果を上げていた第一班の掘削機に、細工をして過負荷による破裂事故を誘発させようと……。それに気づいた第一班が激昂し、この大乱闘に……」


無事故の班にだけ与えられる特権。それを妬んだ者が、対抗する班を蹴落とすためにわざと事故を仕掛けたということか。


「隣の奴が事故を起こせば、相対的に自分の班の手紙と煙草が手に入る」――俺が仕掛けた心理誘導は、最悪の形で実を結んでいた。


読んでくださり、ありがとうございました。

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