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覇権国家計画  作者: 納豆
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第162話:世界大戦 その五十三


帝国海軍臨時警備隊旗艦、小型快速指揮艦。


――その特殊装甲士官室。


臨時警備隊が現在巡回しているこの海路の座標は、海軍司令部の上層部から直接指示が下り、急遽追加されたものだった。



本来、俺は参謀本部直属の特別監察室室長であり、副官を務めている『技術教導特務大隊』もまた、まごうことなき陸軍所属の部隊だ。


軍の組織図や管轄の階層、その存在意義を完全に無視して、陸の事務方である俺に対して海軍の上層部から直接命令が飛んでくるなど、官僚組織の手続きとしてはあり得ない暴挙である。



だが、そんな正論を言うなら、陸軍の大尉であるこの俺が、海軍臨時警備隊の責任者に任命されている時点ですべてがおかしいのだ。


究極のところ、彼らが必要としているのは生身の俺の能力ではなく、『英雄・街道大尉』という神輿(プロパガンダの道具)に他ならない。陸軍と海軍の政治取引商品として、この不条理な任務を大人しくこなすしかないのが現状だった。



士官室の防弾扉を勢い良く開けて、大佐殿が入室してきた。


「街道大尉。このような窓もない部屋で律儀に待機しなくても良いのだぞ、操舵室への入室許可もすでに出してある」


(……海軍艦型試験池の大佐殿。この人は、一体いつまでこの海域に居座るつもりなんだ。まさか俺の任務が終了する時期を見計らって、再び拉致でもする気か? 警戒を怠るわけにはいかない)



「はっ……。いえ、大佐殿。本官は作戦行動の邪魔にならぬよう、ここで静粛に待機いたします」


もっともらしい理由を並べて断る。当然、本音は別だ。


(海賊は『合衆国』製の強力な大砲を使っているんだぞ。『合衆国艦隊』に追い詰められた海賊が、窮鼠きゅうそとなってこの警備隊を強行突破しにくる可能性は十分にある。そんな時に、一番に目標とされやすい危険な操舵室にわざわざ居座るような馬鹿真似ができるはずはない)



『合衆国艦隊』による、正体不明の武装海賊に対する大規模な掃討・討伐作戦は、二日が経過した今もなお苛烈を極めて継続されている。


最新鋭の外輪船から放たれる大口径砲の咆哮が、比帆諸島の空を絶え間なく震わせ、連日海賊船を海の底へと引きずり込んでいた。



そして、臨時警備隊は、まるで事前に『合衆国』側と綿密な打ち合わせでも済ませていたかのような精度で巡回を増やし、網を絞るように海賊たちを追い詰めている。


海賊たちが帝国の警備隊を避け、逃げ惑ったその先の海域には、なぜか寸分の狂いもなく『合衆国艦隊』が待ち受けているのだ。実に見事な連携だった。


その最中、『合衆国』政府は諸外国へ向けて、一つの重大な公式発表を行った。



――我が国はこれまで、亡命政府『自由比帆諸島』への支援を行った事実は断じてなく、また、今後も一切の支援を行うことはない。


これまでの疑惑を全否定するあまりにも白々しい声明に、当然ながら諸外国の政府は一斉に不信感を募らせ、冷ややかな視線を向けた。


誰もがこれを「合衆国による時間稼ぎ」あるいは「国際社会の批判をかわすための言い訳」と捉えているだろう。



外交の舞台において、政府の「公式発表」をそのまま額面通りに信じる国など存在しない。特に今回の事例では、『海賊が合衆国製の大砲を使用していた』という決定的な物証がすでに転がっているのだ。


いつもの俺であれば、『合衆国』政府が「支援していない」と世界へ向けて断言した以上、裏で武器を横流しした密輸組織の関与や、あるいは『合衆国』を陥れようとする第三国の謀略、そのように考えていただろう。



だが――所属不明の海賊の正体は『赤旗国』軍の敗残兵。


あくまで現段階では可能性の域を出ず、確固たる証拠はない。しかし、状況証拠を論理的に統合していけば、そうだとしか考えられないのだ。


合衆国は、亡命政府『自由比帆諸島』を支援するため、民間商船を隠れ蓑にして裏から武器を提供していた。これは、間違いない事実だ。



そして東部から逃げ出してきた『赤旗国』軍の敗残兵たちは、生き延びるための海賊行為としてその合衆国の民間商船を襲い、偶然にも、本来手に入るはずのない「合衆国製の大砲」を手に入れてしまった。


「街道大尉。お前は、『合衆国』が本当に『自由比帆諸島』の支援を打ち切ると思うか?」



大佐殿は、燻る煙草の香をその身にまといながら、『合衆国艦隊』が待機する海図の一点へと燃える先端を向けた。その目は、俺の思考のさらに奥を見透かそうとしている。


「はい、大佐殿。私見ではございますが……海賊の正体が『赤旗国』の正規軍であると判明すれば、支援を完全に停止する可能性が高いと愚考いたします」


海賊の正体が『赤旗国』の正規軍であるならば、目の前の海賊を叩き潰して「報復終了」などという安易な幕引きとは絶対にならない。



自国の民間人が、他国の正規軍によって意図的に殺害され資産を強奪されたのだ。『赤旗国』政府がどれほど関与を否定しようとも、『合衆国』が定義する報復の対象は、個人の集団(海賊)から国家(赤旗国)へと跳ね上がる。


「大佐殿。例えば――これはあくまで可能性の一つ、机上の仮定の話ではございますが……『他国への武器提供を優先し、国民の敵討ちを後回しにする、情けない国家』。このような不名誉な噂が合衆国の国内で広まれば、政府は世論の反発を恐れ、亡命政府への支援を即座に止めざるを得なくなるでしょう」



大佐殿は、部屋を満たしていく溢れる紫煙のなかに、じっと己の思考を沈めているようだった。


「街道大尉。……参考になった」


「はっ、大佐殿。ですが、これはあくまで仮定に仮定を積み重ねただけの、しがない一介の陸軍大尉による“仮の話”に過ぎません」


決して、自分の言葉として言い切ってはならない。もし俺の言葉として新聞記事になれば、合衆国からどんな恨みや警戒を買うか分かったものではない。



――その、刹那。


特殊装甲士官室の重苦しい静寂を破る、甲高い警報音が突如として鼓膜を震わせた。


ジリリリリリリリッ!!!


赤く明滅する魔導灯の光が、一瞬にして室内の平穏を切り裂く。艦内が即座に戦闘配置へ移行したことを告げる、緊迫と硝煙の合図だった。


読んでくださり、ありがとうございました。

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