表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇権国家計画  作者: 納豆
PR
136/138

第136話:世界大戦 その二十七


帝国東部、湾岸都市。


「大尉。ひとつ確認ですが、もし、あのしんがり部隊に政治将校がおらず、全員が投降を拒んで『殉教(自爆特攻)』を選択する部隊だったなら、貴方は一体どうするつもりだったのですか?」


少佐が、手元の手帳を見つめたまま、いつもの乾いた抑揚のない声で聞いてきた。


「少佐。その時は、自走砲で潜伏場所を建物ごと破壊して、教導大隊と護衛の二個中隊、計四百名で強行突入でしたね。俺の護衛兵が減らなくて本当に良かったです」


少佐は何も言わなかった。だが俺の保身だけではなく街に被害が無かったことにも意味がある。



都市内部の安全確認をすべて終えた後、俺は後方に待機させていた自走砲大隊を、中央広場へと移動・展開させた。


先ほど船で海へと逃げ出した『赤旗国』の主力部隊が、洋上で戦力を再編成して、この手薄な港へ再び逆上陸を仕掛けてくる可能性があるからだ。


現在、沿岸都市を守る俺たちの総兵力は、すべてを合わせてもわずか七百名に過ぎない。友軍(増援)が到着するまで、この戦力で何としてでも持ち堪えなければならなかった。



この位置なら、海から自走砲は見えず、一方的に攻撃が可能だ。そして、その火力は海から近づいてくる脆弱な上陸艇を牽制できる。さらに、複合式大型機関銃の十字火網を敷いておけば、大部隊で港湾へ殺到してきても、水際で処理することが可能だ。


――ただし、これは敵の艦隊の中に、帝国軍のような近代的な『砲艦』が一隻でも混ざっていないことが絶対の前提条件だった。もし敵に艦砲射撃を撃ち込まれれば、地上陣地は一瞬で崩壊する。



その最悪が発生した場合は、速やかにすべての自走砲に仕込まれた機密保持用の爆薬を起動・自爆させてから、全部隊を脱出させる手順を脳内で念入りに確認しておいた。


同時に、俺は工兵たちへ、放棄された敵の兵站物資の徹底的な調査を指示した。その結果、先ほどの下士官の捕虜の証言通り、倉庫には食料の備蓄は一切なかった。



代わりに、埃っぽいコンクリートの床から大量に出てきたのは、無数の『軍用長靴』と、新品の『軍用靴下』の山だった。それらが、信じられないほどの物量で、不気味なほど整然と積み上げられていたのだ。


「大尉。赤旗国の本国内の補給が、我々の予測以上に末期、あるいは極めていびつな状態のようですね。」


「少佐。塹壕足ざんごうあしへの極限の恐怖を抱いていた可能性もあります」



戦場で靴が濡れたまま何日も不衛生に過ごすと、兵士の足は重度の凍傷や組織壊死を起こし、一瞬で歩行不能(戦闘不能)に陥る。


敵の指揮官は、前線の兵士たちが多少飢えることよりも、足が腐って部隊が、文字通り『一歩も動けなくなるとこと』の発生を、何よりも恐れていた可能性だ。



だが、どちらの理由が正解であろうとも、配給を受け取った前線の兵士たちが、その黒い長靴を前にどれほどの絶望を抱いたかは想像に難くなかった。


軍用靴下が大量にあろうとも、その布切れで兵士たちの空腹の胃袋を満たすことなど不可能なのだから。



――二週間後。


仮設の防衛陣地で耐えていた時、水平線の彼方から、何本もの黒煙の柱が、天を突くように立ち上るのが見えた。


警戒を強める俺たちの目の前で入港してきたのは、あの西側の『平水共和国』への壊滅的な砲撃作戦(第125話)において絶対の旗艦を務めた、あの圧倒的な大質量を誇る海軍の『指揮巨大艦(一番艦)』。


そして、砲艦二隻、巡洋艦三隻、さらに物資を満載した大型輸送艦だった。



俺は接舷していくその艦隊を桟橋から見つめながら、頭の中でひとつのことを考えていた。


この規模の艦隊が、南方の『白綿共和国』からこの北東の沿岸都市へと到達するためには、地理の上で『合衆国』の後ろ盾を得た『自由比帆諸島』が展開している海域を通過してこなければならないはずなのだ。


「――街道大尉。本艦隊の航路および詳細な作戦内容に関しては、軍規により、一切開示は出来ない」



海軍の将校は、俺の身分を確認しながらも、そう言って口を完全に閉ざした。


俺はそれ以上の無駄な追及を即座にやめ、事務的に引き下がった。組織である以上、時間の無駄であると判断したからだ。


だが、艦隊が、ここに浮かんでいるという事実だけで、北の状況についてはある程度の推測が立つ。



現在、帝国は、東部戦線において大規模な反撃作戦を行っている。敵主力を南部義勇兵(南部連合正規軍)一万で抑え、その間に敵補給部隊、敵補給路を壊滅させる。


赤旗国の伸び切った生命線(大規模補給部隊)を壊滅させれば、国境線へ侵入していた主力部隊は、完全に孤立する。


つまり、海軍のこの不気味な大艦隊の北上作戦もまた、この東部の巨大な包囲殲滅を完遂させるための、仕様書の一端に過ぎないのだろう。



沿岸都市の防衛権限を後続の守備隊へと引き継いだ『技術教導特務大隊』に下された新たな命令は、――『投降した捕虜百三名を、第四超大型星型要塞へと護送せよ』――というものだった。


おそらく、随伴している自走砲大隊は、中佐殿の指揮する第四要塞の戦闘序列へと正式に編入されるのだろう。


そうなれば、俺がこの東部の地で背負わされてきた突貫の任務も、いよいよ終わりに近づいているのかもしれない。



一瞬の油断も許されない泥沼の死地を巡り続け、俺の精神の限界だった。久しぶりに、安全な帝都の特別監察室の椅子が恋しくなってきた。


――八日後。帝国東部、第四超大型星型要塞、司令室。


「設計屋。……部隊に一名の戦死傷者も出すことなく沿岸都市を無傷で奪還し、おまけに赤旗国の捕虜を百名以上か。大した“武功”だな。また『英雄』を語るつもりか」


「はっ、中佐殿。御無沙汰しております」



椅子に深く座った中佐殿は、手元の分厚い書類から一度も目を上げずに、低く乾いた声で告げた。この人が口にする言葉は、純粋に現場の有能さを褒めているのか、それとも強烈な嫌味なのか、未だに判断がつかない。


それに、俺が沿岸都市のインフラ破壊を極限まで抑え込んだのは、資産価値があるからであり、それを戦意高揚の英雄譚プロパガンダとして加工して世間に出すのは、参謀本部だ。



――もっとも、間違いなく帝都の新聞紙面に『英雄・街道大尉』の活躍や美談が掲載されるだろうと言う予測は付いているが。


読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ