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覇権国家計画  作者: 納豆
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122/126

第122話:世界大戦 その十三


すべての者が、理性的に平和を求めていた。


国家も、指導者も、民衆も、誰一人として全面的な大戦など望んではいなかった。だが、それぞれが自国の安全と未来を守るために下した、あまりにも地政学的に「合理的な選択」の数々は、やがて互いの首を締め上げる見えない呪いの鎖となった。


そうして誰も望まなかったはずの世界大戦は、誰一人として止めるすべを持たぬまま、すでに十か月という長い時間が経過していた。



――帝都へ向かう、新型増強装甲馬車の重苦しい車内。


『技術教導特務大隊』は、急な帰還命令を受理し、ひたすら帝都参謀本部へと向かって鉄路を進んでいた。



東部を出発する直前に飛び込んできた緊急報告によれば、『第五星型要塞』は完全に破棄され、その残存防衛部隊は後方の第一星型要塞へと無事に合流を果たしたとあった。


敵に力ずくで「占領」されたのではなく、自らの手で「破棄」を選択したのだ。ならば、敵の手に渡る前に、要塞としてのすべての機能や最新鋭砲を自らの手で物理的に爆破・徹底破壊したということだろう。



「大尉。北の沿岸都市にいた民間人の避難は、軍の誘導によってすでに完璧に完了していますよ」


向かいの席に座っている少佐が、いつもと変わらぬ温度のない声で事務的に語りかけてきた。俺は視線を窓の外の流れる景色に固定したまま、同じく無機質に返答する。


「分かっていますよ、少佐。最初から分かっていた仕様ことです」



第五要塞の砲撃支援が完全に消失した以上、沿岸都市が占領されるのは、もはや時間の問題でしかない。そして、第五要塞の放棄が参謀本部の仕様通りなのだとしたら、当然、周辺都市の物資や人員の準備されていたはずだ。


参謀本部の仕様など俺には分からないし、知る必要などどこにもない。



ただ、二か月前、義勇兵キャンプで補充兵と合流と下命を受けていたが、結局のところ、部隊に新たな兵力が補充されることは一度としてなく、この『技術教導特務大隊』は定員を大幅に割り込み、現在はわずか二百二十名ほどにまで減少していた。


実質的に、大隊ではなく、二個中隊規模だ。参謀本部が、俺が直接手元で動かせる部品を意図的に制限したのか。あるいは、命令自体がただのデコイに過ぎず、任務が終わった大隊への補充は不要と判断されたのか……。


その意図だけは、実に気になるところだった。



――二十五日後。


通常の倍以上の日数を要して、俺たちはようやく帝都へと到着した。

今回、現地での耐久性評価試験の名目で上層部からなかば強制的に借り受けさせられた、あの『新型装甲車(牛車)』。これがすべての元凶だ。


車体を覆う厚さ三十ミリの特殊鋼鉄装甲板は、敵の不意の砲撃の爆風や破片を完全に無効化し、中の乗員の命を確実に守り抜くという設計思想を極限まで具現化してはいた。


だが、その代償として生み出された千キロを超える狂気的な超重量貨物車を動かすための動力が、この世界にはいまだ「牛」しか存在しないのだ。



強化型輓牛ばんぎゅうを一度に六頭も連結して全力で引かせなければ、車輪すらまともに回転しない。結果として、滑らかなレールの上でしか運行できず、移動速度は人間の徒歩と変わらないという欠点を持っていた。



移動速度は文字通り最悪の最低評価だが、その圧倒的な堅牢性と、至近弾を喰らってもびくともしない耐久性だけは本物だ。


前線において敵の砲火に晒されながら作戦を書き換える『仮設指揮車(動く司令部)』としての価値だけは、一定以上認めざるを得ない。


ただし、動力源である輓牛の徹底的な防弾保護と、予備牛の安定確保が必須である、と。俺は手帳の試験評価報告書へ冷徹にそう書き記した。



帝都参謀本部、特別監察室。


久しぶりに帝都へと戻ったが、窓から見える風景は、かつて見慣れたいつもと変わらぬ穏やかな日常そのものだった。


活気溢れる商店街には、南方諸国から仕入れた上質な綿布を使った色とりどりの新作衣料を眺める婦人たちの姿。


贅沢に香辛料を効かせた肉の串焼き屋台には労働者の列ができ、小遣い稼ぎの駄賃を目当てにした子供たちが、手荷物を抱えて慌ただしく配達へと走り回っていた。



一大拠点『帝都複合娯楽施設』は、流石に開園当初ほどの熱狂的な客足こそ落ち着いているものの、開放的な屋外演劇場で行われている『英雄・街道大尉』の派手な英雄譚は、いまや民衆の間で大人気となっていた。


(……あの巨大な広告板、いつの間にか俺の意匠が、街道少尉から街道大尉へと綺麗に書き換わっているじゃないか。仕事が早すぎて本当に嫌になる)



「少佐。緊急の帰還命令を受け戻ってきたというのに、もう三日も特別監察室で待機のままですね。俺としては、このまま終戦を迎えるまで、一生待機のままで構いませんが」


「大尉。そんなに慌てなくても、そろそろ“海軍司令部”から正式な連絡が入りますよ」


また、海軍司令部の作戦(参謀本部の政治的な取引)に巻き込まれるのか。


命令なら従うほかないのだが、正直に言って、三次元の広大な海の上で俺の“現代的なインチキ”が何かの役に立つとは到底思えなかった。


何より海軍司令部にも国家機密指定された異世界人――。本当の専門知識を持った者が何人も居るのだ。


ただ、一つだけ利点を挙げるならば、海軍司令部にある将校食堂の料理は、参謀本部の食事よりも圧倒的に美味い。本当に気が進まない死地への往路だが、胃袋の幸福だけでも少しでも前向きに捉えて、次の仕様書に備えるしかなかった。


読んでくださり、ありがとうございました。

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