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覇権国家計画  作者: 納豆
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121/125

第121話:世界大戦 その十二


帝国東部、第四超大型星型要塞周辺。



『技術教導特務大隊』が、第四超大型星型要塞に所属する工兵たちに「技術教導」を行うという美しい建名のもと、俺は翌朝から第四要塞周辺の地形調査を始めていた。


公式の作戦詳細には、既存の補給路の点検・修繕作業と記載されているが、その実態は、前線への物流効率を底上げするための「新たな鉄道路線の増設」に他ならない。



俺は手にしていた地形図を無造作に折りたたんだ。第四星型要塞の絶対的な強さは、異世界人が設計した強固な構造と、最新の要塞砲、そして複合式大型機関銃による圧倒的な面制圧火力にある。


だが、その暴力的な火力は、弾薬という物質的な補給が絶え間なく注ぎ込まれて初めて正常に機能するものだ。弾さえ尽きてしまえば、どれほど堅固な要塞も、ただの巨大な石の塊に過ぎない。


『赤旗国』の斥候たちの目から見れば、帝国軍がいつものように前線へのありふれた馬車鉄道路線を伸ばしているだけ、と映るはずだ。



そして、あの『赤旗国』の硬直した政治体制の上では、現場の失敗や不都合な事実が即座に上層部へと伝わるシステムは存在しない。


この東部前線にいる赤旗国の指揮官たちが、先の列車砲による大坑道爆縮という最悪の奇襲の全貌を正確に把握し、その対策を講じてくるまでには、まだかなりの時間がかかるはずだった。



――『蒸気機関車』による輸送網



馬車百台分以上の輸送が可能になれば、第四要塞の兵站が枯渇することは無い。



「大尉。既存の『道の駅(PA/SA)』の流通拠点から、要塞へ向けて馬車鉄道を延伸する工事の件ですが、参謀本部からの正式な開発了承はすべて得られましたよ」


少佐はいつものように、感情を綺麗に排した事務的な笑顔を浮かべて淡々と伝えてきた。


「それは重畳ちょうじょうです、少佐。これで資材が動かせます」


俺は地形の点検作業を一時中断し、実務の人員調達を中佐殿と直接相談するべく、再び要塞の司令室へと足を運んだ。


「設計屋。……何人必要なのだ。簡潔に数字だけを言え」


椅子に腰掛けた中佐殿は、実務の話が早くて極めて助かるのだが、俺に対する冷ややかな当たり方や、あの悪魔を見るような眼差しが、日を追うごとに益々鋭くなっている気がしてならない。


「はっ、中佐殿。工兵二個大隊(六百名)が必要です。それだけの質量があれば、一日あたり最大で一キロの鉄路敷設が可能となります。また、資材輸送の運用には、中隊規模(百名)の動員が必要です」


「多すぎるな。要塞から割ける工兵は一個大隊(三百名)が限界だ。資材輸送に関しては、現在稼働している既存の補給部隊で調整しろ。……それから、貴様が前線にいると護衛のために兵力が余計に必要になる。何とかしろ」


中佐殿の冷徹な一喝に、俺は完璧な軍隊式の敬礼を捧げた。


「はっ、中佐殿。……最善を尽くし、善処いたします」


(……護衛に関しては何とも言い難いのが本音だ。実際に襲撃されたばかりだし、戦闘能力が皆無に等しい俺としては、精鋭歩兵に周囲を囲んでもらわなければ不安で集中できない)



――俺の身の安全が物理的に確保できないという不具合があるのならば、最初から作戦仕様の方を根本から変更するまでのことだ。


馬車用の鉄路レール幅(軌間)は、帝国の『標準軌』のサイズと全く同じ規格で設計してある。ならば、最前線に新たな路線を切り開くのではなく、すでに安全が確立されている既存の馬車鉄道網を、重量に耐えられるよう一気に近代化改修すればいい。



要塞から借り受けた一個大隊の工兵たちには、前線の新規予定地で整地作業をただ黙々と回してもらい、敵の斥候の目をそちらへ釘付けにする。


そして肝心の俺自身は、強固な防衛線の遥か後方にある、安全な『道の駅(PA/SA)』の流通拠点から実務に入ればいいだけのことだ。後方の絶対安全圏であるならば、中佐殿の言う通り余計な護衛兵など一人も必要ない。



俺は近くの街から、特権予算を使って千人規模の民間作業員を力ずくで一斉に雇い入れた。


彼らの圧倒的な質量を投入し、既存の軟弱な線路土台への強固な盛り土と、レールの沈み込みを防ぐための砂利バラストによる徹底的な補強工事を昼夜問わず突貫で回していく。



一日あたり数キロもの改修工事が滑らかに完了していく。もちろん、将来的にこのルートへ『蒸気機関車』が本格運行された場合を考慮し、十キロの区間ごとに、列車同士がすれ違うための複線化設備――『行き違い待避線』を増設することも忘れなかった。


――二か月後。

既存の馬車鉄道の近代化改修工事が、いよいよ終わりを迎えようとしていたその矢先。参謀本部から「至急、本部へ出頭せよ」との帰還命令が下された。


それは、俺が願い続けていた安全ではなく不吉な予感(過負荷)しか感じ取ることができなかった。

読んでくださり、ありがとうございました。

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