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覇権国家計画  作者: 納豆
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110/112

第110話:世界大戦 その一


帝都参謀本部、特別監察室。


机の上に積み重なった報告書の束は、もはや「情報」ではなく「重量」として俺の前に存在していた。


東部戦線。西部戦線。北方海域。南方の物流統計。三国同盟の軍の動向。自由比帆諸島の戦力評価。それぞれが独立した最悪の情報として、毎朝この机に積み上げられていく。



「少尉。『合衆国』に関する最新の密偵報告が届きました」


中尉が、他の書類とまったく同じ所作で、一枚の薄い紙を差し出してきた。


「……中尉。海の向こうの、あの『合衆国』ですか?」


「はい。『自由比帆諸島』への物資輸送船が、先月だけで確認されているものだけで十七隻。内訳は食料・医薬品が名目ですが、積荷の重量から判断すると、相当数の武器弾薬が混載されている可能性が高いとのことです」



俺は手渡された報告書に目を落とした。


「中尉。僅かな海軍戦力しかない『自由比帆諸島』が、帝国に対して威勢よく宣戦布告した理由は、『合衆国』の後ろ盾を手に入れたからと言うことですね」


輸送船の船籍は、すべて『合衆国』籍ではない。



周辺の小国の船籍を借りた、いわゆる便宜置籍船だ。『合衆国』は、まだ帝国と直接の戦争状態にはない。だからこそ、あの補給船を海軍がうかつに攻撃することは、『合衆国』に直接参戦の『大義名分(口実)』を与えることになる。


「中尉。『合衆国』の補給船には、絶対に手を出してはならないという命令書を、参謀本部名義で全軍に発出してください。『合衆国』側にも、正式な公文書を発行する必要があります」



「少尉。既にそのような非公式の通達は現場に出ていますが、あえて正式な公文書として残すということですか」


「はい、中尉。現場の誰かが誤って攻撃し、開戦の引き金を引いてしまった場合の『責任の所在』を明確にするためです」



これは、防衛のための命令ではない。『合衆国』に参戦の口実を与えないための、徹底して消極的な防衛仕様書だ。こちらから手を出せない以上、『合衆国』の支援を断ち切る手段は、別のところに求めるしかなかった。


「少尉。『合衆国』の異世界人は、今のところ確認されていません」


「中尉。『合衆国』は工業生産力に優れた大国です。ならば確実に異世界人がいるはずです」



報告書をさらに読み進めると、『合衆国』の真の目的は、こちらの大陸における安定した独自の「貿易拠点の確立」であると推測できた。


合理的に考えれば、(同じ現代知識を持つ)『霧宮王国』と組むのが最も手っ取り早いはずだ。だが奴らは霧宮と決裂し、独自に、しかも『自由比帆諸島』を都合のいい駒として支援する道を選んだ。



自らは一切戦うことなく、最終的に比帆諸島一帯を丸ごと自らの経済的配下に置くつもりなのだろう。


(……霧宮の異世界人は一体何を考えている? 大きな方針転換をしたのか。それとも、最適化を進めすぎた結果、他国を管理できなくなっているのか)



「少尉。西部戦線についても、報告が届いています」


別の書類が机に置かれた。


霧宮に亡命していた『豊浦王国解放戦線』は、帝国の保護下にある豊浦王国の国境地帯へと、着実にその進軍を続けている。


『豊浦王国』の守備部隊も懸命な抵抗を続けてはいるが、西側の大国である『西部三国同盟』の正規軍が加わった連合軍の圧倒的な物量の前に、防衛線は緩やかに、しかし確実に後退しつつあった



豊浦王国の防衛部隊は帝国軍から供与された野戦砲を運用しているものの、その兵数はわずか六千名。対する敵連合軍の総兵力は、実に対称的な二万五千名にも及ぶ。


帝国軍の現地駐留部隊が合流すれば多少は持ち堪えられる可能性もあるが、戦力差がありすぎて勝利は確実とは言えない。


「中尉。連合軍、すなわち『豊浦王国解放戦線』の第一目標は“王都の制圧と正当性の確保”です。ならば――彼らの進軍目標を強制的に、システムの上で書き換えて(変更させて)しまう方法があります」


王都が陥落し、敵の亡命貴族たちが玉座に座って「我が方こそが正当な支配者である」と世界に名乗れば、その瞬間にこちらの政治的敗北が確定してしまう。



ならば、敵が王都に到達する前に、現在帝国が強固に要塞化を進めている『軍港都市』へと強制的に遷都(首都の変更)を行い、敵の作戦の前提を根底から崩壊させるのだ。


一見すると、国家の歴史や伝統を無視したただの暴挙に見えるかもしれない。


しかし元の世界の歴史上、国家の存亡の危機において「一時的な遷都」や「要塞都市への首都機能移転」を行うことで、敵の攻撃目標を無効化し、最終的に逆転勝利を収めた例は枚挙にいとまがない。



敵がどれほど誇らしげに古い王都を占領したところで、そこがただの「空き家」になってしまえば、戦術の上でも、奴らの大義名分はすべて無に帰す。


「……少尉。それでは古い王都を守るために踏み止まっている、豊浦王国の防衛部隊六千が完全に孤立して全滅しますよ」


「中尉。現在の限られた部品で、内陸の王都と沿岸の軍港、その両方を守り切ることは物理的に不可能です。そして、帝国にとって“制海権の確保”だけは絶対に譲れない仕様です」



民衆に対してはプロパガンダ作戦を徹底し、『――王を安全な場所へとお移しし、反撃の力を蓄えるための臨時首都である。賊軍を殲滅した後は、必ず伝統ある栄華なる王都に戻る』と正当性を維持すればいい。



あとは、『豊浦王国』の王族たちを軍港要塞へと安全に“お連れし”、王自らの意志と言葉で――。


「王のいる場所こそが国の中心である。今日よりこの港町を新たな首都とし、ここを臨時の王都とする!」


――と、世界に向けて高らかに宣言してもらうだけだ。



帝国は他国の王に対して脅迫や強要など、一切行わない。


王族自身に対して、「古い王都に残れば敵に捕まって無残に処刑されるが、今すぐ帝国の軍港に来れば、帝国軍の最新鋭兵器が貴方方の命と安全を完璧に保障する」という、客観的な事実を、ありのままに説明して差し上げるだけなのだから。


読んでくださり、ありがとうございました。

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