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覇権国家計画  作者: 納豆
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第102話:東方赤禍大戦 その三


東部第四超大型星型要塞、指令室。


「設計屋……兵十万の命と引き換えに帝国を『消耗』させるだと? そんな、そんな狂った戦争。それを本当に実行する国家があると言うのか」


中佐殿は声を震わせ、俺のもたらした冷徹な分析に明らかな動揺を隠せずにいた。戦場の修羅場をいくつもくぐり抜けてきたはずの叩き上げの武人が、その概念の異様さに圧倒されている。



「はい。中佐殿。そして敵は兵士だけを戦場へ送るつもりではありません。農民は兵糧を作るために働かされます。工員は砲弾を作るために働かされます。教師は子供に戦争の正しさを教えます。新聞は敗北を勝利と書き換えます」


「……」


「つまり赤旗国は軍だけではなく、国家そのものを戦場へ持ってくるのです。これこそが、国力を丸ごとすり潰し合う最悪の戦争形態――『総力戦』です」


それは単なる「軍隊同士の武力衝突」ではない。国家という巨大なシステムそのものが、敵を滅ぼすための巨大な非情の機械へと変貌する。



「中佐殿。総力戦では前線と後方の区別が消えます」


「どういう意味だ」


国家が持つあらゆる資源――人、物、金、産業、科学、教育、情報、さらには国民生活のすべてにいたるまで――その全てを戦争目的のためだけに強制動員する戦いの形。


「中佐殿。敵の狙いは、この星型要塞だけではありません。鉄道網、工場、農場、そして都市そのもの――『軍事目標』と『民間目標』の境界が消えます」



赤旗国せっきこく』は、この世界の常識を遥かに超越した、国家の全資源を底の底まで注ぎ込む“究極の総力戦”を引き起こす可能性が高い。


「設計屋。敵の真の目的は、一体なんだ? 我が帝国の持つ豊かな資源や、高度な技術ではないというのか?」


「中佐殿。赤旗国は、自らの『思想』で絶対に負けないために戦っています。だからこそ、どれほどの損失を出そうとも、彼らの進軍が止まることはありません」



自国民三百二十七人を自作自演で犠牲にしてまで開戦の理由を作る。それはもはや、単なる軍事合理性ではない。自らの体制を維持するための「思想合理性」の狂気だ。


帝国が健在である限り、自分たちの思想そのものが根底から否定され、敗北してしまう。


帝国が進める、経済の鎖による国家の相互依存――それこそが、赤旗国にとっての真の敵なのだ。



――二週間後。


東部前線における赤旗国兵の死者は、すでに八千名を超えていた。


それは、戦術的に見れば当然の帰結である。帝国の要塞に配備された複合式大型機関銃の射程は一キロ以上。むき出しの歩兵が物理的に近づくことなど、およそ不可能なのだ。



もちろん敵も前進の前に準備砲撃を仕掛けてはくる。だが、ここでも帝国の砲兵部隊の方が射程で圧倒していた。加えて、空中に浮かべた気球による精密な索敵と弾着確認が行われるため、赤旗国の歩兵部隊は国境線へ集結する前にことごとく叩き潰されていた。


結果として、赤旗国の兵士たちは無数の銃弾の雨に当たらないことを神に祈りながら、ただ泥を這って進軍することしかできていない。



だが、もしもあ奴らの目的が、この要塞の弾薬を使い果たさせる『消耗』そのものであるならば――その目的は、恐ろしいほどの精度で確実に達成されつつあった。


「設計屋。私は祖国を守るために戦っている。だが、これではまるで……、勝利しているはずなのに、なぜこんな気分の悪い泥水を啜っているような心地になるんだろうな」


「中佐殿。勝利とは、最後に生き残った勝者が身勝手に定義する記号にすぎません」


「……。」


「我々はただ、下命という冷徹なシステムに従って、淡々とその歯車を回しているだけにすぎないのです」


俺が一切の感情を排して告げると、司令室にはただ機械の駆動音だけが虚しく響いた。


この二週間の間に、国境線の向こう側からは戦火を逃れようとする逃亡兵や、命からがら亡命を望む者、そして無数の難民たちが泥流のように押し寄せてきていた。



要塞の特別監察室に連行された捕虜や逃亡兵からの情報によれば、赤旗国では「戦線から逃亡を試みた者は、残された家族も含めて全員が即座に死刑」という、あまりにも冷酷な連座制が敷かれているという。


自分一人だけが生き残るために逃げることすら、彼らには許されていないのだ。


東部前線に送り込まれる赤旗国の哀れな兵士たちには、最初から引くという選択肢も、背を向けて逃げ出す自由も存在しない。



ただ、狂った思想の命令システムに従い、帝国の圧倒的な鉄の暴風に向かって真っ直ぐに突き進むことしかできないのだ。


東部前線の兵たちは引くことも逃げることもできない。ただ命令に従い進む。


どれだけ兵器の質で圧倒していようとも、一キロ先から無差別に降り注ぐ鉄の雨で、肉塊へと変わり果てていく数千の命。その事実をただ事務的に「処理」し続けることの不気味さが、じわじわと帝国側の兵士たちの精神をも蝕みつつあった。



これこそが、敵の異世界人が仕掛けた「過負荷」の本質。


効率よく敵を殺せば殺すほど、こちらの弾薬の備蓄という物理的な限界と、人間の形を保とうとする前線兵士たちの精神的な限界が、同時に焼き切れそうになっていく。


(……このままでは、敵の兵站が尽きるより先に、帝国の良心が完全に摩耗して底を突く)


読んでくださり、ありがとうございました。

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