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覇権国家計画  作者: 納豆
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第101話:東方赤禍大戦 その二

東部第四超大型星型要塞、指令室。



近代戦の歴史を知っている異世界人なら、こちらが防衛線でいくら「効率よく敵の血を流させよう」と構えていようが、お構いなしに攻めてくる。


要塞砲の砲身や防衛する兵士の精神といった、帝国の防衛システムそのものが完全に焼き切れるまで圧倒的な物量で過負荷をかけ、防衛線を強引に突破してくるはずだ。



だが、そのためにはまず、国際世論を納得させるための大義名分――『赤旗国せっきこく』が一方的な「被害者」となる事件が、開戦の最初の一歩として絶対に必要になる。


「中佐殿。国境付近での偶発的な衝突を避けるため、帝国側からは絶対に先制攻撃をしないよう、砲兵部隊を一時的に後方へ下がらせるべきです」


俺の進言を、中佐殿は獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべて遮った。


「ふん……設計屋。貴様の言いたいことはよく分かるぞ。要するに、『処理施設』を作れと言うのだな」



どれだけ敵が人間を使い捨ての部品として戦線へ流し込もうとも、生身の人間である以上、降り注ぐ鉄の弾幕を物理的に通り抜けることは不可能な「飽和攻撃の限界点」を強制的に作り出し、敵の突撃そのものを無効化しる防衛拠点を作る。


中佐殿は、机の上の東部国境の地図を指さしながら言葉を続けた。


「設計屋。一斉に砲兵部隊を下がらせれば、敵もその隙を見逃さず同じ速度で前進してくる可能性がある。まずは模造品の擬製木砲を並べ、前線に偽の防衛陣地を構築するのが先決だ」



やはり、中佐殿は極めて優秀な最前線の武人だ。政治的な意図を瞬時に読み取った上で、現場の泥臭い知見を用いて即座に作戦を最適化してみせる。


「設計屋。『赤旗国』の国境近くにある複数の農村には、すでに我が軍の密偵が潜入している。次の定期報告が届き次第、すぐに動くぞ」


「はっ。中佐殿」



──二日後。アルガン灯を利用した光信号暗号を使った密偵の現地報告は「最悪」の二文字に尽きた。


赤旗国の東部国境沿いにある、小さな農村。

死者、三百二十七名。

朝の鐘が鳴り響いた直後、突如として無数の砲弾が容赦なく撃ち込まれ、女も、子どもも、畑を耕していた老人も、村の住民すべてが文字通り一瞬で圧殺された。



すでに『赤旗国』の国内報道では、「帝国軍が、軍事施設など存在しない民間人だけの平和な村を一方的に先制攻撃した」と大々的に報じられている。まもなく、周辺国に向けて帝国の非道を訴え、参戦を促す国際非難声明を出すに違いない。


現在、帝国の砲兵が国境付近に展開しているとはいえ、その射程では問題の村まで砲弾が届くわけがないのだ。


つまり、『赤旗国』は世界に向けて「完璧な被害者」を演じる大義名分を得るためだけに、自国の村を住民ごと容赦なく消し飛ばしたのだ。


合理性を極限まで追求した狂気。軍事介入を正当化するためならば、自国民の命すらただの『消耗品』として自作自演の爆縮に投げ込む。『赤旗国』は成果が出る保証すらないのに自国民を消耗品として処理したのだった。



「設計屋。『赤旗国』は直ぐに動くぞ」


「この要塞には、すでに最新の『複合式大型機関銃部隊』が配備されています」


狙って撃つ必要などどこにもない。一キロも先から、ただ敵の頭上へ向けて山なりに弾丸をバラまき続けるのだ。そうすれば、無数の銃弾が敵の集団の「頭の上から斜め下へ突き刺さる」ように、文字通りの鉄の雨となって降り注ぐ。


遮蔽物に隠れているはずなのに、その遮蔽物を軽々と越えて、どこからともなく死の雨が降ってきて全員が死ぬ。敵にとってこれ以上の絶望を強いるシステムはない。



「……設計屋。貴様はいつも、最も非人道的で、最も確実に成功する最悪のシステムを思いつく。自覚はあるのか」


中佐殿の冷たい声が、指令室の空気をいっそう凍りつかせる。


「いいえ、中佐殿。最も恐ろしいのは、敵の攻撃ではありません。生身の人間は、自分が狙撃される恐怖よりも、見えない敵をただ殺し続けるという『罪悪感』によって、真っ先に心が壊れてしまうのです」



だからこそ、このシステムは射手、給弾手、指揮のすべてを複数人で分担して運用する。「自分が引き金を引いたから敵が死んだ」のではない。

「みんなで機械システムを動かした結果、そこにいた敵が死んだ」という状態を意図的に作り出すのだ。


これによって、人を殺めたという責任は銃班全員に分散(希釈)され、個人の罪悪感は劇的に減少する。そして最終的には、すべてを「徹底的な軍の命令(国家の意志)」へと責任転嫁させるのだ。



「……設計屋。貴様は、やはり兵をただの『部品』だと思っているな」


「はい、中佐殿。だからこそ、その部品が摩耗して壊れないための『仕組み』が必要なのです」


俺が淡々と返すと、中佐殿はそれ以上、何も言わなかった。

ただ、かつての戦場と同じく、俺を深く憐れむような、あるいは人型の形をした“悪魔”でも見るかのような冷たい眼差しを向けてくるだけだった。



密偵からの報告によれば、国境に集結しつつある赤旗国の兵力は約二万。対する帝国の東部防衛部隊は八千。数だけの戦力差は二倍以上あるが、純粋な防衛戦において帝国が負けることは万に一つもあり得ない。


なぜなら、兵器の基本性能が違いすぎるからだ。『赤旗国』の大砲は、いまだに旧式の鉄の塊を飛ばすだけの前時代的な代物。


対して帝国のこの要塞は、新兵器開発部門の異世界人、通称『森の賢者』(第30話)がその頭脳の粋を集めて設計した、文字通りの難攻不落の要塞なのだ。



どれほど旧式の大砲で二十四時間連続の猛砲撃を食らい続けようとも、この最新の構造物を物理的に破壊することは絶対に不可能。だからこそ、俺には奴らが攻め込んでくる真の意図が分からなかった。


現代の知識を持つ異世界人ならば、近代的な強固なコンクリート構造物を、旧式の砲弾でぶち破る貫通力などないことくらい、理解しているはずなのだ。



「設計屋。顔色が悪いぞ。どういうことか説明しろ」


中佐殿の鋭い声に、俺は思考の霧を振り払って地図を指さした。


「はい、中佐殿。敵の目的は要塞の破壊ではなく、こちらの『消耗』そのものだと思われます」



敵の異世界人は、二万の突撃兵が全滅すれば、すぐさま第二陣、第三陣と、こちらの弾薬と兵站が完全に底を突くまで永遠に兵を流し込み続ける気なのだ。


そうして要塞の弾を撃ち尽くさせ、その間に補給路を一つずつ確実に潰していき、東にある四つの要塞を完全に孤立させるつもりだろう。



……この東部戦線を完全に孤立させ、帝国の兵站を削り切る。そのためだけに、奴らは十万人以上の自国民の命を、ただすり潰す犠牲の計算を立てている。


読んでくださり、ありがとうございました。

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