同じ食卓で、同じあたたかさを(Bルート)HappyEND
数ヶ月後。
家の中の空気は、以前よりもずっと柔らかくなっていた。
朝のキッチンには、
「おはよう」
と交わす自然な声があり、
その横で悠介が子どもの弁当を作っている。
「卵焼き焦げてるよ、パパ〜!」
子どもの声に、美沙が笑った。
「焦げじゃなくて、香ばしいんだよ」
「いや、それは焦げだな」
美沙が突っ込むと、悠介は照れたように笑う。
以前なら考えられなかった光景だ。
家事の全部が美沙の仕事だった頃、
このキッチンは“戦場”みたいだった。
でも今は違う。
「今日、帰り早いから、一緒に迎え行こうか」
悠介が子どもに言うと、
「やったー!」
と弾む声が返ってくる。
美沙はその背中を見つめながら、胸の奥に静かな温かさが広がった。
――完璧じゃなくていい。
――続けてくれれば、それでいい。
美沙自身も、息を詰めすぎないようにしていた。
なんでも「ひとりで抱え込まない」
それを徹底し、頼れる時は頼るようにした。
「行ってきます」
玄関で子どもたちを見送り、
二人になると悠介がふと呟く。
「なあ。最近……家が明るいよな」
美沙は、その言葉に少しだけ目を伏せる。
「うん。私も……やっと、息が吸えるようになった」
悠介は、少し躊躇った後で言った。
「これからも……ゆっくりだけど、ちゃんとやっていきたい。
逃げたくなる日もあるかもしれないけど、話すよ。
だから……これからも一緒にいてくれないか」
美沙はしばらく黙ったまま、彼の目を見る。
その眼差しは、以前とは違っていた。
威圧でも、誤魔化しでもない。
誠実な、弱さもにじむ眼差し。
「……うん。
一緒に、生きていこう。
家族としてじゃなくて、夫婦としても」
自然に笑えた。
心の底から。
外に出ると、昼の日差しが柔らかく家を包んでいた。
少し風が吹き、美沙の髪を揺らす。
――離れなかった選択も、
間違いじゃなかった。
その確信が、ゆっくりと胸に染み込む。
家の中から、悠介が呼ぶ声がした。
「美沙〜! 俺の弁当箱どこ置いたっけ?」
「あーもう、また〜? ちゃんと覚えなよ!」
その何気ないやりとりが愛おしかった。
美沙は振り返り、少し笑って言った。
「ほら、行くよ。
今日も、ちゃんと家族だよ」
違う未来を選んだからこそ見えた、
新しい形の幸せだった。




