夜明けに独りで歩く道(Aルート)BADEND
翌朝。
美沙が起きると、リビングのテーブルの上に封筒が置かれていた。
中から、離婚届が滑り落ちる。
悠介の署名が、そこにあった。
美沙は一度深呼吸し、震える指先をぎゅっと握る。
喉の奥から熱いものが込み上げてきて、涙がぽたりと零れた。
悲しいからじゃない。
悔しいからでもない。
“やっと終わるんだ”
安堵に近い感情だった。
子どもたちに優しい笑顔を作りながら朝ごはんを並べ、
「今日は、ママ大事な手続きがあるから、夕方には迎えに行くね」と説明し、
コートを羽織って外へ出る。
冬の朝の空気は冷たいのに、胸の奥はなぜか温かかった。
役所に向かうバスに揺られながら、窓の向こうの景色が流れていく。
見慣れた街が、少し違って見えた。
“私は、ここから変わるんだ”
ハンドバッグの中には、署名済みの離婚届。
そして、小さな希望。
役所の建物が見えた瞬間、美沙は息を整えた。
これで終わりじゃない。
ここがスタートなんだ。
受付に向かい、離婚届をそっと差し出す。
ペンを置いた職員の手元を、美沙はじっと見つめた。
あの長かった日々も、
孤独に押しつぶされそうになった夜も、
全てが静かに区切られていく。
提出が終わった瞬間、美沙は外に出て、空を見上げた。
雲の間から、少しだけ光が差していた。
「……行こ」
誰に言うでもなく、小さく呟く。
歩き出した足は、驚くほど軽かった。
もう、誰かのためだけに消耗する毎日は終わり。
これからは、自分のために歩いていい。
美沙は、朝の冷たい風の中を一人で歩き始めた。
確かに前を向いて。
確かに自由になって。




