7-3・茨城童子
「オマエッ!なんてことをしてくれるんだ!?」
黄鬼は慌てて塔屋に飛び乗り、残り2枚の『酒』メダルを回収して、俺を睨み付ける。反応が解りやすい奴だ。呪印の理屈はよく解らないが、黄鬼が怒っているのだから、呪印の妨害に成功したのだろう。奪い返されないように、Yウォッチのメダルホルダに収納する。
「そういや、オマエが何者か聞いてなかったな。
オマエが茨城童子か?
もっとゴツいヤツかと思っていたけど、イメージと違ったな。」
「はぁ?なに言ってんだ、オマエ?オイラは金熊童子!
オマエ、退治屋のクセに、そんなことも知らないのか!?」
「・・・ん?」
疑問が生じる。狗塚は「茨城童子が動き回っている」と言っていた。だから、茨城童子と交戦することを覚悟していたのだが、いたのは「金熊童子」ってヤツだった。
「あれ?狗塚の予想が外れた?」
若干、拍子抜けをしてしまう。だが、「金熊童子が簡単には倒せない敵」ということと「倒さなければならない」ことに変わりは無い。気合いを入れ直し、マシンOBOROから降りて構える。・・・だが
「たかが退治屋如きと何を遊んでいる?」
突然、真横から声が発せられる。接近の気配を全く感じさせないまま、いつの間にか、朱色の長髪と青肌の背の高い男が立っていた。
「えっ?うわぁぁぁっっっっ!!」
男が掌を翳した途端に、俺(妖幻ファイター)は全身から火花を散らせながら弾き飛ばされ、塔屋から屋上床に落ちた!
直ぐに立ち上がって体制を手直すが、青肌の男が追い撃ちをかけてくる様子は無い。それどころか、こちらを見向きもせずに、金熊童子と会話をしている。
「貴様(金熊童子)には、御館様への生命力供給の見張りを任せたはずだがな。」
「アイツに奇襲されて、メダルを1枚奪われたんだ!」
「退治屋如きに?・・・フン、昼寝でもしていたのか?四天王の地位が泣くぞ。」
「チゲーよ!オイラの所為じゃない!イバさんの情報収集が甘すぎるんだ!
白いメダルで結界を消すことや、退治屋のバイクがワープしてくることなんて
聞いてないっての!」
「そうか、私のミスか?・・・ならば、自分の尻ぬぐいをするしかあるまいな。」
青肌の男は名乗っていないが、ヤツが何者なのか、なんとなく解る。星熊童子や虎熊童子、そして金熊童子と対峙をして、ヤツ等が今まで倒した妖怪とは別格と感じた。霊感や妖気の類いとは縁の無い俺でも、ヤツ等の発する雰囲気や迫力で、それくらいは解る。
だが、青肌の男だけは違う。発せられる雰囲気が静かすぎて、変身前の状態で出会ったら、おそらく人外とは認識できない。だから、隣に立たれたことすら感知できなかった。それでいて、ヤツから敵意を向けられると、星熊&虎熊&金熊以上に底知れない不気味さを感じる。格が違いすぎる。
「オマエが・・・茨城童子?」
青肌の男は、小さく笑みを浮かべて睨み付ける。
「貴様如きに名乗る気など無いのだがな。・・・いかにも、私は茨城童子。
こうして、直接向かい合うのは初めてだな。閻魔大王の力を持つ退治屋よ。」
茨城童子の言葉は、端的に、「俺が茨城童子の存在に気付く前から、俺を観察していた」と告げている。
「・・・天邪鬼を暴走させたのも?」
「誇り高き鬼が、人間如きと共存するなど許さん。」
「ふ、ふざけるなっ!天野のジイさんはなぁっ!」
食って掛かろうとする俺を、茨城童子が冷静に制する。
「御館様を封じたメダルを奪い返した今となっては、もう貴様に用は無い。
言うまでもなく、貴様如きと無駄な議論をする気も無い。」
「なにっ?」
見せ付けるようにして、手に持っていた『酒』メダルを翳す茨城童子。いつ奪われた?攻撃を受けた時か?
慌ててYウォッチに収納したはずのメダルを確認すると、ちゃんと保管をされていた。だったら、茨城童子が見せ付けたメダルは何だ?もう一度、茨城童子の手元を確認する。
「御館様は其所か。」
茨城童子が翳していた『酒』メダルが闇の霧と成って消える。ヤツは、本物の在処を確認する為に、偽者で揺動したのだ。
「し、しまった!」
茨城童子が、掌を翳して妖気の衝撃波を発した!気圧され、腰を低くして足を踏ん張り、両腕をクロスさせて凌ぐ!しかし、耐え抜いた直後に、背後から衝撃波が被さってきて、体勢を崩してしまう!更に次の瞬間には、茨城童子の姿は目の前にあった!問答無用で頭に拳を喰らい、地面に叩き付けられて、握っていた『酒』メダルが手から零れ落ちる!
「がはぁっ!」
『酒』メダルに手を伸ばす茨城童子!意識が飛びそうになるのを堪えながら、メダル強奪を阻止する為に、這い蹲ったまま茨城童子の足元目掛けて裁笏を振るう!しかし、茨城童子は姿を闇霧に変えて楽々と回避をして、塔屋上の金熊童子の隣に戻った!その手には本物の『酒』メダルが握られている!金熊童子が持っていた2枚と共に、呪印の上に浮かべられ、優高生達への生命力の搾取が再開されてしまう!
「くそっ!」
立ち上がり、召喚した妖刀を握り締め、奪われた『酒』メダルを奪い返す為に突進をする!
「貴様に用は無い。」
掌を翳す茨城童子!四方八方から妖気の衝撃波が飛んで来て、為す術も無く弾き飛ばされて床を転がる!
これが、鬼の副首領の実力?全く抵抗ができない。だけど、「自分より有能な連中だらけ」なんて、今に始まったことではない。紅葉、爺さん、狗塚、どいつもこいつも俺より優秀。「アイツは俺と違って出来が良いんだから、敵わなくて当然」と、戦う前から試合放棄をするつもりは無い。学生時代から、凡族なりに藻掻き続けてきた。
「ヤツが動いていないのに、真後ろから衝撃波が来るなんて有り得ない!
掌から、衝撃波以外の何かを発しているはずだ!それを見極めろ!」
妖刀を握り直し、茨城童子に向けて突進!茨城童子が掌を翳すタイミングに合わせて、センサーに意識を集中させる!茨城童子の掌に闇が灯り、俺の周りの空気が漆黒に歪んで押し寄せてくる!
掌から衝撃波を放つのではなく、戦場に対流する妖気を掌握して対象に叩き付ける!だから、あらゆる方向から衝撃波が飛んでくる!それが、茨城童子が発する衝撃波の正体だ!
「うぉぉっっっっ!タイミングが見えれば、こっちの物だ!」
正面から迫る漆黒の歪みを妖刀で斬り裂いて浄化!続けて、妖刀を横に振るって、真横から飛んで来た漆黒の歪みを祓い、飛び上がって茨城童子との間合いを詰める!
「この程度で息巻くな、小僧。」
茨城童子は、指先から鋭い爪を伸ばして妖刀を受け止め、同時に空いている方の掌を翳した!周りに対流する妖気が、漆黒の歪みと成って押し寄せてくる!四方八方からの衝撃波の乱打を喰らい、全身から火花を発して、再び塔屋上から弾き落とされてしまう!




