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狗塚の視点・佐波木燕真への嫉妬

-夕方-


 紅葉ちゃん(&佐波木)と共に、鬼印潰しを再開したのだが、6つ目の捜索中に、Yウォッチが妖怪発生の警報音を鳴らした。


「もしや、鬼が!?」


 現場に到着をすると、人々が逃げ惑い、その中心で2体の妖怪・二口女が暴れていた。佐波木が妖幻ファイターへの武装化をして突進していく。


「鬼の出現を考慮して来てみたが、違ったか。」


 3体目が出現をしたが、佐波木(妖幻ファイター)の援護は俺の責務ではない。いくら未熟者でも、あの程度の妖怪に敗北することはないだろう。


「さぁ・・・行こう。直に日が暮れてしまう。」

「・・・え?」


 バイクの向きを戦場とは反対側に向けて、紅葉ちゃんに鬼印探しの続行を提案する。


「燕真、戦ってるょ?」

「俺には関係無い!俺が優先するのは、鬼討伐だからな!」

「・・・・・・へ?」

「現地の妖怪退治は、現地の退治屋の仕事だ。俺の仕事ではない。

 それに、君が此処にいたところで、戦いに参加するわけでもあるまい。

 俺も君も、此処で眺めていても時間の無駄。やれることをやるべきってことさ。」

「ふぅ~~~ん・・・あっそう!・・・・・・なら、ァンタだけ、行ってイイよ。」

「・・・なに?」

「ァタシゎ、燕真の応援に行くっ!」

「待て、行っても危険なだけだ!」


 理路整然と説明をしたつもりだが、紅葉ちゃんは聞く耳を持たずに駆けていってしまった。彼女の思考が理解できないまま、呆然と見送る。


「才能はあるが・・・順序立てて対局を読む力は無いと言うことか?

 未熟なアイツ(佐波木)と一緒に居る所為で、

 能力の有効活用もできないとは・・・。

 この様な才能の無駄使い・・・粉木さんは把握しているのか?」


 想定外だが、俺の方針に変更は無い。事前に確保しておいた‘妖気センサーの履歴’に目を通してから、バイクを発車させる。




-数分後-


 地の気を探って鬼印を探す。だが、苛立ちに支配されて集中ができないので、縁石に腰を下ろして、思案に耽る。

 「合理的な行動」を拒否して、佐波木の戦闘を見守るという「無駄」を選択した紅葉ちゃんに腹が立って仕方がない。他人には期待をしないスタンスなのに、「何故、彼女を腹立たしく思うのか?」に困惑をする。


「枯れた家系が、才能溢れる血筋が交われば、再び、栄華の血を呼び覚ませる?」


 狗塚の血統という慢心は、年端もいかない小娘にアッサリと撃ち抜かれた。以前から「名ばかりの家系」とコンプレックスを感じていたので、紅葉ちゃんの持つ潤った才能に嫉妬をしている。そして同時に才能を欲している。

 しかし、全く相手にされず、彼女は未熟者(佐波木)ばかりを優先させる。俺は、紅葉ちゃんの才能と、佐波木の存在に、同時に嫉妬しているのだ。


「・・・下らない!俺は、あんな少女を相手に何を考えているんだ!?」


 夕焼けに染まった空を見上げながら、「他人には期待をしない俺が、紅葉ちゃんに期待をしてしまう理由」を、必死で否定する。


 父を除く一族の全てを鬼に殺害されて失い、以降は鬼の討伐の為に、父と共に全国各地を廻った。幼少期に一地域への定住をしなかったので、幼馴染みの類いは誰もいない。

 父の戦死で全ての身寄りを失い、退治屋によって引き取られた。退治屋での就学時に何人か同期がいたが、「狗塚の名」を目の敵にされるのが煩わしかったので距離を置いた。だから、仲の良い同期もいない。

 退治屋内で気にかけてくれたのは、現COOの大武さんと、幼かった俺の母親代わりだった砂影さんくらい。大武COOには、俺に対する一定の罪悪感があったのだろう。彼には感謝をしているし、彼の行動が「退治屋としては正しい」ことも承知している。だが、「大武さんが、刀で父ごと酒呑童子を貫く光景」を思い出してしまい、彼とはあまり会いたくなかった。


(・・・父さん。)


 脳裏に浮かぶのは、父の死に際の光景。それが、俺の原点。僅か7歳で、当主の座と天狗の妖幻システムを受け継いで以降、鬼は「倒さなければ先に進めない仇」だ。


(鬼は・・・皆殺し。)


 しかし、自力では限界を感じている。だからこそ、目的達成の為に有能なる才能が欲しい。脳裏に、怒りを露わにする紅葉ちゃんの顔が浮かぶ。


(・・・源川紅葉が傍に居れば。)


 彼女と組めば、鬼討伐は大きく前進する。彼女が後継ぎを産んでくれれば、枯れかけた血筋は潤う。しかし、何の面白味の無い凡人(佐波木)ばかりを優遇して、類い希な才能を無駄遣いしている。それが腹立たしい。




-夜・粉木邸-


 今日も、佐波木と同室を宛がわれた。粉木さんに個別室の要求をしなかったのだろうか?彼のような未熟な凡人と交流をする価値など何も無い。「別室移動」または「自宅へ帰れ」の圧力を込めて、再び、俺の布団は部屋の真ん中に、彼の布団は隅に移動をする。

 だが、入浴を終えて寝室に戻ったら、2組の布団は均等間隔(間は開いている)で敷き直されており、片方で佐波木が寝転がっていた。

 「また、自分の布団は外に追いやられている」可能性を考えていたので、少々意外に感じる。佐波木は何も言わないが、彼の荷物は部屋の真ん中よりハミ出しておらず、俺の荷物は部屋のもう片側に収まっていた。


(中央を境界線にして、半分ずつを自分の陣地にするという決まりにしたのか。)


 彼は共同生活を受け入れ、陣取り合戦をやめたようだ。彼の方が年下だが、彼の方が先に大人の対応をした。ムキになって彼を排除しようとした行為が、少し恥ずかしくなる。

 不満は有るが、与えられたエリアに収まって荷物を整え終えたら、佐波木が「(電気)消すぞ」と声を掛けたので、小さく「ああ」とだけ返答をした。




-翌日の夕方-


 佐波木がスマホの地図アプリを標示しながら提案をする。凡人の下らない提案に耳を傾ける気などなかったが、紅葉ちゃんが佐波木に寄って行って打合せを始めたので、苛立ちながら待つ。


「妖気センサーの履歴から、鬼の印が施された可能性がある場所を記したんだ。」


 やはり、ただの‘使えない凡人’だ。言うまでもなく、その程度のことは、以前からやっている。今更‘名案’の如く提案をされても呆れるしかない。


「アンタの場合は、ポイントされた場所に行って、

 自分で鬼の印を探しているんだろ?

 このポイントの周辺に鬼の印がある可能性が高いなら、

 紅葉を連れて行って見せれば一発で解るよな?

 漠然とバイクを走り回って探すより効率的だ。

 センサーで拾えない郊外で探すのは、時間的に余裕がある土日。

 時間が限られた平日は、ピンポイントで探す。

 町中なら、多少薄暗くなっても、町の灯りで探せるだろう。

 どうだ?これが一番効率的だろ?」


 俺は黙るしかなかった。悔しいが、反論の余地が一つも無い。

 「有る」と解っている場所は、自力で霊力を消耗させて探し、紅葉ちゃんと組んだ時は、センサーで感知できず、且つ、俺の才能では及ばない場所を任せるつもりだった。だが、「有る」と解っている場所に彼女を連れていけば、ピンポイントで対応ができる。霊力を酷使するデメリットだけでなく、無駄に探し回る時間すら要らなくなる。言われてみれば当たり前のこと。

 彼は、自分の才能に縋り付く必要が無いので、余計なプライドに惑わされず、条件と状況をフラットに見て、最もシンプルな選択肢に辿り着いたのだ。


 たった2時間で30以上の鬼印を潰すことができた。短い移動範囲で、ピンポイントで鬼印が有る場所に行き、即座に紅葉ちゃんが発見するのだから、凄まじく効率が良い。

 文架市全域の鬼印をゼロにすることことなど不可能だ。目的は、できる限り多くの鬼印を潰し、鬼の計画を妨害して焦れさせること。佐波木の提案は的を射ている。それだけは、認めるしか無さそうだ。




-翌朝-


 鬼が鬼印潰しに露骨な反応をした。まるで「潰せるものなら潰し続けてみろ」と挑発するように、昨日、鬼印を潰した範囲に、再び鬼印が設置されたのだ。

 事務室での妖気履歴の確認後、寝室に戻って現地調査に向かう為の準備をしてから玄関に行ったら、粉木さんが上がり框に腰を降ろして俺を待っていた。


「のう、狗塚。うちの若いのが幅を利かせておるんがオモロないか?」

「些か・・・。

 貴方のような有能な人が、平凡な彼を評価している現状が納得できません。」

「確かに奴は平凡や。オマンやお嬢のような、天賦の才は無い。

 オマンが今まで見てきた退治屋の連中に比べても、おそらく末端や。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「無能を理解できずに、自分を特殊と勘違いして、

 口だけ達者で息巻いていんは、何も成せん小者や。

 せやけどな、自分が凡才っちゅうことを理解して、できる精一杯をする奴は、

 場合によっちゃ、有能に胡座をかいている奴なんぞより強い。

 燕真がどっちのタイプか、よう見極めるこっちゃな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「そいでも、奴と正面から付き合う価値が無いと判断すれば、そいで良い。

 ワシが強制できるこっちゃない。」


 粉木さんが立ち上がって事務室に戻り、俺は靴を履いてから後を追う。


 支配者と搾取される者の間には絶対的な壁が有る。凡人がいくら努力をしても、天才に勝るわけがない。俺には、粉木さんの言う「凡人・佐波木燕真の底力」が理解できなかった。



 天才が、懸命な凡人から学べることは多い。紅葉ちゃんは、無意識にそれを理解している。人間の大多数が凡人であり、懸命な凡人は敗北から這い上がる手段を知っている。天才は「敗北をしない」から「敗北から這い上がる必要が無い」などというのは、ただの慢心。


 俺が文架入りをした理由は、鬼退治だけでなく、「俺以上の天才」と「今までなら眼中に入らなかった凡人」から学ぶ運命があったからなのかもしれない。


 だが、プライドとコンプレックスの狭間で藻掻いている俺が、その事実に気付くのは、もう少し先になる。

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