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狗塚の視点・居候と陣取合戦

-夜・YOUKAIミュージアム-


 地域の退治屋の協力を得ることは協定で決められているが、たいていの場合、地域の宿泊施設を利用する。だが、共に行動することに有効性を見出した俺は、荷物を纏めてホテルをチェックアウトして、粉木さんの家で世話になることにした。

 佐波木が何処で遊んでいたのかは不明だが、粉木さんへの共同生活の依頼中に戻ってきた。


「食費や布団のクリーニング代は、政府に請求して貰って構いませんので・・・。」

「項目が細かすぎて、請求書を作りにくいのう。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・何の話だ?」

「狗塚が、しばらくワシの家に滞在することになったんや。

 少し驚いたけど、意思疎通が良好になるから悪い提案ちゃう。」

「・・・そっか」

「鬼を挑発するからには、鬼がいつ動き出すか解れへん。

 燕真、オマンもしばらくは‘待機状態’やぞ。」


 退治屋の待機状態とは、いつ妖怪事件が発生しても直ぐに出動できるように、帰宅をせずに基地で寝泊まりをすること。つまり、佐波木も粉木さんの家で生活をするようだ。

 だが、彼が何をしようと関係無い。やるべきことをやるだけ。俺は、たった一日で使い切った護符と霊封の銀塊を作る為に、粉木邸の土蔵を借りた。文架市の龍脈、敷地内での風水、土蔵の材質と広さ、全てが妖気祓いのアイテムを作るには理想的で、ここを霊術工房にした粉木さんの有能さが解る。

 佐波木が不思議そうに眺めていたが、俺がすることを伝えるつもりは無い。彼とは、僅かな期間を同じ屋根の下で生活をするだけ。共同生活をする上での最低限の動線しか絡むことは無いだろう。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 一定量の護符作りを終えたあと、粉木さんから宛がわれた部屋に入って驚いた。2組の布団が、1m程度の隙間を空けて敷かれている。


「佐波木と並んで寝るってことなのだろうか?」


 共同生活をする上での最低限の動線しか絡まないつもりだったのに、粉木さんは、俺と佐波木を同室で生活をさせたいらしい。他人のイビキや寝言は安眠を妨害されるので、もの凄く苦手だ。部屋を変えてもらいたいのだが、居候を頼み込んだ手前、とても言いにくい。

 だから、俺の布団を部屋の真ん中に、佐波木の布団を部屋の端に移動して、佐波木に無言の圧力をかけて(若干の嫌がらせ)、粉木さんに提案するように仕向けることにした。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 入浴を終えて戻ったら、縁側に布団が敷いてあり、その上に俺の荷物が置いてあった。障子戸を開けて和室を覗き込むと、部屋のド真ん中で、佐波木が布団に潜り込んで眠っている。

 佐波木が粉木さんに別室の提案をした結果、俺の寝る場所が縁側になったのだろうか?人格者の粉木さんがそんな仕打ちをするなど、些か考えにくい。


「・・・コイツめっ!」


 和室に上がり込んで、3回ほど声を掛けるが、起きる気配は無い。昼間の鬼印潰しと夜の護符作りで疲労が溜まっており、陣取り合戦をする余力は残っていない。仕方が無いので、縁側に戻って布団に潜り込む。



 ‘紅葉ちゃんと協力をした鬼印潰し’には、寝る間を惜しむ価値がある。一寝入りをして一定の体力を回復させ、朝方に起きて、再び土蔵に隠って護符を作る事にした。・・・が、その前にやるべきことが有る。

 和室の襖を開けたら、布団の中では佐波木が熟睡をしていた。


「縁側に追い出してくれた報復はする。」


 佐波木を抱えて庭に運んで寝かせる。布団無しでは些か気の毒なので、彼の布団を抱える。


「いや、待てよ。

 それでは粉木さんに罪は無いのに、粉木さんから借用した布団が汚れてしまう。」


 佐波木を庭で寝かせたまま、彼の布団は運ばずに土蔵に隠った。

 その後、限界まで護符作りをして疲労困憊で土蔵から出たら、佐波木は1時間前と変わらずに庭で熟睡をしていた。俺が土蔵に隠っている間に、庭で寝ていることに気付いて部屋に戻ると予想していたが、そんな繊細な神経の持ち主ではなかったようだ。

 俺は、佐波木の荷物からジャケットを引っ張り出して彼の腹に掛け、自分の荷物と縁側に敷いてあった布団を和室に運び、疲れ切った体を休める。




-AM10時-


 起床をして茶店に顔を出したら、佐波木の姿しか無かった。


「源川紅葉は・・・まだ出社しないのか?」

「アイツの朝食が食いたきゃ、夕方4時過ぎに起きてこい!

 アイツは学生だ。今頃は、高校で授業を受けてるよ。」

「それでは仕方がないな。」


 佐波木とするべき情報交換など何も無い。

 朝食を終えたあと、粉木さんがいる事務室に顔を出して、事前に調べてもらった‘文架市内の妖気反応’の履歴に眼を通す。大きな妖気反応(妖怪出現)に混ざって、小さな反応が幾つもある。普段なら「自然発生をした小さな妖気溜まり」として見逃す反応だが、おそらく、これらのうちの幾つかが鬼印を示している。


「彼女が学生ってこと、アナタが未成年に手伝わせていること、

 アナタらしくないと驚きましたよ。

 ですが・・・彼女の才能を考えれば、理解はできますね。」

「あぁ・・・お嬢のことか?」

「正規の退治屋の彼(佐波木)よりも、余程役に立ちますからね。」

「えらい言い様やの。

 アレはアレで、土壇場では腹が据わるよって、なかなかのもんなんやで。」

「アナタの思惑はどうであれ、俺は、未熟すぎる彼を相手にする気はありません。」

「まぁ・・・オマンがそのつもりなら、ワシは特には何も言わん。

 ・・・オマンの好きにせいや。」


 紅葉ちゃんと合流するまで、遊んで時間を潰すつもりは無い。俺にできることはやっておく。最新の妖怪反応のうちから遡って5箇所分に眼を通し、その場に向かうことにした。




-数分後-


 愛車を路肩に寄せて停車し、周囲を見回す。此処はYOUKAIミュージアムの南東側にある国道。妖気の履歴データを見ると、8時間ほど前に小さな交差点付近で反応が出ているが、特に異変は感じられない。


「やはり・・・目視では解らないか。」


 バイクから降り、交差点歩道で地面に手を置き、大地の気の流れを探ってみる。3mほど離れた場所に反応があったので、特定された位置に護符を置き、空に印を切って鬼印を潰す。

 履歴から、ある程度の位置は確認できるが、やはり、ピンポイントで見付けるには労力を必要とする。決して難しい動作ではないが、1日に20回程度が限界。紅葉ちゃんと行動を共にする安易さを考えると、凄まじく燃費の悪い活動になってしまう。



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