6-7・歩み寄り
-21時過ぎ-
入浴を終え、寝室に宛がわれた和室に荷物を置いて、爺さんの居る茶の間に戻り、狗塚の姿が無いことを確認してから、縁側の障子戸を開けて土蔵を眺める。
「アイツは、また物置の閉じこもっているのか?」
「ああ。護符作りやら、鉱石への念封をやっておる。」
狗塚に見下されている自覚はある。紅葉と狗塚の反りが全く合わないことも把握している。だが、黙々と努力をしている彼を見ると、高飛車なだけの嫌な奴とは思えない。しばらく土蔵を眺めたあと、卓袱台に戻って爺さんと向かい合わせに座った。
「なぁ、アイツって・・・。」
「言うたはずやで。狗塚には深入りするなと。」
「・・・うん。そうだな。」
それ以上の追及はせず、テレビを見たりスマホを弄って時間を潰していたら、障子戸が開いて疲れ果てた表情の狗塚が顔を出した。
「風呂、借りますね。」
「おう、ゆっくり浸かってこいや。」
寝転がってテレビを見ていた俺と眼が合うが、狗塚は「相手にしていない」素振りを見せて、縁側経由で隣の寝室に行ってしまった。
「なぁ、ジイさん。アイツって・・・。」
「何度も言うたで。狗塚には深入りするな。」
「うん、それは解ってる。
だけどさ、何も知らないままだと、どう歩み寄れば良いか解らないというか、
しばらくは、鬼印探して、チームで動くことになりそうなのに、
紅葉とアイツが喧嘩ばっかしているのは拙いと思うんだよな。」
深入りせず、ビジネスパートナーの対応が望ましいのは解るけど、上手く割り切れない。俺と狗塚だけの関係なら、疎遠を通せるかもしれないけど、お子ちゃまの紅葉が間に挟まって狗塚に突っ掛かるので、よく解らないままでは仲裁に入りにくいのだ。
「それもそうやな。せやったら、奴の宿命を少しだけ説明しとく。
数ある妖怪の中でも頭抜けておる‘三大妖怪’と呼ばれるヤツ等がおる。
約900年前、三大妖怪の一角である大天狗を封印したのが、狗塚の家系や。」
以降、狗塚家は陰陽師の名門として、強大な天狗の力を武器として、朝廷を支え続けることになる。その過程で宿敵となったのが、度々、圧倒的な戦闘能力と賢しい知力を使って権力者を危機に陥れた鬼族だった。
「先祖代々、天狗の力が封印されたの妖幻システムで鬼と戦ってたってことか。」
「妖幻システムを使うようになったは、
奴の祖父の時代に、退治屋が開発してからや。」
皇族直轄の狗塚家と、明治以降に政府の非公開組織として立ち上げられた退治屋は、全くの別物。しかし、陰陽師としての優秀な血が薄まり「枯れた家系」に危機感を持っていた狗塚雅仁の祖父は、退治屋に妖気祓いの一定の知識を提供する代わりに、技術協力を依頼した。その結果として開発されたのが、天狗の力をメダルに封印して使用が可能になった妖幻ファイター。
「枯れた家系や言うても、妖幻システムを扱う同条件では、
雑種のような一般の退治屋に比べれば、血統書付きの狗塚の才能は頭抜けていた。
そやから、狗塚は、退治屋に加わることはなく、
一定の協力協定を結び、独自に鬼退治を続けたんや。」
だが、狗塚家は、独自路線を通し続けられなくなる。約20年前、狗塚家は、雅仁を残して、鬼族に滅ぼされた。
まだ幼く、技術継承もされていなかった狗塚雅仁は、退治屋に引き取られて育てられる。彼が、鬼を恨み、周りの眼に対してコンプレックスを抱くようになったのは、それ以降になる。
「様々な辛いことに直面して、スッカリ、他人を信じんくなってもうたんや。」
俺は、両親共に顕在で、大学卒業までは特に不自由なく平々凡々と育ち、宿命などとは何の縁も無く退治屋に就職した。だから、狗塚が背負っている宿命は想像できない。でも、「何も背負っていない呑気で身軽な者」と格下に見られてしまう理由は少しだけ理解できた。
「アイツ、また、俺の布団を排除しているんだろうな。」
膝歩きで茶の間を移動して襖を開けたら、案の定、狗塚の布団は部屋の真ん中に敷き直されており、俺の布団は隅に追いやられていた。
「ムカ付くけど、報復合戦をしたらギスギスしたまま・・・だろうな。」
2組の布団を均等間隔に敷き直してから、自分の布団に寝転がってスマホを弄る。やがて、入浴を終えた狗塚が戻ってきて、何も言わずに眺め、荷物の整理を始める。会話は一切無いが、とりあえず、現状を受け入れてくれたようだ。
-翌朝-
昨日と同じように、狗塚は朝方に起きて再び土蔵に籠もったので、朝食の時間帯には起きてこなかった。10時過ぎに開店中のYOUKAIミュージアムに来て、昨日と同じメニューを注文する。
「飯代を金を払ってくれた方がありがたいけどさ、
朝食くらい、ちゃんと起きて、ジジイの家で一緒に食ったらどうなんだ?」
「余計なお世話だ。」
「朝、健全な時間帯に起きろと言うつもりは無い。
俺だって、休日は、朝飯抜きで寝ていることはある。
眠いなら、朝食を食ってから、また寝りゃ良いじゃん。
だけどさ、爺さんの家で世話になってるんだから、
朝は一緒に食うくらいは、礼儀としてできるだろ?」
「・・・ふん。」
狗塚は答えること無く、ホットサンドを口の中に押し込み、コーヒーを飲んで、食事代を払い、爺さんのいる事務室に入っていった。おそらく、幼い頃に全ての家族を失った為、「飯の時間を共有して楽しむ」という発想が無いのだろう。
「・・・相変わらず無愛想な奴だな。」
その後、狗塚は、単独で鬼印を探す為に出掛けて、戻ってきたのは昼過ぎだった。




