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6-4・目当ては紅葉

-翌朝-


「朝やで。起きんか、燕真。」


 爺さんに声を掛けられて目を覚ます。朝だから明るいのは当たり前なんだけど、明るいを通り越して眩しい。・・・と言うか、目を空けたら空が見える。


「なんで、こないとこで寝とんのじゃ?オマンが夢遊病とは知らんかったで。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・????」

「部屋から追い出されたんか?」


 しばらくはボケ~っとしながら、頭の上に沢山の「?」を浮かべていたが、やがて意識がハッキリしてきた。布団ではなくジャケットを腹に掛けて、庭で寝ていたのだ。


「・・・あんにゃろう」


 飛び起きて和室を覗き込んだら、狗塚が部屋の中央で布団に入って寝息を立てていた。熟睡している間に追い出されたらしい。

 縁側で許してやったのに、庭に放り出すとは何事か?めっちゃムカ付くんだけど、縁側と庭の違いはあるとは言え、先に部屋から追い出したのは俺だし、起床時刻になってから布団を入れ替えても意味が無い。本日の陣取り合戦は、俺の敗北で決まった。


「ちくしょー。敵(?)が居るのに熟睡をしてしまったのがミスだった。」


 その後、朝食の時刻になっても、狗塚が起きてくる気配は無い。見た目や雰囲気には似合わず、随分とルーズなようだ。


「アイツ・・・いつまで寝てんだ?」

「好きに眠らせときや。

 一寝りして、朝方に起きて、まだ土蔵に籠もっていたさかいな。

 念込めの塊か、護符かは知らんけど、随分と作っているようやで。

 お嬢のお陰で‘鬼の印’を苦労なく潰せんのが、余程、刺激になったんやろうな。」

「紅葉のお陰・・・ねぇ。

 天野さんの一件があるし、アイツ(紅葉)が狗塚と、

 いつまでも協力するとは思えないんだけどな。」

「ワシには、天野はんのことがあったさかい、二の舞をせん為に、

 お嬢は意地になって協力しとるように見えるで。」

「確かに・・・それは、言えてるな」


 洗い終えた食器を拭き、食器棚に戻しながら、何度も、狗塚が寝ている部屋の方角を眺める。




-AM10時-


 客が居ない茶店のカウンター内にスタンバイしていると、ようやく狗塚が顔を出した。店内を見廻して、「あれ?」的な表情をした後、カウンターから離れたテーブル席に座る。


「オーダーか?飯を食いたいだけなら、ジジイの家の台所で食え!」

「ホットサンドとアメリカン。

 昨日、言っただろ。食費まで迷惑を掛ける気は無い。飯代くらいは払う。」

「今は客な扱いのワケね。・・・コーヒーはいつお持ちすれば良いでしょうか?」

「パンと一緒で良い。」

「・・・かしこまりました。」


 紅葉の料理の上手さの所為で影が薄くなりがちだが、俺にだって、簡単な料理くらいは作れる。手際良く指定された注文品を仕上げ、トレイに乗せたホットサンドとアメリカンコーヒーを、狗塚の座っているテーブルに並べた。


「源川紅葉は・・・まだ出社しないのか?」

「オマエまで、アイツ目当てかよ?近所の彼女イナイ歴=年齢な連中と一緒だな。」


 狗塚から、「オマエには用は無い」みたいな露骨な表情で「紅葉」を注文されたのがムカ付いたので、「オタク扱い」の嫌味で返す。


「アイツ(紅葉)の朝食が食いたきゃ、夕方4時過ぎに起きてこい!」

「・・・夕方?彼女は、その時間まで、この店には来ないのか?」

「当たり前だろ。アイツ(紅葉)は学生だ。今頃は、高校で授業を受けてるよ。

 オマエ、あんなガキを見て、まさか社会人とでも思ったのか?」

「そうか・・・それでは仕方がないな。

 朝から彼女をアテにして、昨日は護符造りを張り切ったのだが・・・空振りか。」

「・・・護符?」

「あぁ、そうだ。

 さもしい考えしかできない君に説明する気にもなれないが、

 勘違いをして欲しくないので言っておく。

 俺は彼女の飯を食いたくて、此処にいるわけではない。

 彼女と組めば、1日で‘鬼の印’の100や200は雑作もなく潰せる。

 だから、此処にいるんだ。」

「・・・あっそう!」


 狗塚は、「茶店のウェイターの俺に用は無い」のではなく、「退治屋の俺に用は無い」と言っているらしい。実際に、紅葉の能力に比べれば、俺の能力なんてゼロに等しい(・・・てか、ゼロだ)が、出会ったばかりの奴に言われるのは腹立たしい。


「粉木さんは事務室か?」

「そうだよ!それがなんだ!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 それ以上の会話のキャッチボールは一切無し。狗塚は、ホットサンドを黙黙と口の中に押し込み、コーヒーを飲んで、食事代を払い、爺さんが居る事務室に入っていった。

 その後しばらくして出掛けて、2時間くらいで帰ってきたが、俺とは一言も会話をしないので、何処で何をしていたのかは知らない。




-午後4時過ぎ・YOUKAIミュージアム-


「ちぃ~~~~~~~~~っすっ!ぉまたせぇ~~~~~!!」


 紅葉が来た途端に、狗塚が立ち上がる。


「さぁ、行こう!」

「・・・んぇ!?」

「解るだろ?昨日の続きだ!」

「え?今から!?まぁ・・・ィィけど、直ぐに暗くなるょ?

 黒ぃモヤモヤだから、暗くなると、見えにくぃんだょねぇ~~」

「日が暮れるまでで充分だ!頼む!」

「もぉ~!しょうがないなぁ~!」


 紅葉は、連日の‘鬼の印’探しを想定していなかったが、狗塚の熱意に押されて協力を承諾する。


「ょぉ~し!行くょ、燕真!」

「ハァァ?何で俺が!?」 「何故、彼まで!?」

「だってぇ~~・・・燕真が行かないと、ァタシ歩かなきゃぢゃん!」

「コイツ(狗塚)に乗せてもらえ!」 「俺の後ろに乗れば良い!」

「ぇ~~~~~・・・燕真行かなぃのぉ!?なら、ァタシも行かな~い!」

「俺まで出たら、店はどうすんだよ?」

「ぉ店と退治屋さんと、どっちが本業なのぉ?退治屋さんでしょ?

 それに、ぉ店にゎ粉木じぃちゃんが居るじゃん!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま・・・まぁ、そうだけど」

「よしっ!行こぉ!」


 俺が‘鬼の印’潰しで活躍する場面は一つも無いのだが、爺さんから「紅葉の子守は俺の役目」と言われているので、無視もできない。


「何や有るかもしれんし、人数多い方がえぇやろ!

 店は任るさかい、オマンも行きや!」

「・・・メンドクセーな~~~!!」

「素直じゃないのう、燕真!お嬢のご指名なんやから、もっと喜べや!」

「そぉ~だそぉ~だ!」

「喜ばね~よ!オマエ(紅葉)、何様だよ!?

 俺を、オマエ目当ての客共と同類にするな!」


 紅葉に追い立てられて、慌ただしく店から出て行く。



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