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6-3・居候と陣取合戦

-夜・YOUKAIミュージアム-


 複数の鬼が文架市入りをしている可能性がある為、爺さんから「待機状態」が通達された。妖怪事件の警戒が高まると、いつでも出動できるように、アジトに泊まり込むのだ。

 紅葉を家に送り届けて戻ると・・・事務所内に、大荷物を抱えた狗塚が訪れていた。


「此処を拠点にさせてもらった方が、何かと都合が良さそうなので・・・

 しばらくお世話になります。」

「・・・・・・・・・・・・狗塚?」

「まぁ、そう言うことになったらしい。」

「・・・・・・・・・・そういうことって?」

「俺の食費や布団のクリーニング代は、政府に請求してもらって構いませんので。」

「項目が細かすぎて、請求書を作りにくいのう。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・何の話だ?」


 地域の退治屋が狗塚家の活動に協力する事は協定で決められているが、たいていの場合、地域の宿泊施設を利用するらしい。だから、共同生活を依頼された爺さんは驚いているのだ。


「この屋敷には、霊術工房は在りますか?」

「・・・こうぼう?」

「あぁ、庭の土蔵を工房にしとる。」

「え?あれって、物置じゃなかったのか?」

「使わせていただいても良いですか?」

「もちろんや。」


 狗塚は、興味無さそうに俺を一瞥した後、庭に出て土蔵の中を確認する。10畳程度の土蔵内は、土の地面のにシートが敷いてあり、壁は土壁で出来ていた。


「なるほど・・・

 工房の造り、敷地内での風水を考えると、気を整えるには最適ですね。

 早速、使わせていただきたいのですが・・・。」

「あぁ、今日はワシは用が無いから好きにせい。」

「ありがとうございます。」


 狗塚は爺さんに一礼をして事務所に行き、数分後には大荷物を持って庭に戻ってきて、土蔵に入って扉を閉め、1人で隠ってしまった。


「なぁ、じいさん?アイツ、あんなところで寝るのか?」

「まさか・・・奴が隠ったんは、そない理由じゃあらへん。

 えぇ機会や、オマンも説明しとくか。」


 基本的に、妖幻システムや、Yメダルなどのアイテムは、本部から支給(または購入)されている。しかし、全てが本部からの調達されるのではなく、簡易な護符や念を込めた塊は、各退治屋が経費節減の為に個人で作る場合もある。それは、何処にいても作製が可能だが、より霊力を高めやすく、無駄の無い作業をする為に、アジトに‘霊術工房’を設ける事が多いのだ。

 広すぎない範囲で密閉をされており、地面も壁も天然に近い形で維持をされている其処は、工場で作られた化学的な物質に囲まれるより、妖気祓いのアイテムを作るには適していた。


「そっか・・・なら、じいさんも、時々はあの中に隠っていたんだな?」

「あぁ、たまにな。

 疲れる作業やさかい、やるなら寝る前、

 その日の‘余り’を封じ込める程度やけどな。」

「一応聞いとくけど、紅葉にもできるのかな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・恐らく、ワシ等以上に上手くな。

 尤も、お嬢に、そないことさせるつもりは、あらへん。」

「俺だって、紅葉に、そんなことをさせる気はないけどさ。」


 明日以降の護符を作るつもりなのだろう。彼のことは好きになれないが、相応の努力家ってことは把握できた。




-数時間後・粉木邸の和室-


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 何故だろう?風呂を上がって、宛がわれた6畳の和室に戻ってみると、2組の布団が、ほぼ隙間無く敷かれている。爺さんの寝室以外にも、仏壇の間とか、茶の間とか、他にも部屋があるはずなのに、「大して話したことも無い男と並んで寝ろ」って意図なんだろうか?


「クソジジイ・・・何の嫌がらせだ?」


 相部屋にしても、2つの布団の間が密着しているのは嫌だ。2組の布団を移動して間を1mほど空けてから、爺さんが居る茶の間に顔を出す。


「なぁ、ジイさん。アイツと相部屋は勘弁して欲しい。別の部屋を貸してくれよ。」

「ダメじゃ。同じ部屋で寝んかい。」

「なんで?」

「しばらく行動を共にするんや。余所余所しいまんまではチームワークがでけへん。

 膝をつき合わして、少しくらいは解り合わんかい。」

「解り合う?・・・アイツには深入りするなって言ってなかったっけ?」

「深入りをする必要はあれへん。

 せやけど、互いにロクに会話もせえへんのや、話になれへん。」

「まぁ・・・確かにそうだけどさ。露骨に距離を空けてるのはアイツの方だぞ。」

「せやったら、オマンの方から縮めに行けや。」


 互いに寝室に入って寝るだけ。相部屋の相手が大イビキでもかかなければ、神経を尖らせる問題では無い。

 親密にする気にはなれないが、不満なりに一定の納得をしたので、爺さんと共にテレビを見ながら就寝までの時間を過ごす。しばらくすると、縁側の障子戸が開いて、狗塚が顔を出した。その表情には疲れが見える。


「風呂、借りますね。」

「おう、ゆっくり浸かってこいや。オマンの荷物は、隣の和室に運んどいたぞ。

 寝るんも、その部屋を使いや。」

「ありがとうございます。」


 彼は相部屋をどう思うのだろうか?苦情が来た場合は、爺さんは同じように説得をするのだろうか?遠ざかっていく足音を聞きながら興味深く反応を待ったが、隣室でしばらく物音がした後、彼は特に文句を言いに来ることも無く、風呂に行ってしまった。


(へぇ・・・てっきり、嫌がると思っていた。

 無愛想で人見知りに見えるけど、平気なのかな?

 変に嫌がっていた俺の方が、キャパが狭いってか?)


 大人の対応をした狗塚を少し見直し、彼が退出した直後の和室を覗き込んだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 片方の布団は部屋の中央に陣取られており、布団の上には、「ここは俺の場所だ!」と言わんばかりに、狗塚の大荷物が置いてある。しかも、もう片方の布団は、部屋の隅ギリギリに追いやられている。その配置からは、「この部屋の主は俺だ!」という自己主張と、俺への「オマエは端で小さくなってろ」という無言の圧力が感じられる。前言撤回。全然、大人の対応をしていない。


「・・・あんにゃろう」


 奴が部屋でゴソゴソと物音をさせていたのは、布団の配置替えをしている音だった。「同じ部屋で寝るくらいは良いか」と思っていたが、奴と相部屋なんて絶対に嫌だ。俺は我慢をする努力をしたのに、先に仕掛けてきたのはアイツだ。売られた喧嘩は買ってやる。

 狗塚の大荷物を縁側に追い出し、布団一組を縁側に敷いて、もう一組は部屋の真ん中に移動して潜り込んで消灯をする。


 数分後、入浴を終えたアイツから声を掛けられたが、寝たふりをして一切取り合わなかったので、諦めて部屋から出て行った。これで、アイツは縁側で寝るしかない。この勝負は俺の勝ち。俺を怒らせたアイツが悪いのだ。



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