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6-2・天野のメダルと鬼印探し

「一緒に来て、燕真。」

「どこに?」

「こっち!」


 紅葉は俺の手を引っ張って歩き出す。そして、呆れ顔でバイクに跨がっている狗塚の横を通過して、更に50mほど歩き、広い空き地に入って、足裏で地面を叩いた。


「ここだょ!妖幻ファイターになって、モヤモヤを消して!!

 威張りんぼうのクセにバカなアイツ(狗塚)ぢゃ、話になんなぃ!!

 燕真ゎ、ァタシの言ぅの、信じてくれるょね?」

「え?・・・あぁ・・・うん」


 状況的に「信じない」とは言えない空気なので、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌め込もうとする。


「未熟者め!

 ガキの下らない戯れ言を真に受けて、意味も無く妖幻システムを行使する気か?」


 狗塚が呆れた表情のまま、バイクから降りて近付いて来て、紅葉の足元の地面に掌を置いた。


「どうせ、何もあるわけがないが・・・

 俺がこうすれば満足なんだろ、雑用のお嬢さん!?

 その下らない戯れ言に、1回だけ付き合ってやるから、

 今後は2度と俺の邪魔をするな!!」


 だが、数秒後には、狗塚は眼を大きく見開き、「信じられない」と言いたげな表情で、紅葉を見上げる。


「そ・・・そんな・・・バカな?」


 狗塚が護符を置いた途端に、護符は音を立てて弾けた。俺は、その様子を見て、初めて「その位置に俺には見えない何かが有った」と把握する。


「・・・君、名前は?」


 立ち上がった狗塚が、呆然と紅葉を見つめる。紅葉は「言った通りだ!」みたいな勝ち気な表情で、狗塚を睨み付けている。


「源川紅葉!!それが何ょ!?」

「君を見下した事、謝罪させてくれ。」

「やっと解ったか!バ~カ!!」

「言い過ぎだ、紅葉!」


 狗塚がポケットに手を突っ込んで、一枚のメダルを紅葉に差し出す。そのメダルには『天』と『鬼』の文字が表示されていた。先ほど封印した天邪鬼の封印メダルだ。


「欲しいんだよな?君の要求を受け入れるよ。」

「天野のじぃちゃんのメダル?」

「・・・え?いいのか?」

「だけど条件がある。鬼の印探し・・・手伝ってくれないか?」


 狗塚は深々と頭を下げる。俺には、彼の豹変ぶりが理解できない。


「ど~しよ、燕真?」

「(まるっきり蚊帳の外の)俺に聞かれてもなぁ・・・。」

「狗塚・・・お嬢は部外者やぞ。」

「承知しています。だから頼んでいるんです。」


 退治屋と狗塚家の間には、「退治屋は狗塚の要請に応じて任務を手助けする」という協定がある。だが、紅葉は退治屋ではないので協定による助力の強制はできない。だから、本人の同意が必要なのだ。


「お嬢はどうしたい?」

「よくワカンナイ。どうすればイイ?」

「手伝ってやれるか?」

「ジイちゃんが、そうしろって言うなら、手伝ってあげてもイイけど・・・。」


 狗塚を信用していないらしく、普段なら即座に「面白そう」と首を突っ込む紅葉が戸惑っている。


「ワシは、お嬢を退治屋にする気はあれへん。

 手伝わすんは、お嬢の時間に都合が付く時だけ。

 オマンの都合で、お嬢を振り回さん。」

「はい、それで構いませんよ。」

「文架に複数の鬼が入っているなら、文架支部だけでは対処できん。

 本部への応援要請をするさかい、お嬢に手伝わすのは援軍が整うまでや。

 それが条件でどうや、狗塚?」

「本部が本腰を入れてくれるのなら、何の問題もありません。」

「お嬢・・・そういう訳やから、暇な時にでも手伝ってやれ。」

「んっ!ワカッタ。」

「おいおい、ちょっと待ってくれよ、爺さん。

 紅葉を、そんな危険なことに巻き込む気か?」

「既に鬼が暗躍をしとった場合、今の文架支部の戦力だけでは対応でけへん。

 お嬢を危険から遠ざけた結果、お嬢を含めて都市全体が、

 それ以上の危機に陥るんやったら本末転倒や。

 最大の危機を回避する為に、前段階の危険に飛び込んで摘み取るしかあれへん。」

「まぁ・・・話は解るけど・・・。」

「燕真・・・オマンは、お嬢の護衛や。」

「えっ?・・・俺が?」

「当然やろ。お嬢担当はオマンや。お嬢の安全は、オマンが守るんや。」

「トーゼンでしょ、燕真!ァタシの安全ゎ、燕真が守らなきゃなんだよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 紅葉は俺よりも数ランク強い狗塚と一緒に行動をする。何故、俺が護衛をする必要があるのか解らない。


「アイツ(狗塚)から紅葉を守るってことか?

 アイツ・・・2人きりになった途端に紅葉に手を出すような、軽薄男なのか?」

「ちゃうわボケ。

 部外者のお嬢を駆り出すんやさかい、

 お嬢が動きやすいようにフォローしたれ言うてるんや。

 それから、狗塚は幼い時から、陰陽の修行一筋で、女の扱いに慣れてへん。

 お嬢に粗相をせえへんように、オマンが目ぇ見張るんやで。」

「2人きりになった途端に紅葉に手を出すかもしれないっての・・・

 半分当たってんじゃん。」


 ‘鬼の印’が発せられた瞬間に、その妖気は、妖気センサーに反応している可能性がある。ただし、些細な妖気なので、警報音までは鳴らない。つまり、YOUKAIミュージアムのパソコンから、妖気の履歴を遡れば、感知器が設置してある市街地に施された‘鬼の印’は、位置を特定できるかもしれない。


「早急に戻って調べてみるで。」

「では、町中は粉木さんに任せて、

 我々は、センサーで感知をしにくい郊外を調査します。」

「お嬢のこと、危険な目に合わすなや。よく見とき、燕真!」

「あぁ・・・うん」

「ァタシから目を話すなよ、燕真!」

「偉そうに言うな!」


 狗塚の顔など見たくないのだが、想定外の成り行きで協力体制を結ぶことになってしまった。




-十数分後-


 文架市の郊外を、俺と紅葉が乗ったホンダ・VFR1200バイクが先行して、狗塚の駆るヤマハ・MT-10(バイク)が後方を走る。時折、紅葉が、「止めて」と肩を叩くので、言われた通りに停車をすると、狗塚もバイクから降りて近付いてきて紅葉の指定の場所の妖気祓いをする。そして、また、バイクを走らせて、紅葉いわく「モヤモヤ」を探す。

 俺はランダムでバイクを走らせて、紅葉の要請で停車し、狗塚のお祓いを眺める・・・他にやる事無し。


「俺、ツーリングしてるだけじゃん。このチームに必要か?

 狗塚が紅葉を乗せりゃ済む話なんじゃね?」



-約3時間後-


 狗塚が用意していた護符20枚を使い切ってしまい、その日の活動は終了する。


「今日ゎ終ゎりみたぃだから、じいちゃんところのバイトに行こぉ~!」

「急かすな、紅葉!少しは休ませろ!!」

「え~~~~?燕真、運転してただけじゃん!」

「運転中、ずっと無駄に喋りっぱなしのオメーの相手をしてんのが疲れるんだよ!」

「だったら、休ませてあげるからジュース買ってよっ!」

「・・・はいはい。

 オマエ(狗塚)もなんか飲むか!?」

「恵んでもらう筋合いは無い。」

「ジュース1本を貸しにするほどセコくねーよ!」


 ジュースを飲みながら紅葉の無駄話に付き合っている間、狗塚は寄ってくる素振りは見せず、しばらくは「まだ帰らないのか?」的な表情で時々こちらを眺めていたが、やがて待ちきれなくなって1人で帰っていった。


「・・・少しくらい何か喋れよな。」


 彼のことは嫌いだが、協力をするのならば少しくらいは打ち解ける努力をして欲しい。



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