茨城童子の視点・伊原木鬼一
-羽里野山の麓-
「星熊童子ともあろう者が、功を焦りすぎたか。」
同胞・星熊童子が敗北したことを感知した者が居た。炎のように赤い長髪で、背が高い青鬼。鬼族の副首領・茨城童子だ。
「奴等を侮れば、星熊童子の二の舞と成ろうな。
しばらくは、迂闊な動きは控えた方が良さそうだ。」
その場に片膝を付き、掌を地面に充てて呪文を唱える。掌から地面に禍々しい闇が灯され、直ぐに地面に消えた。
「我らの存在を隠す為に、他の妖怪を呼び寄せる呪・・・
もうしばらくの間、退治屋共の警戒は‘他’に向けてもらう。
・・・御館様の復活まで!!」
立ち上がり、もう一度羽里野山の山頂を見つめたあと、踵を返して、その場から立ち去る。
・
・
・
-翌日・優麗高-
妖怪の中でも、上位種族に位置する鬼は、念などの依り代も、憑依物も必要とせず、人間に化けて、社会生活に身を隠すことができる。
「伊原木先生、おはようございます!」
「あぁ、おはよう。」
登校中の女生徒の声に、挨拶を返す。
私は人間に擬態をして、伊原木鬼一と言う偽名で、優麗高を含む文架市の幾つかの高校で古文を教えている非常勤講師をしており、本日は1限目から優麗高で3年生の授業がある。
各校の女生徒共からは「イケメン」「クール」「スマート」などと評価をされ、男子生徒からは「性格が悪そう」「根暗」と陰口をたたかれているらしい。だが、どの単語にも興味は無い。偽りの姿がバレなければ、それ以外はどうでも良い。
(この学校で再び騒ぎを起こすのは目立ちすぎる・・・まだ危険か。)
伊原木鬼一とは、人間社会に身を隠す為に都合の良い姿。私は、人間如きとの共存を望んでいるわけではない。
-数ヶ月前-
大江山で狗塚の倅の奇襲を受けたあと、最初に文架市に辿り着いたのは私だった。
文架市は、妖気溜まりが発生しやすく、且つ、龍脈が整っており、傷付いた体を癒すには丁度良い土地だ。しかしそれゆえに、妖怪対策を専門とする退治屋が常駐をしており、目立った活動はやりにくい。
一刻も早く傷を癒し、御館様復活の儀式を再開したい私は、息を潜めながら、短期間で傷を癒す一計を案じていた。
「意図的に小者妖怪を呼び寄せ、退治屋の視点をそちらに向けさせる。」
元々、妖気が溜まりやすい此の地(文架市)ならば、1~2度、妖怪を発生させてやれば、今度はその邪気に引かれて、別の妖怪が自然発生をしやすくなる。
「退治屋が、小者達と争っている間に、奴等の目を潜り抜け、
且つ、私が行う被害の原因を小者妖怪達に押し付け、体力を回復させる。」
十代中半から二十歳くらいの若くて強い生命力は、美味く、傷の治癒にも効果がある。それらが、数多く集う場所が中学校~大学になる。
私は、「若い生命が集まる」をクリアした上で、霊気が堪りやすい龍穴に建つ場所に眼を付けて潜入をした。慰霊碑を崩して地霊を暴走状態にして、妖怪を呼び寄せる呪印を施す。その呪印が、どのような妖怪を育てるか?結果的に、蜘蛛の妖怪が発生をした騒ぎなど、一切興味が無い。とにかく、自分達の身を隠す程度の妖怪騒ぎが起こり、小妖が本体に捧げる為に運んでいる餌のうちから幾つかを奪い取って、自身の糧にすれば、それで目的は達成される。
たまたま忘れ物を取りに来た古文担当の中年教師に姿を見られてしまったが、肉体ごと生命をもぎ取り、「私がやった」という証拠は隠滅したので、何の問題も無い。あとは、数日後に、この学校で起きる妖怪騒ぎの一端として片付けられるだろう。
「古の文学か?潜伏の手段としては、悪くないな。」
古い時代から生きている私にとって、古文は日常に近い文字である。怪しまれずに『活きの良い餌場』に紛れ込む手段として、今しがた奪い取った生命の‘後任’を選択した。
退治屋に所在を突き止められない為、日常的には妖気を完全に絶ち、一般人に成りすましている。慎重に慎重を重ね、退治屋の行動を遠くから眺めているだけ。
だから、発生した妖怪がどう討伐されたのか、その詳細は解らない。ただ、初動の遅さから「退治屋は未熟である」、そしてそのワリに人間の被害が少ない事から「未熟を補う適確な能力がある」だけは把握をした。
-回想終わり-
(熊童子に続いて、星熊まで喪失したのは痛い。
来たる決起の前にして、これ以上は戦力を欠くわけにはいかん。)
頼りになる同志は、熊童子、星熊童子、虎熊童子、金熊童子。そのうちの熊童子と星熊童子は、憎き狗塚の倅に倒された。虎熊童子と金熊童子が日本の何処に逃亡したのかは不明だが、勝手に動き廻って退治屋と交戦をする前に招集せねばなるまい。




