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粉木の視点・紅葉の才能

 ベテランの退治屋や、陰陽道の名門・狗塚かて、銀塊内封値の的確な把握や、全く無駄のあれへん霊封やらでけへん。せやけど、陰陽を何一つ学んでへん嬢ちゃんは、見様見真似で楽々とやってのけた。

 それだけちゃう。天野の正体やら簡単には解れへん。彼は、そない上手う人間に擬態してる。せやけど、嬢ちゃんは、目視だけで彼が天邪鬼と見抜いた。


 やっぱ、源川紅葉の才能は異常や。


 燕真には嬢ちゃんの危険性は伝えたけど、嬢ちゃん本人には伝えてへん。自制をを促す為にも本人にキチンと説明するべきかもわかれへん。せやけど、彼女の行動理念は‘正義感’や‘平穏’やなしに‘興味’と‘欲求’や。自分の才能を知った彼女が‘特殊な力’に慢心をする可能性はごっつ高いように思える。



 鬼の全滅を宿願とする狗塚雅仁が文架市に滞在をしてる。そやさかい、天野はんには「家でおとなしゅうせんかい」て言うてんけど、我が家に遊びに来よった。

 天野はんを温和しゅうさせて安全を守りたいと同時に、天野はんと狗塚が絡んだら、その争いに燕真や嬢ちゃんが巻き込まれ、深入りをしてまう可能性がある。ゆえに、天野はんには派手な活動は謹んで欲しい。

 早急に追い出すほど邪険にもしにくいさかい、一緒に朝飯を食べながら、改めて説得をすることにした。


「しばらく文架市から離れようと思っている。」


 天野はんは、考え無しに訪れたのやなしに、別れを告げに来たようや。

 今の文架市には、けったいな妖気が漂うとり、龍脈に集まる妖気も、これまでとは比較になれへんほど濃い為、妖怪の発生率が急激に上がってる。天野はんが、妖気に煽られて正体を隠しきれへんくなる可能性かて少なからずある。静かな地を求めで移住をするんはええこっちゃ。ワシが文句を付ける必要は無かったようや。

 

「それでな・・・ちと相談がある・・・。」


 だが、次の提案には面食ろうてもうた。


「移住先に紅葉ちゃんを連れて行きたい。」

「はぁ?・・・オマン、何言うてるんや?」

「紅葉ちゃんの危うさ・・・オマエが気付かないわけがないよな?」

「ワシを誰や思てる?

 気付いてるうえで、危うい方向にこけへんように見守ってるんや。」

「そうか・・・ならば、何も言うまい。」


 会話のキャッチボールはあれへんまま、ワシ等は黙々と飯を食べ続けた。やがて、燕真と嬢ちゃんが訪れて朝食に参加した為、天野はんは、本人を直接勧誘する。


「旅行ってこと?2泊くらい?」

「いや、しばらくは戻らんつもりだ。」

「色ボケジジイ。・・・応じられるわけ無いだろ。」

「ァタシゎ燕真も一緒ならイイケド、ママが許してくれるかな?」

「許可が出るわけねーだろ!」

「そうか、それは残念。オマエ等なら、納得してくれると思ったんじゃけどのう。」

「納得できる部分が一個も無ーよ。」


 一般的な高校生が、今の生活や家族をほかして知らん老人と共に移住するわけがあれへん。案の定、天野はんの提案は却下された。まぁ、当然やろう。・・・ちゅうか、嬢ちゃん本人やなしに、燕真が率先して断った。男心なのか、保護者面をしてるのかは解れへんが、おそらく両方やろう。

 その後、狗塚から電話が来て「挨拶に来る」て言うたさかい、鉢合わせになれへんように、天野はんを車で 自宅に送ることにした。


「紅葉ちゃんが家まで送ってくれるなら、おとなしく帰ろう。」

「ァタシが?」

「家には、鬼の頭領から賜った褒美があるぞ。」

「おぉっ!見たぃ見たぃ!!ジイちゃん、ァタシも行ってイイでしょ?」

「しゃーないのう。」


 この場で、嬢ちゃんを「連れていく」「連れていけへん」で揉めるんは、あきらかに時間の無駄や。天野はんは、少女を家に連れ込んで悪さをするような性根の腐った人格ちゃうさかい、嬢ちゃんに危険が及ぶことはあれへんやろ。ていよう帰宅させる為に、天野はんのワガママを受け入れることにした。

 燕真に店番を頼み、車に天野はんとオマケの嬢ちゃんを乗せ、天野宅のある羽里野山の麓を目指す。




-二十数分経過-


 車窓の風景が市街地から郊外に変わったあたりで、それまで助手席で「あの場所ゎ行ったことある!」だの「そこゎ今度行ってみたい」やらと休むことのう無駄に喋り続けとった嬢ちゃんが、突然、声色を変えた。


「車、止めてっ!」

「なんやっ!?」


 慌てて車を路肩に寄せて、ブレーキを踏む。


「チョット待っててねっ!」


 嬢ちゃんは、シートベルトを外して車外に飛び出し、靴が汚れることやらお構い無しに道路脇の畑に入り、しゃがんで片手で地面を触れた。

 一連の行動に一切の説明があれへんさかい、何してるのか全く理解がでけへんまま、車内から眺める。


「なんや、お嬢?畑に実ってるもんでも、もいで来るつもりかの?」

「ほぉ~・・・粉木にも解らんか?」


 しばらく地面を触っとった嬢ちゃんが、なんべんも手首を振りながら戻ってくる。


「こりゃダメだぁ!」

「なんや?食えそうなもん無かったんかいな?」

「違ぅ違ぅ!ァタシ、野菜なんて盗らなぃよぉ!そんなにビンボーぢゃなぃもん!

 ジイちゃん、お祓いセット持ってる?」

「・・・お祓い?」

「地面の中に隠されてるから解りにくぃんだけど、

 ぁそこに、変なモヤモヤがあるの!

 車から見た時ゎ、変な黒ぃ湯気みたぃに見ぇて、

 もしかしたらって思ったら、やっぱりそぅだったょ!

 でもちょっと、手ぢゃ取れそぅになぃんだょねぇ!」

「天野はんにも見えとったんかい?」

「あぁ、見えてる。わしは鬼じゃからな。尤も、近寄りたくはないがな。

 わしのような小鬼が、あんな危ないもんに触れたら、

 精神を丸ごと闇に食われてしまう。」


 嬢ちゃんの言葉足らずな説明だけでは解りにくいけど、天野はんのおかげで、「妖気の塊が有ったから祓え」て言うてること把握できた。トランクルームを開けて祓い棒と護符を取り出し、嬢ちゃんに連れられて畑に入り、指定の場所に護符を置く。


ボシュゥン!

 途端に、地面から闇の呪印が浮かび上がり、護符と共に弾けて消える。嬢ちゃんは無邪気に微笑んでるけど、ワシは動揺を隠すんが精一杯やった。退治屋として修練を重ねたワシには見えへんかった妖気の位置を、嬢ちゃんは正確に把握をしとった。生唾を飲み、目の前の嬢ちゃんと、車内の天野はんを交互に見つめる。


「・・・なぁ、お嬢」

「ん!?」

「人には見えんもんが見えとること・・・

 今みたいな、隠された‘呪印’が見えること・・・

 あまり、口には出さん方がえぇで!」

「なんで?」

「周りから、変な眼で見られるからや。」

「ん~~・・・?粉木のじぃちゃんだって、人には見えないのが見えるんでしょ?」

「あぁ・・・せやけど、お嬢ほどやない。

 えぇか、お嬢?

 見えんもんが見えると言うんは、ワシと燕真の前だけにしときや。」

「良くワカンナイけど解った。」

「約束やで。」

「ぅん。」


 現状をどう解釈したらええかの決められんと、その場しのぎと理解しながらも、なんしか「他人には知られへんようにする」っちゅう判断しかでけへんかった。


「行くねん、お嬢。」

「ぅんっ!」


 一連の作業を終え、車に乗り込み、ウィンカーを点滅させて路肩を離れ、再び天野宅を目指す。

 せやけど、その後も、嬢ちゃんが「あそこの木の根元!」やら「あの橋の下!」やらと、たびたび停車を要求して、計3箇所の闇祓いをした。その結果、片道で45~60分程度の行程が大幅に遅れてまう。

 妖気の塊が、これ程に発生をしてるんは初めての経験や。あきらかに、ワシが把握をできてへんなんかが起こってる。


「なぁ、天野はん?

 道中の妙な妖気の塊、今までも、あないもんが、量山あったんかいな?」

「いや・・・増えたのは、ここ最近じゃな。」

「いつ頃からや?」

「羽里野山の鬼退治以降じゃな。」

「星熊童子が施したちゅうことか?」

「いや、星熊が倒れて以降も、呪印は増えている。」

「他にも、鬼が文架市に入り込んどるっちゅうことか?」

「・・・そうなるのう。」


 討伐された星熊童子以外にも、鬼の幹部クラスが文架に入り込んでると解釈して間違いなさそうや。


「天野はん、やっぱオマンは早急に文架から離れるべきやな。」

「数日中に去るつもりだ。

 『紅葉ちゃん移住させるべきだった』ってことにならんように、

 しっかり見守れよ。」

「ああ・・・目は離せへん。」


 鬼族の天野はんが妖気の塊を見付けたことは理解の範疇としても、嬢ちゃん能力はあきらかに異常や。索敵、子妖祓い、銀塊への念封、どれを見ても、才能ちゅう言葉では処理できへん。人間としての能力を逸脱してる。

 氷柱女や天邪鬼の存在は、本部には報告せず、独断で見逃し、問題を起こせへんように監視を続けてきた。同様に、嬢ちゃんのことも、わしの監視下に置き、本部に報告する気は無かった。本部には「少しばかり霊感の強い娘がサポートをしてる」てしか伝えてへん。

 せやけど、ほんまにそれでええんか?今後も独断で処理できるんか?ワシは漠然とした不安に包まれとった。

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