5-5・狗塚との協約
-3時間後・午前11時30分-
「おっせぇ~なぁ~。どこで油売ってんだ?」
どう長く見積もっても2時間以内に戻って来られるはずの爺さんと紅葉は不在で、昼過ぎに来るはずのインテリ系イケメン=狗塚雅仁は既に訪れて、カウンター席に座っている。
(ジジイ共がマイペースすぎるのか、コイツがせっかち過ぎるのか・・・?)
店内が混んでいれば狗塚1人に構う必要は無いのだが、こんな日に限って、他に客は居ない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
爺さんから「深入りするな」と忠告を受けているので、何を話したら良いのか解らない。彼も全く話し掛けてこない。死ぬほど間が保たない。いきなり「昨日のドラマ見たか?」とか「どんなアイドルが好きなんだ?俺は、アイドルじゃないけど、清原果緒里ちゃんのファンだ!」なんて話題は、どう考えても不自然だろう。
爺さんだけでなく、紅葉まで手放したのは失敗だった。こんな時こそ、空気を全く読まず、相手の都合など一切お構い無しに、無駄に話を弾ませる紅葉がいてくれると、かなり助かるのだが・・・。
(あ~・・・早く帰って来ね~かな~~~。)
度々、掛け時計の秒針眺めたり、スマホを弄ったり、意味も無く洗い物をするくらいしか、間を持たす手段が無い。
-12時30分-
ようやく、紅葉が帰ってきた。店に入ると同時に寄ってきて、早速、マシンガントークを開始する。
「ねぇ、燕真!
天野のお爺ちゃんのおうちの庭に、妖怪のオヤブンの手型が付いた岩が有ったよ。
ちゃんと、大っきい手型が付いてんのっ!凄くね?張り手したのかな?」
「岩?」
「うんっ!1mくらいの岩!」
「天野さんの手型じゃないのか?」
「ァタシも最初ゎそう思ったんだけどチガウんだってさっ!
手型って、旅をして、関所を通る時に見せると、通って良くなるヤツだよね?」
「それは通行手形。手型が付いた1mの岩を担いで旅をするヤツなんていねーよ!」
「それでね、ァタシが欲しがったら、くれるって言ってくれたのに、
ジイちゃんがダメって言うの!」
「えっ?岩をもらうつもりなのか?」
「うん、もらうつもり!
ァタシのおうち、置く場所無いし、持って帰ったらママに怒られそうだから、
喫茶店か、博物館か、ジイちゃんの部屋に飾ろうと思うんだけど、
どこがイイと思う?」
「ジジイの押し付けるつもりか?そりゃ、ダメって言うだろう。」
「なら、燕真のお部屋でもイイよ。」
「嫌だ!」
「飾ってくれたら、毎日、見に行ってあげるよ。」
「尚更、嫌だ!」
「アミやミキやユーカにも見せてあげたいのっ!」
「俺の部屋を、オマエと友達の溜まり場にする気か!?
・・・てか、そんなデカい岩を、どうやって運ぶ気だよ!?」
紅葉から少し遅れて入ってきた粉木の爺さんを見るなり、狗塚雅仁は立ち上がって一礼をする。
「ご無沙汰しています。星熊童子の情報、ありがとうございました。」
「鬼は、オマンの専門やからな。連絡を入れんわけにはいかんやろ。」
「早速ですが、粉木さんに頼みたい案件がありまして・・・」
「それは・・・言うまでもなく、同業者として・・・ちゅうこっちゃのう?」
狗塚は、爺さんの問いに対して、首を縦に振る。
「茶店で話す内容でもあるまい。嬢ちゃん、しばらく店番頼むねん。」
「リョーカイっ!」
爺さんが狗塚を事務室に案内してから俺に「入れ」と目配せをしたので、3人分のコーヒーを準備してトレイに乗せて入室しようとしたら、紅葉に呼び止められる。
「ねぇねぇ、燕真にだけ、特別に見せたげる。」
「ん?」
「んへへっ!天野のお爺ちゃんにもらったの。」
紅葉がポケットから引っ張り出して見せてくれたのは、『酒』と書かれたメダルだった。
「妖怪を封印したメダル・・・か?」
「やっぱ、そ~だよね?
天野のお爺ちゃんとゲームして勝ったらくれたの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「両手のどっちかにメダルを隠して当てるゲームでね、
20回連続で当てたら、御褒美くれるって言ったんだよ。」
「20連続?当てたのか?」
「うんっ!ァタシ凄くね?」
1/2を20連続で当てる確率は約1/100万。例え紅葉の勘が冴えていたとしても無理だろう。おそらく、天野老人が紅葉にプレゼントすることを前提にして、解りやすいくなるような手心を加えてくれたのだ。
「天野のお爺ちゃん、コレがァタシを守ってくれるって言ってたよ。
くれる代わりに『粉木の爺ちゃんにゎナイショにしろ』だってさぁ。
でも『燕真にゎナイショ』って言われなかったから教えたげるの。
天野のお爺ちゃんとの約束だから、ジイちゃんにゎナイショにしてね。」
「ああ・・・うん・・・。」
何故、天野老人が妖怪を封印したメダルを持っているのか?そもそも、本物の封印メダルなのか?気になって触れようとしたら、事務室の扉が開いて爺さんが顔を出した。
「何してるんや燕真、ちゃっちゃと来んかい。」
「ああ、ちょうどコーヒーが準備できたところだ。直ぐ行くっ。」
催促をされて事務室に入る。爺さんと狗塚はソファーに向かい合わせで座っていたので、テーブルにコーヒーを並べたあと、爺さんの隣に腰を降ろした。
「オマン等、初対面やないんやろけど・・・自己紹介くらいせいや。」
「狗塚です。」
「佐波木です。」
互いに簡潔すぎる自己紹介しかしないので、爺さんはやや呆れ顔だ。
「もう解ってるやろうけど、コイツ(燕真)はワシんとこの若いもんや!
文架の妖幻ファイターの任は、コイツに任しとる。」
「もう1人の女の子は?」
「あれは、簡単な雑用をしとるだけ・・・退治屋やあれへん。
部外者みたいなもんや。」
「てっきり彼女が、アナタの愛弟子かと思っていました。
かなり高い才能が有るように見受けられましたからね。」
狗塚の見立てはほぼ正解なのだが、少しだけイラッとしてしまう。だが、狗塚は、俺の仏頂面には目もくれず、淡々と話を進める。コイツ、俺には全く興味が無いのだろうか?
「粉木さん、早速、本題なのですが・・・。」
「わかっちょる。情報の共有やろ?」
「話が早くて助かります。」
俺が所属をしている退治屋と、先祖代々の宿命を背負う狗塚家は、技術の共有はしているが、理念や目的は全く別物だ。
退治屋は、政府の非公開組織。東京の本部から派遣をされ、担当地域の安全を守り、給料を貰って生活をしている。
狗塚家は、古から続く大王直轄の家系で、一箇所に土着はせず、全国各地を飛び回って政権を脅かすモノノケと戦い、政権の守り手を担っている。政権を脅かす代表例が、妖怪でありながら人間と同じ知能を持つ「鬼」であり、いつの間にか狗塚は、「鬼退治の一族」と呼ばれるようになっていた。
早い話、退治屋は地方公務員で、狗塚家は政権の守護者。形式的には、退治屋のトップより、狗塚の方が格上なのだ。
「戦闘協力や、アイテム支援は必要か?」
「できるだけご迷惑は掛けないようにしますが、場合によってはお願いします。」
退治屋と狗塚家の活動地域が重なる場合、無意味な諍いや、混乱や、意地の張り合いを避ける為、地域の退治屋は狗塚家の活動に協力(その際の経費は政権に請求)し、情報を提供するように協定が締結されている。なお、情報提供と言っても、何かある度にいちいち報告をするわけではなく、狗塚からの情報開示が有れば答えたり、地域の妖怪センサーを狗塚の通信機とリンクさせて妖気の発生を共有する程度だ。
「狗塚が名門なんて昔のこと・・・今では、スッカリと、枯れた家系ですよ。」
「ワシ等退治屋と比べて、狗塚の才能が突出しとるんは、今も同じや。
あまり、肩肘を張らず、気にせずにワシ等を頼りや!」
「そう言っていただけると助かります。」
協力要請を終えた狗塚は、特にそれ以上の世間話をするわけでもなく、妖怪センサーと通信機のリンクを済ませて、早々にYOUKAIミュージアムから立ち去った。
「・・・無愛想な奴だ。」
結局、俺とは自己紹介以外の会話すらしていない。相手にされていないような気分で、少し不満だ。窓越しに、専用バイクに跨がって出て行く狗塚を眺めながら呟いたら、背後から爺さんに肩を軽く叩かれた。
「まぁ、そう言うなや・・・
狗塚は、ワシ等のような、気楽な勤め人の退治屋とはちゃう。
アイツはアイツで、大変なんや。」
「・・・住む世界が違うってか?」
納得したわけではないが、「根本が別物の狗塚とは、長い付き合いにはならない」と考え、あまり深く考えないことにする。




