5-4・鬼退治の家系
-YOUKAIミュージアム-
職場に戻ると、紅葉目当ての客数人が、店の前でスマホのゲームをしながら並んで開店を待っていた。彼等は、貴重な収入源だ。最近では、退治屋の稼ぎより、茶店の売り上げの方が良い。今の利益なら、週休3日くらいにしても充分に生活できそうだ。正義の味方一派が、お節介で絡んでくる女子高生の魅力で生計を成り立ててというのは嘆かわしいが、事実なんだから仕方がない。
ちなみに、言うまでもなく稼ぎ頭は紅葉だが、17歳の子供に歩合の給料=高額を払うのも問題有りなので、彼女への支給額は、以前のバイト(マスドナルド)より若干高い(時給で100円アップ)程度に設定してある。紅葉自身、稼ぐことより楽しむことが目的なので、時給に対する不満は特に無い。
「ぁ!ぃらっしゃぃませぇ~~~!」
「お~~~~~~~~~~!!」×数人
店を開け、俺は2階の博物館部門に引き籠もり、紅葉と爺さんが慌ただしく客の対応をして、20時の閉店までの時間が経過をする。
-閉店後-
戸締まりをして、夕方は(天野の前では)聞きにくかった疑問を爺さんに訪ねてみた。
先日は「狗塚には深入りするな」、そして先ほどは「狗塚は甘くない」的な言い様。嫌でも「狗塚」という青年が気になってしまう。
「なぁ、爺さん?
随分と警戒しているみたいだけど、アイツ(狗塚)って、危険人物なのか?
そんなふうには見えなかったんだけどな。」
「へぇ~・・・燕真はそぅ思ったんだぁ?
ァタシゎ、気難しそぅで、あんまり仲良くなりたくなぃ感じがしたょぉ。」
「危険人物ではあらへん。歴とした退治屋や。
せやけど・・・先祖代々、鬼とは宿敵の関係にあり、
鬼に対しては、一切の容赦をせえへん。」
「つまり・・・天野の爺さんは、狗塚に見付かればヤバイと・・・?
でも、今まで1000年以上、退治されずに済んだんだろ?」
「今まではな。せやけど、『今まで』と‘今’は違うで。
今の文架市には、妙な妖気が集中しておる。
龍脈に集まる妖気も、これまでとは比較にならんほど濃い。
妖怪の発生率が急激に上がっとるんは、オマンかて解るやろ。
氷柱女のような人里離れた山奥とは違い、
街中は鬼が隠れ住むには刺激が多すぎるんや。」
「でもさ、狗塚ってのと鬼が宿敵なんてのは、平安時代くらいの話だろ?
先祖代々、未だに宿敵なんて、考え方が古くないか?」
「考えが古くとも・・・狗塚からすれば、そう言うもんなんや。
オマエかて、そない考えなんて理解できんやろ。
せやから、奴には深入りするなと言うとるんや。」
「・・・・・・・・・なるほどな。爺さんが言いたいことは、何となくは解った。」
全部を納得できたわけではなかったが、「俺には理解のできない世界」と一定の理解をすることにした。
-土曜日-
「おはよーっす。」 「ちーっす!」
朝食を頂戴する為に、朝一で紅葉と共に爺さんの家に顔を出す。念の為に言っておくが、紅葉と待ち合わせているわけではない。頼んでもいないのに、勝手にアパートに迎えに来るのだ。
「・・・んんっ!?」 「おや?」
台所に行ったら、既に天野老人が訪れて、食卓に着いていた。
「おいおい、なんで天野さんがいるんだよ?」
「紅葉ちゃんの顔が見たくなってな。」
「ァタシの顔っ!?」
俺は、天野老人のリップサービスを冷ややかに聞き流しつつ、いつも通り茶碗に白飯を盛って、爺さんの隣に座る。
「アンタ、街中を彷徨いちゃマズいんじゃねーのか?
爺さんの言ったこと、解ってねーじゃん!」
「紅葉ちゃんのことでオマエ達に話したいことがあってな。」
「ァタシのこと?」
「なんべんも言わさんといて。その件は、キッパリと断ったはずやで。」
「・・・何の話だ?」
文架市が妖怪関連で騒がしくなってきた。だから、天野老人は市外に離れることにしたのだが、そのお供に、「紅葉を連れていきたい」と言うのだ。
「・・・はぁ?」
「旅行ってこと?2泊くらい?」
「いや、しばらくは戻らんつもりだ。」
意味が解らない。・・・と言うか意味は解るんだけど、そんな提案は有り得なすぎて理解不能だ。
「色ボケジジイ。・・・応じられるわけ無いだろ。」
「ァタシゎ燕真も一緒ならイイケド、ママが許してくれるかな?」
「許可が出るわけねーだろ!」
「そうか、それは残念。オマエ等なら、納得してくれると思ったんじゃけどのう。」
「納得できる部分が一個も無ーよ。」
「ん?佐波木君は、紅葉ちゃんの価値に気付いていないのか?」
「紅葉の価値?なんだそりゃ?」
「ァタシの価値?100万円くらいあるかな?ど~思う、燕真?」
紅葉の見当外れな質問に対しては「もっと価値が有る」と言いたいが、そこはスルーする。天野老人の発言は少し興味深いので詳細を聞こうとしたが、粉木の爺さんが割って入った。
「天野はん、子供(紅葉)の前で話してええこっちゃあれへん。
その件は、ワシが把握しとる。部外者が余計な口出しをせえへんでくれ。
オマンは、自分の身の振り方だけを考えや。」
「ァタシの価値、100万円くらい?」
「50円くらいだ!」
「それヒドくね?ジュース買えねーぢゃん。」
遮られた天野老人は、察して紅葉の話題をやめる。
「なぁ、粉木?」
「なんや?まだなんかあるんか?」
「もし、奴が生きていたら、わしらと人間の関係は、どうなっていたかのう?
わしらと人間が共存する世界は来ていたかのう?」
「その話は禁句や。可能性がゼロの話をしても意味が無い。
そない話をするつもりなら、帰ってくれ。」
爺さんは早々に話を打ち切ってしまった。「奴」とは誰のことだろうか?興味があるが、同時に口を挟んではならないような気もする。
「すまん、すまん。チョット考えてしまってな。」
プルルルルルッ!プルルルルルッ!
固定電話がコール音を鳴らす。妖怪発生時は警報音だし、個人に用がある場合は個人のスマホが鳴る為、店の電話が鳴ることは珍しい。いつもなら、月末の請求書の時期くらいしか鳴らない電話なのだが、今は請求書の時期でもない。
「・・・なんや?」
爺さんは、首を傾げながら受話器を取り、発信相手の声を聞いた途端に天野老人を眺めた。
「・・・・・珍しいのう、どうしたんや?
・・・・・スマンけど、ちと込み入ってるさかい、午後からにしてくれんか?」
受話器を置いた爺さんが、大きな溜息をつく。
「燕真・・・今から、天野はんを自宅に送るさかい、店番頼むで。」
「わしを送る?いきなり、どうしたんじゃ?」
「電話の相手は狗塚や。狗塚が来よる言うさかい、午後からにしてもろた。
オマン(天野)と会わせるわけにはいかんからの。」
「なるほどな、鉢合わせしたら、ややこしくなりそうだな。」
「鬼退治の家系とは会いたくないのう。
紅葉ちゃんが家まで送ってくれるなら、おとなしく帰ろう。」
「ァタシが?」
「家には、鬼の頭領から賜った褒美があるぞ。」
「おぉっ!見たぃ見たぃ!!ジイちゃん、ァタシも行ってイイでしょ?」
この場で、紅葉を「連れていく」「連れていかない」で揉めるのは、あきらかに時間の無駄だ。
「しゃーないのう。」
今の時刻を考えれば、市内の外れに天野を送っても、午後からの訪問者には充分に間に合うだろう。爺さんは、紅葉を伴い、天野老人を追い立てるようにして、車で自宅に送っていった。




