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5-3・天野さん

-数分後-


「あ!燕真!じぃちゃん!こっちこっち!」


 紅葉が大きく手を振って呼ぶ。紅葉と老人は、フードコートのテーブル席で、タコ焼きを食べながら待機をしていた。


「・・・あのバカ。」


 俺は、呑気に手招する紅葉を怒鳴りつけるつもりだったが、爺さんの方が数歩早かった。足早に近付き、紅葉が次の言葉を発する前に、ゲンコツで紅葉の頭を思いっ切り叩いた。鈍い打音と甲高い悲鳴が、フードコート内に響き、紅葉は頭を抱える。


「ぃったぁ~~~~ぃ!!!」

「アホンダラ!

 今回は、ワシの知り合いやさかいええような物の、

 独断で危険に身を晒す行動は慎まんかい!」

「でも~~~~」

「でもやない!!」

「まぁまぁ、娘は無事なんだから、そんなに目くじらを立てなくても良いだろう?」

「ワシ等の話や!オマンは黙っとれ!」


 相席をする老人が取り持とうとするが、爺さんは取り合わない。珍しく怒りを露わにしているので、さすがの紅葉でも反発ができない。


「・・・ゴメンナサ~イ。」


 傍目からは、少女へのDVと見られそうだが、行動が迂闊すぎる紅葉へのオシオキは必要だ。爺さんが叩いてなければ、俺が叩いていた。これで、反省して温和しくなってくれれば気が楽なのだが・・・まぁ、無理だろう。温和しくなっても、せいぜい2~3日程度・・・かな?


「さて・・・張り倒したいんは、お嬢だけやない。オマンもや。」


 爺さんは紅葉の隣に座り、同席していた老人を睨む。老人はヘラヘラと笑っていたが、爺さんの真剣な表情に気付いて真顔になった。

 ‘紅葉への制裁と回収’をして、「はい、終了!帰宅!」と思っていたのだが違ったらしい。何となく「長くなりそう」と察した俺は、ドリンクを4つ購入してテーブルの上に並べ、空いている席に座った。


「なぁ、爺さん?この人は?」

「ワシの古い知人の天野や。」

「こんちは。佐波木です。」

「こっちの、知恵遅れの小娘は源川や!

 ・・・まぁ、もう自己紹介は済んどるかもしれんがな。

 2人とも、ワシんところで、退治屋をやっちょる。」

「じぃちゃん、知恵遅れゎヒドィよぉ~~!」

「だったら、もう少し学習せいや、アホ!」


 それぞれがドリンクに口を付けた後、社交辞令的な会話も無いまま、早速、本題に突入する。


「天野・・・また、出歩きよったんか?えぇ加減にせえよ!」

「また、その話か?解っているんだが、家から出ないってのは暇すぎてな。」

「今の文架市が、以前と違うんは気付いてるやろ?」

「あぁ・・・気付いてる。最近は妖怪騒ぎが頻繁じゃからな。」

「鬼の幹部共まで入ってきた。

 必然的に、退治屋の動きも活性化する。

 解っとるんか?オマンかて、見方次第では、討伐対象やで。

 現に、早速、ワシんとこの若いの(紅葉)に目を付けられおった。

 鬼専門の狗塚も、この地に来おったで。」

「だけど、ずっと隠れているってのは窮屈でなぁ~。」

「・・・悪い事は言わん。そろそろ潮時や。

 隠れているのが嫌なら、文架市から離れい。」

「う~~~~ん・・・それも面倒臭いなぁ~。」


 前置きが無いので話の内容が全く解らない。「目の前の老人は痴呆だから出歩くな」と言っているのだろうか?それにしては、会話の端端に退治屋のワードが出てくるのが説明できない。紅葉が会話を理解しているらしく、所々で「ウンウン」と相づちを打って何となく会話に参加をしているのが、チョットだけ腹立たしい。

 頭の中を「?」だらけにしていると、一定の会話を終えた爺さんが老人の紹介をしてくれた。


「紹介が遅れたな、燕真・・・この老人は、ワシの友人で天野っちゅうねん」

「・・・それは、さっき聞いた。」

「ほれ、この写真見てみい。

 ワシの若い頃の写真や。そいで、隣に写っちょよるんが天野はんや。」


 爺さんは、自分のスマホに画像を表示させて見せてくれた。紅葉が席を移動して覗き込む。ガラケー時代に撮影した画像をスマホに移したのだろうか?かなり荒い画質の画像に、2人のオッサンが並んで写っていた。


「へぇ~!じいちゃん若い。何歳の時の写真?」

「20年くらい前や。」

「ジイさんが50歳くらいの頃か。」

「若い時のじぃちゃんて、マカデミアナッツみたぃ!

 結構イケメンだったんだねぇ~。」

「・・・オマエ(紅葉)の美的感覚では、マカデミアナッツって格好良いのか?」

「イケてるワシの風貌など、今はどうでも良い。

 見て欲しいんは隣に映っちょる天野はんの風貌や。」

「・・・ん?」 「あれぇ?」

「どや?違和感あるやろ!」


 画像と実物を交互に見比べる。画像では、天野より粉木の方が若く見えるが、今は、粉木の方が老けて見える。・・・と言うか、天野の風貌は、今と全く変わらない。


「どういうことだ?」

「天野はんは、ワシがオッサンじゃった頃からジジイやった・・・

 これがどういうこっちゃか解るか?」

「今は、見た目以上に年寄りって事か?」

「そや・・・とうに1000歳は越えちょる。」

「げっはっはっは!もう、何年生きとるか解らんが、まだまだ人生これからじゃ!」

「千!!?嘘を付くな!そんな人間がいるわけ無いだろ!」

「そっか、やっぱり、そのぉ爺ちゃんゎっ!」

「まさかっ!そういうことかっ!!」


 天野老人は、妖怪に憑かれ、他者から精気を吸い上げる術で、若い姿を保っている!そう察した俺は、警戒をして椅子を後方にずらし、立ち上がって構えた!


「そうや!・・・天野はんは、人間やあらへん。

 お嬢が感じた通り、鬼や。鬼が人間を装っておんねん。」

「・・・・・・・・・・・・・・え、鬼!?」

「どうも!本名は天邪鬼と申します。」

「急に立ち上がって、ど~したの、燕真?トイレ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 予想は外れていた。妖怪に憑かれた老人ではなく、妖怪その物だった。それならそれで、「もっと警戒しなきゃなんじゃね?」と思うのだが、「鬼のカミングアウト」を受けても、爺さん&紅葉の対応が変わらないので、平静を装って椅子に座り直して会話を続ける。


「な、なんで、鬼が知り合いに?」

「氷柱女と同じ・・・天野のおじぃちゃんも、悪くなぃヒトなんだね?」

「あぁ、そうや。人間社会に害せず、共存を楽しむ妖怪や。

 人畜無害なただの小鬼、戦闘力で考えれば、氷柱女の方が余程危険なくらいや。

 せやけど、皆が見逃すわけではあらへん!特に、狗塚は・・・な。

 のう、天野はん、オマンだって、それくらいは解るやろ?」

「まぁ、そうだな。狗塚には会いたくない。」

「せやったら、出歩くな。息を潜めて、家に籠もっておれ。」

「解った。そうする。」


 天野老人が一定の理解をしてくれたと判断して、その場は解散となる。天野老人は‘文架市の西方面’行きのバスに乗って帰っていった。



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