5-2・粉木の警告
-数時間後-
紅葉が帰宅をしたあと、俺は改めて爺さんに呼び出された。爺さんはしばらくの無言で茶をすすったあと、重たい口を開く。
「なぁ、燕真・・・お嬢からは目を離しちゃアカンで。」
「危険な目には合わせるなってんだろ!・・・いつだってそのつもりだよ。
子守をさせられる俺としては、迷惑なんだけどさ。」
「ワシが、部外者のはずのお嬢の手伝いを黙認している理由・・・
そろそろ話さなアカンな。」
「・・・え?なんのことだ!?」
「ワシがお嬢を排除せんのは、お嬢から目を離してはマズイからや。」
「どういうことだ?矛盾してないか?
危険だから目を離すなってなら、部外者にしてしまえば一番安全なはず・・・。」
「えぇか、燕真!ワシが危険視しとるのは、お嬢の身の安全やない。
お嬢の才能や。あれは危険すぎる。
妖怪の居場所を適確に見抜いたり、素手で妖怪を祓ったり・・・
初めて会った時から違和感は感じておったが、銀塊の件で確信に変わった。
訓練もしとらん人間に、あない流暢に念なんて込められへん。
狗塚の家系ですら無理や。」
「アイツには、スゲー才能が有るってことなのか?」
爺さんは、深く頷き、目の前にある湯飲み茶碗を銀塊に見立てて握り締め、説明を続ける。
「湯飲みなら、眼で見て、どの程度の茶が入るかを把握して、急須に湯を注ぐ。
湯飲みの1/3にも満たない湯しか準備せんとか、
容積の倍の湯を急須に注ぐバカはおらんやろ。」
「まぁ・・・そうだな。」
「鉱石の場合は、込められる霊気の量は、体積ではなく質や純度で変わる。
触れて感覚的に内空量を把握し、その分の霊気を無駄なく的確に銀塊に込める。
退治屋が結界の訓練をする場合、
最初にするんが、鉱石の内空を少ない誤差で把握することや。
それができんければ、1個の銀塊に必要な霊気量が解らず、
霊力の無駄使いに成ってまう。」
「へぇ~・・いきなり霊力を込めるんじゃないんだな。」
「鉱石に力を込めるんに、10の霊力を放出したとして、
一定の訓練を受けたワシは、7程度の霊力が銀塊に留め、
3は無駄に垂れ流されてまう。
他の退治屋でも5~8程度、
狗塚の家系でも余程の訓練を積んで9を留められるかどうかやな。
訓練を受けておらんければ、1~3しか留められんのが一般的や。
つまりは、鉱石に念を満タンにすんに、
1.1倍から10倍の霊気が必要なんじゃ。」
「・・・・・・・・・・」
「せやけど、お嬢は、訓練も無しに、掴んだ直後に銀塊の内空を把握して、
ほぼ無駄なく、10の霊気を銀塊に込めおった。・・・瞬時にな。」
「へぇ~・・・アイツ凄いじゃん!」
「・・・異常や!ワシの知る限り、あない芸当ができる者など覚えが無い」
「なら、紅葉はなんで?」
「才能としか言い様が無い・・・ただ、あきらかに異常や!」
「考え過ぎじゃないのか?」
「あの才能は、妖怪に気付かれれば、間違いなく目の仇にされてまう!
才能に対して、精神面が未熟すぎやから、いつ、悪に染まるかも解らん!」
「紅葉が悪に?まさか、そんな事は」
「お嬢の行動理念を考えてみい!その理念を色にしたら、何色か考えてみい!
行動理念は人助けや慈善事業やない!お嬢のは興味と欲求や!
純粋がゆえに、今はまだ透明色やけど、
白色か黒色かで言うたら、黒に近い透明や!
せやから、ワシは、茶店や退治屋手伝いの名目で、お嬢を監視下においておる!
好き好んで、あない年端もいかん娘を、
オマンのサポートをさせてるわけじゃないんやで!」
「・・・え?監視!?」
「そや!監視や!!
退治屋に絡んどらんでも、遅かれ早かれ、妖怪には目を付けられる!
せやから、目の届かん所には置けんのや!
燕真、オマンに黙っておったんはスマンかったと思うが、
今後は、そのつもりでいるんやで!」
「紅葉を・・・監視・・・。」
いつの間にか、紅葉と行動を共にする事を‘当たり前’のように感じていたので、爺さんの真意は意外だった。「紅葉が悪に染まる」なんて考えたこともなかったし、今でも「紅葉の限って、その様なことはない」と考えている。だが、勝手な想像であり、何の確信も無いことを、同時に思い知らされていた。確かに、素直で可愛げがある反面、度々、独断や身勝手で衝動的な行動に振り回される俺には、「紅葉が『純粋な白』ではないことを理解ができる。
「解った・・・今後は、少し気を付けるよ。」
その後、しばらくは、平穏な日々が経過をした。最初は「監視をしなければならない紅葉」と、どう接すれば良いのか迷ったが、紅葉の笑顔を見て、いつものように紅葉に振り回されているうちに、自然と、いつもと同じ対応をするようになる。
しかし、更に数日後、無自覚な張本人は、またもやトラブルを持ち込んだ。
-YOUKAIミュージアム-
〈タワシみたいな顔をした鬼っぽぃお爺ちゃんが居たから、尾行してみるっ!
だから、バィトに行くの、チョット遅れるねぇ。〉
「おい、紅葉!
いい加減、勝手なことばかりしてないで、俺がそっちに行くまで・・・・・・」
電話越しに「紅葉の無謀さ」を怒鳴りつけたが、言い終わる前に通話は切られてしまった。相変わらず、こうと決めたら、他人の言う事なんて全く聞く気が無い。しかも、粉木の爺さんから「危険な存在だから目を離すな」と言われたばかりだ。
居ても立ってもいられなくなって、店を飛び出そうとしたが、爺さんが呆れ顔で呼び止める。
「何処に行く気や!?・・・お嬢が何処にいんのか解っとるんか?」
「・・・・・・・・・・え!?・・・・・・・・・・あ!!・・・解らない。」
「ちっとは落ち着かんか、アホンダラ!センサーに妖怪反応は出ておらん!
お嬢が何をほざいたかは知らんけど、慌てんでも大丈夫なんとちゃうか?」
「あぁ・・・うん」
「言うてみい、お嬢は何を言うておったんや?」
事情を説明すると、爺さんは大きな溜息を付いた。
「鬼っぽいジジイ・・・か。
お嬢を捕獲する為に、久しぶりに連絡を取ってみるかいのう。」
爺さんは、カウンター脇の固定電話の受話器を取ってボタンを押し、耳に当てる。
「ワシや、粉木や!
今、何処におるんや?
おまん、ワシの言いつけ守らんと、また街中を彷徨いておるんか!?
・・・・・・・・・・・・
ワシの見当外れなら気にせんでもらいたいんじゃが、
オマンの近くに、二つ結いの娘はおるか?
・・・・・・・・・・・・
今から、そっちに行くさかい、目の前の娘と一緒に待っとれや!」
爺さんは、通話を切って、再び大きく溜息をつく。
「とりあえず安心せい!お嬢の居場所も、尾行相手の正体も判明したで!」
「え?もう解ったのか?」
「下手くそな尾行をする少女がおったから、声をかけて、今は一緒におるんやて。
こまい説明は、みんな揃うてからするけど、
掻い摘むと、お嬢が言うた『鬼っぽいジジイ』は知り合いや!」
「なんだよ、その人騒がせなオチは!?」
店を閉め、俺はバイク、爺さんは車で、川沿いのショッピングモールに向かう。




