狗塚雅仁の視点・結界相殺
-20分後-
山頂に到着後、展望台から山腹を見下ろす。妖気が濃く、結界の干渉力は強い。間違いなく、山頂付近の何処かに鬼が潜伏をしている。
「そこの女の子、危ない!!そっちに遊ぶ場所はない!!戻ってきなさい!!」
「スンマセン、俺が保護者です!責任を持って連れ戻します!!」
「・・・ん?」
怒鳴り声がした方向に視線を向けたら、先程のツインテール少女が立入禁止標示を無視して斜面を駆け降り、監視員が注意をして、彼氏が少女を追いかけている。
「騒がしい奴等だ。
だけど・・・・・・・・・・・いや、まさかな。偶然だろう。」
少女の進行方向に強い妖気を感じる。だが、鬼は野蛮だがバカではない。被害者が出れば、退治屋が本腰を入れて動き出す。潜伏をしているのだから、わざわざ少女1人を食う為に実体化をするようなリスクは冒さないだろう。俺は「少女は妖気を素通りして、そのまま斜面を降りていく」と予想をした。
「潜伏している妖気は2つ。
炙り出す前に、奴等を弱体化させる結界を仕掛けるべきだろう。
問題は、どの程度の範囲に結界を張るか・・・だな。」
数枚の護符を取り出して、小声で呪文を唱えながら呪印を施し、念を込める。
ドォォォンッッ!!
一瞬だけ周囲が闇に包まれるような感覚が発生して山が震えた!木々がざわめき、澱んだ空気が、50m程度下の山腹に集まっていく!
「なにっ?」
禍々しいスモーク状の球体から20m離れた場所にはカップルが居る。彼等に刺激をされた鬼が実体化をしたのだ。
「俺がまだ何もしていないのに炙り出されただと?バカな?」
想定外すぎる事態が発生!まだ、なんの準備も整えていないのに、2体の鬼が出現をした!そのうちの1体は、鬼の幹部・星熊童子だ!
青年が少女を庇いながら構え、朱色の妖幻ファイターへと姿を変える!
「まさかとは思ったが、彼が文架の退治屋だったのか?
澱んだ場所を見極める感知力は見事だが、危険度を見極めずに不用意に近付くのは迂闊すぎる。」
朱色の妖幻ファイターが未熟なことは、危険予知能力の低さから把握できた。ルーキーレベルでは、下級妖怪を数体倒した程度の実績しか無いだろう。最上級妖怪・星熊童子に対抗できるわけが無い。
案の定、朱色の妖幻ファイターは一方的に嬲られ、しかも、星熊童子は、鬼以外を弱体化させる結界を張った為に、武装を強制解除されてしまった。
「やれやれ、世話が焼ける。粉木さんの弟子を見殺しにはできまい。」
鬼共が手札を使う前に、こちらのペースに引き込んで討伐するつもりだった。だが、未熟な文架の退治屋は、鬼共に手札を使われ、丸々、鬼共のペースに引っ張り込まれている。無力な生身のまま、少女を庇って身を盾にする姿は、「男らしい」や「見事」ではなく「無様」だ。
「おかげで段取りはメチャクチャだ。
・・・が、結果的に捜索の手間を省き、
星熊の結界攻略の時間稼ぎをしてくれたことは礼を言わねばなるまいな。」
星熊童子の結界の種類と周波数は把握した。小石サイズの銀塊に、呪文と呪印で結界相殺の力を込める。これで勝ち筋は完成した。
「鬼は皆殺しだ!・・・それが、狗塚家の宿願!」
立入禁止標示を潜って斜面を降り、文架の退治屋と少女を庇うように立って、相殺結界を発動させる。
「なにこれ?一体どぅなってるの?この中にぃると、ザヮザヮしなぃょ!」
彼等の反応には些か驚いた。退治屋の青年は相殺結界による変化に気付いておらず、少女は空気の変化を明確に感じているのだ。ツインテールの少女も粉木支部長の弟子なのか?退治屋の規則で、未成年は従事できない。人格者の粉木さんが、中学生~高校生にしか見えない少女を、危険な現場業務をさせているとは考えにくい。
(どのみち、鬼を退治するまでの接点しか無い。
文架支部の方針など、俺には関係の無いことだ。)
数日前の大江山奇襲では、纏めて倒そうと考えた結果、最も倒したかった最高幹部に逃げられた。だから今回は、欲を出さず、ザコは文架の退治屋に任せ、幹部・星熊童子に狙いをしぼる。
「・・・・幻装っ!!」
《GARUDA!!》
妖幻ファイターへの武装化をして、鳥銃・迦楼羅焔の銃口を星熊童子に向け、引き金を引く!星熊童子は素早く回避をしつつ、弓を装備して矢を射た!構わずに連射して、矢を的確に撃ち落とし、数発の光弾が星熊童子に命中をする!
「随分と動きが鈍い!!残存妖気が少ないようだな!!」
鳥銃・迦楼羅焔の銃身後方を展開させて、『雷』のメダルを装填!発砲した数発の雷撃弾が、星熊童子を追尾して炸裂する!大ダメージを受け、星熊童子の足が止まった!
鳥銃・迦楼羅焔の銃身後方を展開させて、空白メダルを装填!鳥銃・迦楼羅焔の照準を星熊童子に向ける!
「ギガショットッ!!」
鳥銃・迦楼羅焔の中央にある嘴が開き、風のエネルギーが凝縮されて白く輝いた空白メダルが発射され、星熊童子の腹を貫通した!!
「グウォォォォォォォォォン!!!」
星熊童子は断末魔の悲鳴を上げ、全身の力を失って地面に両膝を落とし、黒い炎を上げて爆発四散!撒き散らされた黒い霧は、メダルに吸い込まれて消える!
「素人丸出しの囮に惑わされ、調子に乗って結界を張り、
軽率に妖力を大幅消費させたのがオマエのミスだ・・・が!」
裏を返せば、傷が癒えるまで潜伏しなければならないはずの星熊童子が、惑わされて実体を現すほどの上質な囮だったということになる。
「彼等に、それほどの価値が有る・・・とは思えないのだがな。」
彼等のことは些か気になるが、俺は全国を回る鬼討伐専門の陰陽師だ。地域を守る退治屋とは立場が違う。当然、文架市に腰を落ち着けて、彼等を仲良くする気はない。
勝利を喜ぶ青年と少女に声を掛けること無く離れ、山頂神社の宝物殿を捜索する。しかし、欲する物は無かった。
「鬼がこの地を占拠したからには、近くに‘ある’と思ったのだが、考えすぎだったか?」
仇敵・酒呑童子は、強大ゆえに、18年前の技術では5枚のメダルに分けて封印するしかなかった。1枚は亡き父から託された。3枚は退治屋の本部に保管されている。
酒呑童子は文架しに逃亡をして、文架支部にトドメを刺された。だが、喧騒に紛れて酒呑童子を封印した最後の1枚は紛失をしてしまった。
鬼達は血眼になって酒呑童子を封印したメダルを探しているが、1枚たりとも、奴等に渡すつもりはない。
-深夜-
文架市内の、とある空き地に立ち寄る。周囲に生活音は無く、時々、遠くの道路を走る車の走行音が聞こえる程度だ。
しかし、静まりかえっているからこそ、俺の耳には、一般人には聞こえない忌々しい雑音が聞こえる。その場に片膝を付いてしゃがみ、地に掌を充てて霊気を送り込み、奴等の痕跡を辿る。
「やはり、星熊だけではない。・・・鬼達の胎動が聞こえる!
他の鬼達も、この地に入り込んでいる。」
鬼との戦いは終わっていない。「文架市でやるべきことは終わった」と思っていたが、もうしばらくは滞在をする事になりそうだ。




