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4-8・星熊童子

 紅葉が見ている方向にセンサーを向けると、20mほど離れた場所に、スモーク状の闇の球体が2つほど確認出来た!


「紅葉をビビらせてんのはアレか!?・・・オマエはここで待ってろ!」


 妖刀ホエマルを装備して、闇の球体目掛けて突進をする!


「おぉぉぉぉっっっっっ!!!」


 球体目掛けて妖刀を振り下ろした!しかし、中から赤くて太い腕が出現して、妖刀の切っ先を受け止める!気が付くと、2つ在ったはずの球体は1個しか見えない!

 見失った球体は、いつの間にか真後ろに在った!白い足が出現して、背中に蹴りを叩き込まれる!


「わぁっ!!」


 弾き飛ばされて斜面を転がる!適当な幹に捕まって滑落を止め、起き上がって球体を睨み付けた!


「ガッハッハッハッハ!随分と未熟な退治屋だ!!」

「鬼の結界内にも関わらず、我ら相手に何の策も持たずに来たようだな。

 それほどの自身があるのか、それともただのバカか?」


 闇の球体から、その者達は出現をした!身の丈2mを越える2匹の人型妖怪!

 片方は、巨漢で、赤銅の肌、頭に大きな1本角を生やしている。

 もう片方は、赤銅の巨漢よりスマートで、白い肌に、灰色の髪と、頭に2本の角を生やしている。一見すると、2本角の方が理知的で人間に近い外見をしている。だが、その眼は、冷たく、近付いただけでも命をもぎ取られるような、圧倒的迫力を持っている。

 妖怪の知識が乏しい俺でも、それが‘鬼’と呼ばれ、古来から恐れられた存在である事は、直ぐに理解出来た。


 妖刀を構え直し、鬼達を警戒しながら一歩一歩間合いを詰める。しかし、2本角の白鬼は、「目の前の俺など眼中に無い」と言わんばかりに、見守っていた紅葉に目を付けた。


「なるほど、我らの潜伏を的確に暴いたのは、あの小娘か?」


 冷たい笑みを浮かべ、ゆっくりと斜面を登る白鬼!俺は「紅葉が狙われてる」と察して斜面を駆け上がり、宙返りで赤鬼を跳び越え、白鬼に斬りかかった!しかし、妖刀を振り下ろした瞬間には、白鬼は俺の真後ろにいた!


「は、早いっ!!」

「遅すぎる。」


 後頭部を鷲掴みにされて、スリムな体躯に似合わぬ怪力で軽々と持ち上げられ、まるでゴミでも捨てるかのように斜面下に放り投げられた!再び斜面を転がり、妖刀を突き立てて滑り止めにして、白鬼を睨み付ける!

だが、白鬼は、一瞥もせずに、紅葉に近付いていく!その「俺なんて眼中に無い」って態度が癪に障る!


「ふざけんなぁぁ!!!」


 妖刀を振り上げ、30mほど先にいる白鬼に突進しようとした瞬間、白鬼は俺の目の前に居た!凄まじく重たい拳が腹に打ち込まれている!


「うるさい。騒ぐな小僧。」

「グゥゥ・・・ガハッ!!」

「鬼の結界内では能力が半減することも知らぬような未熟者には興味はない。」


 たった一撃喰らっただけなのに、胃液が逆流しかけ、意識が混濁して、目の焦点が定まらない!だが、未熟扱いをされて、笑って引き下がれるほど根性無しではない!!


「バカにすんなぁぁっっ!!!」


 半ば自棄っぱちで妖刀を大振りする!しかし、次の瞬間には、白鬼の2撃目の拳が、腹に叩き込まれていた!全身の力が抜け、妖刀を手から滑り落とし、その場に両膝を着く!

 白鬼は「虫の駆除は終わった」程度の興味しか示さず、再び、紅葉に視線を向けて歩き出そうとして足を止めた。


「・・・なに?今のデタラメな一振りが?」


 その右肩からは、血が噴き出すようにして、一筋の闇が上がる。俺が振るった一閃が掠っていたのだ。


「妖怪殺しの剣、吼丸か。なるほど、扱う者は木っ葉だが、武器は上等。

 ・・・念の為、調子付かぬように、封じておくか。」


 白鬼は、拳を上に向けて握り締め、頭上高く掲げて、獣のような声で大きく吼えた!すると、空気が弾け、冥く澱んで重たい空気が、白鬼を中心に半径50mほど、山頂展望台辺りまでを包み込む!紅葉が危険視していた2つめの結界が発動したのだ!

 山頂監視係、ロープウェイ管理人、売店の売り子さん、軽食店の店員さん等々、闇の干渉下に落ちた人々が、次々と目眩を起こして倒れていく。


「・・・くっ!」


 妖幻ファイターの武装が蒸発するように消えて、俺は生身に戻ってしまう!


「・・・なに?」

「燕真っ!!」


 異常を察知した紅葉が斜面を駆け下りてきて、俺を抱き起こす!


「バ、バカ野郎!なんでオマエが来るんだよ!!狙われてんのはオマエなんだぞ!!」

「だって燕真が!!」

「だってじゃない!!逃げるんだ!!」


 白鬼は、些か驚いた表情で俺達を見詰める。


「なんだ、この小娘・・・苦痛の表情1つせずに、鬼の密集結界の中心に寄って来ただと?

 それに、この男・・・人間には戻ったが、結界の中で、重圧を1つも受けていない?」


 眼前には、2人を見おろす白鬼が立ち、背面からは赤鬼が笑みを浮かべながら近付いてくる。だが、生身で歯向かう手段など1つも思い付かない。


「いいか、紅葉、俺が合図をしたら、とろそうな赤鬼を避けて全力で斜面を降りるんだ。

 コイツ等が俺達を見下している今ならば、可能かもしれない。」

「ぅ・・・ぅん!」

「せ~のっ!!」


 タイミングを合わせて地面を蹴り、斜面下の赤鬼を迂回しながら、一気に斜面を駆け降りる!しかし、起伏のある斜面は、思ったほど楽なものではない!15mも進まないうちに紅葉が遅れ始めたので、手を握って誘導して「先に行け」と背中を押す!


「わぁっっ!!」 「なにっ!?」


 気が付くと、1本角の赤銅鬼が、笑いながら、紅葉の眼前に立っていた!見た目の印象とは違い、かなり素早い!


「ガッハッハ!それ、人間の遊びで鬼ごっこって言うんだよな!?

 鬼役でいいから、俺も混ぜてくれよ!捕まえたら食っちまっても良いんだろ!?」


 白鬼は、先程の場所から一歩も動かずに睨み付けている!


温羅うらよ!・・・小娘は食ってはならぬ。

 その女は、お館様への貢ぎ物にするゆえ、生け捕るのだ。」

「そりゃ無いぜ、星熊の兄貴!せっかくのご馳走なのによぉ!!」


 白鬼の名は星熊童子、赤い大鬼の名は温羅鬼というらしい。


「代わりと言ってはなんだが、男の方は好きにするが良い。

 些か興味のある存在だが、小娘に比べれば価値は無いに等しい。」

「ちぇっ!つまんね~の!!仕方ない、男だけ食って我慢するか!!」


「クソッ!バカにしやがって!!」

「どぅしょぅ、燕真!?」

「最初の標的は俺に変更されたみたいだ!

 なんとかして時間を稼ぐから、オマエはその間に逃げろ!!」

「・・・でも!!」

「いいから、行け!!」


 紅葉の背を押してからYウォッチを正面に翳し、『閻』メダルを和船バックルに装填!


「幻装っ!」


 しかし、いつものような、《JAMSHID》という電子音や、武装化が発生しない。


「あれ?・・・なんで?」


 もう一度バックルにメダルを装填し直すが、やっぱり何も変化をしない。


「冗談だろ?このタイミングで故障したのかよ?」

「ガッハッハッハッハ!やはり、ただの未熟者だな!

 この場には、星熊兄貴の結界が張ってある!

 干渉を受けないのは、凡俗以下のキサマの体だけだ!!

 結界の干渉下では、その力(妖幻システム)を解放することはできぬ!!

 その程度のことも理解できぬのか!?」

「え!?マジで!!?」

「理解できたなら、抵抗を諦めてさっさと食われろ!」

「くそっ!」


 足元に転がっていた木の枝を拾って構え、温羅鬼目掛けて突進をする!しかし、振り下ろした枝をアッサリと退けられ、軽く押されただけで20mほど吹っ飛ばされて、無様に地面を転がる!

 温羅鬼は笑いながら接近してきて、金棒を振り上げた!俺は、倒れたまま動くことが出来ない!


(あ・・・俺、ここで潰されて死ぬんだな。)


 抗えない死を受け入れようとしたその時、紅葉が庇うようにして体を重ねてきた!


「・・・チィ!」


 格上の鬼から「小娘は殺すな」と命じられていた温羅鬼は、慌てて金棒を引っ込めるが、重心のバランスを崩して、その場に尻餅をつく。


「燕真!!燕真!!生きてるんでしょ!!?」


 必死で呼び掛ける紅葉。俺は、全身の痛みを堪えてなんとか起き上がる。


「まだ・・・死んでね~よ!」

「ょかったぁ~~!」

「良くないだろ、バカ!・・・なんで逃げないんだよ!?」

「燕真が一緒じゃなきゃヤダ!!」

「クソォ・・・時間稼ぎすら出来ないのかよ?」


その時・・・


「そうでもないさ。君達が時間を稼いでくれたお陰で、奴等を倒すお膳立てが出来た。」


 絶望の淵にいた俺達に、何者かが声を掛ける。


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