4-7・山頂へ
-11時半-
降りのゴンドラが駅に近付いてくる。一度に20~30人は乗れるんだろうけど、搭乗口に並んでいる客は俺と紅葉だけ。会話をしながら(紅葉が一方的に喋って)待ち時間を過ごす。
気が付くと、いつの間にか、メガネをかけた若い男が、駅入り口の階段に腰を下ろしていた。彼もゴンドラ待ちなのだろうか?体格から察するに、俺と同年代くらい。オール登山(断崖絶壁有り)的な格好をしている。
「お~!燕真以外にも、場違いな人がいたねぇ~。」
「思っても、声に出すな。」
少しばかりシンパシーを感じる。駅内に「ロープウェイ出発時刻」の案内放送が流れると、先程の若い男が立ち上がり、搭乗口までの階段を上がってきた。
紅葉は、ゴンドラに飛び乗ると、直ぐに正面側の景色がよく見える席を陣取り、隣の席をポンポンと叩いて手招きする。
「燕真、ココに座ろっ!」
後から入ってきた若い男は、軽くゴンドラ内を見廻し、一番後ろの席に腰を下ろして、イヤホンを付けて視線を窓の外の景色に向けた。その男からすれば、「自分以外にはカップルが一組いるだけ」なのだから、サッサと自分1人の世界に入り込んで、同乗する俺達の会話を遮断したいのだろう。
紅葉はメガネ男の横顔を見つめている。ネックウォーマーで口元が隠れているが、同性視点で見ても、それなりのインテリ系イケメンだ。少女が目を奪われるのも理解出来なくはない。だが、少しばかり面白くないので、小さな声で耳打ちをする。
「オマエ、あぁいうのがタイプなのか?」
「ん?違ぅょ、全然そんなんじゃなぃ。なになに、ヤキモチ?」
「チゲーよ。ジロジロ見るな。あの人に失礼だろ。」
「ん~~~~~ちょっとねぇ。」
「ちょっと、なんだよ?」
「ワカンナイ。」
「なんだそりゃ?」
少しばかり気になる物言いだが、山に巣くう妖怪が優先なので、その話題はスルーする事にした。むしろ、妖怪が仕掛けてきた場合、何も知らない彼を巻き込まないように配慮しなければならない。「山頂に着いたら、男とは、意図的に距離を置くべき」と考える。
「燕真、嫌な感じ・・・強くなってるょ。
『こっち来るな!』みたぃなザワザワしたのが、いっぱぃぁるょ。
超わかりやすくゆーと・・・」
「解りにくくなるから言わんで良い。」
最初は、笑顔で景色を眺めていた紅葉だが、ゴンドラが上がるにつれて表情は次第に険しくなり、これがただの行楽ではなく、結界の中心に近付いている事を如実に知らしめている。
「平気か?気持ち悪いなら、次の(ゴンドラ)で、オマエは下に降りろ!」
「・・・ダイジョブ!」
ゴンドラが山頂駅に近付くと、後部席にいた男が立ち上がり、搭乗扉の前に立つ。
(男女ペア以外に自分1人では、居心地が悪くて、早く立ち去りたいのだろうな。)
俺は彼の心情を理解して、後ろに並ぼうとはせず、下車ギリギリまで席に座り続け、彼との距離が開いたのを確認してから立ち上がる。
「行くぞっ!」
「ぅんっ!」
山頂には土産物屋や軽食店があったが、紅葉は、(珍しく)それらには目もくれず、展望台に立ち、深呼吸をしてから周りを眺める。
「ぇ~~~~っと・・・・あっち、かな?」
紅葉は、『危険・入ってはいけません』と書いてある看板をガン無視して、ロープで張られた柵を潜って、斜面を駆け下りていった。
「おいおい、行動力ありすぎだろ!日本語読めないのか?少しくらい躊躇しろ!
・・・てかちょっと待てよ!!」
慌てて柵を跳び越え、『危険・入ってはいけません』の看板を気にしながら、先行する紅葉を追い掛ける。
「そこの女の子、危ない!!そっちに遊ぶ場所はない!!戻ってきなさい!!」
山頂監視係の中年男性が、立入禁止区域に入った紅葉に向かって、怒鳴り声を上げる。
「スンマセン、俺が保護者です!責任を持って連れ戻します!!」
足を止めて監視員に頭を下げ、再び紅葉を追い掛けた。
「勝手に動き回るな!」
紅葉が立ち止まったので追い付き、腕を引っ張って連れ戻そうとする。だが、紅葉はジッと固まったまま動こうとしない。その表情は、先程までとは違い、青ざめ、体は萎縮して小さく震えている。
「・・・・・・・・・紅葉?」
「変な声・・・聞こえた。」
無風なのに、周りの木々が一斉にざわめく。
「・・・え?」
紅葉は、息を荒くして、表情を引きつらせ、数歩後退して、俺の腕に縋り付く。
「ねぇ、燕真・・・ヤバィかも・・・戻った方がィィみたぃ!」
「どうした?」
「ここにぃる妖怪・・・今まで戦ってきたのと全然違ぅ!それに1人じゃなぃょ!」
「・・・え?」
「ぉ山全体に結界を張って、占領したヤツ以外に、もう1人ぃる!
今までのヤツみたぃに、依り代の念を祓ぇば温和しくなるのとゎ違ぅ!
2人とも、笑ぃながら人を殺しちゃうみたぃな凶暴なヤツだょ!!」
「何が言いたいんだ!?」
「怖ぃのが2人ぃるから、もぅ1個結界を持ってる!!2つ目の結界が来ちゃぅ!!」
紅葉は動揺をしながら、言葉をまとめずに伝えてくる為、いまひとつ何を言いたいのか要領が掴めない。しかし、「このままでは危険」と言う事は、充分に伝わってくる!
「だったら、ヤバくなる前に、こっちから仕掛ける!!先手必勝だ!!」
背で紅葉を庇い、左手のYウォッチから『閻』メダルを抜き取って和船バックルに嵌めこんだ!
「幻装っ!!」
全身が黒いアンダースーツに包まれ、和船バックルから幾つもの光が飛び出して、朱色のプロテクター化をして装着をされ、最後に腰ベルトに備え付けられたゴーグルタイプのマスクを、手で掴んで顔に装着!妖幻ファイターへの武装化完了!




