4-6・登山は不要
-羽里野山の麓-
駐車場には、殆ど車が駐まっていない。想定外の降雪で観光客の出足が悪いのは当然の成り行きだろう。
車から降りて登山の準備をしていたら、先に来て待機をしていた氷柱女が寄ってきた。
「私は此処で待たせてもらう。」
「仕方なぃょ。ココで、ァタシ達が結界をぶっ壊すのを待ってぃてねぇ。」
「青年(燕真)・・・おまえの器、此処から見定めさせてもらう。」
「ん?・・・何のことだ?」
「直に解る。心して行けよ。」
「よく解んね~けど、ハナっからそのつもりだ!」
「街ゎ雪だったのに羽里野山に雪が降ってないのゎ、氷柱女の妖気が通用しないからなの?」
「そういうことだ。私を追い出した者の張った結界が妨害しているので、私の妖気が及ばない。」
「そ~いや、この辺は雪が積もってないな。」
言われて初めて気付いた。普通なら山が白くなってから町に雪が降る。市街地や道中は雪が有ったのに、羽里野山は紅葉真っ盛りだ。
「んへぇ?燕真、今頃気付いたの?」
「うるせー!サッサと行くぞっ!」
羽里野山は、登山に日数を掛けるほどの高山ではないが、途中には岩場などの難所もある。一般車で入れるのは麓の駐車場までで、ここから先は自分の足で進まなければならない。
「結界か・・・紅葉は何か感じるか?」
「ぅん、チョットだけ感じるょ!でも、氷柱女がやった竜巻みたいなキッツイのとゎ違ぅょ。
きっと、ぉ山全体に薄~く張ってるから、この辺ぢゃ、ぁんまり強くなぃんだね。
超わかりやすくゆーと、トウモロコシのツブツブがいっぱいバラ蒔いてあって、
歩けるんだけど、ツブツブを踏みたくないから、なんか歩きにくい感じ。」
「・・・ツブツブ?言いたいことが解りやすくなったのか解りにくくなったのか微妙だな。」
トレッキングシューズに履き替え、帽子&サングラスとネックウォーマー&トレッキンググローブを装着する。
「ぇ~~~~っと、今は10時半だから、次のバスが来るまで、ぁと10分かぁ~」
「・・・バス?」
紅葉の声に反応して振り返ると、羽里野山シャトルバス『麓~3合目・羽里野公園』と書かれたバス停が立っていた。どうやら、一般車が入れるのは此処までだが、3合目まではバスで移動を出来るらしい。
やや拍子抜けして10分ほど待ってからバスに乗り込み、スンナリと行程の3割目に到達をした。
「どうだ、紅葉?何か感じるか?」
「ぅん、さっきよりもザワザワしてる。
チョット気持ち悪いけど、氷柱女の竜巻みたぃに、入れないタィプのヤツじゃないね。
どっちかと言ぅと、学校にぃた蜘蛛の妖怪(絡新婦)みたぃな、縄張りをお知らせする感じかな?
空気がピリピリしてるから、氷柱女が安住できなぃって言ってたのゎ、わかる気がするょ。
超わかりやすくゆーと、腐ったトウモロコシのツブツブがいっぱいある感じ。」
「・・・『超わかりやすく言う』の所為で、何を言いたいのか解らなくなったぞ。」
目指す山頂を見上げ、ベルトを締めて気合いを入れ直す。ここまでは思い掛けずに楽が出来たが、ここから先は自分の足と体力を頼りに進まなければならない!
「ぇ~~~~っと、次のロープウェイが出るまで、ぁと20分ぁるけど、どうする?」
「・・・・・・ロープウェイ?」
紅葉の声に反応して振り返ると、羽里野山ロープウェイと表示された矢印看板があり、矢印に沿って2分ほど歩いたら、『羽里野公園駅』と書かれた施設が建っていた。中に入って案内板を見ると、『羽里野公園~山頂ロープウェイ』という表示と、料金表&時刻表が張り出されている。
「山頂まで1200円、往復で2000円かぁ~」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・山頂?」
山頂までの所要時間は20分。このゴンドラに乗れば、麓から山頂まで4~5時間と見込んでいた行程は、待ち時間を含めて、たった1時間で到達をする。
「ところでさぁ、燕真?
格好がメッチャ重そぅで場違ぃなのは、ちょっと恥ずぃけど我慢するとして、
その杖とか、武器とか、
頭に付けてる電気ゎ何に使ぅつもりなのぉ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
紅葉の「山を舐めた格好」が正解だった。オール登山(断崖絶壁有り)のつもりで準備を整えて来ちゃったのが、メッチャ恥ずかしい。バスとロープウェイで山頂に行けるなら、麓の駐車場に居た時に言えや。そうすれば、重武装を車の中に置いてきたっての。
「文架市に来てから半年しか経っていないから、羽里野山がどんな山か知らなかったんだよっ!」
俺が重武装の準備をしている状況を、粉木の爺さんは、どう見ていたのだろうか?何故、「羽里野山なら軽装で良い」とアドバイスをくれなかったのか?あのクソジジイ、内心で笑っていたんじゃねーのか?
まぁ・・・スマホで幾らでも情報収集できるのに、全面的に怠った俺にも、少しくらいはミスがあるんだろうけどさ。コンチクショー。




