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4-4・氷柱女

 店内には既に客が居た。青メッシュ入りの長髪、不健康に思えるほど白い肌に切れ長の鋭い眼、白い着物を着た女性が、4人がけのテーブル席に座っている。


「ん?先客か?」


 だが、彼女の異質さよりも、店内の異常な寒さの方が気になる。


「雪が降ってんのに冷房なんて入れて、嫌がらせのつもりか?暖房にしてくれよ。」

「そんなことしたら、あの人が融けちゃうよ。」

「はぁ?」

「妖怪・氷柱女や。」

「ああ・・・妖怪だったんだ?」


 氷柱女とは、女性に化けた氷柱の妖怪。雪女とは別人。


「こっちの若僧(燕真)と嬢ちゃん(紅葉)は、信頼できる部下や。」

「どうも、佐波木燕真です。」 「源川紅葉でぇ~す。」


 爺さんが紹介したので、軽く会釈をして名乗る。しかし、氷柱女はチラをする以外には、無愛想を決め込んだまま反応を示さない。氷柱女の風体で、愛想が良かったり、馴れ馴れしかったり、ハイテンションなのも嫌だが、ガン無視をされるのも少しムカ付く。


「コイツが雪を降らせたり、店を吹雪で囲んでいたのか?」

「そういうこっちゃ。」

「店を乗っ取られたのがデマってことは、敵じゃないってことか?」

「ああ。妖怪は、人間に害を為す存在ばっかりちゃう。

 希やけど、土着をして、人間と共存したり、人間社会を見守るものもおるんや。

 氷柱女は、そんな友好的な妖怪の1体や。

「友好的・・・には見えないけどな。」


 爺さんが「氷柱女と相席するように」と促したので、紅葉と並んで氷柱女と向かい合わせに座る。爺さんは3人分のコーヒーを準備して、氷柱女の隣のイスに腰を降ろした。


「3人分?」

「氷柱女の分、無いんだね?」

「氷の妖怪が熱湯など飲んだら溶けてまうからな。」

「ああ、なるほど。」


 氷柱女は、しばらく紅葉を見つめたあと、表情を‘無愛想’に戻して俺を一瞥する


「絵に描いたような‘凡庸’だな。期待通りの器があるとは思えぬが・・・。」

「手段はお粗末やが、オマンのテストには合格したやろ。」

「お粗末?」

「無様ではあるが、確かにな。」

「燕真、ブザマなの?」

「俺、初対面でいきなりバカにされてる?」


 ちょっとイラッとしたので、若干の不機嫌な態度をしつつ氷柱女から眼を逸らす。


「どういうことだ、爺さん?ちゃんと解るように説明しろよ。」

「店を覆っていた竜巻は、霊力に干渉をして通過を拒む結界や。」


 氷柱女は、氷の結界を発生させて俺の才能と瞬発的発想力を試していた。氷柱女が結界に施した妖気を越える者にしか、氷の結界を突破できない。だから、妖幻ファイターで武装した状態では突破できなかった。クリアをするには、何らかの手段で結界を無効化するしか無い。


「結界の妖力を超える力をぶつければ相殺できる。

 妖幻ファイターの攻撃力で結界を破壊する手段もあったんやがな。

「そんな手段は初耳だ。

 前に、俺が生身の時は子妖が憑けないって聞いたからさ、

 武装化を解除して、妖力が干渉しない状態になるのが最善だと思ったんだよ。」

「せやから、手段は粗末やが、氷柱女のテストには合格と言うと褒めとるんや。

 たいていの人間は、自覚無自覚に関係無く少なからず霊力を持っておって、

 妖気の干渉を受けてしまって中には入れんからな。」

「霊力ゼロで悪かったな!バカにされてるようにしか聞こえん。」

「無様だが、根性と責任感だけは認めてやろう。」

「やっぱ、バカにしてんだろ?」

「今ゎ燕真がバカにされてるかど~かなんてど~でもイイから、

 ケンカ腰にならないで、ちゃんとお話聞こ~よ。」

「どうでも良くない!俺が喧嘩を吹っ掛けてんじゃなくて、喧嘩を売られてんだぞ!」

「ゴチャゴチャ言うとらんで、なんしか話をきいたれ。」

「え?なんで、俺が‘聞き分けない奴’みたいな扱いになってんだ?」

「のう、氷柱女。ワシに話したこと、コイツ等にも説明したってや。」

「些か不満で頼りないが、話してやろう。」

「いちいち俺をバカにしなきゃ、話ができないのかよ?」


 氷柱女は、数十年前から羽里野山に土着をして文架市を見守っていた。害を為す妖怪ではないので、粉木の爺さんは、ずっと黙認をしていたらしい。

 だが、数日前、何者かが羽里野山に入り込み、氷柱女の縄張りを荒らして安住を妨げ、結界を張って追い出した。だから、戻れなくなった氷柱女は、爺さんにSOSを求めたのだ。


「他の場所に移り住めないのか?羽里野山に拘る理由は?」

「羽里野山への拘りは無い。

 ひとけが無く、霊験灼か(れいげんあらたか)で、文架市を見守れれば、土着場所は何処でも良い。」

「うわぁ~・・・かなり拘りあるぢゃん。

 文架市だと、羽里野山か須弥山しかないよ。」


 須弥山とは、文架市の東にある山のこと。羽里野山よりも標高が高い。


「問題は、羽里野山に依り代を残してしまったこと。

 依り代が他の邪気に汚染されてしまえば、私は存在を維持できなくなる。」

「要は、氷柱女では羽里野山には入れないから、

 俺達が代わりに羽里野山に行って、依り代を持ってくるか、

 縄張りを荒らした奴を追い出すってことだな。」

「氷の結界すら抜けられぬようでは、羽里野山に張られた結界に翻弄されるだけ。

 だから、その才覚を試させてもらった。」


 手荒い資格試験については納得できたが、まだ解らないことがある。


「今更聞きにくいんだけど、何の為に雪を降らせているんだ?

 俺じゃ気付いてやれないけど、なんか意図があるんだろ?」

「それは、降雪でワシ等に事態の切迫を気付かせる為や。」

「・・・はぁ?」

「雪を止ますには、ワシ等退治屋が氷柱女の要求を受け入れて、羽里野山に行くしかあれへんやろ。」

「え!?そこは、ただの自己アピール!?

 面倒くせー!随分と壮大な‘かまってちゃん’だな。」

「誰も困ってないんだから、雪くらい降っててもイイぢゃん。」

「オマエ(紅葉)以外の全文架市民が困ってるよ。」


 いつまでも季節外れの雪を降らされたら迷惑だ。さっさと羽里野山に行って処理をするべし。


「ど~やって行くの?燕真のバイク?」

「スノータイヤ持ってないし、タイヤチェーン付けても、雪道はチョット怖いな。

 爺さんの車はスタッドレスタイヤあるのか?」

「もちろんや。」

「なら決まりだな。早速タイヤ交換しよう。1時間もあれば終わるだろ。」



 ・・・で、寒い中で、慣れないタイヤ交換をする俺に対して、「自慢の愛車に傷を付けんなよ」と口を出し、「見てられん」と手を出して、最終的には爺さんがメインとなって作業をした結果・・・。


ぐきぃっ!

「アヘアヘアヘアヘェ~~~~~」


 ジジイは腰を痛めやがった。タイヤ交換は辛うじて完了したが、今は茶の間に敷いた布団で横になっている。


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