3-10・納得の出来ない勝利
「僕が支配されないように頑張れば、妖怪は勝手なことはできない。
僕が動けなくするから、妖怪をやっつけて!!」
俺は「少年の言い分が何を意味するのか?」を理解した。依り代が完全に支配された状態ならば、妖怪を封印して、依り代を解放する事は可能だ。だが、依り代が出現した状態で妖怪を叩けば、依り代は、除霊用の武器の干渉を受けて消滅してしまう。
「ふ・・・ふざけんなよ!やっとオマエの声が聞けたってのに、何だよそれ!?
俺、頑張るからさぁ・・・アニメ見たいとか、プリン以外の物が食いたいとか・・・
もっと・・・クソガキみたいな可愛い事を言えないのかよ!?」
「ねぇ、お兄ちゃん・・・僕ね・・・英雄になりたいんだよ。」
「なぁ、・・・まだ、借りたまんま見てないアニメ、あるんだぞ!
オマエに見せたくて借りたんだぞ!・・・だからさぁ・・・ちゃんと、全部見てくれよ!!」
「僕は英雄になるんだ!
だから、紅葉お姉ちゃんを助けたくて、妖怪を利用してお兄ちゃんを呼んだの!
だからね・・・一緒に、悪い妖怪をやっつけてよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ユータ!!」
「・・・手伝ってよ、燕真お兄ちゃん!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
妖刀ホエマルを装備して、ブーツにセットしてあった白メダルを外して、ホエマルの握りにある窪みにセットする。
「ねぇ・・・お兄ちゃん・・・僕、英雄になれるのかな?」
「ユータは立派な英雄だよ!
俺じゃ、手も足も出なかった妖怪を、オマエが倒すんだからな。」
ホエマルを握る手に力を込める!最初は一歩一歩をゆっくり踏みしめるようにして、徐々に突進速度を上げて、藻掻いているヌエに接近する!
「うわぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっ!!」
すれ違い際にホエマルを振り切り、ヌエの体に横一文字の剣閃が走る!
「ガォォ・・・ガォォォ・・・ォォッッッ!!」
妖怪ヌエは、闇の渦に飲み込まれながら爆発四散。周囲に撒き散らされた闇が妖刀に吸収され、握りの窪みにセットされていたメダルから『鵺』の文字が浮かび上がる。
「・・・ユータ。」
達成感は無い。悔しくて仕方無かった。その場に両膝を落とし、項垂れ、地面に拳を叩き付ける。
背後で、「未練を断ち切る」事が出来ずに祓われた白い光が、空気中に蒸発をしていくのが解る。しかし、振り返ることができない。きっと、ユータは俺を見つめているのだろう。だが、俺に切られて消滅をしていく少年が、「バイバイ」と手を振る光景は見たくはなかった。俺が力不足の所為で、ユータの望みを叶えてやれなかった事を認めるのが怖かった。
「なぁ、香山・・・今のオマンと、あのボウズ。
勇気があんのはどっちやろな?理想の英雄像に近付けたんはどっちやろな?
ボウズと同一人物のオマンなら、解るやろ?」
粉木の爺さんが、香山裕太を諭すように話し掛けているのが聞こえる。だが、そんなことはどうでも良かった。
妖怪ヌエは封印され、戦いは終わった。紅葉も無事に取り戻す事が出来た。だが、俺の中では何も終わっていない。何一つ納得が出来ていない。
「うぅぅ・・・うわぁぁぁっっっっっっっっっっっっ!!!!」
武装化を解除して、香山裕太に掴みかかる!
「オマエだぁ!!全部オマエの所為だぁ!!」
胸ぐらを掴んだまま、力任せに壁に押し付け、何度も揺さぶって、香山の背中を壁に叩き付ける!
「何が英雄だ!ふざけんな!!何でもかんでも人の所為にすんじゃねーよ、クソ野郎!!」
無抵抗のまま俯いている香山目掛けて、拳を振り上げる!だが、爺さんが背後から止めた!
「それはアカン、燕真!そない事すれば、また査定もんやで!!」
「知った事か!?ユータを祓って貰える金なんて要らねぇ!そんなもん、こっちから突っ返してやる!!」
紅葉が香山を庇うように立ち、胸ぐらを掴んだままの俺の手を握る!
「解ってるんでしょ、燕真!コィツもユータくんなんだょ!!
コイツをやっつけたって何にもならなぃんだょ!!
それじゃ、全部ユータくんのせいにしたコィツと同じだょ!!」
「関係無い!!コイツの腐った根性を叩き直してやる!!」
「そんな事をしてもユータくんゎ喜ばなぃょ!!
ユータくんゎ、コィツのことゎ襲わなかった!!燕真だって解ってるんでしょ!!
コイツゎユータくんを憎んでぃたけど、ユータくんゎコィツのことゎ憎んでぃなかった!!
だって、ユータくんゎ、コィツと違って、コィツも自分だって、ちゃんと解ってぃたから!!」
頭の中では、香山裕太を殴っても何の意味も無い事は理解している。自身の不甲斐なさも理解している。しかし、振り上げた拳を叩き付ける場所が無い。頭では解っていても、心が納得をしない。
「ブン殴らなきゃ腹の虫が治まらないんだ!!」
「・・・・・解った・・・ただし、一発だけやで。」
それまで俺の腕を腕を掴んで止めていた爺さんが力を弛め、俺の拳を手で覆いながら、俺を見つめる。
「燕真、一発で腹の中のもん、全部吐き出せ!!
気持ちは理解出来るけど、憎しみに駆られたまま拳を振りかざし続けたら、
今度はオマンが闇に傾倒してまう。
香山への怒り、こんな事でしか怒りを発散でけへんオマン自身の器の小ささ、
全てを一発で清算せい!」
爺さんのお陰で、少しだけ冷静に立ち戻ることが出来た。爺さんは、香山裕太に視線を移す。
「なぁ、香山・・・オマンとボウズの葛藤は、オマン自身が長い年月を掛けて、整理を付けたらええ!
刀持ち出した事も、オマンなりの偽善を考えれば許してやれる!
これは、お嬢を人質にしよったぶんや!
オマンが、どんなに偽善を説いても、それだけはアカン!解るやろ!?
観念して、歯食いしばって、一発だけ殴られや!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・うん」
香山裕太は、観念して頷き、歯を食いしばって俺を見つめた。爺さんは、覆っていた俺の拳から手を外して、一歩引き下がる。
「うわぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」
手が痛くなるほどに拳を強く握り締め、香山裕太の頬に叩き込む!
香山は、反動で壁に叩き付けられて、その場に座り込んだ。
「う・・・ぅぅ・・・・ごめん・・・なさい」
俯いたまま涙を流す香山。先程までのくすんだ表情とは違い、憑き物が取れたように穏やかになっており、その表情にはユータの面影を感じられる。
香山も、自分の行動が誤っており、行き場のない悔しさを他人に転嫁しているのだと気付いていた。だけど、自分の無力さを認めたくなかったのだ。数秒前までの俺も同じだったから解る。
「オマエが・・・」
言い掛けた言葉を飲み込む。香山が初めから今の表情をできていたなら、ユータはあんな事にはならなかったのだろう。だけど、ワザワザ言葉にしなくても、今の香山裕太ならば、ユータ少年とキチンと向き合える。ユータ少年は香山裕太の中で生きている。そう思えた。
「ねぇ、燕真」
紅葉がポツリと呟く。
「・・・ん?」
「結局、英雄って、どうやればなれんのかな?」
「さぁね・・・考えた事もないからワカンネ~し、そんな面倒臭いもんには成りたくもない。」
人智を越えた力を持っていて、悪い奴を片っ端から倒して世界平和に貢献すれば英雄になるのだろうか?悪い奴を倒した直後は皆が崇めてくれるだろうけど、一生英雄として扱われるには、一生悪い奴を倒し続けなければならない?他人は持ってない凄い力を自分だけが持つってのは狡くないのだろうか?そもそも論として、人智を越えた力を大っぴらに行使して注目を集めるのは、人助けの為?それとも承認欲求を得る為?
「スポーツ選手が頑張ってたら、いつの間にかヒーロー扱いされてるみたいにさ、
そう言うのって、成りたくて成るんじゃなくて、
本人じゃなくて、他人が決めるもんなんだろうな!
あの幽霊小僧は、俺にとっては英雄だ。」
「・・・そっか」
紅葉が笑みを浮かべ、右手人差し指と、左手の五本指を立てて、こちらに向けた。
「ん?・・・6点加点ってことか?」
相変わらず辛辣な点数だ。苦笑いをしながら紅葉を見つめる。あとどれだけ頑張れば100点になるのか見当も付かないが、紅葉の手厳しい評点には慣れてきた。
「・・・合計15点!」
「ん!?15点の加点?」
「ちがぅょ!全部で15点だょ!」
「・・・・・・・はぁ!?」
「えんま、15て~~~ん!」
「え!?え!?60点からマイナス45点ってこと!?減点、ひど過ぎね!!?」
一般人を殴ったから?それとも、ヌエに勝てず、ユータを救えなかったから?事実は事実なので「甘んじて受け入れる」・・・と言うわけにはいかない。マイナス査定が酷すぎる。全く納得できない。
そもそも、紅葉が拉致された所為で余裕が無くなったんだぞ!どれほど心配していたのか解っているのか!?




