3-7・香山邸へ
-翌朝(土曜日)・YOUKAIミュージアム-
朝一で紅葉がアパートに来て霊体少年の存在を確認した後、彼を残して紅葉と共に出勤をした。
戦闘時に出入り口ドアの破損と、窃盗犯に館内を荒らされた為に、本日は閉館だ。修繕業者に電話で依頼をしてから割れたガラスを片付け、事務所に移してパソコンで検索をしながら、今後の方針を相談する。
「おとついの大型トラック事故が発生した場所は、確か以前にも事故があったような気ぃする。」
爺さんのうる覚えの記憶を頼りにしてネットで検索を掛けたら、一件の交通事故がヒットをした。
「これや!もう10年以上も前やさかいスッカリ忘れておったが、確かに有った!」
【子供を救った英雄
20××年12月23日、
文架市利幕町の交差点で、大学院生の・・・】
「ただの偶然じゃないのか?事故が多い交差点なんて、珍しくないだろ?」
「グーゼンかどうかワカンナイけど、ァタシ、その交差点、好きくない場所っ。
なんか、いっつも空気が重くて、ヤな感じなの。」
「気のせいじゃないのか?」
「今回の事件とは関係あれへんかもわからんが、念の為に調査をする価値はありそうやな。」
俺は紅葉を連れて、利幕町の交差点に向かってみることにした。
-AM10時・利幕町-
バイクを路肩に停車させ、十数年前の事故があった現場に足を運ぶ。交差点歩道に立ち、横断歩道を眺めるが、相変わらず何も感じない。その場にしゃがみ、「俺だって少しくらいは!」と意識を集中させる・・・やっぱり何も感じない。雑多音以外は聞こえない普通の横断歩道だ。
「オマエは何か感じるのか?」
「ぅん。・・・前から、ココを通るたんびに感じていた重い空気の原因が、
前の事故のせいってことくらいはね。
ユータ君の念を感じるよ。でも、ユータ君ゎいないの。」
「どういう事だ?」
「十何年か前の事故の時、ユータ君ゎココに居たの。」
「大学院生に助けられた子供がユータってガキなのか?」
「ぅん。だから、ユータ君の念が残っちゃってるの。」
紅葉曰わく、事故で命を失った本人が思念を残した場合は現場に自縛されるが、事故に関わった他者の場合は、何らかの目的の為に動き回ってしまうらしい。だから、ユータの思念は残っているが、ユータは此処にいないのだ。
「窃盗犯がガキを狙う理由は?」
「まだチョットわかんない。」
ピーピーピー!
左手首のYウォッチから発信音が鳴る。
「どうした、粉木のじいさん?」
〈解ったで、昨日の窃盗犯!名前は香山裕太や!!〉
「なんだ、その御都合主義は?どうやって調べたんだよ!?」
〈警察に手ぇ廻して、乗り捨てていきおった自転車の防犯登録証からから身元を割り出したんや。
住んでんのはそこから直ぐや!直ぐに行けるか!?〉
「解った、行ってみる!」
ほどなく、自転車の持ち主の家に到着。表札を確認すると【香山】と書いてある。直ぐにインターホンを鳴らして家主を呼ぶ。出て来たのは父親らしき人物だった。家主の話だと、息子は朝出て行ったっきり戻ってきていないらしい。
「そうですか。」
立ち去ろうとするが、紅葉はその場から足を動かさずに、家主を見つめている。
「ソイツって十数年前の事故と関係あるんですか?事故のこと教ぇてくれませんか?」
その瞬間、それまで穏やかに接していた家主の表情が曇った。
「君達には関係無いでしょう!」
家主は、そそくさと扉を閉めようとするが、俺は咄嗟に取っ手を掴んで妨害した。
「アンタ、なんか隠してるな!?」
家主の目を睨み付ける。家主は視線を逸らした。
「何なんですか、君達は!警察を呼びますよ!!」
家主に「息子が妖怪事件と関わっている」なんて説明しても、納得をしてくれるわけがない。「警察」と聞いて戸惑ってしまうが、直ぐに背後から援護射撃が入った。
「こんちわ~!川東のYOUKAIミュージアムの館長なんやけど・・・ちいと話させてもらえんかのう?」
振り返ると粉木の爺さんが穏やかな表情で立っていた。家の直ぐ脇の路肩には、粉木の車が駐車してある。
「うちのガキ共が粗相して、すまへんなぁ~!せやけど、悪気はあらへんねん。
ただ、昨日、うちでちぃ~と盗難騒ぎが有っての、お宅んとこの裕太君の事を聞かせてほしいんや。」
「・・・と、盗難?・・・裕太が?」
それまで部外者を拒絶しようとしていた家主の動きが止まり、閉めかけていた扉が開かれる。
「此処で話すのも何なんで、お上がりください。」
家主の表情と対応からは、「息子の素行は、以前から何かの問題を抱えていたのだろう」と察せられる。
「えろう、すんまねんなぁ~」
爺さんは、穏やかな表情のまま軽く会釈をして、突っ立っている俺と紅葉の間を通過。すれ違いながら、俺達の後頭部を軽く叩く。
「いてっ!」 「ィタァ!」
「オマン等みたいな小僧が、いきなり血相変えて押し掛けてきよったら、誰でも怪しむわ!!
アホか!もうちっと、接し方を考えや!!」
これが年の功ってやつか?俺達は、些か不満そうに互いの眼を見合ってから、爺さんを追って玄関に上がり込んだ。
-香山邸・客間-
爺さんは、挨拶をしながら近所で購入した菓子箱を差し出し、ソファーを進められて腰を降ろし、早速話し始める。
「ワシの勘違いならええんやけど、昨日、ワシの店で盗難があったんや。
ほんで、うちの物を持ちだした子の乗りほかした自転車が、裕太君の物と解りましてな。
なんか心当たりがあるか思いまして、此処に来たわけです。」
言い回しは穏やかだが、単刀直入だった。「入るまでは警戒させない」「入ってしまえばこっちのもの」らしい。
「すみませんでした!!弁償はしますから、このことは!!」
家主は、その場で床に頭を擦り付け、何度も謝罪をする。彼の慣れた行動からは、「謝罪」という行為は初めての事ではなく、息子の素行がたびたび問題を起こしていると把握が出来る。
「頭を上げなはれや。取った物は戻してもらえたら警察沙汰にする気はおまへん。
割られたガラスなんてやすもんやさかい、どうでもええ。
そやけど、ワシは、裕太君が、なんであんな事をしたのか知りたいんや。」
隣に座っていた俺は、息を飲んで爺さんを眺めていた。正確には、それ以外の行動が出来なかった。老獪な老人は、僅かな言葉選びだけで、確実に家主の懐に入り込みながら、盗難事件の核心を突いている。
家主は、話しにくそうな表情で紅葉をチラ見した。察した爺さんも、紅葉に視線を向ける。
「お嬢、すまんけど、席外してもらえるか?」
「んぇ?なんでっ!?」
「話し相手に子供が混ざっとったら抵抗があるんやろう。」
「ん~~~~~~~~~~~~~~・・・」
「直ぐに終わらすから、しばらく車の中で待っとってくれ。」
紅葉は露骨に不満な表情をして、俺に「あとで教えてね」と耳打ちをしてから、爺さんの車の鍵を受け取って退席をする。
見送った家主は、それまで腹の中に溜め続けていた物を吐き出すようにして、息子・裕太の事を語り出した。
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十数年前に利幕町の交差点で発生した痛ましい事故。道路に飛び出してトラックに轢かれそうになった香山裕太は、文架大学の大学院生に助けられた。だが、代わりに大学院生が死亡をする。
当時の地方新聞は、自身を犠牲にした大学院生を【子供を救った英雄】と表現した。
まだ幼かった息子に人の命を背負うなんて事はあまりにも過酷すぎると考えていた父母は、英雄像を作り上げて目標を持たせる事で、彼が前向きに育ってくれると思っていた。
「助けてくれたお兄ちゃんのような英雄になる」。
大学院生は、裕太少年の目標と成った。勉強もスポーツもそれなりに頑張った。友達にも恵まれた。だけど、それは英雄ではない。高校生になり、大学に進学し、彼は気付き始めた。
「平凡な僕では、どんなに頑張っても英雄にはなれない。」
彼は次第に「英雄の名を語る暴力」に走るようになる。「自分の中の正義」に反する行動を取った者を見ると「英雄」という大義名分を翳して暴力を加えた。しかし、自分が求めた英雄像とかけ離れている事に気付き、やがて笑顔を失った。
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「そうか、裕太君には、そんな過去があったんでんなぁ。」
「ふぅ~~~ん・・・英雄ねぇ?
アイツはアイツで苦労してんだな。」
俺は「自分が他者の死の上に成り立つ辛さ」を明確には理解できないが、青年に少しだけ同情をした。




