3-6・霊体少年ユータ
-数分後・事務室-
爺さんと紅葉は、俺と向かい合わせで応接ソファーに腰を降ろす。
「何がどうなって妖怪が現れたんだ!?刀を盗んだアイツは何だったんだ!?」
「あの男は、お嬢が連れてきおった霊体のボウズを狙いおったんや。」
爺さんが説明を始めた。紅葉は口を閉じたまま俯いている。
「アイツ等がどんな関係かは解らんけど、恐らく、霊祓いの刀でボウズを祓うつもりでな。
せやけど、ボウズが妖怪になったから、あの男は祓えずに逃げたんや。
逃げる時に刀を持ち逃げしよったさかい、またボウズを狙うつもりやろな。」
話の流れは解ったが、紅葉の表情が浮かない理由は解らない。いつもの紅葉なら、率先して事件を解決する為に動き回る。何故、今回は困惑をしているのだろうか?
「ねぇ、粉木のおじいちゃん・・・」
しばらく俯いていた紅葉が、顔を上げて口を開いた。
「なんや、お嬢?」
「憑ぃてぃる妖怪を先にやっつけたり、弱らせたりしちゃえば、
ユータくんのお願いを叶えてぁげることゎできるんだょねぇ?」
「あぁ・・・そうやな。」
先に妖怪を叩いて、依り代をフリーにすれば、依り代は希望を叶えて、「御祓い」ではなく「未練を断ち切る」形で見送る事が出来る。
「だったら、憑ぃてぃる妖怪が強すぎて、やっつけられないと、どうなるの?」
妖怪が強い場合、もしくは、隠れている場合は、退治屋は依り代を先に消滅させて、妖怪を弱体化させる。単独では現世に留まれない妖怪は、依り代を失った途端に、急激に能力を低下させて倒しやすくなる。これは、妖怪退治の視点で考えれば、間違いなく有効的な手段だ。
ただし、依り代の残した未練は完全に無視をされる。元々現世に存在してはならない物として、その都合に関係無く‘撤去’をされてしまう。
「解ったよ!・・・俺がもう少しシッカリすりゃ良いんだろ!?」
紅葉の質問を聞いて、困惑の理由を理解した。紅葉は、自分を頼ってくれた少年が、なんの望みも叶えられずに祓われてしまう事を想像しているのだ。
「次は、あの猿顔を、問答無用で叩き潰してやるよ!!」
「・・・・・・・・・ぅん!!」
紅葉の表情は明るくなった。
「さてと・・・そうと決まれば、何よりも動く事が先決だ!!
窃盗男に事情を聞くにしても、ガキの話を聞くにしても、探し出さなきゃ何にも始まらないからな!!
なぁ、紅葉、軽く一回りしてくるから付き合え!!」
「ぅん!!」
紅葉を連れて博物館から飛び出し、ホンダVFR1200Fに跨がって公道に飛び出す!
「なぁ、紅葉・・・シッカリ捕まって、目でも瞑っておけ!!
オマエなら意識を集中させれば、ガキが近くにいれば感じられんだろ!?」
「ぅん!!」
紅葉が背中に寄り添って、腰に手を回して力を込める。今まで何度かタンデムに乗せたが、ピッタリと密着をされるのは初めてだ。彼女から信頼と期待をされているように思えて少し嬉しい。心の中で「絶対に紅葉が望んでいる結末を見せてやる!」と何度も呟く!
-数十分後-
山逗野川の堤防沿いでバイクを走らせていると、タンデムの紅葉が、肩を軽く叩いて「停めて欲しい」と合図をしてきた。バイクを停車させると、紅葉はタンデムから飛び降りて、川側の斜面を駆け下りて中腹で腰を下ろす。
「居た・・・・のかな?」
俺は、ヘルメットを脱ぎ、ハンドルに肘を突いて凭れ掛かりながら、紅葉の背中を眺める。退治屋の定石を考えれば、今ここで‘彼’を祓うのが一番早いが、その気は無い。紅葉との約束を優先させたいと考えている。
「なぁ、紅葉!もし、ガキが隣に居るなら伝えてくれ。行く場所が無いならアパートに来いってさ!」
妖怪が霊体少年に憑いているのならば、野放しにするより、身近でキチンと管理をした方が良い。「紅葉経由」と言いながらも、見えない霊体少年に話し掛けるように提案をしてみた。しばらくの後、紅葉が堤防の斜面を駆け上がってきて、霊体少年と話した内容を説明する。
霊体少年・ユータくんは、自分に妖怪が憑いている事を知っている。妖怪に支配されないように抵抗はしているが、憎しみや恐怖に駆られてしまうと、どうする事も出来なくなってしまう。抵抗出来ずに、妖怪に支配されてしまったのは計2回。昨日の利幕町の事故と、先程の博物館での騒ぎだ。「何が原因で支配されたのか?」と訪ねたが、「話したくない」と、下を俯いてしまったらしい。
退治屋に見付かれば、消されてしまう事も知っている。だからこそ、俺のアパートや爺さんの自宅には来たくないらしい。
「そっか・・・まぁ、誰だって、自分を消そうって奴と一緒には居たくないよな。
なぁ、紅葉、ガキに伝えてくれ!自分の意志で妖怪を暴れさせてんじゃないのなら、俺を怖がる必要は無い。
どうにか、妖怪だけを退治するから、信用しろってさ!」
再び「紅葉経由」と言いながら、見えない霊体少年に直接問うように提案をした。
認識できない者を家に招き入れるのは、正直、あまり良い気分はしない。しかし、話に聞く限り、霊体少年は悪い奴では無さそうだ。行く場所が無くて困っているなら何とかしてやりたい。
紅葉は、見えない少年がいるらしい方向を見て頷き、今度は俺を見て、もう一度頷いた。同意が得られたらしい。
「部屋ん中で何をやっても構わないが、昨日みたいに、勝手に居なくなるのだけは勘弁してくれよ!」
時計を確認すると18時半を過ぎていた。粉木の爺さんに「幽霊のガキを保護する」とは報告をしにくいので、博物館に電話を掛けて「見付からなかった」と伝え、そのままアパートに戻る事した。
コンビニに寄り、夕食用の弁当と、霊体少年用のプリン2個と、紅葉が勝手に買い物籠に入れたスナック菓子を購入し、レンタルDVD店で幼児向けアニメを3本ほど借りて、アパートに到着した頃には19時を廻っていた。
幼児向けアニメをDVDプレイヤーに入れて再生し、プリンの蓋を開けてテーブルの上に置く。紅葉はスナック菓子を食べながら、アニメを鑑賞して笑い、空気中に話し掛けている。霊体少年もアニメを楽しんでくれているようだ。・・・・が、まさか紅葉は、アニメが終わるまで居座るのだろうか?
「ねぇねぇ、燕真。ユータくんと遊ぶからYメダルを貸してっ!」
「・・・はぁ?なんで?」
「い~から、い~から!」
1本目のアニメが終わると、紅葉がYメダルのオネダリをしてきた。最初は拒否したが、紅葉がしつこく頼んでくるので、仕方なく『閻』『蜘』『朧』『炎』のメダルを渡す。紅葉はメダルをテーブルの上に並べて、『蜘』メダルを指で弾いて見せた。すると、今度は、『炎』のメダルが勝手に動いて、先ほど紅葉が弾いた『蜘』メダルにコツンと当たった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
「このメダルゎね、霊的な力が入ってるから、ユータくんにも触れるんだょぉ!」
「あ~・・・なるほど。」
Yメダルは現世と常世の中間の存在。見えない少年が干渉しても不思議ではない。Yメダルをオハジキにして遊ぶのは少々罰当たりな気もするが、他に霊体少年と共有する手段が無いのならば「有り」なのかもしれない。
俺は、テーブル側に体を向け、『閻』メダルに指を添え、先ほど霊体少年が動かした『炎』メダルに、パチンと当ててみた。紅葉が『蜘』を指で弾き『閻』に当て、テーブルの縁ギリギリに追い詰める。『炎』が勝手に動いて『閻』をテーブルの外に弾き落とす。
「ありゃ、俺のメダルが!」
「ぁははっ!やりぃ!燕真の負け!ユータくん上手い!!」
不思議な感覚だった。しかし、見えなくても間違いなく其処にいる。同じ時間を楽しく共有出来ている。それは、決して悪い事ではないように思えた。Yメダルによるオハジキは、紅葉が帰宅をした後も、しばらく続けられる。




