3-5・不審な青年と鵺
-PM4時・YOUKAIミュージアム-
「チィ~~~~~~~~~ス!きったょぉ~~~~~~~~!!ユータ君ぃるぅ~~~~!!!?」
学校での授業を終えた紅葉が訪れた。何も無い場所に手を振って駆け寄り、しゃがみ込んで、「寂しくなかった?」等と質問をしている。客の来ない博物館だから良いが、アカの他人が見たら、間違いなく「痛い娘」と思うだろう。
「まぁ、実際に、色んな意味で、かなり痛い娘だけどな・・・。」
「なんか言った、燕真?」
「いや・・・独り言。」
今のところ、昨日の妖怪に動きは無い。その日も、閉館までダラダラと時間を潰して、いつもと何ら変わらずに‘表面上の仕事’は終了すると思われた。
しかし、1人の客が来場する。その青年の目は暗く濁っているように感じられた。
「大人300円です」
「・・・・・・」
入場料を受け取り、入場券の半券を手渡す。青年は無言で半券を受け取り、受付カウンターの脇で妖怪関連の本を読んでる紅葉の方を見つめ、館内の見学を開始する。青年が遠ざかると、紅葉が俺の所に寄って来た。
「ねぇ、燕真・・・ァィツ、なんか嫌な感じ。」
他人を正義や悪、白や黒で分けるのは好きではない。しかし、その青年を例えるなら、いつ黒に染まってもおかしくない灰色・・・そんなイメージだ。
「紅葉・・・気を付けろよ。」
青年は、車ではなく自転車で来た。つまりは市内の人間だ。紅葉の容姿に惹かれて訪れた変質者の類かもしれない。そうでなければ、市内の人間が、こんなインチキ臭い博物館に足を運ぶ理由など無い。ただ、「紅葉の見た目に騙されて入って来ちゃった」くらいならば気にする必要は無いが、一歩間違えれば何かをしそうな雰囲気が気になる。
「ねぇ、燕真・・・帰ってもらおっか?」
青年は、妖怪が宿った刀の所で足を止めて、ガラスケースに手を添えて眺めている。
「怪しいってだけで追い出すのは可哀想だろう。まだ何もしてないんだぞ。」
粉木の爺さんが何かを感じ取ったらしく、事務室から顔を出す。
「どうせ、オマンは気付いとらんのやろ?」
「・・・ん?なにか?」
「あの男が連れて来おったんか!?」
「何の話だ!?」
「ァィツがココに来た途端に、小っこぃ虫が発生してぃるの!」
「えっ?マジで?」
俺は蚊帳の外で話が進んでいる。爺さんと紅葉には、館内を這いずり回る子妖が見えているらしい。
「お嬢・・・先ずは自分が憑かれんように、それを優先的に考えや!」
「・・・ぅん。でも、手で虫を叩くのキショい。
じぃちゃんの持ってるお祓いの棒、ァタシも欲しぃょぉ~」
「スマンの、次までに用意しとくさかい、今日ゎ我慢してくれんか。」
「おいおい、俺はどうすりゃ良いんだよ!?見えないんだけど!」
爺さんと紅葉にガン見をされる。
「ねぇ、ぉじぃちゃん・・・子妖って、レーカン無ぃヤツにゎ憑けなぃの!?」
「少しでも霊感があれば憑けるんやろうけど、霊感ゼロだと憑ける要素がゼロっちゅう事なんやろな。」
「・・・何の話をしてんだよ!?」
「燕真、念の為に聞くで!気分悪いとか、意識が朦朧とするとか・・・そんな症状ありよるか!?」
「・・・無いけど、なんで!?」
「燕真の顔や体、小っこいのが50匹くらぃ動き回ってるょ!」
「・・・マジで!?」
「普通、そんだけ量山の子に集られたら、憑かれる憑かれない以前に、発狂しよるで!
なんも無いちゅう事は、オマンはどんだけ集られても安全ちゅうこっちゃ!便利やの~!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔を触ったり、体のあちこちを見回すが、至って普通。「小っこい50匹」なんて一匹も見えない。見えないんだけど、気分の良い物ではない。
「なぁ、じいさん・・・取ってくれよ」
「憑かれる心配の無いヤツは後回しや!今のオマンがする事は、他に移さんようにジッとしとく事や!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
紅葉は、最初は「青年が妖怪に憑かれている」と警戒していた。しかし、子妖を潰しながら驚いた表情で振り返る。
「・・・ユータくん!!?」
紅葉の声に釣られて、俺と爺さんが青年から眼を逸らした瞬間、ガラスが砕け散る音が博物館内を支配した!青年は、割ったガラスケース内に手を伸ばし、陳列されていた刀を握り締める!
「これが有れば・・・アイツを!!」
そこからの青年の動きは速かった!紅葉を睨み付けて襲い掛かってくる!
「紅葉を殺害して自分だけの物にするつもりかっ!!」
俺は、紅葉を突き飛ばしながら庇うように立ち、姿勢を低くして、青年が抜刀をする前にタックルをした!
「邪魔をするなぁっ!!」
青年が奪った刀を振り回し、俺の背中に何度も鞘を叩き付ける!
「紅葉、早く逃げろっ!!」
しかし、紅葉はその場から動こうともせず、背後の空間を見つめている!
「ユータくんっ!!」
「グズグズすんなっ!!サッサと逃げろってんだ!」
「邪魔をしないでくれ!!早くしないとソイツが!!」
青年が必死になって手を伸ばしている場所、其処は、紅葉が立つ場所ではなく、何も無い無い空間だ!
その空間が暗く歪み、俺にも見えるようになった!闇の歪みから、人間の大人よりも一回りほど大きい獣が出現をする!猿のような顔に、虎のような手足、蛇のような尾・・・昨日、駅西に出現をした妖怪だ!
「ガォォォォォォォッッッ!!」
「鵺やっ!!」
「・・・ユータくん!!」
妖怪・ヌエが突進してきた!俺は問答無用で弾き飛ばされて壁に激突する!
「・・・イッテェ~!」
「・・・ク、クソォ、邪魔をしたオマエが全部悪いんだ!!」
青年は投げ出された刀を拾って、博物館の外に飛び出して逃走をする!
「一体どうなっている?」
状況が全く把握出来ない。青年の狙いは紅葉ではなかった?紅葉は、妖怪を見て「ユータ」の名を叫んでいる?青年は妖怪を切ろうとしていたのか?
何1つとして理解は出来ないが、今やらなければならない事は決まっている!
「幻装っ!!」
Yウォッチから『閻』メダルを抜き取って、和船バックルの帆の部分に嵌めこんだ!全身が光に包まれ、妖幻ファイターへの武装完了!
妖刀ホエマルを装備して、妖怪・ヌエに突進をしていく!しかし、怪力で妖刀を薙ぎ払われ、右拳を腹に叩き込まれ、強烈な蹴りを喰らって弾き飛ばされ、博物館出入り口を突き破って駐車場を転がる!
「・・・クッ、なんてパワーだ!!」
起き上がり、足下に転がっていた妖刀に手を伸ばす!しかし、ヌエの突進速度は、俺の想定よりも速かった!構える前に懐に飛び込まれ、強烈な張り手で転倒させられる!蛇尾が俺の足に絡みつき、虎足に踏み付けられる!
「・・・グハァッ!!」
奴のパワーとスピードに全く対応できない!一方的に嬲られ続ける!ヌエの重々しい攻撃の一発一発で、意識が飛びそうになる!蹲った俺は、腹を蹴り上げられ、浮き上がったところに拳を喰らって地面に伏す!
「燕真っ!!!」
建物内から飛び出してきた紅葉は、目を見開いている。これまでの戦いでは妖怪を圧倒していた俺が無様に叩き伏せられているのだから、驚いて当然だろう。俺自身、手も足も出ずに劣勢に陥る状況など、想像していなかった。
猿の知恵+狸のしなやかさ+虎のパワーと敏捷性+強力な蛇の尾を持つヌエという妖怪。その強大さは、これまでの妖怪達とは段違いだ!
「ガォォォォォォォッッッ!!」
這いつくばる俺の背に、何度も何度も足が踏み下ろされる!拙い、意識が朦朧としてきた!
「行くで、燕真っ!タイミングを合わせぃ!!」
爺さんが御札を取り出して翳しながら指で印を結び、ヌエ目掛けて飛ばす!御札はヌエの背中に命中して小爆発を起こした!俺は半身を捻って、痛みで仰け反ったヌエの足を払い除け、這って脱出に成功!
「クッソォ・・・いつまでも、調子に乗ってんな!!」
Yウォッチから『炎』と書かれたメダルを抜き取って、空きスロットルに装填!両手甲と脛当てから炎が発せられる!
「喰らえ、猿顔野郎!!」
格好良い戦闘シーンには遠く及ばないが、悠長なことは言ってられない!上半身を起こして、右拳を突き出した!拳から打ち出された炎が、ヌエの上半身を包む!
「ガォォォォォォォッッッ!!」
ヌエは掻き毟るようにして炎を振り払っている!その隙に裁笏ヤマを装備して突進して、一閃を叩き込んだ!ようやくダメージを与えた手応えを感じる!
追い撃ちの為に踏み込むが、これまでに受けたダメージが重くのしかかり、足がもつれて片膝をつく!直後に、ヌエの蹴りを顔面に喰らって仰向けに転倒!
ヌエは肩で息をしながら大地を蹴って飛び上がり、博物館の屋根に着地をして、そのまま、幾つもの屋根を飛び越えて逃走をする!そして、一定の距離まで離れたところで、闇の渦化をして空中に消えた!
「タ、タフな奴だった。今まで戦った妖怪と全然違うっ!」
ヌエの妖気反応が消えた事を確認して武装を解除。安堵で脱力をして、その場で大の字に寝転がった。紅葉が駆け寄ってきて、抱き起こしてくれる。
「燕真、だぃじょぅぶ!?」
「あぁ・・・何とかな!だけど、何がなんだか全然ワカンネ~よ!!解るように説明してくれ!」
「・・・・ぅ・・・ぅん」
紅葉は、やや表情を曇らせながら、小さく頷いた。




