第十三歩目 一つ目の壊滅
野球楽しい
「ねぇ、調子はどうかな?昨日は眠れた?眠いようならストレッチしようか?」
村の入口に立っていたメルアシアは俺の顔を見て吹き出して笑ってそう言ってくる。いや、笑ってるけれど。メルアシアはどう見ても自分より緊張している人がいると緊張しなくなるあれだ。
それも当然だ。これから俺はメリトットから教会に帰還するんだ。間違いなく都市は妨害してくる。この世界では極めて稀な人間同士の殺し合いが起きる。気を張って当然だ人死にも出るだろう・・・。
「大丈夫だよ。これから長く歩くことになるだろ。あんまり今から疲れても仕方ない。」
俺とメルアシアの二人旅だ。途中に伝令が来ると言っても基本二人ぼっち。大人数でもたかが知れている俺たちは逆に人数を減らして見つかる可能性を減らす作戦だ。リスキーなチョイスだが仕方がない。
「そんな覚悟で生き延びられると思ってるの。」
「!」
メルアシアの予想外の冷たい声に驚く。失望はない。ただ、ふざけている人に対して冷たい言葉。そういった乱暴な冷たさがあった。俺の言葉は真剣じゃなかったな。
「悪かった。これからいつ戦うか分からないのに、疲れるからストレッチは無しなんて。動けないで死にに行くようなもんだ。」
「これからは私とあなたの二人だけ。庇って戦うなんて無理だよ。教会から逃げてきた時みたいな奇跡は望むものじゃないからね。死にたくなければ常に万全で。万全でなくても虚勢を張ってでも万全じゃなきゃだめ。相手はインペラだよ。無策でいる相手じゃないからこっちが馬鹿じゃ勝てないよ。」
厳しいけれどその通りだ。俺は頼もしさに嬉しい気持ちを押し殺して真顔で頷く。・・・いや俺が頼もしくなるくらいじゃないとだめだ。
「行くんだ。」
村の中から声がした。そちらの方を見るとメリトットの村長のセレイナにメリトットの運営の実働にして謎の紙使いグリス、やばい奴レリアンの三人に護衛の人がお見送りに来た。
しかし村長は素っ気ないにもほどがあるだろ「行くんだ。」って。
「メルアシアは気負い過ぎるなよ。お前は本心を刺激されると無鉄砲すぎる。ケイは腹を下すなよ。生水は飲むな。」
村長はそれだけ言うとふらふら踵を返して帰っていく。代わるようにグリスが前に出る。
「渡し忘れてたけど、メルアシアと離れてもこの地図を使って。いーい?メルアシアもはぐれてもむやみに探さないで教会に報告しなよ。忘れないで。」
グリスがアーティスティックな地図を渡してくる。正直読み方習ってないと読めないけどいろんな意味でそうするしかないからね。
「今回の作戦は数日がかりになるから。地図のこの印のところに野営用の物資が埋められてる。レリアンが手配したからいっぱいあるよ安心してね。」
「私がたった二日で手配したんだ。すごいだろ!楽しくて仕方なかったぞ!秘密基地作りを大人数でやってるみたいで最高だった!」
変な思い付きが無ければ多分大丈夫だよな?レリアンがやったとなると不安になるけど、出立前はグリスが目を光らせてるし、さすがに現地に着いてから暴走しようがないだろう・・・。
「定刻だね。さ、いこっか!」
メルアシアの言葉でグリスとレリアンに別れの挨拶を済ませて、俺たち二人は森の中へ進んでいく。
初日は大体3分の1の道程を進む。狼みたいな猛獣もいる暗い森だけど、まだ緊張感は高め過ぎない。さすがにまだ村落が周囲にたくさんあるあたりだ。都市も狙ってはこない。
「さすがにインペラも今日は仕掛けてこなかったね。まあ、都市に作戦がばれてるかもまだわかんないよねー。」
メルアシアはそう言ったが都市に俺たちの作戦がばれている前提で過ごしている。メリトットから都市への裏切り未遂もあったしそれ以上にインペラに対する警戒だろう。賢者の小屋の時の作戦が本物であれば手段を選ぶようなやつとは思えない。もしかしたら今日も襲撃を仕掛けてきていたかもしれない。でも。そう警戒しているうちに夜を迎えていた。
「行軍だってただじゃない。土地勘もない以上強行軍での襲撃は危険が大きすぎる。周囲の村落に袋叩きに迷子で壊滅。不整地の行軍による物資の損壊。リスクとリターンの釣り合うエリアになるまで仕掛けを待つのはインペラだからこそ。なんじゃないか?」
俺の言葉に笑みを浮かべて頷く。教会から逃げてる途中に戦った都市一番の槍使いのミリーシャは強さこそ異常であったがそれだけだ。出会わなければ脅威にならない。知恵比べでそういう化け物とバッティングさせてくるインペラは危険だ。知恵のある行き過ぎた奴は読めるものじゃない。だからこそさすがに破天荒を超えて無謀であることを理詰めで警戒をする。
「今日はここで野営をしちゃおっか。」
メルアシアは土を掘ってその下に隠れていた布に包まれていた箱を取り出す。密閉されていた箱の中には食糧や水にハンモックに生活物資が入っていた。
「へー!これがケイが開発に関わったサバイバルグッズなんだね。なんだかすごそう!」
メルアシアは水族館に来た学者のようにまじまじとサバイバルグッズを見回す。なんか俺自身を見回されている気分になってむずむずするな。
「開発したって言っても車輪の再発明みたいなものだけどな。俺の世界ではすでに使い古された技術だけど、この世界では未開発なだけだ。」
俺の手柄みたいに言われてもそれはちがう・・・!って気分になる。未開の村にタブレット端末を持ち込んだ時?こんな気持ちなんだろうか。
「それでもすごいと思うな。だって君のいた世界は私たちよりずぅっと発展しているんだよね。だったら私の世界で即座に再現なんてできないでしょ?つまりケイから見て大昔技術を思い出して今できることを出力するのは難しいとおもうよ。」
メルアシアが褒め上手すぎてにやけてしまう。一日中歩いていたのに明日も頑張れそうだ。・・・なんで出会いの時はあんなんだったんだろ?
「ねぇ、ケイが作ったものを解説してほしいな?」
「えっ!」
何というか興味を持つとは思わなかった。
「えー!なんで?お話とお話ししたくないの!?だまって準備して体拭いて寝るなんて寂しくない?」
まぁそうか。何というか頑張ったから自慢させてくれるのかと思ったけどそうか・・・雑談か・・・。好きなマイナー料理の語りぐらい熱量の違う語りをしそうになってたよ。
「じゃあ取り出しながら説明しようか。」
「楽しみ!」
思ったより目がキラキラで注目してくれるな・・・。どうしようどのくらいの熱量が最適か?・・・とりあえず解説のみエピソード抜きで。
「まずは食糧瓶。干し肉や野菜が油やソースであったり酢に漬けられてた瓶だ。」
「パンはないの?」
俺は今まで通りのカッチカチのパンの入った瓶を見せる。液体にも入ってない。ただこれにも加工はしてある。
「残念だからパンはいつも通り。ただ肉と野菜は腐りかけじゃない。村で食べるのと同等のおいしさがあるよ。」
メルアシアは口を⋂にして力いっぱい踏ん張って瓶のコルクを引っ張り空ける!蝋で封されてあけにくいはずだけど普通の女の子が固いペットボトル空けるくらいの感覚で開けたな・・・。
「あむ・・・んん!ソースに絡んでおいしいお肉だねー。甘辛でドロッとしたソースは味が濃くて疲れた日にもっとおいしく感じるよ。ベーコンはカリカリに焼かれたもので、まだ少しその名残があってこんな状況で森の中で食べるとなんだか贅沢だね。ただこってりしてるから、ほかのものと一緒に食べて飽きが来ないように食べるのが一番味わえそう!野菜とかパンと合わせてもおいしそうだねー。」
そっか・・・。おいしいって言われるとホッとする。
「その缶詰はソースと保存法は俺が開発に手伝ったんだ。ソースは割愛するけど瓶詰はメルアシアも使うかもしれないから説明するよ。焼いたり煮たりとかの調理をした食材に調味料の液体の入った瓶に入れるんだ。満杯になった瓶にコルクで蓋をする。そのあと少しだけコルクに隙間を空けて瓶が破裂しないようにしながら湯煎をして腐るのを防いでいく。」
「凄くあっためたら腐らなくなるの?」
メルアシアは不思議そうに聞いてくる。そんなこんな俺たちは話をして空も暗くなっていった。
「お休みなさい。」
俺たちは一通り話したあと、俺たちは木に括り付けたハンモックの中で眠り始めた。ハンモックの中で目を開ける。そこには夜空は広がっていない。葉っぱに隠れているからじゃない。ハンモックはテントのように上にも木組みの布が張ってある。こうしないと地面の獣にも上から降る毛虫にも対処できる・・・はず・・・。
(・・・。あんまり寝心地良くないな・・・。)
どうしても明日以降のことを考えってしまう。ミリーシャは都市で一番の槍使い。あれ以上はいないらしいけど・・・そもそもあの人の底も俺は見ていない。ただでさえ不安なのに長旅で俺は生き残れるのか・・・。他にも都市は警戒するべき戦闘員の№2と3がいるらしい。一番の剣使いのラムリーナに剣も槍も二番手のニーニャ。俺は多分運がよくないと生き残れない。眠れるだろうか。
次の日も森の中を進んだ。ハンモックは思ったより寝られたがやはり完全とは言えない。いや完全となると・・・トロイメライの普段使ってる人間工学に基づいた奴になるんだけど。
バサバサバサ!
「今日は森が騒がしいな・・・。騒がしいよな?」
ぶっちゃけ森に詳しくないけどフィーリングで。鳥が飛んでるっぽい。
「そうだね・・・。しっ!」
メルアシアは真剣な顔をして伏せる。俺もつられて伏せてメルアシアの見つめる方向を一緒に見つめる。
「鹿の群れだ。多分、狼ががいるよ。」
狼は見たことはない。ただ集団で狩りをする肉食獣だということは知っている。
「どうする?」
「迂回しようか。」
メルアシアはそう言って鹿から離れるように歩き出す。しかし・・・。森が騒がしかったのは狼の群れがいたからなのか?何というか鹿と恐らくそれを追っている狼が俺たちが進む方向から流れている気がする。
俺たちが迂回した方には幸い鹿の群れはいなかった。
(俺の思い過ごしだったか。)
「まさか、あなたたちが都市に雇われているとはね。」
メルアシアが呟く。メルアシアの言葉に呼応するように7人くらいの少女が目の前に姿を現す。茂みに隠れていた子たちに俺は驚く。村の人が着ているコットを植物の紐で動きやすいように複数個所縛っている。ただそのコットはボロボロだ。汚れやほつれが遠くからでも目立つ。
「山賊のティト・アルバ。滅ぼされた村落の住民が山賊になった一味。長年壊滅することなく残っている手練れだよ。」
「「「「「「「我々こそが森の賢者!ティト・アルバ!」」」」」」」
「我こそがT担当トムトム!」
「我こそがY担当ヤスイヨ!」
「我こそがT担当トニトニ!」
「我こそがOA担当エウルヴ!」
「L担当ラマP@コス!」
「B担当D!」
「Aこと愛!」
「「「「「「「7人合わせてTYTOALBA!」」」」」」」
なっが!ふざけてんの?
「あなたたち厄介な人たちだったけど。まさか都市に魂を売るなんてね。お世話になった人に砂かけすぎでしょ。羞恥心はないのかな?」
T「魂を売る?お前たちが我々を見捨てたのだから拾ってもらっただけだぞ。」
Tはトムトムの方だ。メルアシアはトムトムの言葉に後ろ暗さを少し含ませつつも強い敵視をもってにらみつける。
L「いくら事情があろうと山賊は村落に見捨てられたものだ。恨まれる筋合いはない。」
ティト・アルバの面々が武器を抜く。
俺もメルアシアも武器を抜く。初めての殺し合いだ。俺もメルアシアも手が震えている。
B「おお!武器を持つなんて怖いねぇ。今まで無かったんじゃないか!暗黙の了解は無くなったのかい?お互い将来のため殺しはしないって。」
A「見捨てた癖に人が足りなくなったら引き込もうって浅はかな考えをねぇ。野ざらしの私たちを支援することなく勝手に生き残ってたら戻っていいよって。あぁ傲慢!」
メルアシアは剣を握る手に過剰に力が入る。
「見捨てたって・・・。アンタたちの村にも支援は検討されていたよ!なのに、勝手に村を捨てたんでしょ?!」
OA「ピー!」
OAの合図で遠くから遠吠えが響く。
(狼か!)
T×2とAがボウガンを撃ち放ってくる。
「ふっ!」
メルアシアが矢を弾き飛ばす。メルアシアは体を敵に向けつつ俺をちらりと見る。
「ティト・アルバは獣のスペシャリストだよ。森が騒がしかったのもこいつらのせいだ、狼に草食動物を追い立ててこっち側に来るように仕向けてた。」
俺たちは警戒心を利用されてまんまと誘導されていたわけか。そしてさっきの遠吠えはこいつらの飼育下の狼の仕業か?
メルアシアが一歩前に踏み出す。
「明確な都市への従属ということでいいよね?勝手に村から逃げた時もほかの村を荒らしまわって。シィクロウィーンからの恐怖でパニックを起こして逃げたんじゃなくて計画的な逃亡。故意に仲間を傷つけたんだ。」
メルアシアは剣をもってTに斬りかかる。Tはボウガンをメルアシアに投げ捨てる。みんなの眼には薄く涙があった。恐怖があったんだ。
「これはティーガ村の分だよ。」
メルアシアはボウガンを軽くかわすとTことトニトニを横一閃で腹を掻っ捌く。その場へいたみんなが。メルアシアを含めたみんなが青ざめて固まる。トニトニは腹から血をこぼしながら恐怖におぼれて崩れる。
T「よくもトニトニを!」
Tが激高する剣を抜いてメルアシアに振りかぶる。
「メルアシア動け!」
俺は叫ぶ。
「えっと・・・わっ!」
メルアシアはTの斬撃を尻餅をついて何とか躱す。Tの追撃は俺が剣で受け止める。
「立て直すぞ。」
俺はメルアシアを庇いながら距離を取る。
「大丈夫か?」
「うん・・・。」
メルアシアは息を切らしていたがそれでの少しずつ平静を取り戻していた。
T「ちっ!だがトニトニを殺した以上絶対生きて返さねぇ。」
「殺したの・・・。でも・・・。」
メーフィアが大粒の涙を浮かべてゆるりと立つ。何かとりつかれたような暗い目だ・・・。
「アンタたちだって殺したでしょ!?村落を襲って一人二人殺さなきゃいけなかったことだってあるでしょ!それに飢えて間接的に死んだ人だって・・・。そうだよ・・・だからここで!」
メルアシアは動転しながら自分に語り続ける。
A「だけどじゃあアタイたちはいつ死ぬかも分からない中、見捨てられるかもしれない救援を待ってるの!?なら逃げて何が悪い?」
「それでお世話になってる近隣の村を潰していいの!?」
メルアシアはAを刺し貫く。俺はその救援に向かう他の山賊を足止めする。みんな冷静じゃない。人に剣をふるう恐怖も相まって何とか俺が抑えられていた。手が震える。でもそれ以上にみんなが心を乱していた。
メルアシアの主張は村落というシステムを維持するうえで正しい。すべての村を救う上では計画を立てて今後に持続性のある不可能のない作戦を実行する。だから遅れるし取りこぼすこともある。それでも上の人としてはそうするべきだ。きれいごとを行使するために理想を捨てなきゃならないことは分かる。
だが救援を待つ人はそんなこと言えない生き残るため知恵を絞る。それだって正しい。だが、それは罪人への道でもある。自分だけが生き残る道なのだから。
A「怖いよ・・・助けてよ・・・。メルアシア・・・。」
その声は敵に対する憎しみはなかった。友に対する懇願にしか聞こえなかった。
(なにもいわないよ。)
メルアシアはAから完全に力が抜けるまでAを受け止めていた。ゆっくりとAから剣を引き抜く。
「さぁ次に殺されたいのは誰かな?」
メルアシアの目に光はないたぶん彼女たちに対する怒りは本物だ。だが何か一曇りする何かが怒りの光ではなく光の消失になったんじゃないか。
AO・L「殺す!」
AOとLが遠吠えを上げる。そしてそれに共鳴した遠吠えが聞こえる。狼か?俺は周りに気を張る。
「鹿だよ!」
メルアシアの叫びを聞いて振り向いたときには俺は固まるしかできなかった。鹿の大群が俺たちに襲い掛かってきていた。
「うわっ!」
山賊たちは簡単に躱してメルアシアもジャンプして木に捕まり躱す。だが俺は躱しきれない。俺は鹿の角に突き上げられ群れに運ばれていく。群れに囲まれて揺れる背中の上で逃げ切れない。
「ケイ!」
メルアシアに矢が撃ちかけられる。ゆっくりと構えたAOとLがボウガンを撃ったんだ。
「くっ!」
メルアシアは身をひるがえしながら木から手を離して躱そうとする。だけど俺の行方を見ていたためか左腕に一発被弾する。だがそれ以上は俺は鹿に運ばれてメルアシアたちが見えなくなっていった。
***メルアシアの元***
「やってくれるね!」
私は腰につけていた布をほどく。左腕に刺さった矢を引き抜いて止血のため締め付ける。ティト・アルバをにらみつける。この鹿の群れはこいつらに完全に操られている。山賊に身をやつしてから覚えたものじゃない。この村には独自の技術があるの。
「それを教えてくれたこともあったね・・・!村落で共有できればって、みんなでご教授願ってたけど誰も覚えられなかったね。」
AO・L「当然さ!一月二月で覚えられるものじゃあない。あの時は楽しかったけど無駄だったさ。それをいま証明している!」
そう、私たちは武器を向けあっている。
「でも本当に楽しかったよ。本当に。だから助けたかった。山賊に身をやつしてほしくなんてなかったよ。」
私は公人だから・・・。ケイもいる場所では言えない私人の顔もある。だから今そう呟く。
AO・L「そうだ。でも会わなければ、すべて忘れられる!」
ティト・アルバのみんなは武器を取る。すごいね。みんな殺し合う覚悟が決まってる。
「はぁ!」
AOを斬りつける。
AO「そう来ると思ったさ。ぐっ!」
ざっくりと肩口から肺に至るまで私の剣が切り裂く。
AO「ぷっ!」
「!っ」
AOが含み針を放ってくる。至近距離の不意打ちは避けきれない。
チクリとした痛みが頬に突き刺さる。私はそれにひるまない。横へいるLへ目くばせをしつつAOに突き立てた刃を振り切りその体を引き裂く。吹き出る血潮が私を濡らす。悲しみを伝える電流が私の体表を滑る。私は友達を殺し続けている。
「あれ?」
それとは別のしびれが私の体を蝕んでくる。
L「AO・・・。ごめんね。」
「そういう事。」
体がしびれる。その源は頬に刺さっている針だ。
L「あんまり動けないだろう?最悪の手段を用意していたのさ。」
「本当に思い切りのいい村だったよね・・・!それにAO・・・。覚悟が決まってるよ・・・。あの子人身御供になったんでしょ?。」
Lが口から笑みがこぼれて針がぽろぽろと地面へ落ちる。
いま思い返すとLやAOの動きは悪かった。私が手に負えないときのためにこの二人がしびれ針を打ち込む役割だったんだ。
L「さあ、さよならだよ。トニトニ、エウルヴ、愛。これからは・・・いやこれまでも私たちはTYLBだ。」
そう、私を殺して忘れる。だから私を殺すために散った仲間も忘れる。でもそれって許しでもあるんじゃないのかな?私の所属している村落を仇にしないってこと。そういう意図じゃないかもしれないけれど・・・。そう思ってくれていたのなら。私たちもティト・アルバも・・・。
L「ありがとうね。」
Lが指パッチンすると狼が5匹やって来る。
T「餌じゃないから食べないように。」
狼にかけたその言葉は慈悲じゃない。人の味を覚えさせないためだね。膝をついた私に狼たちが一斉に飛び掛かる。
「ひっ!」
私は逃げ出そうとしてる!でも!足がうまく動かない・・・足がもつれながら走るけど狼から逃げられない!
Y「次に見る姿は爪で引き裂かれ牙に穴だらけにされた姿だ。」
B「まて!狼が群がっているけど噛みついていない。それにこの匂い・・・」
狼の輪の真ん中から炎が噴水のように吹き出す。それに引火した狼がそのあたりをのたうち回る。その真ん中で私は服を燃やしながら立ち上がる。
T「正気か・・・!落ち葉を火打石で燃やして狼へ延焼させるなんて・・・。」
宙に舞い上がった噴水の水・・・。いや火が付いた落ち葉がTYLBを襲う。
T「さすがだよ!その頭脳その思い切り!仲間でありたかった!」
落ち葉を襲うのはTYLBだけじゃない火だるまへなった狼は四方八方へ走り出す。
B「森を燃やす気か!?うわっ!」
狼は助けを求めるようにTYLBへ襲い掛かる。
私はやけどを負いながら服を脱いでから狼とともに火だるまへなっているT・Y・Bを順繰り斬りかかる。しびれはあるけれど狼に乗っかられている状況なら・・・!
T「いやっ!」
Tが狼ごと貫かれる。私が貫く鮮血は血に焼けて異常に熱い。顔を見れなくてよかった。しびれ以上に剣が鈍ってしまう。
Y「どいてくれ!大丈夫だから!助けるかっ・・・。」
狼をなだめるYの心臓を一突きする。手足のように獣が動くということは信頼が厚い。その信頼が仇になったんだ。どうしようもない空虚さを感じながらBへ振り向く。
B「はぁはぁ・・・。どいて!」
狼を振り払ってBが仰向けのままこっちを睨む。
B「メルアシア!この先は感傷に浸っていることなんてできないよ!都市の連中が言っていた。これからは人材の取り合いになるぞ!身内同士の殺し合いだ!間違いなく都市は調略をかけてくる!」
私はBの胸に剣を突き立てる。山賊になったみんなは敵のつもりだった。でもやっぱり思い出は消せないよ・・・。
B「山賊だけじゃない・・・。村落の仲間も・・・。」
!いやまさかそんなことは・・・。・・・いや・・・。
L「もうみんないなくなっちゃったね・・・。」
「えっ。」
私は振りむいてLを見る。Lの横には火にくるまれるて倒れる狼。そして燃え盛っているLの後ろへ鹿がいた。鹿がLを背中からどついてそれと同時にLがこっちへ飛び込んでくる!
L「一緒に死のうか?」
燃えている矢を握ってその表情には心中するような悲しい笑みが浮かんでいた。そうだね7人より8人の方がにぎやかでいいよね。
「ごめんね。」
飛び込んできたLの熱を受け止めて突き放し切り捨てる。
私は剣に付いた血を振り払う。
***30分後***
「はぁはぁはぁ!」
俺は森の中メルアシアのいたところへ戻っていた。鹿に乗っていた上で近場の木に剣で傷つけていて何とか迷わなかった。
「メルアシア!よかった・・・。って!大丈夫かメルアシア!!」
元居たところへメルアシアは座っていた。メルアシアは元気そうに手を振っていたが服が変わっていて何より顔にやけどを負っていた。
「ちょっとお先にご飯を貰っちゃったよ。大丈夫都市の見張りはいないって確認しておいたからね。」
ずいぶん軽く言ってるけどそこじゃないよ。
「やけどは大丈夫なのか・・・?」
「大丈夫大丈夫!自分で火をつけただけだから!それよりケイの方大丈夫だった?大分血まみれだけど・・・。何があったの?」
軽いなぁ。カフェでだべって2時間後ぐらいなだるさ。
「俺は大丈夫だよ。鹿に運ばれた先には狼待ってた。手ごわかったけどメルアシアからつけてもらった修行の成果で何とか勝てたよ。自信がついた。」
メルアシアが笑った。嬉しそうだけど大分疲れている。本当は背もたれが欲しそうなほどに。
「よかったよかった。」
「メルアシアは疲れているだろ?俺がおぶってやるからもう少し進もう。監視してる奴がいなくても目印をつけてるかもしれない。」
メルアシアは頷くがこっちに近づいてくることはなく歩き始める。
でも明らかに足取りが重い。ただ、ここはメルアシアを尊重するべきだろう。ただ一つだけ聞きたいことがある。
「ティト・アルバの面々はメルアシアが倒したのか?」
「私が殺したよ。」
メルアシアの顔は見えなかった。突き放したような言葉だった。
「埋葬も私がした。勝てたよ。」
「良かったな!」
俺はあえて笑顔で振り返ったメルアシアに笑顔で返す。確かに思うところがあっても俺たちは前に進んでいる。それだけは本当だ。




