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パラレルワールドハレム  作者: 和泉日生
12/18

番外編1 メルアシアの外れた日々

適正睡眠時間が長いとなんか損した気分だよね

「ちょっといいかな?」


私は馴染みの靴屋の女の子に話をかけた。馴染みと言っても久しぶりだけどね。私のペースだと馴染みだ。


「何用ですかな?メルアシアどの?訓練の日はしっかり把握してますぞ。」


靴屋さんが私の持ってるポスターを見てそう言ってくる。ポスターはグリスの描いた訓練日を知らせるものだ。やけに芸術的だけどまぁそれ相応の理由があるから。


「まぁ、余ってくるからポスターは受け取ってって。」


私の言葉に「それもそうだね」と靴屋さんは受け取る。すると駄目な日に印をつけてた。何というか暑い日に外出て帰りたくなるくらい日常的だね。


「凄いよね。みんないろんな仕事をしながらこの村を守るために戦う準備をしてるんだもん。」


二日に一度寝込む私には難しい。私は自分のできることをしてるけどね。でもそれはみんなの助けの上でしか成り立ってない。


「メルアシアだって別に戦うだけではないですか?交渉に教会との手続きと文武に八面六臂です。」


そうではあるけど普通の仕事じゃない。上手く言えないけど皆ほど普通の生活で貢献できてない。役に立ってるとは思うけどいまいち実感がない。


「ありがとうね。それはそうと少し話したいことがあるんだ。ちょっとだけつきあってくれないかな?」


「よいですぞ」っていう靴屋さんの声にうなずいて私たちは訓練所のはずれにまで来た。


「ちょっとという割になかなか遠くまで来ましたな。それで?なに用かね?今日は何件か修理があってね。困ってる人をあまり待たせたくはない。」


待って居る人がいるのに本当に悪いとこをしちゃった。でもこっちも大事。


「この申請書を知ってるよね?」


私が申請書を見せると靴屋さんは目をそらし始める。そうなんだ・・・。


「これ戦時用品を申請するためにグリスたちに見せるリストだよ。」


「ふむ・・・。確かに見たことはあるな。訓練の時に補充品の申請の時だ。」


そう確かに補充品。


「ここに書いてあるの、あなたの字だよね。」


私はリストの一行を指さす。そこに書いてあるのはシィクロウィーンと戦う時に着る鎧だった。


「これ都市の軍の幹部クラスの人が装備する高級装備だよ。私たちが勝ってたら破産しちゃう。」


「・・・。」


都市が靴屋さんの後ろにいるようなことはないのはわかってる。でも無断でこんなものを購入するのは許されるわけじゃない。キャンセルなんて信用問題だでも買ったら傾く。今のごたごたしたタイミングを狙っていたのだとしたら悪質だ。


「だって仕方ないだろう!?私だって死にたくない!?この鎧ならシィクロウィーン攻撃だって防げるって話なんだ!」


靴屋さんは目を見開いて前のめりに訴えてくる。


「でもいくらすると思う?買えるような値段じゃなかったよ。もし、通ってても引き渡しの時に絶対にばれてたよ。貴方の鎧にはならなかった。ただ村落は負債を抱えてただけ。負債を返すお金で何が買えたかな?食料に衣料品寒さを防ぐような、いい暖房器具も買えたかもしれない。ただ皆を困らせただけだよ。」


「仕方ないだろう!」


靴屋さんが耐えられなかったように叫んでくる。戦いが怖かったのが伝わってくる・・・。


「私が死んだら・・・っ!みんながどうとかそんな綺麗事だよ!私に関係なくなるんだぞ!私は死にたくない・・・。自己中心的だと思われてもいい死にたくない・・・。ただの靴屋が怖くても戦場に立ってるんだよ・・・。」


靴屋さんは頭を抱える「自己中心的だと思われてもいい」でも彼女は普段からそんな考えをするような子じゃない。生き死にの異常な状況が正常な考えを阻害している。


「それは分かってるけど・・・。」


「私は平凡な靴屋だ!大事にされるような人間じゃあないから戦場に出る!だからって死んでもいい人間じゃない!平凡と言えど、丁寧な仕事で定評があって値段も安い。みんな死んだら困るのだよ!だから買ってくれないか・・・。後生だ・・・死にたくないのだ・・・。」


彼女の言葉はみんな思ってることだと思う。死にたくない・・・。自分は死んでもいい人間なんかじゃない。戦いの中で、さっき隣にいた人が動かなくなり、次の日行きつけのパン屋が開かないことで感じる。恐怖、虚しさ。誰だって気の迷いは起こす。今回靴屋さんだっただけだよ。

それは村単位でもあり得ること。


「この鎧はこのリストから削除するよ。でも罪には問わないから。」


靴屋さんが俯く。みじめさに打ちひしがれていた。


「メルアシアは強いからよいよ・・・。」


っ。


「そうだね。皆みたいに普通のことで助けになれない代わりにね・・・。」


私は靴屋さんの顔を見ないで立ち去る。

このせいで普通の人と同じように仕事するのは難しい。でもその代わり戦ったりするのは得意だ。

そのせいでみんなが苦労してる日常を乗り越えてない。ズルい生き方をしてるってわかってる。でも、みんなは戦うのはそんな私の罪悪感なんて超える精神に追い込まれるのだってだってわかってる。

だから私は役に立たなきゃいけない。足を引っ張ることなんてしちゃだめなんだ。




「くそっ!メルアシアは強くてシィクロウィーンと渡り合えるからあんなこと言えるのだ!」


私こと靴屋さんは憤慨しながら帰路についていた。正直気が重いこの後都市との戦いが始まる。それ自体は仕方ない。生きるためには必要なことだ。でも絶対に死にたくない!都市との戦いだろうとシィクロウィーンとの戦いだろうと死にたくはない!どんなことをしてもいい死にたくない。


「やあ靴屋さん。」


俯いていた私に声をかけたのは鉄鋼精錬屋さんだった。


「どうしたのだい・・・。私はちょっと言えないことで落ち込んでるのだよ。」


「私もちょっとここで言えないことがあるんだ。靴屋にお邪魔していい?」




明後日の朝にグリスと一緒に私メルアシアは朝食のまずいパンをスープに浸して食べてるところだった。ケイは所用で護衛を連れて八百屋さんに行っていた。


「メルアシア!大変!」


あれ?馴染みの服屋さんが村長の屋敷に飛び込んでくる。


「どうしたの。」


私は靴屋さんの大分焦った声色で息を切らしていて焦燥感に駆られる。いくらでも嫌なことは起きるけど今は都市と敵対してるしケイもここで訓練中。いやな予想はいくらでも思いつく。


「靴屋さんたちが・・・。戦闘用の物資を持ち去って失踪した!」


私の食べる手が止まる。

まずい・・・。あれは今の有事のために備蓄していたもの・・・。

都市と戦ってる中で集めていた物資が持ってかれた・・・。

・・・私の言い方が悪かったのかな・・・。そうよぎったけど今はそれどころじゃない。


「グリス。ケイには今日の訓練は中止だって伝えといて。」


「情報はメルアシアに集めるよう手配しておく。お願いね。」


私は部屋から着替えを持ってくる。声は怖かったと思う。でも真剣にやるべきことだから。


「勝手に出撃するかもしれない。今日出れる人にも声をかけといて。」


「レリアンに手配させるよ。あの子ならすぐに集められる。」




***正門の塔へメルアシア***


「監視所の狼煙によるとまだ通ってないっぽいね。」


監視所は村から40kmぐらいのところにあって狼煙を五つ経由して通信していた。


「これで全員かな。」


私は振りむいて塔の通路側を見る。軽装鎧を着て乗馬用の衣服をまとった兵士が5人並んでいた。


「メルアシア隊私以下4名いつでも出撃できます。」


先頭の子の服屋さんが堅苦しく挨拶してくる。


「別に上司じゃないからね。危なくないように一番戦闘に詳しい私が指示するだけ。みんな同列だから。」


「まぁ一応やっといた方がいいかなって。ほら教会との共同作戦の時はそうでしょ?」


ん、まあどうしてもそうなるけど・・・。


「今回は結構本気じゃないといけないから・・・。最初だけしっかり決めるよ。失踪者の連れ戻し及び盗難された軍備品の奪還作戦を開始する。」




***監視所に捕まっていた靴屋さんたち***



「何故?!もう捕まってるのだよぉ!」


「靴屋さん叫んでも仕方ないよ。」


私の名前を鉄鋼精錬屋さんが読んで大声をたしなめる。それでもこうなれば叫びたくもなろうよ。


「そもそもこんなことになったのは天に見放された・・・。」


私たちは回想する。




二時間ほど前だった。私たちは旧街道を隠れ進んでいた。


「ここから先の道は新街道にいったん入るから気を付けてね。」


都市との運送屋さんがそう皆に注意喚起をする。旧街道は整備不良で通れない道もいくつかある。ゆえに新街道を通り警備に見つかるリスクを増やさざる負えぬのだよ。


「しかし、事実なのだろうな?都市が村落の人間を保護するという話は。」


私は怪訝そうに運送屋さんに問いかける。村落から無断で出て行ったのだ。失敗すれば山賊に身をやつすしかなくなる。


「この手紙は都市の町長さんのサインに紋章の入った封蝋があるでしょ。正式なものだよ。理由は分からないけど村落の人材が必要みたい。」


まぁ何となく人手不足があるんだろうが。いや今からするのだろうが・・・。


「行先は都市の中ではないのだろう。舐められたものだ。」


私は吐き捨てる。不快だ。ああ不快でたまらない。まるでゴミ捨て場に投げ込まれたようだ。


「都市の外にある工房とかの施設だね。いったん待機らしいけどそのあとどこ行くんだろ?」


?さっきからパチパチ音が立ってるな・・・。

何?!


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


おい!一番後ろの馬車から出火している!


「水を用意せよ!とにかく鎮火だ!」


とにかく早く鎮火だ!みんなてんやわんやで駆け回る!


「おい!そこで何をしている。」


そうしていると監視所の人たちに見つかり笛を吹かれた。




そこで回想は終わる。


「まさか油壷が割れて布に染みこんでいたとは。摩擦が起きたのも運が悪かった。」


いや本当に運が悪かった。


「で、どうするんですか。」


「もちろん脱走だ。時は味方しない。」


こんなご時世に都市に亡命だなんて重罪なのだよ。逃げるしかない・・・。


「その言葉を待ってました。」


さっき私にどうするか聞いていた運送屋さんがキメ顔で言い放つ。ここでそんな覚悟を問う必要あるのか?


「入ってきて・・・。」


運送屋さんが牢屋の扉に声をかける。

すると閂を抜いて一人の少女が扉を開ける。


「この監視所にも話をつけてた人がいるんですよ・・・。」


「だったら別に私にどうするか聞かなくて良かったのじゃないか・・・。」


ここまで手配してたなら予定変更できないのに何で聞いてきたの・・・。


「そりゃシチュエーションですよ。憧れません?百年以上生きてて初めてでしょう?」


・・・ドラマチックでないわりにろくでもない人生だった。ならばいま変えよう。




「ということで飛びましょうか!ドラマチックですよ!ドラマチック!」


牢屋の壁に梯子をかけて天井裏みたいな部屋に私たちはいた。そこはシィクロウィーンに対する籠城場所のようだ。そこから脱出できるようで部屋から外へ通じる壁の一部を開放する。夜闇が広がっている。びゅおーと夜の風が吹き荒れ恐怖を想起させる。

なのに、助けに来てくれた監視所の方は頭のおかしいこと言ってた。

私は毛布一枚渡されてその四端を手に持って足にロープで括り付ける。こんなことされてやらされることは分かる。


「人間は飛べない。」


ぶすっと私は言い放つ。水が下流に流れるのと同じことをはっきりという。物理とはそういうものなのだ。


「じゃあ私から行きますよ!」


運送屋さんは自信満々に言い放つと闇の中に消えていく。

いや~~~。っと低く小さくなっていく運送屋さんの声が響いた後ぐしゃっ!という鈍い音が響く。静かになった。いやな想像が頭によぎる。


「無理だ。命はおもちゃじゃないぞ。」


ふざけるな。いま運送屋がどうなっているかなんて見たくない。怒りがこみ上げる。


「ふざけていない。こっちの方が人数が多いってことはそれだけの対策をしている。」


うっ!まじめに正面から脱獄なんてできない。これしかないんのろうが・・・。


「大丈夫奇石が守ってくれる。その毛布には思いを翼にする力がある。」


信じ込むしかないというだけではないか。


「死ぬつもりで行く。」


私は空に毛布をはばたかせる。要は死ぬ気で飛べるって思わなければ効果がないのだろう。なら妄信してやる。私は滑空する。空をかける流星のように!





***メルアシア監視所に立ち寄り森へ***


「逃げたって言ってもそんなに遠くには行ってない。馬を使えば追いつけるよ。」


メルアシア隊のみんなに号令をかけて捜索する。奪取された物資は取り返せたけど亡命した人の一部が逃走した。それ以外の人は・・・。


「探さなきゃ。何も持たずに都市になんて行けるはずがない。」


よほどのサバイバル能力がない限り無補給で都市まで持たない。寒い時期だし身を寄せ合っていつもより食料を確保して安全な水を用意しなければならない。みんなを助けるために早く見つけないと。運送屋さんの最後の姿を見ると・・・。もう仲間を失いたくない・・・。


「素直に帰ってくれるかな。」


料理屋さんの言葉に公証人さんが願いを込めて頷いてる。

私たちは馬で森を駆ける。馬に乗って散開気味に見落としがないように走り続ける。街道を基本に馬の足音で勘付いて脇道によけても見つけられるように脇道にも目を光らせた。見落としちゃいけない。これ以上死なせちゃダメ。


「見つけた!」


服屋さんが叫ぶ。私たちがそっちを見るとうずくまった靴屋さんたちが身を寄せ合っていた。よかった。


「靴屋さん。大丈夫?」


私は馬から降りて木の陰に隠れている彼女たちに近づく。私は手に何も持たない。両手を広げて危害を与えるつもりがないことを伝えようとする。


「近づかないでくれ!」


靴屋さんが剣を突き付けて睨みつけてくる。猛獣からわが子を庇う草食獣のような目をしている。


「大丈夫だよ。何もしないから・・・。」


私はそう説得するけど全然響いてない・・・。


「何もしないわけないだろう・・・!私たちがやったことを知っているだろう!こんな時期に混乱をもたらして!何もないわけないだろう!」


そう。弁護はするつもりでも今回の亡命は許されるものじゃない。でも何とか罪を軽くしてあげたい。でも弁護の思いは伝わらず罪の重さだけが伝わった。だって私が追い詰めたんだもん。


「見逃してくれ・・・。」


出来ないよ・・・。見逃しても死んじゃうから。でも私の言葉は響かない。苦楽を共にしていない。それに厳しいこと言う役だ。


「公証人は時に裁判官となる。それが村落の法律だ。」


何も言えない私の後ろから声が響く。公証人さん!?


「私が今ここで裁こう。何度も悩みを聞いているわたしであれば判決を聞いてくれるね?」


靴屋さんが黙って公証人さんの目を見る。


「今回の騒乱が終わるまで禁固刑を科す。それだけではない。私たちが行うのは牢に幽閉するだけだ。」


それって食事や服の着替えも用意しないってこと!?・・・。事実上の枯れ果てるまで幽閉する処刑だよ!


「結局死刑か・・・。」


靴屋さんは剣を握るのに力を籠める。


「なにもしない。別に誰が助けようと止はしない。」


公証人さんがそういうと振り向いて料理人さんにバトンタッチする。靴屋さんは分からないといった顔で警戒している。


「帰りましょう。かえってごちそういっぱい作ってあげます!大丈夫ですいっぱい皆さんにお世話になりましたから!お返しします。罰が終わったら倍の恩返ししてください!」


料理人さんは裏表のない笑みで靴屋さんたちに話しかける。そこには百年以上同じ町で助け合っていた絆があった。大変なこともあった。食べ物がなかったときはみんなで普段食べられないものの毒抜きをして食べたりもあった。

靴屋さんは突き付けていた剣をゆっくりと下す。


「そこまで言われたら帰るしかないじゃないか・・・。許されないことをした。でも許してくれる人がいる限りは報いていくしかないじゃないか。」


助け合ったきずなが猜疑心に揺れていた靴屋さんの心をあっためた。


「帰りましょう。」


私たちは帰途に就く。私を先頭にみんなついてくる。


「メルアシアさん?さっきから黙ってますけど大丈夫ですか?」


公証人さんが話しかけてくる。


「大丈夫だよ。」


さっきの食糧危機の時、みんな食べ物を確保するために手伝っていた。私はその輪の中に入れなかった。交渉で物資供給してもらう必要があったから外へいた。それだってみんなを助ける大事な仕事だけど。そんなこと言ったって靴屋さんには響かなかったと思う。だって私の姿を見るとき半分は寝ている私だから。休んでいて普通に働いている皆に負担を押し付けてるのもホントだから。


(私はみんなの力になれてないのかな。だから誰よりもみんなのために頑張らなきゃ。)


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