令嬢レベル3-67
やっぱり来ているのね。
いったいいついらしたのかしら。とてもじゃないけれどアレン様にディティリス領に来る余裕なんてないと思うけれど。
という事は、おそらく政務を放り出して来てらっしゃるわね。
でも基本的には真面目なアレン様だからギリギリまでは真面目にやってらしたのだろう。という事は邸宅にいらしたのは昨夜から朝にかけてかしら。
数日前からもし居たとしたら如何にジャンお兄様でも止めきれないでしょうし。
そこまで考えて再びサクッとクッキーをかじった。
ーーーー思考を激しく回してる間は、不安なんて微塵も感じなかった。
「やあカレディ。今日も美しいね。私の贈ったドレスがよく似合っているよ」
結局アレン様に会えたのはパーティ開始一時間前のことだった。ガチンガチンに固まったドロシーといつもの笑みのララが見守る中クリーム色のタキシードの胸元に真っ赤な花を挿した王子様が当たり前のように部屋に入ってきた。
にいっこりと丁寧に丁寧に誰が見てもわかりやすい演技の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。まさかお会い出来るとは思いませんでしたわ」
「偶然ディティリスの視察が入ってね」
「嘘ですわね」
「急ぎでやるべき仕事はやってきたよ」
笑顔で堂々と嘘をついて、サボりも認めましたよこの方。
笑みを崩して溜息をつくと当たり前のようにアレン様は隣に座ってきた。全く 。
話しにくいから向かいに座って下さればいいのに。
「寂しかったかい?」
「王都を出てからまだそんなに経ってませんけど」
「そうか、私もカレディに会えなくて寂しかったよ」
「私の話をちゃんと聞いてくださいまし」
「うん、ごめん」
茶化しているものの、寂しがってるのは本心だと分かるからそれ以上責めない。
仕方が無いので寄り添って差し上げるといつもみたいに、垂らしたひと房髪がアレン様に捕まって口元で弄ばれる。
「もうお兄様に怒られましたわね?」
「それはもう。遥々逢いに来たのに追い返されそうだったよ」
「先触れもなく当然ですわ」
「いやあカレディのおかげで助かったよ。…………で、何に怖がっていたんだい?」
「……一体いつからうちに居ましたの?」
お兄様にも隠していたことを一瞬で看破されたことが悔しいやら、いつから見られていたのか恥ずかしいやら。
扇を開いて距離を取ろうとしても、扇を持った手を引っ張られてより密着してしまった。
余裕綽々で甘やかされて、ちょっとムカつく。仕事をサボって突撃訪問してきたのに……。
扇を閉じて紫の瞳を見つめたままさらに近づく。
それでも足りないので…アレン様の胸元に手を置いてぐっと近づく。
ーーー唇同士が触れ合うまで、あと指一本。
笑みが凍りついたアレン様の様子にふっと艶やかに微笑む。
「慰めてくれた御褒美をあげようかと思いましたが、ダメですわね。アレン様は悪い子ですもの」
ーーーーが、そこまでだった。
互いの呼気を感じる距離でそういえばアレン様がゆっくりと……背もたれを支点に上半身が背もたれの向こう側へと逃げていった。
してやったりと思うものの……私もそのままぺしゃりとアレン様の胸元に顔を埋める。
「……駄目。カレディそれはダメだよ。御褒美は欲しいけど心臓が止まる」
「奇遇ですわね。私も今のは駄目だと思いましたわ」
そのまま二人してソファでぐったりしていると…ドロシーが不穏なことを呟いた。
「……御褒美をあげようかと思いましたが悪い子ですもの…!」
「復唱しないでくださいます!?」
「はっ、も、申し訳ありません!」
小声だけれどしっかり聞こえてしまったそれに咄嗟に反応をして、こほんと喉を鳴らす。
「ドロシー、貴女そろそろ入場の時間でしょう。ここはもういいから行きなさい」
「……かしこまりました」
とりあえず頬の赤みを早く治して、アレン様に突っ伏したからお化粧の直しもしなくては。
体に篭った熱を吐き出すように溜息をつくと、同じく赤らんだ顔でこちらを見るアレン様と目が合ってーーーふっと二人で笑いあった。




